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back.gif第9弁論・解説


Lysias弁論集



第9弁論

一兵士のために






[1]
 いったい何を考えて、訴訟相手たちは本件の方はなおざりし、私の性格を中傷しようと企てたのか。あるいは本件について何を言うべきかに無知なのか。それともそれは知ってはいるが、気づかれないだろうと考えて、万事に関して必要以上に長々と説明しているのか。

[2]
 私をではなく、本件を蔑ろにして言説をなしているということは、はっきりわかる。しかしながら、あなたがたが無知なせいで中傷者たちに説得されて私に有罪票決を下そうと思っているなら、そのことに私は驚くであろう。

[3]
 確かに私は思っていた、おお、裁判官諸君、私の争訟が関係しているのは訴訟内容についてであって、性格についてではない、と。ところが訴訟相手たちは私を中傷するので、あらゆることに関して弁明をなさざるを得ないのである。そこで第一に、起訴状に関してあなたがたに説明しよう。

[4]
 二年前、本国に帰着して、まだ二か月も内地に滞在しないうちに、私は兵士に選抜された。だがこの仕打ちを知るや、何ら健全でない理由で選抜されたとすぐに邪推した。そこで将軍のところに出向いて、兵士にさせられたが、何らの適切さにも与かっていないということを明らかにした。だが顔に泥を塗られ、憤慨したがおとなしくした。

[5]
 しかし困って、市民たちの中のある人に、この件をどうしたらよいか相談したが、私の聞き知ったところでは、彼らは私を逮捕でもしてやると脅しており、ポリュアイノスはカリクラテスに劣らぬぐらい長く滞在していると言っているとのことであった。ところで、私によって先に述べられたことは、ピリオスの両替卓での対話であった。

[6]
 だが執政の職にあったクテシクレオスの仲間は、私が悪罵していると誰かが告げ口したので、法習は、何人も公職を公廷(sunedrion) において悪罵する場合にはと規定しているにもかかわらず、この法に違反して、処罰することを心に決めたのである。そして罰金を課したが、その執行は企てず、役職の任期が切れたので公示白版に記録して財務官たち(tamias)に引き渡した。

[7]
 この者たちが遂行したのは、ここまでである。これに反して財務官たちの方は、何らこの者たちと同様には考えず、起訴状を渡した者たちを召喚し、罪因を調べた。そして事情を聴取し、いかなることを私が蒙ったかに注目して、第一に放免するよう彼らを説得し、市民の誰彼が敵意によって登録されるのは正当でないと教えたが、彼らの考えを変えさせることに行き詰まり、あなたがたのもとでの危険を承知で、処罰を無効と判決した……

[8]
 さて、財務官たちによって私が放免されたのだということは、おわかりになった。そして、この証明だけでも、訴訟から解放されてしかるべきだと考えているが、なおもっと多く法習をも他の正当化をも提起しよう。そこで次の法を採りあげていただきたい。

法習


[9]
 この法習では、公廷において悪罵する者を罰すべしと成文化して規定しているのをあなたがたはお聞きになった。しかるに私は、役所に出頭したことがないことは、証人たちを立てられるし、不正に処罰されたのであって、負い目もなく払う義務もないのである。

[10]
 なぜなら、私は明らかに役所に出頭したことはなく、法習は庁内で間違いを犯した者たちは刑罰を招来すべしと規定しているのなら、明らかに私は何ら不正したことはなく、にもかかわらず、敵意によって没義道にも処罰されたのである。

[11]
 彼ら自身も自分たちが不正だと自覚していた。というのは、彼らは執務報告もせず、法廷に出頭して出来事の審判を票決で決めることもしなかったのである。しかしながら、この者たちが当然のごとく処罰し、あなたがたのもとで罰金を決定したとしても、財務官たちが放免したのだから、私は訴えから解放されるのが正当であろう。

