砂漠の師父の言葉(Κ)
原始キリスト教世界
語録集(Apophthegmata)1
砂漠の師父の言葉(Λ)
(11/24)
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253."16t"
字母Λの初め。
253.17
師父ルゥキオスについて
あるとき、いわゆる祈祷専念派(Eujkti:tai)の修道者たちが何人か、師父ルゥキオスをエナトンに訪問した。すると長老が彼らに尋ねた。「そなたたちの手仕事はどのようなものか?」。彼らが云った。「われわれは手仕事には触れません。むしろ、使徒が言うとおり、絶えず祈っています〔1テサロニケ5:17〕」。そこで老師が言う。「そなたたちは食事をしないのか?」。彼らが云った。「いいえ、します」。そこで彼らに言う。「それでは、そなたたちが食事をしているとき、そなたたちのために誰が祈るのか?」。さらにまた彼らに云った。「そなたたちは眠らないのか?」。すると彼らが云った。「いいえ、眠ります」。すると老師が言う。「それでは、そなたたちが限っているとき、誰がそなたたちのために祈るのか?」。これに対して彼らは彼に答えるすべを見出せなかった。
すると彼らに云った。「どうかわしを赦してほしい。見よ、そなたたちは言うとおりには行っていない。そこでわたしがそなたたちに示そう、わしの手仕事をしながらわしが絶えず祈っているということを。わしは、わしのナツメヤシの小枝をぬらしながら、神とともに坐る。そして、これで綱を編みながら、言う。『わたしを憐れみたまえ、神よ、御身の大いなる慈悲によって、また、御身のぎょうさんな慈悲によってわたしの咎を洗い浄めてください〔詩編51:3〕』」。そうして、彼らに言う。「これは祈りではないか」。彼らが云った。「はい、祈りです」。すると彼らに云った。「されば、まる1日、わしは働き且つ祈りつづけて、多かれ少なかれ16ヌゥミア[023]を稼ぐ。そしてその中の2ヌゥミアを扉のところに置いて、残った金で食べる。そして、この2ヌゥミアを受け取る者は、わしが食事をしたり眠ったりしているとき、わしのために祈ってくれる。こうして、神の恩寵によって、わしは絶えず祈れという掟を実行しているのだ」。〔主題別12-10〕
253."44t"
師父ロートについて
253.45
1 老師たちの一人が、アルセノエーの小さな沼地にいる師父ロートのところにやって来て、修屋に入れてほしいと彼に頼んだところ、これに赦した。ところで、その老師は病気であった。そこで師父ロートは彼を休ませた。また、師父ロートを訪ねて来る者たちがあったときも、彼らに病気の老師をも訪問させた。しかし、彼は彼らにオーリゲネース[024]の教説を説き始めた。そこで師父ロートは悩まされた、いわく。「われわれまでがそうだと、はたして師父たちがみなしはしないか?」と。しかし、彼〔その老師〕をその場所から追い出すことも、掟ゆえに彼は恐れた。そこで、師父ロートは立ち上がって、師父アルセニオスのところに行き、その老師のことを彼に話した。するとこれに師父アルセニオスが言う。「彼を追い払ってはならない、むしろ彼に云うがよい。『見よ、神からのものを、好きなだけ食べ、飲め。ただ、あの教説だけは話すな』と。もし彼がその気になれば、改めるだろう。だが、改める気にならなければ、自らその場所を離れることを願う気になろう。256.10 そうなれば、その責任はあなたにはない」。そこで師父ロートは戻って、そのとおりにした。するとその老師が聞くや、改めようとはしなかった。が、願って身を投げだした、いわく。「主にかけて、わたしをここから送りだしてください、わたしはこれ以上砂漠には耐えられません」。このようにして彼は立ち上がり、愛をもって送り出されて、出て行ったのであった。
