第22弁論・解説
[1] 多くの人たちが私のもとに訪ねて来ました、おお裁判官諸君、私が穀物商人たちを評議会(boule)で告発したことに驚いて、そしてこう言いました、――あなたがた〔裁判官たち〕は、紛れもなく 連中のことを不正だとお考えになるとしても、この件に関して言説をなす者たちをも、やはり告訴屋稼業を働くに変わりないとみなされることになるぞ、と。そこで、どういうわけで私が彼らを告発せざるを得なくなったか、この経緯について先ず述べたい。 [2] すなわち、当番議員たちが評議会に連中のことを上程した時、連中に対する怒りのあまり、提案者たちの中には、裁判なしに連中を「十一人」に引き渡し、死刑に処すべしと主張する人たちもいたほどであった。だが私は、評議会がそんなことをすることが慣例になっては、恐るべきことだと考えたので、立ち上がって、穀物商人たちは法にしたがって審判すべきだと私に思われると言ったが、それは、こう信じていたからである。――もしも彼らが死刑に価することをしでかした者たちであるなら、あなたがたが私たちに劣らず義しい裁きを下されるであろうし、もしも何ら不正していないのなら、彼らを裁判なしに破滅させてはならない、と。 [3] さて、これに評議会は聴従したのであるが、私がこのような言説をなしたのは、穀物商人たちの助命のためだと言って、私を攻撃しようとする者たちもいた。そこで、彼らの〔評議会における〕審理があった時、評議会に対して私は行動によって弁明したのである。つまり、他の人たちが静観している時に、私は立ち上がって連中を告発し、かくして私はこの連中のために発言したのではなく、現行の法習を擁護せんとしたのだということを万人に明らかにしたのであった。 [4] とにかく、以上が私が手をそめることになった経緯で、諸々の非難を恐れたのである。そういうわけで、あなたがたが連中に関して何でも望ましい票決をしないうちは、私が取り止めにすることは恥ずべきことだと私は考えるのである。 [5] そこで、先ず第一に、あなたがたに登壇していただきたい。 あなたが私に言ってください、――あなたは寄留民ですか。 「そうです」。 では、どちらなのですか、あなたが寄留しているのは、国家の法習に聴従せんとしてなのか、それとも、何でも自分の望むことをしようとしてなのか。 「聴従せんとしてです」。 そうすると、死刑を当然視するのではありませんか、――刑罰が死刑と規定された違法行為を何かしでかした場合には。 「私としては、そうです」。 それでは私に答えてください、――法が許容を命じている50ポルモスを超過して穀物を買い集めたことに同意するかどうか。 「私は役人たちの命令で買集めたのです」。 [6] それでは彼が、おお裁判官諸君、法があって、役人たちが命じる場合、穀物商人たちは穀物を買い付ける(synoneisthai)べしと命じていると証明できるのなら、あなたがたは無罪票決すべきである。さもなければ、あなたがたは有罪票決するのが義しい。なぜなら、私たちがあなたがたに提示した法は、国家にある何びとも50ポルモス以上の穀物を買い付けてはならないと禁じているからである。 [7] そういうわけで、おお裁判官諸君、この告発は充分なはずであった、――この男は買い集めたことに同意し、法は明らかに禁じており、あなたがたは法習にしたがって票決すると宣誓しているからには。にもかかわらず、役人たちに対してまでも彼らが虚言しているということをあなたがたが納得するために、連中に関してもっと長話になろうとも述べる必要がある。 [8] なぜなら、この連中は罪を彼らに転嫁しようとしたので、私たちは役人たちを召喚して尋問したのである。すると、二人は本件について何も知らないと主張したが、アニュトスはこう言ったのである、――昨年の冬、穀物が高値になった時、この連中がお互いに競り上げて自分たち同士で争うので、競争するのをやめるよう彼らに忠告したが、それは、この連中ができるかぎり適正な値で買い入れるならば、連中から買い受けるあなたがたに益すると考えてである。というのは、連中はわずか1オボロスの高値で売らなければならないからである、と。 [9] そういうわけで、買い集めて溜め込むよう連中に命じたのではなく、お互いに競り合う(ant-oneisthai)ことのないよう忠告したのだということについては、証人としてアニュトス本人をあなたがたに立てよう。 [10] 現にこの人がこれらの言説を述べたのは、前年度の評議会の任期中であるが、この連中が買い付けたのは、今年度の評議会の任期中であることは明らかである。 そういうわけで、役人たちに命じられて穀物を買い集めたのでないということは、お聞きのとおりである。それどころか、私の考えでは、もしもこの人〔役人〕たちについて紛れもなく彼らが真実を述べているとしても、連中は自分たちのために弁明していることにはならず、むしろ件の人〔役人〕たちを告発していることになるのである。なぜなら、法習が成文化して規定されている事柄については、聴従しない者たちも、法習に反することを為すよう命じる者たちも、いずれもが、どうして償いをしないでよいことがあろうか。 [11] だからして、おお裁判官諸君、連中がこの言葉を頼みとすることはあるまいと私は思う。そしておそらくは、評議会においてと同様に述べ立てるであろう、――国家に対する好意から穀物を買い付け、そうやって、できるかぎり適正な値であなたがたに売ろうとしたのだ、と。そこで、彼らが虚言しているという最大の明白このうえない証拠を私はあなたがたに述べよう。 [12] すなわち、連中は、そんなことをしでかしたのが本当にあなたがたのためであったのなら、明らかに、同じ値で多日にわたって売るはずであった、――買い付けられた穀物が連中の手元にあるかぎりは。ところが実際は、同じ一日のうちにドラクマ単位で値上げをして売っていた時もあったのである。