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back.gif第7弁論・解説


Lysias弁論集



第7弁論

アレイオス・パゴス評議会において 聖木に関する弁明






[1]
 かつては、おお、評議会のみなさん、望みさえすれば、裁判沙汰も面倒もなしに、静かに暮らすことができるものと私は信じていた。ところが今、思いがけなくも、かかる罪状と邪悪な告訴屋たちの手に落ちた結果、こんなことが万一可能ならばの話ではあるが、未生の者たちでさえ将来の事柄に関してすでに知っておかなければならないようにさえ私に思われるほどである。というのは、こういった連中によって引き起こされたこの危難〔裁判沙汰〕は、何ら不正していない人々にも、多くの過ちを犯してきた人々にも、共通なのである。

[2]
 さて、私の争訟がどれほどの窮地にあるかといえば、次のとおりである。すなわち、初め、私はオリーブの樹を土地から除去したとして供述書をとられ、彼らは聖林の果実を請け負った者たちのところに問いただしに行った。ところが、そのやり方では私が不正しているとは何も見つけられなかったので、今度は私が聖木を除去したと称するのである。私にとってはこの罪状が最も反証困難であり、彼らにとっては何でも望みのことを言うことがよりうまく出来ると考えて。

[3]
 かくして、私は、この男がすでに策謀しおわってここにやってきている事柄について、審判を下そうとするあなたがたと同時に本件を聴取して、祖国〔追放〕をも財産〔没収〕をも賭して争訟しなければならないのである。だが、とにかく、あなたがたに最初から説明してみよう。

[4]
 さて、それはペイサンドロスの地所だったのだが、彼の財産が没収された時、メガラ人のアポロドロスが区からもらって、しばらく彼が農業に従事していたが、「三十人」時代の少し前に、アンティクレスが彼から購入して賃貸に出した。そこで私はアンティクレスから、平和な時に、請負耕作していた。

[5]
 ここで、私の考えでは、おお、評議会のみなさん、私のやるべきことは、私がこの地所を取得した時、そこにはオリーブの樹も聖木もなかったと証明することである。なぜなら、私の信ずるところでは、それ以前は、たとえかつて聖林がそこにあったとしても、処罰されるのは正しくないであろうから。というのは、私たちによって除去されたのでないかぎり、他人の過ちについて不正者として危険に身をさらすことは何らふさわしいことではないからである。

[6]
 つまり、あなたがた皆がご存知のとおり、戦争や、その他多くの諸悪の原因が起こり、遠くにある樹はラケダイモン人たちによって伐採され、近くにある樹は友たちによって奪われたのである。したがって、どうして義しいであろうか、――かつて国に降りかかった災禍のせいで、私が今、償いをするとしたら。とりわけこの地所は、戦争中、没収されて三年以上も売れ残っていたのである。

[7]
 また、あの当時、聖林を私が伐り出したとしても、驚くべきことではない。当時、私たちは自分たち自身の物さえ守ることが出来なかったのだ。だが、あなたがたはご存知だが、おお、評議会のみなさん、どれほど熱心にそういったものらを私たちが管理したか、あの時代に多くの地所は、私有のオリーブ樹と聖なるオリーブ樹が密生していたのに、今は多くが伐り出され土地は裸となっている。しかし、平和時も戦時も同一人物が所有していた場合には、この人たちからあなたがたは償いを取ることを要求しない。他の者たちが伐り出したのだからである。

[8]
 しからば、全期間を通じて農業に従事してきた者たちをあなたがたが罪から放免するのであれば、もちろん、少なくとも平和時にあなたがたから購入した者たちは無罪となるはずである。

[9]
 いや、おお、評議会のみなさん、かつて生じた事については言うべき多くの事を持っているが、述べられたことで充分と私は信ずる。さて、私が地所を受け取った後は、五日もしないうちに、カリストラトスに賃貸した、ピュトドロスが執政官の時〔BC 404/403〕である。

[10]
 彼は二年間農業に従事したが、私有のオリーブ樹も聖樹も聖木も受け取ってはいない。三年目にこのデメトリオスが、一年間、耕作した。四年目にアンティステネスの解放奴隷アルキアに貸したが、彼は死んでしまった。その後、三年間、プロテアスも同様に賃借した。それでは、証人たちよ、どうか、こちらに来てください。

[11]
 さて、この時以降、私は自分で耕作している。しかるに告発者は主張する、――スニアドスが執政官の時〔BC 397/396〕には、聖木は私に伐り出されてしまっていたのだと。だが、それ以前に耕作していた者たちと、多年にわたって私から賃借してきた者たちとがあなたがたに証言したとおり、聖木は地所にはなかったのである。それなのに、どうしてこれ以上明白に、告発者が虚言していると糾弾できる者がいようか。なぜなら、それ以前にはなかった物、これをそれ以後の耕作者が除去するなどということは出来ないのだから。

