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偽ルゥキアーノス作品集成

痛風

Podavgra
(Podagra)





[解説]

 多くの校訂者たちが、これら両編の詩劇の一つないし両方を、偽作とみなしてきたが、その一方で他の人たちは、「俊足」と「痛風」は、同じ劇の初めと終わりだと解してきた。しかしながら、「痛風」がルゥキアーノスの作品であることを疑う確かな根拠はない。「俊足」は劣等なへぼ詩人の作品であり、それはリバニウスの友人アカキウスであるかもしれない。

 「痛風」の詩人は、それが文体、詩的語彙の使用、とりわけ韻律の技量において優秀であることを示している。「痛風」は韻律的力作であるが、「俊足」の作者は、全171行を通して、イアムボス詩型から離れようとしない。イアムボス詩型も「痛風」のはまた優秀であり、11.1-29 と 54-86 は、悲劇の厳密な規則にも合致している。ただし後者は、最後の長短長格、第二・第四詩脚における短短長格、確乎とした詩脚における不自然な言葉の分割を自由にしている。これらすべての自由さは、「俊足」の作者が自分に許しているところであるが、第四脚における長長格(!)の使用によって、三音節の第五脚によって、1.122と、おそらくは1.47における語尾の母音省略によって、拙劣さを露見させている。それゆえ「俊足」は、劣等な模倣者の作品であるように見える。

 J. Zimmermannは、このふたつの劇詩のすぐれた校訂の中で、「痛風」の真正性と「俊足」の擬似性とに賛成して、さらに以下の議論をしている。
 (1) Γ写本における「痛風」の位置は疑いないが、リバニウスの『舞踏者』や、典拠の怪しい『犬儒者』といっしょの「俊足」は、原型の中になかった可能性がある。
 (2) 神々に対する無礼は、「痛風」では言わず語らずであるが、「俊足」には必然的でない。
 (3) 稀な韻律はルゥキアーノス時代の作家の専有である。とりわけ、II. 87以下に見られる短短長格の奇妙な種類は、宗教的讃歌に用いられ、ルゥキアーノスの諷刺にとって心をそそる目標であった。
 さらに、ルゥキアーノスはおそらく自身が痛風を患っていた。初期の作品である、『Menippus』11や『Satunalian Letters』28, (cf. Epigram 47)の中で、彼は、痛風を金持ちの病とみなすローマの諷刺作家たちに同意していたにもかかわらず、彼は晩年、自身が痛風になったらしい。『Hercules』7を見よ。そのうえ、『Salaried Posts』31, 39における、痛風に対する同情的な言及は、彼自身が痛風であったことを、そしておそらくはまた、彼がそれについて書いたことを示唆している。『Salaried Posts』は、ルゥキアーノスが不運に遭い始めたときに書いた比較的後期の作品のようであり、わたしはSinkoにしたがって、「痛風」を同じ時期ころに年代を定める。

