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back.gifカワセミ


偽ルゥキアーノス作品集成

俊足

+WkuvpouV
(Ocypus)







8."t1"
俊足(+WkuvpouV)

8."t2"
〔登場人物:〕痛風(Podavgra)、私教師(TrofeuvV)、俊足(+WkuvpouV)、医者(+IatrovV)

1
痛風
はかなき者どもの中にあって恐るべき、名もいまわしき
痛風とわしは呼ばれておる。人間どもにとって恐るべき病状にして、
諸足をば神経の輪罠で縛りつけるのじゃ、
関節に入りこんでも気づかれることなく。
5
そしてわしは笑う、わしのせいで強引に撃ち倒されながら、
病禍について確かなことを言えず、
むなしい釈明に汲々としている連中を。
というのは、誰しもが嘘の口でみずからを騙しておるじゃ、
脚をぶつけたとか脱臼したとか
10
友たちに言ってな。真因を否認して。
ところが、誰それに気づかれぬがよいと思って、彼が言わぬことも、
時の経過が暴露する。望まなくとも。
それから征服され、我が名を呼び、
すべての友に歓喜の歌が沸き起こる。
15
痛み殿(PovnoV)はわしにとって災悪の協働者。
というのは、これなくしてはわしはただの無。
だから、これがわしを咬み、心をつかまえ、
痛み殿(PovnoV)が万人にとって災悪の真因であるのに、
悪漢の呪詛で〔痛み(PovnoV)を〕罵る者は誰もなく、
20
わしに対して誹謗の呪いを送りつける。
あたかも、わしの呪縛を逃れることを望んでいるかのように。
この戯言は何か、わしが言うのは何のためか。
我が腹立たしさを我慢できずにここにいると。
それは生まれも高貴な悪知恵(Dovlwn)、勇ましき俊足(+WkuvpouV)が、
25
わしに対して思いを巡らし、わしが何者でもないと言って。
そこでわしは、女が咬まれたように怒りにかられ、
狙いすましてやつに癒しがたい仕返しをした。
足の関節を狙うのがわしの習いであるから。 すでに恐るべき痛み殿(PovnoV)が狭い箇所を占め、
30
足の下方を身にしむ感覚で刺しとおす。
やつは、徒競走や相撲で足底を撃たれたからと、
情けない老家庭教師を誤魔化しているが。
そして餌食とされた足のびっこを隠して、
あわれな男はひとり家から出てくる。
35
足のこの恐るべき痛みはどこから起こったのか、
疵もないのに、歩けず、立てない、この痛みは?
わしが神経を引きしぼり、射手の男が
矢を放つように、こう言うように仕向けたのだ。
「極端な苦痛も時間の経過に従う」。
私教師
40
しっかりするのだ、おお、わが〔教え〕子よ、立ちあがれ。
君がびっこになって、倒れていては、どうしたってわしを投げ倒せまい。
0061 005 41
俊足
見ろ、あんたを軽々と押さえ、いうことを聞かせ、
ぼくの痛い足を移して、ぼくは辛抱する。
より若い者にとっては恥なのだから、倒れたときに、
45
無能な、ぶつくさいう、年寄りが従者なのは。
私教師
しっ、しっ、馬鹿者め、そんなことでわしを嘲るのはよせ。
若者のようにわしに向かって大口叩くのもやめよ。君はわかっていよう、
やむを得ぬ時には、どんな年寄りも若いということを。
わしのいうとおりに聴従しなさい。決め手を出そう。
50
わしは年寄りだが、立っている、君は若者だが、地べたに倒れている。
俊足
あんたもすべったら、年寄りだから痛みもなく倒れてしまうだろうよ。
というのは、熱意は年寄りになっても伴うが、
実行は、やつらにとってもはや旺盛ではないのだから。
私教師
なんでわしと知恵比べをするのか、きっと君は言えるだろうな、どんな仕方で
55
痛みが君の足の土踏まずに侵入したかを。
俊足
足をしっかりさせようと、徒競走の練習をしていて、
