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back.gifパラリス1

ルゥキアーノスとその作品

パラリス 2

FavlariV B
(Phalaris 2)



001-2 t 1
パラリス2


〔奉納物を受け取るよう、一人のデルポイ人が演説する〕

1.1
 わたしはアクラガス人たちの、おお、デルポイ人諸君、権益代表(provxenoV)でもなく、パラリス本人の私的な客人(ijdiovxenoV)でもなく、彼に対する他の、好意の私的な理由とか、将来の友愛の希望とかを持っているわけでもないが、彼のもとからやって来た使節たちの適切にして節度ある説明を聞き、かつ、敬虔であると同時に公共に益すること、とりわけデルポイ人たちにふさわしいことを予見して、わたしは立ち上がったのは、諸君に勧告せんがためです。敬神的な権力者を侮辱することもないよう、すでに神に誓約された奉納物、それも、最美な術知、最悪の思いつき、義しい懲罰という最大の3項目の永遠の記念となるものを、他に譲渡することもないようにと。

2.1
 もちろん、わたしとしては、あなたがた〔評議員〕がこの件についてすっかり動揺して、奉納物を受け取るべきか、それとも、再びもとに送り返すべきかどうか、われわれに検討を上程したことさえ、すでに神法に悖ること、いやむしろ不敬の極みに届きかねないと信ずる。なぜなら、すでに奉納されているものらを荒らすことよりも、奉納することを望む者たちに初めから許しもしないことの方がより不敬であると同じく、これは他のことよりもはるかに悪質な神殿荒らしにほかならないからです。

3.1
 そこで、わたしは諸君にお願いする。わたし自身もデルポイ人であり、公共の名声が保たれるにせよ、目下の事案から逆の評判が附加されるにせよ、等しくそれに与る者として、神殿を敬虔な者たちに閉ざすこともなく、神に送り届けられた物を中傷し、奉納者たちを投票と裁判で審査すると、わが都市を万人に告げ口することもないようにと。さもなければ、何であれデルポイ人たちにあらかじめよしと思われない物は、この神は受け容れないと知って、敢えて奉納しようとする者はもはやいなくなるであろう。

4.1
 いずれにせよ、ピュトーにます方が、奉納物についてすでに義しい票を投じておられる。万一、パラリスを憎んでいるとか、彼の贈り物を嫌悪なさっていたら、イオニア海の真ん中で、これを、運送船もろとも沈没させることは容易であったはずだが、彼〔神〕はまったく正反対に、噂では、好天のもとに渡海することを彼らに許し、無事キッラ〔デルポイ近郊の港〕に到着したという。

5.1
 これによっても、明らかに、独裁者の敬神を容認しておられるのだ。だから、諸君もあの方と同じことを票決し、この牡牛を神殿の他の飾りに加えるべきです。かくも高邁な贈り物を神に送り届けてきたような者を、神域からの排斥という有罪評決を受け取り、敬神の報酬として、奉納する値打ちもないとの判決を報いられること、これは何にもまして不条理でしょうから。

6.1
 ところで、わたしとは反対の判断を下した人が、あたかもアクラガスから今しがた帰帆したばかりであるかのように、この僭主の殺戮や暴行や略奪や拉致の数々を、目撃者であると言わんばかりに吹聴しましたが、彼が浮き船までにも出郷したことがないのをわれわれは知っている。為すべきは、こういったことは、被害者であると謂う人たちによって説明されることさえ — 真実を言っているかどうかは不明なのですから — 全面的には信じないことです。まして、われわれが知らないことでみずからが告発するなど、いうまでもない。

7.1
 仮にもし、何かそのようなことがシケリアで行われているとしても、デルポイ人たちにとってお節介をすることは必然的なことではない。ただし、われわれが神官の代わりに裁判官であることを要求し、供犠や、その他のことで神を世話し、誰か人が送り届けてきた場合にはいっしょに奉納の儀を行うのが務めであるのに、イオニア海の彼方の人々のうち、誰それが義しく僭主支配しているか、それとも不正にかを詮議しつつ着座しているなら別であるが。