 アカキウスが「俊足」の作者であることに賛成する証拠は、アカキウスに宛てて364 A.D. に書かれたリバニウスの2通の書簡の中に含まれる。Letter 1368は、以下の言葉を含んでいる。「他のものもわれわれを友にすることができます — わたしが意味しているのは痛風女神、彼女を祝福したまえ、彼女は貴君の脚とわたしのそれとに対する愛情を示すために、同じ時を選んだ」。
 Letter 1380は以下のように読める。
 「貴君の喜劇は、これを読んだ者、そしてそれはほとんど誰も彼もだったのだが、全員に愉快さと笑いをもたらした。じっさい、痛風についてこのような喜劇を著すことができるために、それの虜になりたがらない者は誰もいないほどだった。わたしは、貴君の考えているとおり、この女王の患者になったばかりの者たちの慣例を違えず、道路や甕(つまり、これにわたしは自分の脚をぶつけたのだ)の硬さ、劇場や野性動物の展示への訪問を呪った。理由は、寝台に閉じこめられていたせいだ — じっさい、本当の理由どころではない。医者たちは、その手にわたしは完全に身を任せていたのだが、わたしといっしょに騙されることに没頭していた。しかし、まる一月間、彼らの欺瞞の手当を受け、問題の原因を知ろうと決心した時、わたしは彼らに邪魔された。わたしは言おう、彼らは、わたしを苦しめたかったわけではないことを、充分よく知っていた。しかし、その侵害が繰り返し起こり、わたしを破壊し、スパルタ人たちがアッティカにしたよりももっと残酷に荒廃させたとき、わたしは降参し、自分の苦悩をその固有名詞に与えた。明らかな窮状を否定することは無知の最たるものだと考えたからだ。3ヵ月たった今、真実を聞く貴君は考えるかもしれない、自分の健康状態の中で、彼らの規則をわたしが破ったと。しかし、痛風の自分の分け前を受け取った者は、真実を曖昧に曲げることを期待できない。貴君も間もなくこのことに同意するだろう — あるいはむしろ、貴君はこの神にすでに類似した告白をし、痛風に対する貴君の盟友となるよう神に懇願した。今、わたしは、人前で、使われないままになっている馬たちや、おのれの主人を助けることのない悪い奴隷たちについての畳句に耳を傾け、彼らを意のままに操っている。ただし、年が進めば、わたしの弁解は、一つを除いてすべてを消し去り、わたしたちはひとつの合唱隊となるであろう。喜劇の合唱隊よりもわれわれは数が多く、貴君をその指導者として、われわれの合唱隊は、その情熱が脚にある彼女の栄光をたたえて、歌を歌うだろう」。

 アカキウスは、紀元後4世紀中頃、アテーナイの主要な文士の一人であった。彼はアスクレーピオスの頌を書き、また叙事詩を書いた。友人のリバニウスのように、古代の神々への忠誠から背教者となったユリアヌスを支持した。だから、アカキウスは「俊足」を紀元後364年に書いたというSievers の説は、少なくとも可能である。尤も、合唱隊へのリバニウスの言及は、彼の説に対して何人かの研究者たちに疑いをいだかせ、他の研究者たちは、「痛風」よりも「俊足」の方をアカキウスの作品とさせた。

 擬似梗概は、「俊足」と「痛風」とを結合して、ひとつの喜劇作品にしたがった後世の校訂者によって加えられた、と推測するZimmermannにわたしは従う。この梗概を誰が書いたにせよ、アカキウスではほとんどありえない。アスクレーピオス頌の著者は、「俊足」をポダリリオスの息子とするはずが、ほとんどない。

 「俊足」56 と 123 に類似していることで印象的な、痛風についてのエレゲイア詩の断片(紀元後3世紀初めに手書きされた)は、Ox. Pap. XXXI, 2532を見よ。

Macleod




12."t1"
痛風


12."2"
〔登場人物〕痛風患者、合唱隊、痛風、使いの者、
12."t3"
医者、そして、苦痛

12.1
痛風患者
12.1
おお、忌まわしき名よ、おお、神々に忌み嫌われるもの、
痛風よ、呻吟多きものよ、コーキュートスの子、
タルタロスの暗く深い奥底に
エリーニュスのメガイラが子宮から生み出し、
乳房で育てあげ、冷酷な幼児に、
アッレークトーもまた乳を唇に滴らせたものよ、
名も呪わしき御身を、いずれの神霊がはたして
光の中に連れ来しや。御身は人間どもの災厄として来たりし。
というのは、死すべき者らが〔この世の〕光の中でしでかした過ちの
12.10
報いが死者につきしたがうものならば、
タンタロスを飲み物で懲らしめることはもとより、イクシオーンをば、
車輪を回転されて、またシーシュポスを岩石で、
プルゥトスの館において懲らしめる必要もなかった。
ただ単に、行い悪しき者らすべてを、
四肢を悩ませる御身の苦痛に結びつけるだけで。
あたかも、さいなまれる惨めな我が身が、
手の先から足の先の歩みまで、
よくない体液と胆汁の苦い液、
暴力的な気息によって、これが通路を詰まらせて、
12.20
静止してしまい、閉じた〔通路〕が苦痛を拡げるのだ。
そして、内臓そのものによって、火のような災悪が走るのだ。
火炎の旋回によって、焼き尽くされる肉のうえを。
アイトネーの火に満たされた火口のように、
あるいは、潮海の通路の裂け目をなすシケリアの海峡の〔ように〕。
そこでは、逃げ場のない大浪が盛り上がり、
岩の窪みに曲げられて渦を巻いている。
おお、万人にとって足取りを見極めがたい終末よ、
何とむなしく、われらはみな御身を心にいだくことか。
愚かにも、むなしい希望を糧としながら。