走りつつ〔足を〕伸ばし、痛みと結び合ったのだ。
私教師
後ろ向きに走るがよい、そう云ったやつがいる。坐ったまま
肘の下に毛が密生しているのに、髭をひきむしっていたやつだが。〔???〕
俊足
60
そんなら、相撲をとっていて、足がらみをかけようとして、
倒されたのだ。これだけはぼくを信じてくれ。
私教師
どんな将兵やら。足がらみを
かけて、倒されたというのは。君は偽りの言葉で堂々めぐりをしているな。
わしらもかつて同じ言葉を持ったものだ、
65
友たちの誰一人にも真実を言わないために。
ところが今は、誰しもが見つけ出してしまっているのを君は見る。
痛みがぐるぐるまわって、調子をとってきりきり舞いさせているのだ。
医者
どこだ、どこだ、有名な俊足殿にお目にかかれるのは、友たちよ、
足が痛く歩行もならぬ御仁を。
70
拙者は医者じゃから、ある友から聞いた、
その御仁が、立ちもならぬ病状で恐ろしい目に遭っていると。
いや、当の本人が、わが目の間近く
寝台に仰向けに横たわって延びておる。
神々にかけて、貴君にご挨拶申す。して、貴君の<病状>
75
それは<いったい>何ですかな。言ってくだされ、俊足殿、すぐに。
というのは、拙者にわかれば、おそらくは治せよう、
恐るべき苦痛、患いの病禍を。
俊足
ぼくを見てください、救主(Swthvr)よ、もう一度、救主(Swthvrice)よ、 喇叭(Savlpinx)女神の名前を持ったSwthvriceよ、
80
足の恐るべき痛みがぼくを悪く〔ひどい状態で〕咬んでいるのです。
歩みはおずおず、足取りも簡単ではない。
医者
患いはどこからか、打ち明けてくだされ、あるいは、いかなる仕方でか。
真実がわかれば、医者は安全に
よりよく前進できようほどに。だがわからねば、つまずこう。
俊足
85
徒競走のようなことや、体育術を練習していて、
同輩の友に恐ろしく撃ち倒されたのです。
医者
じゃが、何故にいやな炎症が
当の患部にないのか、何か塗布液を付けていないのか。
俊足
羊毛の包帯には我慢ならぬのです、
90
多衆には美しい恰好さは役立たずです。
医者
されば、貴君には何がよいと思われるか。貴君の足に針を刺そうか。
拙者に<身を>まかせなさるなら、貴君は知らねばならぬ、
切開によって貴君の血はおびただしく流れ出るということを。
俊足
やってください、何か新しいことを見つけられるなら、
95
この足から恐るべき痛みをすぐに止めるために。
医者
ご覧なされい、鉄-銅の外科刀をわれは構えたり。
鋭利な、血の滴る、半球体の〔外科刀〕を。
俊足
やめ、やめ。
私教師
救主よ、あんたは何をするのか。あんたは救済に手を出してはならぬ。
100
鉄が原因の痛みを植えこむつもりか。
何も知らぬくせに、足に害悪を加えているのだ。
というのは、あんがが耳にした言葉は、嘘を聞いたのだから。
というのは、彼が言うのと違って、相撲とか徒競走とかの
練習をしていて撃ち倒されたのではない。とにかくわしの言うことを聞きなされ。
105
さて、初めに彼は歩いていた、家の中で壮健な者として、
たらふく喰らい、飲んで、このかわいそうな男は、
寝椅子にぶっ倒れて、ひとり寝た。
次いで、夜、目覚め、大声をあげた、
ダイモーンに撃ち倒され、あらゆる恐怖にとりつかれたように。
110
そして言った。「なさけなや、どこから悪い巡り合わせを持ったのか。
ひょっとすると、ダイモーンのようなものがとりついて、足を押し出しよる」。
そういう次第で、夜、ひとりしゃんと坐り、
アジサシのように足のことを嘆き悲しんだ。
そして雄鶏が夜明けを告げると、
115
この男はやって来て、とげとげしい手をわしに置き、
嘆きつつ、興奮しつつ、<自分の足が病気だと云った>。
だが、さっきあんたに訴えたことは、みんな嘘っぱち。
病の恐るべき秘密は隠しているのだ。