8.1
 実際、他人のことは、好きなようにさせておくがよい。われわれに必然的なことは、わたしが思うに、われわれ自身のことを知ることです。昔はどうであったか、今はどうであるか、何をすれば将来より善くなるかということを。然り、まさしくわれわれが断崖に住し、岩を耕していることは、われわれに明らかにしたホメーロス〔Il. II,519〕を待つまでもなく、それは見ればわかる。実際、大地に依存するかぎり、われわれは深刻な飢えといつもいっしょであろうが、神殿、ピュトーにおわす方、託宣所、供犠する者たち、敬神者たち、これらがデルポイ人たちの平野であり、これらが歳入であり、繁栄はここに淵源し、糧食はここに淵源し — われわれだけの間では真実を言うべきだから〔言うのだが〕 — 、詩人たちによって言われていること「われわれによって種を播かれず耕されず」〔Od. ix, 109; 123〕とも、農夫たる神のおかげで何でも生い出るのだ。〔この神は〕ヘッラス人たちのもとで産する善きものらをもたらしてくれるばかりでなく、プリュギアであれ、リュディアであれ、ペルシアであれ、アッシュリアであれ、フェニキアであれ、イタリアであれ、ヒュペルボレイアでさえあっても、何か〔産するもの〕があれば、何でもデルポイに到来するのです。かくてわれわれは、神に次ぐ第二の者として、万人から尊敬され、繁栄し、しあわせである。これが昔の〔暮らし〕であり、これが今に至るまでの〔暮らし〕であり、われわれはこういう生き方をやめるべきではないであろう。

9.1
 奉納物のためにわれわれのもとで票決に付されるのはもとより、供犠とか奉納を妨げられた者をも、いまだかつて記憶する者は誰もいない。この故にこそ、わたしが思うに、神殿そのものも桁違いに増大し、奉納物に溢れているのです。ですから、目下の場合も、何らの革新もすべきではなく、父祖伝来の〔仕来り〕にそむいて、奉納物を類別すべしとか、送り届けられたものらを、何処の誰から〔送り届けられた〕いかなるものかと、由緒をさぐるべしといった法習を定めるべきではなく、逆に、政治に関係なく受け取って、神にも敬神者たちにも、両方に奉仕して、奉納する〔べきである〕。

10.1
 わたしには、諸君が、おお、デルポイ人諸君、目下の案件について最善のことを評議なさるように思われます。考察の対象がどれほど数多く、どれほど重要であるかを諸君が思量なさるならば。〔考察の〕対象は、先ず第一に神、神殿、諸々の供犠、諸々の奉納物、昔の仕来り、古来の定め、占いの名声についてであり、次には、この都市全体と、われわれの共通の、かつ、デルポイ人たち各人の私的な、利益について、だが何よりも、人間界の名声ないし悪評についてである。というのは、あなたがたは思慮分別があるゆえ、これらよりもっと大きなこととか、もっと必然的なことにおいてあなたがたが先導できるのかどうか、わたしは知らないのである。

11.1
 それでは、われわれが何について評議しているかといえば、それはこれ — パラリス一人でないのはもちろん、この牡牛でもなく、青銅品だけでもなくて、あらゆる王たち、あらゆる権力者たちといった、現在神殿に神託を求めるかぎり者たち、および、金や銀や他の、おりにふれてこの神に奉納されるかぎりの高価なものらについてです。これこそ、第一に神に即して問い質されるに値することだからです。

12.1
 しかるに、奉納物に関することを、常のごとくでないのはもちろん、古来のごとくでもないように行おうとするのは何故なのか。あるいは、いかなる点でわれわれは古来の仕来りを非難して革新しようとするのか。そして、われわれがこの都市に住し、ピュトーにおわす方が託宣し、鼎が発声し、巫女が霊感を受けて以来、いまだかつてわれわれのもとに生じたこともないことを、つまり、奉納者たちをば裁き吟味すべしと、われわれは制定しようとするのか。いかなるものにも制限なく許されているという、あの古来の仕来りのおかげで、神殿がこれほどの善財に満たされているのは、万人が奉納し、ある者たちに至っては、持ち合わせの権力を超えてまでこの神に贈与したからなのを、諸君は目にされているにもかかわらず。

13.1
 それでも、あなたがたみずからが奉納物の審査官や吟味役に就任なさるなら、なお審査を受けようとする人たちを失うのではないかとわたしは危惧します。みずからが被告人として立つ、そしてみずから消費し浪費して裁かれ、すべてを賭けて危険を冒すことを甘受する者は誰もいないであろうから。はたして、奉納する資格なしと裁定されたら、誰に生き甲斐があろうか。

//END
2012.09.12. 訳了。


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