12.29
合唱隊
12.30
キュベーベーのディンデュモン山で
プリュギア人たちは神憑った叫び声を
やさしいアッテーのためにささげ、
プリュギアの角の曲に合わせて
ティモーロスの山に沿うて
リュディア人たちは祝歌を唱える。
狂ったように タンバリンのまわりで
クレーテーの律動で バッカスの調べを
奏でるは、コリュバースたち。
重たき喇叭は叫ぶ
12.40
勢い猛の軍神アレースのために
戦いの雄叫びを奏して。
しかしてわれらは御身に、痛風様、
春の初めの季節に、
信者として嘆きの声を捧げん。
牧原はものみな
みどりなす草にあふれ、
西風の気息に
樹々はやさしい葉を芽吹く時に。
はかなき者たちの屋敷では、
12.50
不幸な結婚をしたツバメが泣き叫び、
夜には、森で
イテュスを嘆く。泣きの
涙で アッティスの夜啼き鳥が。

12.53
痛風患者
ああ、情けなや、足の助けよ、おお、第三の足の
役目を定めとする杖よ、わがわななく歩みを
支え、小径を真っ直ぐに保て。
平地に確かな足跡を固定せんとするとおりに。
起て、惨めなもの、四肢よ、寝床から、
そして、屋根に覆われた住み家を後にせよ。
12.60
両の眼から、霞の夜の深みを消散させよ、
戸外に、太陽の光の中に出かけて、
輝く風の清澄な冷気を吸いこめ。
63
というのは、すでに十日と、加えるに五日になれり。
太陽なき闇の中に閉じこめられ、
整えられることなき寝床に身をもだえて以来。
もちろんわが魂は、扉に突進し
歩きまわりたい熱意さえあるが、
身が愚鈍にして、渇望に仕えようとせぬ。
それでも、なおかつ努めよ、わが気力よ、痛風患者の貧乏人が、
70
散歩したいのにできなければ、
その者は死者の世界に置かれると知って。
いや、待て。
あれはいったい何者か。両手で杖を操りながら、
頭にニワトコの葉を戴いている者たちは。
練り歩く合唱隊を率いているのは、いかなる神霊か。
まさか、ポイボス・パイアーン、御身の栄光をたたえているのでは。
しかし、戴いているのは、デルポイの月桂樹の葉ではない。
あるいは、捧げられているのはバッコスに対する讃歌のようなものではないのか。
いや、髪にキヅタの徴がついていない。
80
おお、見慣れぬ方々、われらに近づいてきたあなたがたは何者ですか。
名乗りたまえ、そして、間違いなき言葉を口にされたい。
何者であり、何の女神を賛美なさっているのか、言いたまえ、おお、友たちよ。

82
合唱隊
して、声を掛けたるそなたは何者、また、いかなる血筋の方か。
というのは、杖と歩みがそなたの素性を告げ知らせているごとく、
不敗の女神の信者とお見受けするゆえ。

