title.gifBarbaroi!
back.gif第20弁論・解説


Lysias弁論集



第20弁論

ポリュストラトスのために 民主制解体容疑で 弁明






[1]
 思うに、あなたがたの怒るべきは、「四百人」という名称に対してではなく、一部の者たちの行いに対してである。なぜなら、彼らの中には策謀した者たちもいるが、国家に対してもあなたがたの誰に対しても、何ら悪事を働かないために、好意的な人物として評議会場に列席していた者たちもいるのであって、その一人がこのポリュストラトスにほかならないのである。

[2]
 すなわち、この人物が同じ部族の人たちによって選ばれたのは、同区民たちにとってもあなたがた大衆にとっても、有為の人物であるからなのである。しかるに、この人の告発者たちは、あなたがた大衆に好意的でないという。同じ部族の人たちは、自分たちがどのような人間であるか、自分たち自身のことを最もよく判別できる、その同部族の人たちによって選ばれたのにである。

[3]
 いったい、この人が寡頭制を熱望する理由が何かあろうか。はたして、あなたがたの間で発言して、何らかの目的を達成する年ごろとなったからであろうか。それとも、体力に信を置き、あなたがたの中の誰かを凌辱するためであるのか。いや、彼の年齢をご覧になるがいい。そのようなことは他の人たちにも思いとどまらせるに充分な年齢であるのを。

[4]
 そもそも、人が市民権喪失者となるのは、それまでに何か悪事を働いた結果であるが、そのために別の国家体制を欲求するに至るような者は、過去の過ちが原因で自分のためにそうするものである。だがこの人は、自分のために、あるいは子どもたちのために、あなたがた大衆を憎悪しなければならないような過ちは、何も犯したことがないのである。なぜなら、彼はシケリアにおり、子どもたちはボイオチアにいたのだから、これらのために別な国家体制を欲求する必要もなかったのである。

[5]
 また、彼らはこの人を告発して、数多くの公職に就いたというのだが、彼の為政が美しくなかったとは、誰ひとり立証することができないのである。私の考えでは、あの政変に際して不正なのはこの人たちではなく、たとえわずかな数の公職にしか就かなかったとしても、国家にとって最善の為政をしなかった場合である。国家を売り渡したのは、美しく為政した人たちではなく、正しく為政しなかった者たちなのだから。

[6]
 だがこの人は、先ず第一に、オロポスで公職に就いたが、これを売り渡して別な国制を樹立することはしなかった。公職に就いた人たちが、他の者たちはみな、国事を売り渡したのにである。この者たちが〔裁判をひかえて〕国内に踏み留まらなかったのは、自分たちの不正を自覚していたからである。だがこの人は、何ら不正したことがないと考えていたけれど、償いをしたのである。

[7]
 しかるに、不正者たちの方は、これを告発者たちがこっそりと逃がしているのは、受け取っているからである。これに反し、自分たちの得になりそうもない相手は、不正者だとして暴きたてる。そして、評議会において何らかの政見を述べた者たちも述べなかった者たちも、等しく告発するのである。

[8]
 だがこの人は、あなたがた大衆について何ひとつの政見も述べたことはない。ところで、あなたがたには好意的でありながら、あの連中〔寡頭派〕に敵視されなかったとしたら、私の考えでは、こういう人たちは、あなたがたから何らの害悪も蒙らない資格があるのである。なぜなら、あの者たちに反対のことを言った人たちは、ある者は亡命し、ある者は刑死し、その結果、たとえあなたがたのために反抗したいと望む人がいても、被害を受けた時の畏怖と恐怖が彼ら皆を思いとどまらせたからである。

[9]
 かくして、多くの人たちはまったく意気消沈してしまった。彼らのある者たちを追放し、ある者たちを処刑したのだからである。そして、あの者たちの言うことを進んで聞き入れ、何ら策謀も内部告発もしようとはしない者たち、こういう者を彼らは任命できたのである。かくして、国家体制が変革し得たのも、あなたがたにとって容易なことではなかったのである。それゆえ、内心はあなたがたに好意的であったという事由で償いをするのは、義しくないのである。

[10]
 さらに、恐るべきことと私に思われるのは、何も発言しなかった人が、あなたがた大衆にとって最善でないことを発言した者たちと、同じことを蒙り、それも七十年の人生においてはあなたがたに何ら過ちを犯したことがなく、わずか八日間〔の過ちのために蒙り〕、一生涯邪悪であった者たちの方は、告発者たちを説得して、会計検査庁で有為の人物となるが、あなたがたにとって常に有為の人物であった者たちの方は、これこそが邪悪者だということになることである。