あたかもメディムノス単位で買い付けたかのように。そこで、このことの証人としてあなたがたを私は立てる。 [13] だから、恐るべきことだと私には思われるのである、――臨時財産税(eisphora)は、あらゆる人たちの知るところとなるにもかかわらず、これを納付しなければならない場合には、納めようとはせずに貧乏を口実としながら、刑罰が死刑〔の重罪〕であっても、気づかれさえしなければ自分たちの得になること、これをあなたがたに対する好意から違法したのだと主張するとは。しかしながら、あなたがた皆さんがご存知のとおり、こういう言説をなすことこそ、連中にとって最もふさわしくないのである。なぜなら、連中とその他の人たちとでは正反対のことが得になるからである。つまり、連中が最も多く利得する時は、何か悪いことが国家に報告され、高値で穀物を売りさばく時だからである。 [14] それゆえ、あなたがたの災禍を眼にして連中が嬉々とするありさまたるや、ある災禍は他の人たちに先んじて聞きつけ、ある災禍はみずから話を拵えるほどである、――ポントスにある艦隊が潰滅したとか、外航中をラケダイモン人たちに拿捕されたとか、取引所(emporion)が閉鎖されたとか、休戦協定(spondai)が破棄されかかっているとか、 [15] 連中のいだく敵意たるや、ほかならぬ敵国人たちと時を同じくして、あなたがたに策謀するほどなのである。なぜなら、あなたがたが穀物を最も必要としている時にこそ、連中は浚え取るとともに、売ることも拒むのだが、それは、値段について私たちが文句を言わず、連中のもとからどんな高値で買い入れて立ち去るような事態になっても私たちが歓ぶように仕向けるためである。かくして、時には平和時においてさえも、私たちはこれらの連中に攻囲されることがあるのである。 [16] だが、以前からこれらの連中の術策と悪意について国家は認識していたので、その他の購買品のためには市場監督官(agoranomoi) を監視役としてあなたがたは任命したが、この商売のためだけは別に穀物監視員(sitophylakes)をあなたがたは抽選したのである。そして、すでにしばしば、市民である彼ら〔穀物監視員〕にあなたがたは最大の償いをさせてきたのである。連中の悪行を打破できなかったかどで。しかしながら、監視することができなかった者たちでさえあなたがたは処刑する時に、不正者当人があなたがたから受けなければならないのは、何であろうか。 [17] それゆえ、思いを致すべきは、無罪票決することはあなたがたにとって不可能だということである。なぜなら、もし、貿易商人たちに対抗して結託したことに連中が同意しているにもかかわらず、あなたがたが告発を却下するようなことになれば、あなたがたは輸入業者たちに策謀しているのだと思われることになろう。なぜなら、彼らが何か他の弁明をしたのなら、無罪票決をする者たちを誰も咎めることはできないであろう。というのは、どちらの側を信じたいと望むかは、あなたがた次第だからである。だが実際には、どうして恐るべきことをあなたがたが為すと思われないですもうか、――もしも違法したと同意した者たちを無罪としてあなたがたが放免することになれば。 [18] ところで、思い起こしていただきたい、おお裁判官諸君、これまですでに多くの人たちがこの非難を受けてきたばかりか、〔非難の内容を〕否認し証人たちを立てたにもかかわらず、あなたがたは告発者たちの言説の方をより信ずべきと考えて、死刑の有罪判決を下してきたということを。しかるに、どうして驚くべきことでないことがあろうか、――もしも、同じ過ちに関して裁判しながら、むしろ〔罪状を〕否認する者たちに償いをさせることの方をあなたがたがいっそう欲するとしたら。 [19] それどころか、おお裁判官諸君、万人に明らかだと私が思うのは、こういった争いに関係する人たちは、国内にいる人たちとほとんどまったく一致するのだから、本件に関してあなたがたがどんな見解を持っているかを聞き知ろうとするであろう。それは、こう考えるからである。――連中にあなたがたが死刑の有罪判決を下すなら、残りの者たちはより規律正しい者となるだろう。だが、無罪としてあなたがたが放免するなら、何でも彼らの望むことをするよう多大な免罪を彼らに票決した者となるだろうと。 [20] だから、おお裁判官諸君、連中を懲らさなければならないのである、――ただに過去のためのみならず、将来の見本のためにも。そうやって初めて、どうにかこうにか連中は我慢できる者となるのである。そこで、思いを致していただきたい、――この商取引のために大多数の人々が身命を賭して係争してきたということを。これによって収められる利益があまりに大きいために、彼らは日々魂を賭して危険を冒すことの方を選ぶほどなのである、――あなたがたから不正に利得するのをやめるよりは。 [21] それゆえまた、彼らがあなたがたに懇願し嘆願しても、あなたがたが連中を哀れむのは義しくなく、むしろ、市民たちの中で、連中の悪行が原因で亡くなった人たちや、この連中が結託した相手の貿易商人たちの方こそ、はるかにそうすべきである。この人たちにあなたがたは恩恵を施し、より献身的な者と為すべきである。連中に償いをさせることによって。さもなければ、彼らがどんな考えを持つようになるとあなたがたは思うか。――輸入業者たちに策謀したことに同意した小売商人たちを、あなたがたが無罪票決したと聞き知ったならば。 [22] さらに何を言う必要があるか、私は知らない。なぜなら、他の不正者たちに関してなら、彼らが裁かれる時に、告発者たちから〔告発内容を〕聞かねばならないが、この連中の悪行は、あなたがた皆さんがご存知だからである。だから、この連中をあなたがたが有罪票決するなら、あなたがたは義しいことを為し、より適正な値で穀物を買い受けることになろう。さもなければ、より高値で。 |