85
痛風患者
わたしもこの女神にかなう一人と?
86

合唱隊
キュプロスにますアプロディータ、
露となって霊圏から落下してきた女神をば、
潮海の浪の間で、端正な配合へと
90
育てあげたは、ネーレウス。
また、オーケアノスの水源のほとりで、
オリュムポスにますゼウスの妃、
白き腕のヘーラーをば、広き胸にて
養いしはテーテュス。
また、不滅の頭の頂きから、
乙女の怖れを知らぬ姿
鬨の声あぐアテーナーを生みなせるは、
クロノスの子、オリュムポスなる神々の偉大なる最善者〔ゼウス〕。
〔そのように〕われらが幸いの女神をば
100
老オピオーンが、てらてら光る腕の中で、
第一子の娘として生みなせり。
影くろき混沌がやみ、
光り輝く曙が昇ったとき、
そのとき痛風女神の力も現れたり。
すなわち、子宮から御身をクロートーが
生み、このときモイレーが産湯を使ったとき、
天のあらゆる光を笑い、
晴れやかな霊気が大きな雷鳴をとどろかした。
110
この女神をば、母乳あふれる胸で
育てたのは、富み栄えるプルゥトーンであった。

111
痛風患者
いかなる入信儀礼によって神官たちに伝授するのですか。

112

合唱隊
われら、勢い猛なる血を、鉄の(刃の)切開でほとばしらせることなく、
蓬髪が頸のまわりに巻きつくことなく、
鳴り響く距骨によって背中を打たれることもなく、
われら、引き裂かれた牡牛の生肉を喰らうこともない。
されど、春が楡の華奢な花を咲きいだせ、
さえずりやまぬクロウタドリが枝々の間に歌う時、
そのとき四肢を貫いて、鋭い一撃が信者たちを打ち砕く。
120
不明なるもの、隠れたるもの、四肢の深奥に潜伏したものが、
足、膝、股関節、距骨、鼠頸部、太腿、
手、肩胛骨、腕、肘、手首を、
喰う、貪る、焼く、抑える、燃やす、柔らかくし、
ついに、女神は苦痛に退散するよう命ずる。

124
痛風患者
するとわたしも、気づかぬ間に
秘儀入信者の一人なんですか。だからこそ、あなたが嘆願者に心優しき
神霊と見え、わたしは信者たちといっしょに
讃歌を始めよう。痛風患者の調べを歌って。

128
合唱隊
霊気をして沈黙せしめ、風も途絶えせしめよ、
130
そしてあらゆる痛風患者をして口をつつましめよ。
見よ、生贄の炉へと、寝椅子を喜ぶ
神霊は歩を進める。杖に
身を支えつつ。浄福なる者たちのうちはるかに最も柔和な〔女神〕よ、
願わくは、御身はおのがしもべたちにも好意的に、輝く眼もて行きたまえ。
諸々の苦痛にはすみやかなる解放を与えたまえ、
この春の季節に。

