第22弁論
[1] 多くのことを述べるのは、おお裁判官諸君、本件に関して可能だとも必要だとも私には思われない。だが、このパンクレオンに対してプラタイア人ならざる者として訴訟権の籤を私が引き当てたことがいかに正当であるか、これをあなたがたに証明しよう。 [2] つまり、彼が久しきにわたって不正してやまなかったので、彼が働いていた布晒し場に赴き、彼をポレマルコスのもとに召喚したのは、彼が居留民だと信じたからである。だが、この男はプラタイア人だと称するので、どこの区民であるのかと尋ねた。立会人たちの中に、彼が所属すると自称する部族にも召喚するよう勧めたからである。すると、デケレイア区出身と答えたので、ヒッポトンティス部族に登録された裁判官たちの前にも彼を召喚した上で、 [3] ヘルメス神像近辺の床屋に赴き、ここにはデケレイア区の人たちがよく通っているので、デケレイア区の人たちを見つけては質問し、デケレイア区所属の区民でパンクレオンなる者を知っているかどうかと訊ねまわったのである。だが、誰も彼を知らないと言うので、また他の裁判においても、あるものは被告となり、あるものはポレマルコスのもとで敗訴したと聞いて、私も〔訴訟権の〕籤を引いたのである。 [4] そこで、先ず第一に、デケレイア区の人たちのうち、私が質問した人たちを証人としてあなたがたに立てよう。第二に、ポレマルコスの前で彼に対する訴訟権の籤を引き当てて勝訴した人たちのうち、ここに居合わせるかみりの人たちを。それでは、どうぞ、水(時計)を止めてください。 [5] 以上の事実を拠り所に、私は確信を持ってポレマルコスのもとでの彼に対する訴訟権の籤を引き当てたのである。だが、この訴訟が管轄にないと彼が私に反訴したので、私が被った不正の償いをさせることよりも、横暴な振る舞いに及びたがっているなどとは誰にも思われないことの方を重視して、先ず第一に、エウテュクリス、――プラタイア人たちのうちの最も年長者として私が知っており、最も物知りと私が思っていた彼に、ヒッパルモドロスの息子プラタイア人パンクレオンなる人物を知っているかどうか尋ねた。 [6] そうすると、ヒッパルモドロスは知っているが、彼には誰も、パンクレオンも他の誰も、息子がいたとは知らないと私に答えたので、そこでさらに、他にも私が知っているかぎりのプラタイア人たちに質問してみた。ところが、誰もその名を知らず、こう言ったのである。つまり、朔の日に新鮮チーズ市に行けば、私は精確至極に訊き出せよう。というのは、月毎のその日に、そこにプラタイア人たちが集まるからと。 [7] そこで、その日にチーズ市に行って彼らに訊いた、――パンクレオンなる者を自分たちの同市民として知っているかどうか。すると、他の人たちは知らないと主張したが、たった一人こう言った人がいた、――同市民たちの中に誰もそんな名前の者は知らない、しかし、自分の逃亡奴隷がパンクレオンであると主張して、その年齢と彼が用いる技術を言った。 [8] そこで以上のことが真実であることについて、最初に私が質問したエウチュクリトスと、その他のプラタイア人たちの中で、私が出会ったかぎりの人たちと、彼の主人だと主張した人を、証人として立てよう。それでは、どうか、水(時計)を止めてください。 [9] さて、その後久しからずして、このパンクレオンが、彼の主人だと証言したニコメデスに連行されるところを目撃したので、彼に関してどんなことが為されるのか知りたくて近づいてみた。ところが、この時には、彼らが喧嘩をやめた時に、彼の立会人たちの中に、彼には兄弟がいて、その兄弟が彼を自由の身にするはずだと言う者が何人かいた。そういうわけで、翌朝それ〔兄弟〕を差し出すという条件で彼らが保証人に立って立ち去って行った。 [10] そこで、翌日、この反訴(antigrphe)と本訴そのもののために、証人を連れて立ち会うべきだと私に思われた。それは、彼を助けて自由の身にするつもりの者と、その人がどんなことを言って自由とするのかを知るためである。ところが、保証人になってもらえた条件を満たすために現れたのは、兄弟でも他の誰でもなく、彼を自分の奴隷だと称する女性であり、彼女は当のニコメデスに異義を申し立て、彼を連行することを認めないと言い張った。 [11] ところで、その場で述べられたかぎりのことは、詳しく述べるとなると私にとって長話となろう。とにかく、この男の立会人者たちと、この男自身とが、いかほどの暴挙に及んだかといえば、もしも誰かこの男を自由の身にさせるなり、自分の奴隷だと称して連行するなりする人がいたら、ニコメデスもすすんで手放し、婦人もすすんで手放すところであったにもかかわらず、連中はそういったことは何もせず、さらって行ってしまったのである。そこで、前の日に、条件付きで彼が保証人に立ってもらったことと、次の日に、強奪によって彼をさらって行ってしまったこととについて、証人たちをあなたがたに立てよう。それでは、どうぞ、水(時計)を止めてください。 [12] そういうわけで、パンクレオン自身も自分がプラタイア人だとは、いやそれどころか、自由人だとさえ信じていないということを知るのは容易である。なぜなら、強奪によって自由にしてもらうで、自分の縁故者たちに強奪罪の咎を着せることの方を望むような者、――法習にしたがって自由の身にしてもらうことで、自分を連行しようとする者たちに償いをさせることよりも望むような者は誰でも、じつは自分が奴隷であることをよく承知しているので、保証人を立てて自分の身元を争うことを恐れるであろうと判断するのは、誰にも困難ではないからである。 [13] このように、彼がプラタイア人どころではないということは、以上のことからあなたがたはほとんどわかったと私は信ずる。また、この男自身も、自分のことはいちばんよく知っているから、プラタイア人だとあなたがたに思われるだろうとは考えてもいなかったということは、彼が為したことからして容易にあなたがたは学び知ることができよう。というのは、彼に対してこのアリストディコスが訴訟権の籤を引き当てた裁判の宣誓証言(antomosia)の際に、自分に対する訴訟はポレマルコスの管轄にないと異義を唱えたが、プラタイア人にあらずと反対証人に立たれたのである。 [14] そこで彼は、その証人を告発する意思表示はしたものの、出訴するには至らず、アリストディコスが彼に勝訴するに任せたのである。そして、〔罰金の〕滞納者となったのだが、その後、説得できただけの額で彼は償いを完済したのである。そこで、以上のことが真実であることについて、証人たちを私はあなたがたに立てよう。それでは、どうぞ、水(時計)を止めてください。 [15] さらに、以上のこと〔支払いの段取り〕が彼に同意される前に、アリストディコスを恐れて当地から移住してテバイに居留した。しかしながら、あなたがたはご承知だと思うが、かりにもし彼がプラタイア人だとしたら、彼がどこに居留するにしても、少なくともテバイだけは別にすべきあったろう。ところが、いかに久しくかの地に住んでいたか、このことの証人たちをあなたがたに立てよう。それでは、どうぞ、水(時計)を止めてください。 [16] 述べられたことは私にとって充分であると私は信ずる、おお裁判官諸君。というのは、あなたがたが心に銘記してくださるなら、必ずや、義しいこと真実なことをあなたがたが票決なさるはずであり、これを私もあなたがたにお願いするのである。 |