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back.gif第8弁論・解説


Lysias弁論集



第8弁論

講仲間に対する悪言の告発






[1]
 時節到来、かねてから言いたかったことを言える時がきたと思う。なぜなら、こちらには、私が起訴した相手方の者たちが列席しており、そちらには、私に不正した者たちを私が糾弾せんとするのを聞いてくれる人たちが列席しているからである。まことに、これら出席者たちを前にして、真剣さには深甚なものがある。なぜなら、前者は、縁故者たちによって縁故の資格のないやつだと思われることになっても、何ら気にもすまいと私は思う(〔さもなければ〕私に対して初めから過ちを犯そうと企てたはずはないから)が、

[2]
 後者に対しては、私はあの連中に対して何ら不正していないにもかかわらず、彼らによって先に不正されたのだと判断されることを望むからである。確かに、彼らについて述べざるを得ないのは嫌なものであるが、述べないことも不可能である。希望するところとは反対に私が悪い仕打ちを受け、友と思われていた者たちが不正者なのを見出したからには。

[3]
 そこで、先ず第一に、あなたがたの中の誰かが、まさか自分の犯した過ちを擁護しようとして過ちの口実を見つけ出さないために、とにかく答えさせていただきたい、――あなたがたの中に、誰か私によって悪く言われるのを聞くなり〔悪く〕蒙るなりした者がいるのか、あるいは、誰か私に要求したのに、私に調達可能でその人が申し入れたものを手に入れられなった者がいるのかを。――いったい、あなたがたが私に対して、時には悪く言い、時には〔悪く〕為そうと企てたのは、何故であるのか。それも、ほかならぬ私たちに向かってあなたがたが中傷していた相手、これに向かって私たちを中傷しようと企てたのは〔何故であるのか〕。

[4]
 しかも、あなたがたは迷惑千万にも、私を気遣っているように思われようとしたが、実際はむしろ私を誹謗しようとしていたのである。だが、あなたがたが言っていたことは、そのすべてを私は言うことはできないであろう(聞くだに腹立たしいことだからである)が、あなたがたを起訴しても、私に対してあなたがたが言ったのと、同じことを言うつもりもない。なぜなら、私が自分のためにあなたがたと同じことを言ったとしたら、あなたがたをこの罪状〔悪言〕から解放することになるだろうからである。

[5]
 そこで、あなたがたが私を凌辱しようと思い、その結果、自分たち自身を嘲笑すべき者となり果てさせた点、これを私は言うことにしよう。すなわち、あなたがたの主張では、私が力ずくであなたがたと講を結び且つ対話し、あなたがたはあらゆる手を使って何とか私から逃れようとしたがかなわず、結局、あなたがたの意に反してエレウシスへの祭り見物に同行したと。しかも、こう主張することで、あなたがたは私に悪言していると思っているのだが、じつは自分たちを左ぎっちょの愚か者なりと明かしているにすぎないのである。少なくともあなたがたは、同一時間に同一人物をこっそり悪罵しながら、他方では公然と友と信じているような人たちなのだから。

[6]
 つまり、あなたがたは悪く言わないか、講を結ばないか、いずれかにすべきであったのだ。それも公然と交わりを断ったうえで。それを醜態だとあなたがたが考えたのだとしたら、あなたがたが絶交することを美しいことだとも考えなかった相手と講を結ぶことが、どうして醜態などであり得たろうか。

[7]
 実際のところ、私としては、あなたがたが私の交わりを当然のごとく蔑む理由が何も見出せなかったのである。なぜなら、あなたがたは至賢であるのに私自身は無知蒙昧なのを見出したわけでもなく、勿論また、あなたがたは多友の人たちであるのに、自身は友なき孤独者だとも、さらにまた、富裕者であるのに私は貧乏人だとも、さらにまた、あなたがたは英名を馳せた人たちなのに自身は仲間外れだとも、また、私の身上は危機にあるが、あなたがたの身上は安全だとも〔見出したわけではないのである〕。だから、私と講を結ぶのを嫌悪していると私が猜疑するのは当然で、そこにどんな理由が要ろうか。

[8]
 しかも、新入会員たちに向かってあなたがたが言った時、私たちに告げ口するとはあなたがたは想像しなかったし、またその時、あなたがたは狡知を美しいと考える人たちなので、自分たちは邪悪な者たちと進んで交わっていると自己告発して、万人に触れ回るありさまであった。
ところで、通報者については、あなたがたは何ら聞き知ろうとはしないであろう。 第一、私に言った相手を知っていて、あなたがたは質問したのである。

[9]
 だから、自分たちがその言葉を言った相手を、どうしてあなたがたが知らないことがあろうか。第二に、彼があなたがたにしたと同じ仕打ちを私が彼にしたとしたら、私は悪人ということになろう。なぜなら、彼が私たちに告げ口した事情は、あなたがたが彼に向かって言ったのと、同じではないからである。すなわち、彼の方は、私への好意で私の血縁者に告げ口したのだが、あなたがたの方は、私を害したいと望んで彼に向かって言ったのだから。しかも、私が信じられなかったら、取り調べを求めることもできたろう。ところが実際は、(これも彼より先の事実に一致し、私にも、これはあれ、あれはこれと充分な裏づけがあったものだから)

