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Lysias弁論集



第17弁論

執達吏の不正事について






[解説]



 標題の「執達吏の不正事について」は、写本の明らかな間違いであるとして、Hoelscher は「エラトンの財産について 執達吏に対して」と改めている。確かに、その方が弁論内容と一致する。

 原告の祖父は、かつてエラトンに2タラントン貸した。ところがエラトンが死に、彼の財産を三人の息子、エラシポンとエラトンとエラシストラトスとが相続したが、借金の利息を払おうとしなかった。そこで、原告の父は、内地に留まっていたのがエラシストラトス一人であったので、これを相手に貸金全額返済の訴えを起こし、彼の財産を取得すべしとの判決を獲得した(BC 401/400)。

 ところが、どうやら、彼ら三兄弟は相続財産を三分していなかったようである。アテナイでは、遺産相続は、嫡出の男子が均分するのが原則であったが、家産の分散を防ぐため、兄弟が共同で相続するのが普通だったのである。そのため、原告の父親が死んだ後、原告がスペットス区にあるエラシストラトスの財産の一部を取得し、さらにキキュンナ区にある財産をも請求したところが、エラシポンの親族によって待ったがかけられた。これをめぐって係争することになったが、彼らは裁判が正しい所轄で行われていないとして、明らかに裁判の引き伸ばし戦術に出た。

 その間に、厄介なことが起こった。何らかの理由で、エラトンの財産が没収処分を受けてしまったのである。この中には、原告がしばらくのあいだ所有していたエラシストラトスの財産も含まれている。そこで、今、原告は執達吏を相手に訴えを起こし、エラトンの財産の全額ではなくても、せめては三分の一を返すよう主張しているのである。その額は、祖父が貸した額の1/8 にすぎないという謙虚さである。

 この訴訟は、クセナイネトスが執政の時〔BC 401/400〕から3年後、したがって、BC 397年に行われたものと考えられる。この法廷を主宰しているのは、裁定委員会(syndikoi)であろう。この機関は、本来、政府の利害関係や名誉に関して、政府の態度を表明するために任命された公的な代弁者の役割を果たしたが、BC 403年の「三十人」政権崩壊後は、没収財産に関する訴訟を受理する機関となったものである。

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