第4弁論・解説
[1] 驚いたことには、おお、評議会のみなさん、私たちの間に和解が成立していなかったという点が争点となっていること、そして、一対の家畜や人足奴隷たちや、財産交換によって田舎から彼が手に入れたかぎりの物をも、彼が返却しなかったとは否定することができないにもかかわらず、万事が公然と解明されるに及んで、女に関すること――つまり、われわれが共有に合意したということを否定しているということである。 [2] 財産交換は女のために彼が応じたのは明らかだが、手に入れた物を何ゆえに返却したのか、その理由は(彼が真実を述べることを望むなら)、友人たちがこれらのすべてのことに関して私たちを和解させたからという理由以外には、彼は言うことができないはずである。 [3] 私は彼がディオニュシア祭で審査委員の籤を引き損ねないよう望んでいたのだが、そうすれば、彼は私の部族が優勝するように審査して、私と和解していたことがあなたがたに判明したことであろう。ところが実際は、彼はそのように書字盤に書いたのだが、籤を引き当て損ねてしまった。 [4] このことについて私が真実を言っていることは、ピリノスとディオクレスが知っている。だが彼らは、私が被告になっている罪状について宣誓していないので証言できないが、あなたがたがはっきりと認識なさっていたとおり、彼を審査員に選んだのは私たちであり、彼は私たちのためにその席に着いたのである。 [5] いや、彼が望むなら、私は仇敵であった。それを彼のために認めてもよい。ちっとも異ならないのだから。いかにも、私は彼を殺そうとして出かけ、そのようにこの男は主張するのだが、力ずくで家に押し入った。それなら、何ゆえに私は彼を殺さなかったのか。身柄を手中にし、完全に制圧して女をも手に入れたのに。あなたがたの前で彼に言わせていただきたい。いや、言うことはできまい。 [6] 実際、少なくともあなたがたの中に知らない方は一人もおられまいが、短剣で突き殺される方が、拳骨で殴り殺されるよりも早いはずである。ところが、何かそういったものを持って私たちが出かけたとは明らかに彼自身も責めておらず、陶片で殴られたと称しているのである。 [7] 実際、彼が述べた内容からすでに明らかなように、殺意はなかったのである。あったとしたら、彼のところで陶片を見つけられるかどうか、あるいは、何で彼を殺すか不明なまま出かけるはずはなく、家から持って向かったことであろう。ところが実際は、私たちは少年たちや笛吹き女たちのところへ、しかも酔っ払って向かったと同意した。したがって、どうしてそれが殺意であり得ようか。私としては断じてあり得ないと思う。 [8] むしろ、この男は他の人たちとは反対に邪恋者であり、金銭を返済しないことと女を手に入れることとの、両方ともを望んでいるのである。その上、女に煽られるとあまりに手のはやい酒癖の悪い者となるので、自衛する必要があったのだ。他方、女の方は、時には私の方を、時にはこの男を、大事だと称したが、それは、両方から愛されたいと望んでのことである。 [9] そこで、私の方は初めからずっと好機嫌で今もやはりそうである。が、この男の方はひどい不幸感にとらわれたあまりに、恥知らずにも顔の痣を負傷と名づけ、寝台に横になったまま運びまわってもらい、娼婦のおかげて恐るべき情態にあるような振りをしているのである。自分が私に代金を返済すれば彼女を所有することが論争の余地なく認められるのにである。 [10] そして恐るべき策謀にはめられたと主張して、あらゆる点で私たちを論難する一方、女を拷問して反駁することができるのに、これを拒んだのである。〔拷問されたら〕彼女は真っ先に次のことを白状したことであろう、――自分は私たちに共有であったのかそれともこの男の私有であったのか、また、金額の半分を私が払ったのかそれともこの男が全額を払ったのか、また、私たちは和解したのか、 [11] それとも、まだ敵対しているのかどうか、さらにまた、私たちが行ったのは呼び出されてなのか、それとも、誰も呼ばないのにかどうか、また、この男が最初に手で不正したのか、それとも、私が先にこの男を打擲したのかどうか。こういった事柄の一つ一つも、またその他の事柄のどれ一つも、他の人たちとこの人たちに明白にさせることの容易でないようなものは何もなかったのである。 [12] そこで、犯意もなく私がこの男に不正したのでもないことは、おお、評議会のみなさん、これほど多くの証拠と証言によってあなたがたに証明されたとしていただきたい。そこで私の要求は、私が拷問を忌避した場合には、真実を語っていると思われる証左がこの男に表れるのと同じく、この男は女によって反駁することを拒むのだから、私が虚言していない証拠は私のものとなる。したがって、彼女は自由人だと彼が主張しているからといって、この男の言説をあまりに強くしないようにということである。なぜなら、彼女の自由には私も同じくらい権利を有しているのである、等しい金額を払ったのだから。 [13] いや、彼は虚言しているのであって真実を言っていない。さもなければ恐るべきことであろう、敵国人から自分の身柄を解放するためには何でも望みどおりに彼女を扱うことが私にできるのに、祖国(追放)を賭して係争している私には、審判に付されている事柄に関して彼女から真実を聞き出すことさえもできないとすれば。だから、もちろんはるかに義しいであろう、この罪状に関して彼女が拷問される方が、敵国人たちからの解放のために売られることよりも。なぜなら、身の代金を受け取ることを望んでいるあの敵国人たちからは、もどる方法は他にもいくらでもあるが、仇敵たちの手に落ちたら無力であるかぎりは。なぜなら、〔敵手たちは〕金品を受け取ることに熱心ではなく、祖国からの追放を仕事としているのだから。 [14] したがって、あなたがたにふさわしいのは、女が自由人であることを言い立てて、彼女が拷問されることを認めないこの男の言うことを受け入れることではなく、誣告罪の有罪判決を下すことである、――厳密な取り調べをゆるがせにすれば、あなたがたを易々と欺けるだろうと考えたかどで。 [15] だからもちろんこの男の提起をあなたがたはわれわれのいうそれより信ずべきものと見なすべきではないのである。彼の家僕が拷問されることを要求したからといって。なぜなら彼らの知っていることは、私たちがこの男のところへ出かけたということだけであって、このことは私たちも同意しているのである。しかし、呼び出されてか否か、また、私が先に殴られたのかそれとも私が打擲したのかは、彼女の方がよく知っているのである。 [16] さらにまた、この男の家僕はこの男の私有であるから、拷問しても、無分別にもこの男にひとかどの好意を示し、真理に反して私に虚言するであろう。だが彼女は、わたしたち両方が等しく金を支払ったのだから、共有に属し、何でもよく知っている。というのは、私たちの身に起こった出来事はみな彼女に起因しているのであるから。 [17] そして、彼女が拷問されるのは私としては不公平であることを何も気づかないわけではなく、その危険は覚悟している。なぜなら、彼女は明らかに私よりも彼の方をはるかに大事に思っており、彼といっしょになって私に不正したのであり、私といっしょになって彼に対して過ちを犯したのでは決してない。にもかかわらず私はこの女に庇護を求めているのに、あの男は彼女を信じなかったのである。 [18] そこであなたがたがしなければならないのは、おお、評議会のみなさん、危険がこれほどのものでありながら、こんな言説を易々と受け入れることではなく、この争いが私の子どもたちや生命にかかわっていることに思いを致して、これらの提起を斟酌することである。そしてこれ以外にもっと大きな保証を求めてはならない。というのはこれ以外に、私がこの男に対して何らの殺意も持っていなかったという保証を言うことはできないからである。 [19] 私が憤懣やるかたないとしたら、おお、評議会のみなさん、娼婦や奴隷女のせいで最重要事をめぐって危難に陥ったことだが、いかなる悪事を国家に対してあるいはこの男に対してしでかしたのか、あるいは、市民たちの誰に対していかなる過ちを犯したのか。というのは、私にはそういうことを為された者は誰もおらず、無道至極にも何よりもはるかに大きな不運をこの連中によって身に浴びせられるという危難に遭っているのである。 [20] だから、子どもたちや妻女や、この場を統べたもう神々に掛けて、私はあなたがたに嘆願し懇願する、――私を哀れんでいただきたい。そして私がこの男の手に落ちたことを見逃さず、取り返しのつかぬ不運で包囲しないでいただきたい。なぜなら、私が自分の国から亡命することも、この男が、不正されていないのに不正されたと称している事柄のために、私からこれほどの償いを受けることも、不当であるのだから。 |