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Lysias弁論集



第21弁論

収賄罪の弁明 事実無根






[解説]



 およそ30日以上国家の公務を担当した市民であれば、すべて役人(arkhai)とみなされ、任期満了にともない、在職中の執務に関して、執務報告の義務を負っていた。執務報告には提出期限があり、期限内に提出しない者は、執務報告怠慢の罪に対する公訴(graphe alogiou)の対象となる。執務審査は二部にわかれていた。

 第一部で審査を行うのは、十人の会計検査官(logistai)と、その各々に一人ずつ付く助役(synegoroi) 、合計20人である。彼らは、役人が提出する執務報告(logos) に基づき、財務関係の不正行為――

  (1)公金横領(klope) 、
  (2)収賄(dora)、
  (3)公金取り扱い上の軽罪(adikion)

を検査し、不正のあるなしにかかわらず、役人全員を民衆法廷に送る。この法廷は、会計検査官みずからが主宰し、一般市民からの告発を受け付けると同時に、不正行為を行った役人を訴追する任務も負っていた。民衆訴追主義が原則のアテナイにあって、公的機関が告訴を主導する唯一の例外である。有罪が証明されれば、公金横領と収賄は、その十倍の罰金、公金取り扱い上、欠損を生じた場合は、第9プリュタネイア以前に支払えば欠損額と同額でよく、そうでなければ倍額を支払わなければならなかった。

 第一部で、会計業務に関する審査が終わると、今度は執務一般に関して、執務審査官(euthynoi)による第二部の審査が控えていた。これらの審査官は、評議会から選ばれた10人で同僚団を構成し、各審査官には二人ずつの補佐役(paredroi)が付けられた。執務報告の後、その役人の執務に関して告訴しようと思う市民は誰でも、白くした木版に自分の名前と、被告の名前と、告訴事由と、相当と思惟する罰金とを記して、審査官に手渡した。執務審査官はこれを検査した上、有罪だと思えば、私訴の場合は「四十人」にこれを委ね、公訴の場合はテスモテタイに書類で報告する。テスモテタイがこれを受理すると、民衆法廷に提出し、ここで結審した。

 以上が、アリストテレスの『アテナイ人の国制』を基に復元された、執務審査のあらましである。

 本弁論は、具体的な事実に関する言及を欠いているため、訴訟内容について正確に推測することは困難である。しかし、おそらくは、執務審査の第一部において、収賄容疑で告発されたのに対する弁明で、公共奉仕の正確な列挙から見て、年代はBC 403/402年、弁者の年齢は25歳であると考えられる。

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