第8弁論
[解説]被告ポリュアイノスは、「公廷において役職を悪罵した」かどで罰金刑に処せられたにもかかわらず、その罰金を払わなかったゆえ、財産没収に処すべしとして訴えられた――その被告の側の反論である。しかし、この訴訟の背後には、アテナイ政界の激烈な権力闘争の影がちらついている。 被告の言い分はこうである。 戦地から帰って2か月もしないうちに、またもや兵士として選抜登録された。この仕打ちの不公平を、選抜の任に当たっている将軍に訴えたが、かえって侮辱された。そこで市場の両替商のところで、知人に相談していたところ、これを告げ口された。すると、将軍たちは執政クテシクレオスとグルになって、役職を悪罵してはならぬという法を盾に、罰金刑に処した。ところが、この刑の執行をしないうちに任期切れとなり、彼らは本件を財務官たちに引き継いだ。財務官たちは、本件を調査しなおし、処罰は無効との裁定を下した。それから1年以上も経ってから、国家への債務不履行で起訴された。 被告の主張は、次の2点である。 (1)法は、「公廷において」ということであって、自分はそれまで公廷に出頭したことはない。したがって、この法の適用そのものが不正である。 (2)かりに自分に非があったとしても、財務官が釈放したのであるあるから、自分は無罪である。 以上を主張した上で、被告は、この訴訟が個人的な敵意によって提起されたものであることを指摘し、自分が有罪にされるようなことがあれば、それは国家への信頼を失わせる結果になるであろうと言明する。 |