俊足
年寄りというやつは、いつも言葉で武装する。
120
何でも喚き立て、強壮なところはひとつもなしに。
というのは、どこか痛く、友たちに嘘を言うやつは、
貧しいのにガムを噛んでいる者に似ているのだから。
医者
貴君はとりとめもなく時間をつぶし、違ったことに違ったこと言いつのる。
痛いと言いながら、どこが痛いかまだ言わず。
俊足
125
でも、この病状の惨状をあなたにどう謂えましょうか。
たしかにぼくは患っているが、痛いという以外、何も知らないのですから。
医者
ひとが根拠なく足が痛い場合、
以後はむなしい言葉を好きなだけ捏造しよう。
その恐るべきことは災悪に結ばれていることを知っているから。
130
今も、これまでのところはひとつの<片方の足だけが貴君を苦しめている>。
だが、もう片方の足も痛みだしたら、
貴君は呻吟し泣くことだろう。だが貴君にひとつ謂いたい。
それはこいつだ。貴君が望もうが望むまいが。
俊足
何ですか、こいつとは、云ってください、いったい何と呼ばれるのですか。
医者
135
二重の惨状を孕んだ名前を持っている。
俊足
なさけなや。何ですか、それは。ぼくの必要としていることを言ってください、ご老体。
医者
貴君が痛いという場所にその初めを持っている。
俊足
名前の初めは「足」ですね、あなたの言うとおりなら。
医者
それの終わりに貴君は恐るべき「女猟師」をくっつける。
〔痛風(Podavgra)を、足(pouvV)と狩猟(a[gra)という女性名詞とに分けた語源解釈〕
俊足
140
いったいどのように、ぼくはまだ<若い>のに、かわいそうな者として<とりつくのですか>。
医者
それこそが〔痛風の〕恐るべき所以だ、誰ひとり容赦しないのだから。
俊足
救主よ、何と言われる。何がわたしを……〔待ち受けているのですか〕
医者
145
足から離れることなき恐るべき痛みに貴君は陥る。
俊足
するとぼくは終生びっこの人生を耐え忍ばねばならんのですか。
医者
びっこなら、何でもない。恐れるなかれ。
俊足
何ですか、もっとひどいこととは……
医者
両の足とも貴君は足枷をはめられたままとなる。
俊足
150
なさけなや。どこからか新し痛みが
もう一方の足を貫き、ぼくは悪く患うことになるのですか。
あるいは、移動しようとすると全身が突っ張っているのはどうしてなのですか。
足を動かすことさえ大いに臆する。
幼い赤ん坊のように、だしぬけに恐怖に襲われて。
155
いや、神々かけてあなたにお願いです、救い主(Swthvrice)よ、
あなたの術知が<何か>できるなら、何でも惜しまず、
ぼくたちを治してください、そうでないなら、ぼくはおしまいです。
というのは、はっきりしないものの、ぼくは患い、足を射られています。
医者
160
同輩の医者たちにふさわしいだけの
しかし事実においては何らの救いも知らぬ
とりとめなき言葉を拙者は省き、
患う貴君にすべてを切りつめて謂おう。
先ず、災悪の逃れられぬ深みへと貴君は陥る。
何となれば、鉄に型どられた歩行を引き剥ぐことが拙者にはできぬゆえ。
165
その〔歩行〕は、見いだされれば悪漢どもの証となるが、
万人にとって悪しき、恐るべき隠されたもの、
その〔歩行〕の重荷を人間どもの自然は担うことができぬもの。
俊足
ああ、なさけなや、ああ、なさけなや。
隠れた痛みはどこからぼくの足を突き通すのですか。
170
倒れる前にぼくの手をあなたがたが支えてください。
サテュロスたちがバッコス信者たちの肘を〔支える〕ように。
私教師
わしは年寄りだ、けれど見よ、君のいうとおりしよう。
そして若い君の手引きをしよう、年長なのじゃから。

2010.12.03. 訳了。

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