[11]
 しかのみならず、以前の告発に際しては、彼らは他の点でもこの父に対して虚偽の告発をするとともに、プリュニコスを彼の同族だと主張した。しかしながら、もし望む人がいるなら、私の弁論の時間内でプリュニコスの血縁だと証言させるがよい。もちろん、彼らは虚偽の告発をしていたのである。実際のところ、教育の点でも父は彼の友ではなかった。なぜなら、彼は田舎住まいの貧乏人で羊飼いをしていたが、父の方は市内で教育を受けていた。

[12]
 そして大人となってからは、後者は百姓となり、前者は市に出て告訴屋となったわけで、お互いの生き方に何ら一致点はないのである。だから〔プリュニコスが〕執達吏に罰金を支払った時も、〔父は〕彼に寄付しなかったのである。言うまでもなく、こういう状況においてこそ、誰が友であるかが最もよく明らかとなるのである。もしも彼が同区民だったとしても、そのことで父が害罰を受けるのは義しくないであろう。ただし、あなたがたまでが不正するのなら別である。〔父は〕市民としてあなたがたの一員なのだから。

[13]
 だから、どうしてこれ以上に民主制的な人物がいようか、――国事を五千人に引き渡すようあなたがたが票決した時に、名簿作成者(katalogeus)となって九千人を登録し、自分のせいで誰ひとり同区民たちと異なることのないよう、望む者を記載し、資格のない者には贔屓したような者が。もちろん、市民たちをより多くする人たちがいたら、民主制を解体するのはこの人たちではなく、より多くの市民たちをより少なくする者たちであろう。

[14]
 しかも、この人は誓約も登録も進んでしたのではなく、彼らが彼を強制したのである。罰金と刑罰とをもって。で、強制されて宣誓をしたので、八日間、評議会場に列席した後、エレトリアに出航し、かしこの海戦において、魂の点で邪悪でないとの評判を得たが、負傷して当地に帰ってきたが、その時にはすでに政変が起こった後であった。つまり、この人は何ひとつ政見を述べず、八日も評議会場に列していないのに、これだけの罰金を負わされたのである。しかるに、あなたがたに反対のことを言った者たちや、最後まで評議会場に列席していた者たちのうち、多くは罪を免れたのである。

[15]
 だが、私はこういう人たちを妬んで言っているのではなく、私たちを哀れんでである。なぜなら、不正と思われている人たちは、あなたがたに献身して国事に従事していたせいで赦しを請うているのに、不正してきた者たちは、告発者たちを買収したおかげで、不正と思われもしなかったのだから。だから、どうして、私たちが恐るべきことを蒙っていないことがあろうか。

[16]
 また、彼らは「四百人」を告発して、悪人だったと言う。しかしながら、あなたがた自身がこの者たちに説得されて五千人に引き渡したのであり、もしもあなたがた自身これほど多人数でありながら説得されたのなら、「四百人」の一人一人は説得されざるを得なかったということになるのではないか。いや、不正なのはこの人たちではなく、あなたがたを騙し悪く為した者たちなのである。だがこの人は、多くの場面においてあなたがたに明らかにするのである、――いやしくも何らかの点であなたがた大衆に対して変革を望んでいたのなら、八日間評議会場に列席した後で出航するなどということは決してなかったであろうと。

[17]
 いや、こう言うことができるであろう、――彼は利得を欲求して出航したのだ、あたかも、引っさらって来る人たちのようにと。ところで、彼があなたがたの財産にどのように関与しているか、尤もなことを何か言うことは誰もできず、彼らの告発はいつもただ公職についてだけなのである。しかも、告発者たちは、あの時には、明らかに民衆に対して決して好意的でなく、助けもしなかった。ところが今は、民衆自身が自身にとってきわめて好意的な時であるから、彼らは名目上はあなたがたを助けているが、実際行動では自分たち自身を助けているのである。

[18]
 しかし、驚いてはいけない、おお裁判官諸君、彼がこれほどの罰金を負わされたということを。なぜなら、彼らは彼を欠席裁判にかけて、彼と私たちを告発し断罪したのである。なぜなら、彼のためになる証言内容を持つ者がいても、告発者たちに対する畏怖のために証言することができなかったが、この者たちのためには、恐れから虚言してでも証言したのだからである。