[12]
 そこで私は、おお、評議会のみなさん、これまでは、私のことを恐るべき人だ厳密な人だ、何事も当てずっぽうや無思量に為さないと主張する人々がいれば、憤慨したであろう。私にふさわしい以上によく言われていると考えて。だが、今は、あなたがた皆が私についてその見解を持つことを望みたい。そうすれば、あなたがたは私を考察できると考えるであろう。――いやしくも、こういう所業を私が企てたからには、除去することでどんな利得が、保存することでどんな損が生じたのか、また、私は何を気づかれずに為し遂げ、露見すればあなたがたによってどんな目に遭うかを。

[13]
 なぜなら、どんな人もそういったことを暴慢のためではなくて利得のために為すのだからである。あなたがたもそういうふうに考察し、訴訟相手(原告)も以上の点から告発を為すのが当然である。どんな利益が不正者たちに生じたのかを明らかにしたうえで。

[14]
 けれども、この男は証明することが出来ないであろう、――私が貧しさのせいでかかる所業を企てざるを得なかったというふうにも、地所は聖木があったのに私によってだめにされたというふうにも、葡萄の邪魔になったというふうにも、家のすぐ近くであったというふうにも、また、私が何かそういうことを為したのも、私があなたがたのもとでの危難〔争訟〕に無経験なためであるというふうにも。なぜなら、〔そんなことをすれば〕多くの大きな刑罰が私の身にふりかかることを私は明示することが出来るからである。

[15]
 第一、昼日中、聖木を伐り出した者である、――あたかも万人に気づかれないということがあってはならない、全アテナイ人たちが知らねばならないかのように。そして、そのことが単に恥ずべきことにすぎなかったのなら、おそらく、人は居合わせた人々を気にしなかったであろう。ところが実際は、恥を賭してではなく最大の罰を賭して私は危険に身をさらしたのである。

[16]
 自分の奴隷奉公人たちを、彼らは私の所業の目撃者なのだから、もはや奴隷として持たず、残りの生涯、主人として持つようなことになれば、私は万人の中で悲惨きわまりない者とならないことがあろうか。そうなれば、彼らが私に対して最大の過ちを犯したとしても、私は彼らに償いを求めることはできないであろう。なぜなら、私が報復されるのも、彼らが密告によって自由の身になるのも、必定、彼らの意のままだからである。

[17]
 それでも、なお、家僕に対する配慮が何ら私に思いつかなかったとしても、これほどの賃借者たちや多くの人たちが目撃しているにもかかわらず、わずかな利得のためには敢えて聖木を除去するなどということが、どうしてあり得ようか。他方、危険には時効とというものがないのだから、地所の耕作者はみな等しく聖木を保管しておくのがふさわしい、それは、誰かが彼らを咎めた時に、預けた者に転嫁することができるためにである、などということが。ところが実際は、彼らは虚言しているからには、明らかに、彼らは私の身の明かしを立てると同時に、自分たち自身をこの犯罪の共犯者なりと確定しているのである。

[18]
 しかし、この点でも私が〔根回しをして〕備えていたとしても、どうして私が説得し得たであろうか、居合わせた人々を皆、あるいは隣人たちを。この人たちは、お互いについて、ただに万人に目撃することができる事柄を知っているのみならず、誰にも知られないようにとわれわれが隠しているような事柄、これについても聞き知っているのだからである。これらの人たちのある者は私の友であったり、ある者は私の物に関する敵対者であったりする。

[19]
 この人たちを彼は証人として立て、しかのみならず、断固たる告発を為すべきであった。例えば、私が傍に立っており、家族の者たちが株を伐り出し、牛飼いが積んで木材を運び去った、と主張するがごとくに。

[20]
 実際のところ、おおニコマコスよ、あなたはその時居合わせた者たちを証人として召喚もし、事実を明らかにもすべきであった。そうすれば、私に対しては何ら弁明の余地を残さず、あなた自身は、私があなたの敵であったのなら、その場で私に報復できたであろうし、国家のためにしたのなら、かくのごとくに反駁すれば告訴屋と思われることもなかったであろうし、

[21]
 利得を望んだのなら、その時なら最高額を取れたであろうのに。なぜなら、事件が明るみにでたら、あなたを説得する以外に私には何ひとつ救済方法が考えられなかったであろうから。ところが、こういったことを何ひとつあなたは為さず、あなたの言説によって私を破滅させることを要求し、告発するのである、――私の権力と私の金品とのせいで誰もがあなたのために証言することを拒むのだと。