[12]
 なぜなら、もしも彼らが取り立てなり免除なりの権限を持っていなかったのなら、合法的に処罰されて道理にかなった賦課を受けたことになろう。だが免除することが彼らに許されており、自分たちが手中にした者たちが、何らかの点で不正してきたとしても、その者たちのために弁護してやったのなら、しかるべき裁きに与かること容易となろう。

[13]
 いかなる仕方で私が引き渡され罰せられたかは、おわかりになった。そこで、あなたがたは訴えの原因のみならず、敵意の理由をも知るべきである。すなわち、私がソストラトスと友になったのは、この者たちの敵意の生じる前、彼が国家有為の人物であるのを知ったからである。

[14]
 だが知己となりはしたが、彼の権力を傘に着て敵に報復したことも友を贔屓したこともない。つまり、彼が生きている間は、若齢のゆえに当然ながら学問で暇つぶしをし、彼が生を後にしてからは、言葉によっても行動によっても告発者たちの誰をも害したことはなく、むしろ、訴訟相手たちによって私が益される方が、悪く扱われるよりもはるかに義しいというようなことさえ、私は述べることができるのである。

[15]
 しかるに、先に述べられたことのせいで彼らは怒りを掻き立てた。敵意に何の正当な理由もないのにである。かくして、兵役に就いていない者を選抜すると誓いながら、その誓いを逸脱し、〔私の〕身命にかかわる評議するよう大衆に提起し、

[16]
 公職を悪罵したとして処罰し、正義の方は無視して、害するよう言を尽くして実力行使したのである。私には重大な害を与え、自分たちは多大な益を得るためなら、彼らは何でも実行したことであろう。義しいことはそのいずれにも属さないから、これをあらゆる点で軽んずるような連中であるから。

[17]
 とにかく、あなたがた大衆を蔑ろにする者たちは、神々を畏れることを心に決めるどころか、その侮蔑的かつ違法的な振る舞いたるや、為されたことに関して弁明することも企てず、結局のところ、私に報復するだけでは充分とは考えず、最後には国から追い出すことになるほどである。

[18]
 そして、かくも違法的にして且つ強権的なありさまになって、不正を隠さねばならないとも何とも思わず、再び同じ事柄に関して不正してきたとして私を引きずり出しながら、何ら証明もせずに悪罵するのである、私の生活態度にはふさわしくないが、彼らの性格には親しくて馴染の中傷を送りつけて。

[19]
 とにかく、この者たちはあらゆる仕方で私を有罪にすることに熱中しているのである。だがあなたがたは、彼らの中傷に唆されて私に有罪票決してはならず、より善く義しく評議せんとしている人たちを権威なき者と決めつけてもならない。なぜなら、この人たちは万事を法習どおりにも慣習どおりにも実行してきたのであり、明らかに何ら不正したことがなく、正義の道理について最も通じた人たちなのだから。

[20]
 そこでこの連中が不正しても、私は程々に憤慨するだけであろう。それは、敵たちには悪く為し友たちには善く為すよう仕向けられているにすぎないと考えるからである。だが、あなたがたから正義を盗まれたなら、私ははるかにもっと苦しめられるであろう。なぜなら私が悪く蒙ってきたのは、敵意のせいではなく、国家の悪徳のせいだと思うことになろうから。

[21]
 確かに、言葉では起訴状に関して争っているが、事実は国家の悪について争っているのである。というのは正義に遭遇すれば(あなたがたの判断を私は信じているのだ)私は国に踏みとどまるであろう。だがこの連中によって引きずり出されて、もしも不正に罪せられるなら、逃亡するであろう。なぜなら、いかなる希望に繋がれて私は同市民でいなければならないのか、それとも、訴訟相手の熱意を知りながら、そしてどこでなにがしかの正義に遭遇すべきかに行き詰まりながら、何を考えて行動すべきなのか。

[22]
 だから、あなたがたは正義を最高に尊重し、自明の不正事のためにであっても容赦することに思いを致すほどなのだから、まして、何ら不正したことのない者たちが、敵意のせいで不正にも最大の不運に見舞われているのを見過ごしてはならないのである。
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