[10]
 第一に、万事あなたがたの斡旋で、私は馬の担保についてヘゲマコスと取り引きし、その馬が病気だったので私が返却を望んだのに、このディオドロスが妨害を試み、12ムナはポリュクレスが異義を申し立てることなく返済するはずだと言ったのである。その時はそう言いながら、その馬の死後、最終的に彼はこの者たちといっしょになって訴訟相手として立ち、私が貸し金を取り立てるのは義しくないと言うのである。

[11]
 しかしながら、本当は、彼らはほかならぬ自分たち自身を告発していたにすぎない。なぜなら、この者たちとの取り引きにおいて不正された私にとって、口にすべき正当性が何もなかったのなら、きっと、彼らは美しく取り引きしていたのであろう。そうであれば、私としては、彼らは本件に関して理屈をこねて反対の言葉を言い返すと思っていた。

[12]
 ところが、彼らは言い返さずに、仕返したのであり、その仕返しの方法たるや、私の言葉をポリュクレスが知るようにしてなのである。つまり、次のことが明らかとなったのである。調停人たち(diaitetes) が臨席している時に、ポリュクレスが怒って言った、――私の縁故者たちによっても私が不正しているように思われていた、そういうふうに彼に向かって彼らが言っている、と。はたして、これは告げ口された内容と合致しているであろうか。しかり、同じ人物が告げたのである、――私のために発言しようとする人たちを妨害してやるとあなたがたが主張し、すでに何人かを妨害したと。これ以上はっきりと私の究明すべきことが何かあろうか。

[13]
 はたして、どうであろう。あの時、あの人は知っていたのであろうか、――私がクレイトディコスに口添えを頼んだが果たさなかったということを。なぜなら、彼はそこに出席していなかったからである。そうでなければ、いかなる利得が彼にあるというのか。私とあなたがたとを仲違いさせることに熱心なあまり、私の血縁者に向かってこんな話を拵えることに真剣になるまでに至っているとしても……。

[14]
 今はもちろん、以前からも、あなたがたが口実を探していることに私は感づいていたが、それは、トゥラシュマコスが私のせいであなたがたのことを悪く言うとあなたがたが主張した時である。そこで私としては、彼が私のせいでディオドロスを悪く言うのかどうか本人に尋ねた。だが彼は私のせいでということをどれほど馬鹿にしたことか。つまり、誰かのせいでディオドロスを悪く言うなど、とんでもないことだと彼は言ったのだ。しかも、私が訴追する気なら、トゥラシュマコスはやつが言ったことに関して究明することに熱心であった。そしてこの男は万事うまく目的を遂げたのである。

[15]
 ――その後、アウトクラテスが、私のいるところで、トゥラシュマコスに言った、――エウリュプトレモスが彼を非難して、彼のせいで悪く言われるのを聞いたと主張している、と。また、告げ口したのはメノピロスだ、とも。そこで、すぐに彼〔トゥラシュマコス〕は私といっしょにメノピロスのところに出向いた。すると彼〔メノピロス〕は、未だかつて聞いたこともなければ、エウリュプトレモスに告げたこともない、しかも、そればかりか、長い間対話したこともない、と主張した。

[16]
 あなたがたがこういった口実を口実にしていることが、その時は私とトゥラシュマコスとの交際の中から明らかとなったが、今は口実の方があなたがたを見捨ててしまったので、あなたがたは私に対してもはや自由に悪行のかぎりを尽くすのである。それにしても、こんな目に遭うのは私の責任だと感づくべきであった。私に対してもあなたがたがお互い同士で悪く言い合っていた時にである。それなのに、ポリュクレスについても、彼を今あなたがたは助けようとしているのだが、私はあなたがたに何でも言ってきてしまった。

[17]
 そのことに私はどこまで無防備であったことか。私は相当なお人好しであった。なぜなら、私は何らの悪口を聞くこともない立場にある、あなたがたにとっての友だと思っていたからである。そのわけは、私に向かって他の人たちのことをあなたがたが悪く言うという、それだけの根拠によってである。あなたがたの各々から相互に関する悪言という言質を取っていたからである。

[18]
 そこで、私は故意にあなたがたとの交友をやめたのだが、神々にかけて、あなたがたと講を結ばないことで、いかなる罰を受けるかは知らなかったのである。といっても、講を結んだおかげで益されたわけでもない。いったい、私に何か面倒が起こる時、その際に私は弁護者や証言者たちに不自由するであろうか。今も、私のために発言してくれる代わりに、あなたがたは発言者を妨げようとし、私を援助して義しいことを証言してくれる代わりに、私の訴人たちとグルになって証言するのである。

[19]
 それとも、私に好意を持っている者のように、あなたがたは私について最善のことを述べてくれるのであろうか。いや、今もあなたがただけが私を悪く言っているのである。もちろん、私のことはあなたがたの邪魔にはならないであろう。なぜなら、こういったことはあなたがたの間にはよく起こることであろうから、――講中の一人をいつも悪く言い且つ〔悪く〕為すのが、あなたがたの習性であるからには。私はあなたがたと講を結ばないつもりだから、あなたがたはお互いに矛先を向け合うことになろう。そうして、あなたがたは一人ずつお互いに憎み合い、最後に残った一人は自分で自分を悪く言うことになろう。

[20]
 かくして、いかほど私は得をすることか、――あなたがたから真っ先に解放されて、あなたがたによって少しも悪く蒙ることがないとは。なぜなら、あなたがたに関わり合いを持つ者たちは、これをあなたがたは悪く言いもし〔悪く〕為しもするが、関わり合いのない者たちは、誰一人をも決してそうしないからである。
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