title.gifBarbaroi!
back.gif第27弁論・解説


Lysias弁論集



第27弁論

エピクラテス弾劾 補足






[1]
 告発の方は、おおアテナイ人諸君、エピクラテスと同僚使節たちに対して、充分になされた。だが、思いを致すべきは、この者たちが誰かを不正に破滅させたいと望む時は、いつもこう言うのを、あなたがたは何度も聞いたことがあるということである。つまり、自分たちが命じる相手をあなたがたが有罪票決しなければ、あなたがたの給料が滞るだろう、と。

[2]
 今も少なからず不足しているので、この者たちのおかげで受難と恥辱はあなたがたに、利益はこの者たちに生じている有り様なのである。というのは、すでに経験ずみのことだが、この者たちやこの者たちの言葉が原因で、あなたがたが正義に反して票決すると思われる場合には、連中は易々と不正者たちから金品を受け取るのである。

[3]
 はたして、いかなる救いの希望を持たねばならないであろうか、――国家を救うも救わないも金次第である時に、これをこの連中が、あなたがたによって任命された守護者として、つまりは不正者の懲罰者として、横領し収賄しているとしたら。しかも、不正しているのを見つけられたのは今が初めてではなく、以前にもすでに収賄罪の判決を下されているのである。

[4]
 この点で私はあなたがたをも追及しなければならないのだが、同じ不正で、あなたがたはオノマサスの方は有罪票決したが、この男の方は無罪票決したのである。同一人物が彼ら皆を告発し、同じ人たちが、――別な人たちから聞いたのではなく、金品や賄賂に関して、この者たちと取り引きした張本人たちが反対証言しているのにである。

[5]
 ところで、あなたがたはみな次のことをご存知である。つまり、言うに有能でない人たちをあなたがたが懲らしめても、その場合には、あなたがたに対して不正しないようにという手本になることはないが、〔言うに〕有能な者たちに償いをさせる場合には、この時は、あなたがたに対して過ちを犯す企てを誰もがやめるだろうということを。

[6]
 ところが実際は、この者たちはあなたがたのものを横領しても安全なのである。なぜなら、気づかれさえしなければ、彼らは恐れることなく振る舞うことができよう。だが、見つかっても、不正利得の一部で危険を買収するなり、訴訟沙汰になっても自分たちの権力によって救われるからである。そこで、今、おお裁判官諸君、他の義しい人たちにとっての手本となるようにさせるために、この連中に償いをさせるべきである。

[7]
 また、国事に携わる者たちが皆ここにやってきているのは、私たちのいうことを聞こうとしてではなく、あなたがたが不正者たちについてどのような考えを持つに至るかを知ろうとしてである。それゆえ、あなたがたがこの者たちに無罪票決した場合には、あなたがたを騙してあなたがたのものから利得しても、恐るべきことは何もないと彼らに思われるであろう。だが、有罪票決して死刑を求刑するなら、同じ票によって、あなたがたは他の人たちを今あるよりもより規律正しい者とならせ、この者たちに償いをさせることになろう。

[8]
 そこで、私の考えでは、おおアテナイ人諸君、あなたがたが彼らを裁判に付せず、あるいは、彼らの弁明に耳を傾けることを拒み、有罪票決して極刑を求刑したとしても、彼らを裁判なしに破滅させたことにはならず、ふさわしい裁きを下したことになるのである。なぜなら、為された事柄をあなたがたが知った上で票決する場合には、この者たちは裁判なしでということにはならず、あなたがたが知らない事柄に関して、敵たちに中傷されているような人たちの場合のみ、聴取に与かっていないということになるからである。しかるに、この連中は事実が告発しているのであって、私たちは反対証言しているにすぎないのである。

[9]
 だから、私は次のことを、――あなたがたが連中に耳を傾けたら無罪票決するであろうと恐れたことはない。むしろ、あなたがたが連中に耳を傾けた上で有罪票決したなら、至当な償いをしたことにはならないと私は考えるであろう。どうしてそんなことがあり得ようか、おお裁判官諸君、連中には、あなたがたと同じものさえ得にはならないのに。なぜなら、この者たちは、戦時に、あなたがたのもののおかげで貧乏人から富裕者となったが、あなたがたは、この者たちのせいで貧乏人となったのだから。

[10]
 もちろん、善き民衆指導者のやることはこんなこと、つまり、あなたがたのものを、あなたがたの災禍に際して、取得するというようなことではなく、むしろ、自分たちのものをあなたがたのために与えることである。というのも、私たちの陥っている事態は、以前、平和時に自分たち自身をさえ養うことのできなかった連中が、今はあなたがたに臨時財産税を寄付し、合唱隊奉仕者となり、大きな邸宅に住んでいるという態である。

[11]
 しかるに、あなたがたは、往々にして、他の人たちが父祖伝来のものを所有して同じことを為すのを妬むのである。だが、今は、国家がこのとおりの態であるので、この者たちが何を横領してもあなたがたはもはや怒らず、あなたがた自身が取得するものに感謝するのである。あたかも、連中があなたがたのものを横領しているのではなくて、あなたがたが彼らのものを給料としてもらっているかのように。

[12]
 だが、まったくもって、とんでもないのは、私訴の際には、不正される者たちの方が涙を流し憐れまれるが、公訴の際には、不正者たちの方が憐れまれ、あなたがた不正される人たちの方が憐れむということである。今も、おそらく、同区民たちや友人たちが、以前からも習慣となっていることを為すつもりであろう、――あなたがたから連中を釈放要求しようと泣き喚いて。

[13]
 だが私は、事態が次のようになることを要請する。――その人たちが、連中は何ら不正していないと信じるなら、告発されていることは虚偽であると証明して、その上で、あなたがたが無罪票決するよう説得するようにと。だが、不正だと信じながら許しを乞うつもりなら、明らかに、不正されるあなたがたにとってよりも、不正者たちにとってより好意的なのであり、したがって、彼らが与かって然るべきは恩恵ではなくて、あなたがたが可能ならば、報復である。

[14]
 さらにまた、その同じ人たちが、じつは告発者たちを大いに必要としているのだと考えるべきである。それは、恩恵を受けるのは、あなたがたからよりも、わずかな人数の私たちからの方が、はるかに速やかであり、さらにまた、あなたがたのものを施すのは、少なくともあなたがた自身よりも、誰か他の人たちの方が、より容易だと彼らが信じるからである。

[15]
 ところが、私たちは売り渡すことを拒み、あなたがたにもそうするよう要請しているのである。それは、私たちがあなたがたの流儀に陥って、もしも、私たちが彼らから金品を受け取ってなり、他の何らかの仕方で仲直りするなら、あなたがたは、あたかも不正者に対するように、私たちにひどく怒って報復するであろうということに、あなたがたが思いを致すからである。しかし、義しく任務遂行しない人たちにあなたがたが怒るなら、もちろん、不正者たち当人に激しく報復すべきである。

[16]
 そこで、今、おお裁判官諸君、あなたがたはエピクラテスを有罪票決して極刑を求刑すべきであり、そして、これまでの慣例とは違って、有罪票決して不正者たちを糾明した後で、求刑の際に罰なしとして放免してはならない。それは、不正者たちから、償いをではなく敵意を受け取る所行であり、あたかも、連中に関与するのは罰ではなくて、非難であるかのようなものである。だが、あなたがたはよくご承知である、――投票の際には、あなたがたは他でもない不正者たちを非難するだけであるが、求刑の際には、過ちを犯した者たちに報復するということを。
forward.gif第28弁論
back.gifLysias弁論集・目次