[19]
 確かに、恐るべきことを私たちは蒙ることになったろう、おお裁判官諸君、あなたがたの財産を取得していないと否定することのできない者たち、この者たちを赦しを請う人に免じて放免しながら、あなたがた大衆の献身者となっていた私たち自身や、あなたがたに何ら不正したこともない父を、あなたがたが恩恵を施してくれないとしたら。しかも、誰か外国人があなたがたのところにやってきて、金銭を乞うたり、功労者として登録するよう要請したりすれば、あなたがたは叶えてやってきた。ところが、あなたがたは私たちには叶えてくれないのであろうか、――私たち自身があなたがたにとって市民権所有者となることを。

[20]
 他方、あなたがたの国事に対して悪意を持った者となったり、宜しからぬ見解を言うなりする者たちがいたとしても、その責任は欠席者たちにはない、出席者たちでもあなたがたは釈放するのだから。すなわち、当地にいた人たちの誰かが、最善な事を言ってあなたがたを説得することをしなくても、責任はあなたがたにはなく、あなたがたを騙した者にあるのである。

[21]
 だから、あの連中〔革命家〕は自分たち自身について不正だと初めから自覚していたので退去したのである。償いをしないために。ところが、もし誰か他の人たちが不正するなら、あの連中ほどでなくても不正するなら、あなたがたと告発者たちとに対する恐怖が、彼らをして内地に留まらせず、出征させるのである。あなたがたをよりおとなしくさせるなり、この者たちを説得するなりするために。

[22]
 だがこの人は、あなたがたに償いをしたのである。あなたがたに何ら不正していないにもかかわらず、事件後すぐ、あなたがたが事件を至極よく記憶しており、この人が糾問されようとしている時に、自分は何ら過ちを犯しておらず、合法的に善く争訟できると信じて。そこで、いかに彼が民主制的であったか、私はあなたがたに明示しよう。すなわち、先ず第一に、兵役を一度も忌避したことはなく、

[23]
 どれほど出征したか、同区民たちがよく知っていて述べるとおりである。また、彼は財産を見えない財産(動産)に変えてあなたがたが何ら益しないようにすることができるのに、むしろあなたがたが知悉することを選んだのである。それは、悪人になることを望んでも彼にはできないからではなく、臨時財産税を寄付し公共奉仕するためである。また、私たちに働きかけて、国家に最も益する者となるようにさせた。

[24]
 そして、私をシケリアに派遣したが、あなたがたには……させず、その結果、軍隊が無事だった間は、彼が魂の点でいかなる人物だったか、騎兵たちの知るところとなった。だが壊滅して私はカタネに無事帰ると、そこから出撃して掠奪し、敵国人たちに悪く為したので、その結果、30ムナ以上〔の戦利品〕が女神の十分の一税に、また、敵国人たちに捕らえられていた兵士たちの助命に、充てられた。

[25]
 また、カタネ人たちが騎兵になることを強要したので、私は騎兵となってそこでもどんな危険も忌避しなかったから、騎兵としても重装歩兵としても、魂の点でいかなる人物であったか、誰しもの知るところである。このことの証人たちをあなたがたに立てよう。

証人たち


[26]
 証人たちからお聞きのとおりである、おお裁判官諸君。だがあなたがた大衆にとって私がいかなる人物であるか、私があなたがたに明示しよう。すなわち、かしこにシュラクサイ人が誓約を持ってやってきて、宣誓の用意をして、そこにいる人たちの一人一人に接近した時、私はすぐにその男に抗弁し、チュデウスのところへ赴いてこのことを報告し、彼は集会を開いて、少なからぬ議論があった。そこで、私が何を言ったか、このことの証人たちを呼ぼう。

証人たち


[27]
 さらに、父の手紙も考察していただきたい、――これを彼は私に渡すために寄越したのであるが、あなたがた大衆にとって善きことが書かれているか否か。すなわち、ここに書かれているのは、家の事と同時に、まだシケリアの事態が美しくあった時で、やって来るようにということである。しかるに、あなたがたと同じことが、かしこの人たちにも帰結したのである。したがって、国家とあなたがたに好意的でなかったとしたら、こんなことは決してしたためなかったことであろう。

[28]
 さらにまた、末の弟をも、あなたがたに対していかなる人物であるか、私は明示しょう。すなわち、亡命者たちの突撃が起こった時、この者たちは当地で何でもできるかぎりの悪事を働いただけでなく、城壁から出てあなたがたを蹂躙したが、彼はその他の騎兵たちに抜け駆けて一人を殺した。これの証人として居合わせた当人たちをあなたがたに立てよう。