137
痛風
われは、地上の死すべき者たちの諸々の苦痛の不敗の女主人
痛風、われを知らぬ者とて誰がいようか。
140
乳香の煙もわれを宥めることなく、
祭壇で焼かれた生贄に注がれた血も、
奉納物をまわりに吊り下げられた幸福の神殿が〔宥めること〕なく、
天に在るあらゆる神々の医者である
パイアーンが薬でわたしに対する勝利を強めることもなく、
ましてポイボスの子、博識のアスクレーピオスがそうすることもない。
なぜなら、人間どもの種族が最初に発生して以来、
万人はわたしの強さを敢えて厄払いしようとする、
いつも薬の装置をかきまぜて。
なぜなら、各人は各様の術知をわたしに試みるからである。
150
彼らはわたしのためにすり潰す、セイヨウオオバコやオランダミツバを、
チシャの葉や草原のスベリヒユを、
他の者たちはニガハッカを、ある者たちはオヒルムシロを、
他の者たちはイラクサをすり潰し、他の者たちをヒレハリソウを、
他の者たちは池に生えるアオウキクサをもってくる、
煮られたニンジンを、ある者たちはシトロンの葉を、
ヒヨスを、ケシを、ヒアシンスを、ザクロの樹皮を、
エダウチオオバコを、乳香を、ベイケイソウの根を、硝石を、
葡萄酒といっしょにコロハを、肉団子を、膠を、レンズ豆を、
セイヨウヒノキの没食子を、大麦の挽き割り粉を、
160
煮られたキャベツの葉を、パロス産の石膏を、
山羊の糞を、人間の糞を、
ソラ豆の挽き割り粉を、アッソス石の花を。
彼らは煮る、ヒキガエルを、イタチネズミを、トカゲを、イタチを、
カエルを、ハイエナを、山羊鹿を、キツネを。
死すべき者らに試みられたことのないいかなる金属があろうか。
いかなる液汁が〔試みられ〕なかったであろうか。いかなる樹の涙が〔試みられ〕なかったであろうか。
ありとあらゆる動物の骨、神経、皮、
硬脂、血液、髄、尿、排泄物、乳。
ある者たちは4種成分を飲み、
170
ある者たちは8種成分を、しかし大多数の者らは7種成分を。
他の者は、聖なる〔薬〕を飲んで浄化され、
他の者は、詐欺師たちの呪文でからかわれ、
別の愚か者はイウゥダイオス人の〔呪文〕を取って魔法を解く。
ある者は、療法をキュッラネーから取った。
しかしわたしは、そういう連中みなに、情けない思いをさせてやると言い、
そういったことをする連中や、わたしを試みる連中に、
はるかに怒りっぽいわたしに出くわすようにするのが常である。
しかし、わたしに逆らわぬよう気をつける者たちには、
わたしは優しい気持ちをもち、好意的な者になるのだ。
180
なぜなら、わたしの秘儀に与る者は、
真っ先に、すぐに口をつつしむことを教えられるのだ、
いかなることでも歓び、器用な言説を言って。
そして、万人に笑いと拍手で見られるのだ。
浴場へ運ばれて赴くときに。
なぜなら、ホメーロスが謂ったアテーとは、わたしのことなのだから。
〔わたしは〕男どもの頭の上の歩み、足のやわらかな
歩みを持ち、足の罠となるのだから。
いや、さあ、わたしの狂宴の信者はみな、
190
不敗の女神を讃歌でたたえよかし。

190
合唱隊
金剛不壊の性格を有する乙女、
強大にして、頑なな心の女神、
聴け、御身のはかなき者なる信官たちの叫びを。
御身の力は偉大なるかな、繁栄に向いた痛風よ、
ゼウスの速き矢弾はふるえているが、
潮海の深みの浪は御身を前に身震いし、
亡者たちの王アイダース〔ハーデース〕は身震いする。
包帯好きの者、寝椅子に寝つかせる者、
進路を妨げる者、関節の伝染病、
200
足首を燃えあがらせる者、ほとんど地面に接しがたい者、
擂り粉木を恐れる者、膝の熱で目覚めている者、
拳の白堊塊を愛する者、
膝をねじり歪める者よ、痛風よ。

203
使いの者
女主人様、時宜にかなった足で、御身は出会われました。
お聞きください、わたしが携えてきたのは、甲斐なき話ではなく、
言説に実行が同行者となっているのですから。
というのは、わたしは、仰せのとおり、おとなしい足で、
あらゆる町々の足跡をたどり、家々を訪ねました。
御身の力を尊敬しない者がいるかどうか学ぶことを渇望して。
210
そして、他の者たちは、御身の暴力の手で打ち負かされ、
女王様、平静な心を目にしましたが、
次の二人は、不敵な横柄さで
会衆に言明し、誓約していたのです。
もはや御身の力を崇拝するに及ばず、
死すべき者らの生から御身を厄払いしよう、と。
それゆえ、力強き縛りであしを縛りあげて、
2スタディオンの旅路を終えて、5日目にしてたどりつきました。

