第33弁論・解説
[1] 他の多くの美しい業績もさることながら、諸君、ヘラクレスに言及する価値があるのは、この競技会をヘラスに対する好意ゆえに初めに招集したからでもある。すなわち、それまでは国々がお互いばらばらであった。 [2] だが彼が僣主たちを止めさせ、暴慢な者たちを阻止した後で、ヘラスの最美な当地で、身体の競争、富に対する名誉愛、知識の見せびらかしをさせたのである、――これらすべてのために我らが同じ地に集い来たって、あるいは見、あるいは聞かんがために。というのは、当地での集会がヘラス人たちにとって相互の友愛の初めとなると考えたからである。 [3] そこで彼はこのことを教導し、私はやって来たが、それは名称について詮索せんがためではなく、名称について争わんがためでもない。なぜなら、そのようなことは、ほとんど無為にして、甚だ生命に欠くる学者たちのやることであって、善き男にして大いに価値ある市民のやることは、最大事に関して評議することだと私は考える、――ヘラスがかくも恥ずべき状態にあり、その多くのことが異邦人たちの支配下にあり、多くの国々が僣主たちによって離反しているのを見るからである。 [4] しかもこれが、われわれの弱さゆえの受難なら、運命に忍従するのが必然であったろう。だが、内乱と相互に対する勝利愛が原因であるからには、前者を止め、後者を妨げることが、どうして価値ないことであろうか、――勝利愛は善く為す者たちのやることだが、最善を判断することは、その反対のものたちのやることだと承知して。 [5] というのは、私たちは大きな危険が、それも大きなのが到る所から取り囲んでいるのを目にしているのである。つまり、周知のとおり、支配権は海を制する者たちにあり、財貨の分配者は〔ペルシア大〕王、ヘラス人たちの身命はこれを費やすに有能なものたちの手にあり、多く艦船を主人は所有しているが、多くの艦船を所有しているのはシケリアの僣主である。 [6] かくして、価値があるのは相互に対する戦争を終息させ、同じ考えを持って救済を確保することであり、また過去に関しては恥じ、未来に関しては恐れることであり、また先祖たちと競うことである、――異邦人たちに対しては、他所の土地を欲求したがために、自分たち自身の土地を失うはめに陥らせ、僣主に対しては、追放して万人に共通の自由を樹立した先祖たちと。 [7] そこで驚かされるのは、何にもましてラケダイモン人たちである、――いったい、いかなる考えを持って、ヘラスの革新を彼らは看過しているのであろうか、――彼らは、ヘラス人たちのうち、生まれ付きの徳によっても、戦争に関する知識によっても、間違いなく先導者でありながら、自分たちだけは城壁がなくても掠奪されず、党争もなく不敗にして、いつも同じ仕方を用いて暮らしているのである。それゆえに、彼らは自由を不死なものとして所有し、また過去の危難に際してヘラスの救主となったゆえに、未来に関して予見するという希望を持っている。 [8] だが、未来は現在よりもより善い好機ではない。なぜなら、破滅した者たちの災禍を他人事とではなく、みずからのことと看做すべきであり、また両者の権力が私たち自身に向かって攻撃して来るまで待機していてもならず、まだできるうちに、彼らの暴慢を妨げるべきだからである。 [9] いったい、誰が憤慨しないであろうか、――お互いに戦争している間に、彼らが尊大となるのを見て。それは恥ずべきことであるばかりでなく恐るべきことでもあるから、大きな過ちを犯した者たちには、為されたことに放任があり、ヘラス人たちには、これ対する何らの報復もない…… |