[22]
 しかるに、私が聖樹を除去したのを目撃したとあなたが言うその時に、九人の執政官なりアレイオス・パゴスにいる他の者たちの誰彼に提訴していたなら、あなたに他の証人は必要なかったであろう。なぜなら、そういうふうにすれば、あなたが真実を言っていることをわかったであろうから、いやしくも本件に関して審判を下そうとする人たちなら。

[23]
 だから、私が蒙っているのは最高に恐るべきことなのである。いかほどか。証人を立てたからには、その証人を信じるよう要求するであろうが、彼には〔証人たちが〕いないから、その罰も私に加えるべきだと思っているほどにである。だが、このことにも私は驚きはしない。もちろん、彼がこういった告訴屋たちの言説と同時に証人に不足することはないであろうからである。しかし、あなたがたが彼と同じ見解を有することを私は認めないのである。

[24]
 なぜなら、ご存知のとおり、平野には多くの聖林が、私の他の地所には焼け新木があり、これらは、私が欲すれば、除去することからも伐り出すことからも転作することからも、はるかに安全であったろうが、そうすればするほど、多くの樹林の不正所得はますます不明になるのである。

[25]
 しかるに、私は祖国やその他の財産と同じくらいに、これらの樹林を大事にしているのである。私の危険はこれら両方(国外追放、財産没収)に関わると考えているからである。そこで、あなたがた自身を以上の証人として立てよう、――あなたがたは毎月、管理をし、毎年、検査官(epignomon) を派遣しているのであるから。彼らの誰一人として、聖林にかかわる地所を耕作しているとして、私を処罰したことは未だかつてないのである。

[26]
 しかしながら、私が軽い罪を重視するあまりに、我が身に及ぶ危険を軽視しすみるなどということがないのは勿論である。だから、私がもっと簡単に過ちを犯すことができる多くのオリーブ樹にいかに奉公しているかは明らかであるが、人に気づかれずには掘り除けることのできない一本の聖樹を除去したかどで、今、私は審理を受けているのである。

[27]
 はたして、いずれが私にとって勝っていたのか、おお評議会のみなさん、民主制の時に違法を働くのと、「三十人」の時代と。私が言うのは、かつては権力を有していたとか、今は中傷されているとかいう意味ではなく、不正したいと望む者にとっては、今よりも容易だったという意味である。しかるに、私はあの時代にさえも、この件でも他の件でも、何ひとつ悪しきことをしたことのないことを明らかとしておきたい。

[28]
 どうしてそんなことがあり得ようか、――もしも私があらゆる人間の中で最も悪意ある人間でないかみりは、あなたがたがこんなにも管理しているのに、あの地所から聖樹を除去させようと企てたなどということが。あの地所には樹木さえなく、一本のオリーブの聖木は、彼の言うとおり、あったが、ぐるりと道が取り囲み、その両側には隣人たちが環住し、囲いがなくてどこからも丸見えなのである。だから、状況かくのごとくであるのに、そういった行為を誰が敢えて手がけたであろうか。

[29]
 さらに、恐るべきことであるように私に思われるのは、あなたがたには、国によって、全時間、オリーブの聖林を管理するよう課せられているのに、耕作しているとして未だかつて私を処罰したこともなく、除去したとして争訟に巻きこんだこともないということ、他方、この男の方は、たまたま近くで農耕しているわけでもなく管理人として選ばれていたわけでもなく、こういった事柄に関して知っている年齢にあるわけでもないのに、私が土地から聖樹を除去したとして訴状を提出したというのは。

[30]
 そこで、私はあなたがたにお願いするのである、――こういった言説を事実よりも信ずべきものと考えないように、また、あなたがた自身がご存知の事柄に関しても、そういったことを私の敵たちが言うのを受け入れないように。述べられた内容をも基にし、その他の〔私の〕市民生活態度をも基にして、思いを致して。

[31]
 なぜなら、私は私に課せられた事柄すべてを、国によって強制された以上に熱心に実行してきたのであり、三段櫂船公共奉仕もし臨時戦費の寄付もし、合唱隊奉仕もし、その他にも市民たちの誰にも劣らず多額の公共奉仕をしているのである。

[32]
 しかも、それらを適度に為して、熱心なあまりに追放も他の財産も賭して争訟することのないようにし、より多く所得したけれども、不正することも人生の危難を身に招来するすることもなくきたのである。しかるに、この男が私を告発しているようなことをすれば、私は何ら利得することなく、我が身を危険にさらすことになるだけである。

[33]
 もちろん、あなたがたはみな同意してくれるであろう、――大事に関しては大きな証拠を用いるのが、そして国家全体が証言することは、この男一人が告発することよりも信頼に足ると考えるのが、より義しいと。