217
痛風
何という健脚で飛んできたことか、わが使いの者たちの中で最速の者よ。
いずこの、また、足を踏み入れがたき大地の境を後にして
220
たどりつきしか。はっきりと告げよ、すみやかにわかるように。

220
使いの者
先ず初めに拙者が後にしたるは、五段の梯子。
木でできた、ゆるい接合のためにぐらぐらするやつ。
それから、拙者を待ち受けたるは、踏み固められた床。
硬い衝撃が足裏に当たる。
この旅路を、苦痛に満ちた足取りで終えて、拙者が
足を踏み入れたるは、平坦な砂利道。
石の鋭い角に歩きにくいやつ。
この道の次に行き当たったのは、つるつるして滑りやすい道。
先へと急いだが、拙者の後ろには
230
脆弱な踵がはねのあがった泥を引きずりたり。
この道を通ったために、四肢から汗がしとど
流れた。衰えた気力が拙者の歩みを意気阻喪させて。
それから、全身疲れはてた拙者を待ち構えていたるは、
広い大通りであるが安全ではない。
というのは、こちらの荷車、あちらの荷車が、拙者を
走るよう駆り立て、強制し、せき立てた。
拙者は、愚鈍な足を軽快に上げて、
斜めに、狭い路傍めざして歩みたり。
この間、四つ車輪に牽かれた荷車がそばを駆け抜けたり。
240
御身の信者ゆえ、速く走るほどに強くないゆえ。

240
痛風
無駄でなく、おお最善なる者よ、この所行はそなたによって
正しく為されたり。そなたの熱意には、
243
それに見合う名誉をもって感謝の埋め合わせをしよう。
そこで、この賜物をして、そなたの心にかなうものとせよ。
すなわち、続く3年間、そなたは軽い苦痛を経験するであろう。
これに反しおまえたち。汚れた者にして、神々に敵する者どもよ、
いったい何者であり、いかなる生まれの者として、
痛風の力と敢えて競い合わんとするや。
クロノスの御子〔ゼウス〕でさえその暴力には勝てぬと知っておる相手の。
250
言え、最悪の者らよ。というのも、われが半神たちの
たいていの者をひしいだことは、知者たちの知ってのとおり。
プリアモスは、痛風患者だったが、PodavrkhV〔「強足」の意〕と呼ばれていた。
ペーレウスの子アキッレウスは、痛風患者だったが、死んだ。
ベッレロポンテースは、痛風患者であることに耐えた。
テーバイ人たちの権力者オイディプゥスは、痛風患者だった。
ペロプスの後裔プレイステネースは痛風患者だった。
ポイアースの子〔ピロクテーテース〕は痛風患者だったが、艦隊を指揮した。
他にポダルケースは、テッサリア人たちに嚮導者であったが、
彼は、〔兄弟の〕プローテシラーオスが闘いに斃れたとき、
260
痛風患者で苦しんでいたにもかかわらず、艦隊を指揮した。
イタケーの領主ラーエルテースの子オデュッセウスを
討ち取ったのは、わたしであって、ガンギエイの棘ではない。
何と歓びのない者どもよ、おお、因果な者ども、
おまえたちがしでかしたことに等しい懲らしめを受けるがよい。

264
医者
われらはシリア人、生まれはダマスカス人、
数々の飢えと貧窮に支配されて、
大地と海をさまよい渡りたり。 されど、ここに、父より贈られし膏薬を持てり。
苦しむ者たちの痛みを、われらこれにて慰めん。

269
痛風
270
して、この膏薬は何か、また、道具は何か。述べよ。

270
医者
述べることもわれは許されず。沈黙せよとの秘密の誓いと
亡き父の最期の言いつけによって。
薬の大いなる力を秘するよう命じたが、
これを猛々しい御身をもとどめるすべを知れるもの。