証人たち


[29]
 さらに、長兄のことは、いっしょに出征した人たち、――ヘレスポントスにおいてレオンといっしょだったあなたがたならよくご存知である。したがって、魂の点で誰にも劣らないと信じている。それでは、どうか、あなたがたがここに登壇してください。

証人たち


[30]
 いったい、どうして、あなたがたから恩恵を期待すべきでないことがあろうか、――もしも私たちがこのような人物であるなら。いや、父があなたがたを中傷したからといって、そのために私たちが破滅するのが義しく、私たちは国家の献身者であったことに、何らの利益もないということがあってよいのか。いや、義しいことではないはずである。むしろ、この人の中傷のせいで、私たちが何かを蒙らなければならないとするなら、私たちは私たちの献身によって、この人と私たちを救うのが義しいであろう。

[31]
 なぜなら、私たちは少なくとも財産目当てに、これを手に入れるために、あなたがたに善くしてきたのではなく、かりに私たちに危険が生じた場合に、あなたがたの赦しを請うて相応の恩恵を享けるためなのである。そこで、あなたがたが他の人たちのためにもそういう存在でなければならないのは、次のような判断に基づいてである。つまり、何人かがあなたがたに献身的であった場合に、あなたがたが益するのは私たちだけではないであろう。というのは、私たちのことは、あなたがたにとってどのような人物であるか、懇願する以前にすでにあなたがたは試験済みである。だが他の人たちは、もっと献身的な者にするために、あなたがたに善くすればするだけ、相応に恩恵を施すようにあなたがたはするであろう。

[32]
 そして、次のような、何よりも最も邪悪な言葉を吐く者たちの言葉を請け合うようなことは決してしないであろう。つまり、悪く蒙った人たちの方が、善く蒙った人たちよりもむしろ記憶されると言われているのである。いったい、誰がなお進んで有為の人物たらんとするであろうか、――もしもあなたがたに悪くする者たちに、善くする者たちが劣敗するとしたら。さて、あなたがたにとっては、おお裁判官諸君、事情は以上のごとくである。すなわち、あなたがたの票決の対象は、私たちについてであって、財産についてではないのである。

[33]
 なぜなら、平和なうちは、私たちに目に見える財産(動産)があり、父は善き百姓であった。だが、敵国人たちが侵入してからは、私たちはそれらすべてを奪われた。だからこそ、私たちはあなたがたに献身的なのである。支払うべき財産は私たちにないが、自分たちはあなたがたに献身的であるがゆえに恩恵に浴する資格があると知っているからである。

[34]
 しかるに、私たちはあなたがたを目撃しているのである、おお裁判官諸君、もし人が自分の子どもたちを登壇させて泣きわめくなら、子どもたちを彼のせいで市民権剥奪されるなら憐れむと同時に、子どもたちを口実に父祖の過ちを放免するのを。彼らが成人したあかつきに、将来、善人になるとも悪人になるともまだわからないのにである。だが、私たちがあなたがたに献身的であったのをあなたがたは知っているし、また、父が何ら過ちを犯したことのないことをも〔ご存知である〕。したがって、あなたがたがはるかに義しい人となるためには、あなたがたの試験済みの相手、この人たちに恩恵を施すことである。いかなる人物になるかもわからない相手よりも。

[35]
 ところが、私たちは他の人々とは反対のことを蒙ってきた。というのは、他の人たちは子どもたちを並べた立たせて、あなたがたに赦しを請うのだが、私たちはこの父と私たちを立てて請願するのである。私たちを市民権所有者ではなく喪失者者にしないよう、市民ではなく無国籍者としないように、と。いや、老いたる父と私たちを憐れんでいただきたい。だが、もし私たちを不正に破滅させるなら、どうしてこの人が私たちと快く交わったり、私たちがお互いに同居し得ようか。あなたがたにとっても国家にとっても無価値であるのに。いや、私たちは三人ながらあなたがたにお願いする、――私たちがなおもっと献身的な者となることを許すよう。

[36]
 そこで、私たちはあなたがたに、各人の所持する善きものにかけて、お願いする、息子たちがいる者に対しては、息子たちのために憐れんでくださるよう、また、私たち、あるいは、父とたまたま同輩の人も、憐れむ相手に無罪の票決をするよう。そして、私たちが国家に善くすることを望むのをあなたがたは妨げてはならない。これに反し、恐るべきことを私たちは蒙ることになろう、――もしも私たちが、救われないように妨害するのが当然な敵国人たちによっては救われたが、あなたがたからは救いを享けることもないとしたら。
forward.gif第21弁論
back.gifLysias弁論集・目次