2 ある人が、罪に陥ったある兄弟について話すを常としていた、 師父ロートを訪ねたが、入って来たり出て行ったりと動揺して、坐っていることができなかった。そこでこれに老師ロートが言う。「どうしたのか、兄弟よ」。相手が云った。「わたしは大きな罪を犯したのですが、師父たちに言い出すことができないのです」。老師が言う。「それをわしに告白するがよい、わしもそれを担おう」。このとき彼に云った。「わたしは邪淫に陥り、その言を得るために供犠しました」。するとこれに老師が言う。「悔い改めがあると元気を出せ。行け、洞窟に坐せ、そして2日に一度断食せよ、わしも、罪の半分をそなたとともに引き受けよう」。かくして3週間が過ぎ、老師は神が兄弟の悔い改めを受け入れてくださったことを確信した。そして、その死に至るまで老師に従いつづけたのであった。
256."32t"
師父ロンギノスについて
256.33
1 師父ロンギノスは、かつて、三つの想念について師父ルゥキオスに尋ねた、いわく。「わたしは異国の地に住む気です」。これに老師が言う。「そなたの舌を制するのでなければ、どこへ行こうとも、異邦人にはなれない。だから、ここでそなたの舌を制するがよい、そうすれば異邦人になれる」。さらに彼に言う。「わたしは断食する気です」。老師が答えた。「預言者ヘーサイアース〔イザヤ〕が云った。『あなたの首を、首輪や軛のように曲げるとしても、そのままで快く受け入れられた断食と呼ばれることにはならない』〔イザヤ58:5〕。むしろ悪い想念を制するがよい」。彼に第三のことを言う。「人間どもを避ける気です」。老師が答えた。「先ず人間どもの中で正しく行動しなかったとすれば、独りであっても正しくはなれない」。〔主題別10-45〕
2 師父ロンギノスが云った。「ひとたび病気になったならば言え。『虐待されるがいい、死んでしまうがいい。わたしが機に反して喰うことをむやみに求めるならば、おまえの日々の糧さえもやらない』と」。〔主題別4-28〕
256.50
3 ある女が、自分の胸に、いわゆる癌の苦患をわずらい、師父ロンギノスのことを聞き及び、彼を訪ねるすべを探していた。ところで、この人物はアレクサンドレイアから9セーメイアのところに坐していた。さて、女が探し求めているとき、浄福なるあの人は、たまたま海辺で薪木を拾い集めていた。そして彼を見つけると、257.1これに言う。「師父よ、神のしもベ、師父ロンギノスはどこにいるのでしょうか?」。本人だと知らなかったのである。相手が謂う。「あの詐欺師に何を望んでいるのだ。やつのところに行ってはならない。詐欺師だからじゃ。ところで、そなたが抱えている問題は何か」。そこで女は病状を示した。相手は患部に十字の印をしてから、こう云って彼女を帰した。「帰るがよい、そうすれば神がそなたを癒してくださる。ロンギノスがそなたを益することは何もできないのだから」。女がその言葉を信じて立ち去ると、病気はすぐに癒された。その後、この事を数名の者に話し、かの老師の特徴を云ったので、師父ロンギノス本人であることを知ったのである。〔主題別19-6〕
4 また別のとき、幾人かの者がダイモーンに愚かれた者を彼のところに連れてきた。しかし相手は彼らに謂う。「わしがそなたたちにできることは何もない。むしろ師父ゼーノーンのところへ行くがよい」。そこで、師父ゼーノーンが、ダイモーンを追い出すために、攻め始めた。すると、ダイモーンが叫ぴはじめた。「おまえは、師父ゼーノーンよ、いま考えていよう、おまえのせいで俺が出て行くのだと。見よ、師父ロンギノスがあっちで祈っていて、俺に手向かっている。あいつの祈りを恐れて、俺は出て行くのだ、俺がおまえに応えるはずはないのだから」。〔主題別19-8〕
5 師父ロンギノスが師父アカキオスに云った。「女が孕んだとはじめて知るのは、彼女の血が止まるときである。同じように、魂も、精霊が宿ったと知るのは、おのれから流出する下劣な情念が止まるときである。だが、それらに陥っているかぎり、どうして無心の持ち主として誇ることができようか。血を与えよ、そして霊を受けるがよい」。
2016.01.28.
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