274
痛風
されば、おお、忌々しい者ども、そして、悪い破滅の仕方をするはずの者どもよ、
この地上に薬のそれほどの効き目があるのか。
それを塗れば、わたしの暴力の止め方を知っているという。
いや、さあ、この同意をしよう
そして試みよう、生まれつき強力なのは、
280
薬の強さか、わたしの炎かどうかを。
〔苦痛に向かって〕こちらへ、おお、陰気なものたち、至る所に飛び散らう
業苦たち、わがバッコス祭の僚友、
近く来よ。そして、そなたは足の先
足の指までの甲を燃やせ。
こなたは、踵に侵入せよ。彼方は太腿から
膝まで、体液の苦い戦列を浴びせよ。
おまえたちは手の指をねじるがよい。

287
苦痛
見よ、仰せのとおり、われら万事あなたのために遂行し終われり。
悲惨な者たちが、大声をあげながら横たわっております。
290
四肢のすべてを発作に引っぱられて。

290
痛風
いざ、おお、異邦の者どもよ、われらもっと詳しく学ばん。
塗布されたこの薬が、おまえたちに役立つかどうかを。
というのは、これがはっきりとわれに対抗するならば、
われはこの世を後にして、地面の内奥、
タルタロスの最奧の底に、目に見えなくなり、消滅せん。
見よ、塗布し終われ。炎の苦痛をしてゆるめしめよ。

296
医者
ああ、情けなや、ああ、ああ、悩ましいことよ、破滅するよ、
四肢のすべてを見えざる災悪に貫かれて。
ゼウスが雷霆のこれほどの矢弾を揮うことなく、
300
海の波浪にしてこれほど狂うものは一つとしてなく、
旋風の旋回もこれほどの暴力はない。
ケルベロスの一咬みが、わしをずたずたに引き裂いたのではないか。
エキドネーの毒が喰いあさるのではないか、
それとも、ケンタウロスの体液に浸された晴れ着が。
憐れみたまえ、女王様、というのは、わしの薬も、
他の〔薬〕も御身の走路を押しとどめられず、
あらゆる投票によって、あなたは死すべき者らのあらゆる族民に勝利するのですから。

307
痛風
やめよ、業苦たち、苦痛をしずめよ。
わが争いに挑んだことを悔い改めた者たちの〔苦痛を〕。
310
人みなに悟らしめよ、神々のうちわれのみが
頑なにして、諸々の薬にしたがわぬことを。

311
合唱隊
ゼウスの雷電に、サルモーネウスの暴力も敵しえず、
神の燃えさかる矢弾によって、心を拉がれて死に、
サテュロスのマルシュアースはポイボスに敵して喜ばれず、
彼の皮のまわりに、松の樹が音も高くさやぐ。
母親ニオベーは、諍いのせいで永遠に忘られぬ歎きをいだき、
今なお泣いて、シピュロス山に滂沱の涙を流す。
マイオーニア女アラクネーは、トリトーニス〔アテーナー〕との諍いに及んだが、
しかし姿形を失って今もなお蜘蛛の糸を編んでいる。
320
なぜなら、儚き者らの向こう見ずが、浄福な〔神々〕の怒りに対しえぬこと、
例えばゼウスの、例えばレートーの、例えばパッラス〔アテーネー〕の、例えば巫女ピュティアのそれのごとし。
おお、俗姫、痛風よ、御身のもたらす苦しみの程よく、
軽く、軽微で、刺すがごとくでなく、害少なく、苦悩を起こさず、
耐えやすく、止みやすく、弱々しく、歩きまわりやすきものであれかし。
不幸せな者らには数々の姿あれど、
苦痛への配慮と馴染みをして、
痛風病める者らを慰めよかし。
かくして元気よく、おお、共同相続人たちよ、
汝らは諸々の苦痛を忘れるであろう。
330
思われたことが成就することなく、
思いがけぬ者たちに神が道を見出したもうならば。
されば、人をしてみなこうむる禍を我慢せしめよ、
からかわれ、嘲られるとも。
これはもともとそういうものなのだから。

2011.02.15. 訳了。

forward.gif俊足