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back.gifテレース作品集(4/8)

犬儒派作品集成

テレース作品集

(5/8)
貧と富の比較(B)


[底本]
TLG 1699
TELES Phil.
(3 B.C.: fort. Megarensis)
5 1
1699 005
Peri_ sugkri/sewj peni/aj kai_ plou/tou (ap. Stobaeum), ed. O.
Hense, Teletis reliquiae, 2nd edn. Tübingen: Mohr, 1909 (repr.
Hildesheim: Olms, 1969): 45-48.
5
(Q: 456: Phil.)





貧と富の比較(B)

45."1t"
『テレースの要約』から

45.2
 貧しさは、愛知者たることの妨げになるが、富は、そのことに役立つ。  この言はよろしくない。いったい、どれほど多くの者たちが、欠乏によってよりは豊かさによって、学究生活を妨げられるとあなたは思うか。それとも、あなたは眼にするのではないか、たいていの場合、物乞いの極みたる者たちは愛知するが、富める者たちは、まさにそのことのゆえに、まったき暇無しの状態にあることを。だから、テオグニスの言っていることも悪くない――
 飢えよりは飽満(ko&roj)が、はるかに多くの人士を破滅させた。
そういうわけだから、富によってと同様に、欠乏ゆえにきっと、愛知者たることを妨げられた者たちを、どうしてあなたは示し得ようか。あるいは、欠乏によっては自制することを強制されるが、富によっては反対のことを〔強制される〕ということを、あなたは眼にするのではないか? すなわち、わたしの思うに、何でも欲するものを手軽に手に入れることが人間に許されるなら、その者はもはや労苦したり何かを求めたりすることはなく、その富を自分の悪徳の共犯者としてもち、何ひとつ快楽を控えることはすまい。あるいはまた、あなたは眼にするのではないか、富者たちは、多事多端のため、学究生活を妨げられるが、貧者は、何かすることを持たないので、愛知に専念するということを。ゼーノーンはこう謂っていた、――クラテースが、靴店に座って、アリストテレースの『哲学の勧め』を読んでいた。この本は、キュプリスの王テミソーンのために書いたもので、〔この中でアリストテレスの〕言うには、愛知者たること以上に善きことなし、なぜなら、彼は最多の富を有するもこのために消費し、なおかつ自分に名声が伴うからだ、という。さて、〔ゼーノーンの〕謂うには、彼〔クラテース〕が読書している間、靴屋はずっと縫い合わせていた、そこでクラテースが云ったという。「わたしは、おお、ピリスコスよ、君のためにわたしは勧めを書くべきようにわたしに思われる。なぜなら、アリストテレースが書いた相手よりも、君の方こそ愛知者たるにふさわしいのを眼にするから」。

 あるいはさらに、普通の家僕たちは、自分を養い、かつ、その主人に報酬まで払うが、自由人は、自分自身を養うことができないね。そういうわけだから、生計を持たぬ者は、そのような気がかりから解放されているので、何の持ちあわせもないことにはるかに悠々としていられる。例えば、目下の戦争において、〔生計を持たぬ者は〕自分自身のことよりほかに何も気にしていないが、富者は他人のことまで〔気にしている〕。だから、ソポクレースがオイディプゥスをしてこう言わせているのも悪くない――
 おまえたちの苦しみはひとりだけのもの、
 しかしわしは、自分のため、国のため、おまえのために歎いている。〔『オイディプゥス王』62〕
しかし、以上のごとくであるのを目にしながらも、やはり、貧乏であれば、不幸だとひとびとは思っている。

 さらにまた、諸々の都市においては、富者たちは貧者たちよりも尊敬されていると人々は謂う。こういう人たちは、アリステイデースのことを聞いていないようにわたしに思える。つまり、彼はアテーナイ人たちの誰よりも最も物乞い的であったのに、最も尊敬されていた、そして、アテーナイ人たちが諸々の都市に貢納を課そうとしたとき、この人物を〔査定官に〕任命した、誰ひとり〔彼〕より義しく査定する者はいないと思ったからだ。。そうして、カッリアスは、アテーナイ人たちの中で最も富者であったにもかかわらず、アリステイデースがカッリアスの〔家政者〕であるよりは、〔カッリアスが〕アリステイデースの家政者となるよう下命されたということ、また、アリステイデースがカッリアスの富を恥じること、カッリアスがアリステイデースの貧しさを〔恥じる〕よりもはるかにはなはだしかった。

 あるいはまた、スパルタ人リュサンドロスよりも尊敬された者、あるいは、より多くの名誉にあたいすると思われた者が誰かいるだろうか。この人物も、娘たちに嫁資を与えて嫁がせることができなかった。他にも、富者たちよりも大きな名誉に与った人たちを、あなたが望むだけひとは云うことができよう。だから、エウリピデースがエテオクレースを称讃してこう言ったのも不適当ではなかったようにわたしに思われるのだ。つまり、欠乏した若者であったけれど、
 アルゴスの国では数々の名誉を身に帯びていた。(『ヒケティデス』874)

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