[34]
 そこで、さらに、おお評議会のみなさん、その他の点からも考察していただきたい。すなわち、私は証人たちを伴ってこの男のところに行き、私には奉公人たちがいるが、これらは皆あの地所を引き受けた時に私が所有してきた者たちであるが、誰なりと彼が望む者を拷問のために引き渡す用意があると私は言ったのだが、それは、そうすれば、彼の言説についても私の所業についても取り調べがもっと強固なものとなるだろうと考えたからである。

[35]
 しかるに、この男は拒否した、――奉公人たちには信じ得るものは何もないと称して。だが、私には恐るべきことに思われる、――もしも拷問される者たちが自分たちに関しては、〔白状したら〕殺されるということを良く知っていながら、自己告発するけれども、主人に関しては、生まれつき最も強い悪意の対象であるのに、誣告してでも目前の諸悪から解放されるよりも、拷問を我慢することの方を選ぶとしたら。

[36]
 じつに、おお評議会のみなさん、万人に明らかだと私は思う、――ニコマコスが引き渡し要求した時に私が連中を引き渡さなかっとしたら、〔彼らは私のことを〕知悉しているに違いないと判断されたことであろうということは。これに反し、私が引き渡す〔と言っている〕のに、この男が引き受けることを拒否したのだから、このことについても同じ見解を有するのが義しいのである。特に、双方にとって危険〔の度合い〕が等しくない時には。

[37]
 なぜなら、私に関しては、この男が望むことを私が言っていたら、弁明することさえ私にはできないことになろう。だが、この男に対しては、私が同意しないかぎりは、私は何らの刑罰にも無罪であることになろうから。したがって、私が引き渡すのがふさわしかった以上に、この男は引き受けなければならなかったのだ。そこで、私がこれほどまでにねつ心であるのは、拷問の点からも証人の点からも証拠の点からも、あなたがたが本件に関して真実を聞知することが私のためになると考えるからである。

[38]
 そこで、思いを致すべきは、おお評議会のみなさん、どちらをより信ずべきなのか、――多くの人々が証人に立った相手たちをか、それとも、誰一人として証人に立とうとしなかった相手をか。また、どちらが当然であるのか、――この男が危険を冒すこともなく虚言することか、それとも、私がこれほどの危険を伴いながら、これほどの行動を為すことか、あるいはまた、国家のために我が身を救うのと、誣告して罪を着せるのと、どちらだとあなたがたは思うか。

[39]
 私としては、あなたがたはこう信じていると考える、――ニコマコスはほかならぬ私の敵たちに説得されてこの争いを引き起こしたが、それは、不正者として立証することを望んだからではなく、私から金銭をとることを期待したからである、と。なぜなら、こういった危険がきわめて大きく困難きわまりないものであればあるほど、誰でもがそれだけ熱心にこれを逃れようとするのだからである。

[40]
 だが私は、おお評議会のみなさん、要求するのではなく、いやしくも彼が私を追及するからには、あなたがたが望むとおり扱うよう私自身を差し出し、その危険を理由に敵たちの誰かを放免するような真似を私はしなかったのである。自分たち自身を称賛するよりも私を悪く言うことの方を喜ぶような連中を。そして、はっきりしたのは、誰一人未だかつて私に対して何らか悪を為そうと自ら企てた者はいないということであるが、〔敵たちが〕私に送りつけてきた連中ときたら、あなたがたが正当にも信じ得ないような者たちであったのだ。

[41]
 だから、不正にも追放刑を確定されるとしたら、私は誰よりも悲惨きわまりない者となることであろう。私は子なく独り身となり、家族は孤立無援となり、母は無一物となり、私は最も恥ずべき罪名によってこのような祖国を奪われて。祖国のために数々の海戦を戦い、数々の戦闘を戦ってきて、民主制においても寡頭制においても規律正しく身を持してきたのにである。

[42]
 いや、おお評議会のみなさん、こういったことを、ここでどういうべきなのか、私は知らない。だが、地所に聖木は生えていなかったことを私はあなたがたに証明し、証人たちと証拠とを提示した。以上を銘記して、本件に関して判決を下すべきである。そして、この人に聞くことを私は要求する、――何ゆえに、自明の事実によって反駁できるにもかかわらず、かくも後になってから、これほどの争いに私を引きこんだのか、

[43]
 そして、一人の証人も提示することなく、言説で信頼に足る者となろうと求め、事実そのものによって不正者を証明することができるにもかかわらず、また、その場に居合わせたと彼が称する奉公人たちをみな私が差し出しているにもかかわらず、彼は受け取ることを拒んだのか。
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