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back.gif砂漠の師父の言葉(Π)

原始キリスト教世界

語録集(Apophthegmata)1

砂漠の師父の言葉(Ρ)
(17/24)



385."36t"
字母Ρの初め。
385."37t"
ローマ人の師父〔アルセニオス〕について

385.38
1 あるとき、あるローマ人の修道者がやって来て、スケーティスの教会の近くに住みついた。彼はひとりの奴隷をさえ自分の召使いとして有していた。しかし司祭は、彼の病弱さを見、またいかに安楽に暮らしていたかを知って、何かを執り行って、教会に入ってくるものがあると、彼に遣っていた。そうしてスケーティスで25年間を過ごした後、彼は先見者として有名な者になった。
 さて、偉大なアイギュプトス人たちのひとりが彼のことを聞いて、彼に会いに来た、彼のうちに類まれな身体的な行住坐臥を見ることを期待したからである。そして中に入って彼に挨拶した。そうして祈りを捧げてから座った。ところが、アイギュプトス人が目にしたのは、贅沢な外衣をまとった彼と、寝台にその下の毛皮、小さな枕。さらには、サンダルを履いたきれいな足をしていた。これらを見るや、彼は気を悪くした、当地にあるのは、このような生活の仕方はなく、むしろ厳しい暮らしであったからである。老師は先見者でもあるので、彼が気を悪くしたのを悟り、自分の召使いに言う。「今日は師父のためにわたしたちの祝いをしなさい」。そこで折よく少しの野菜を得て、煮た。そしてほどよい頃に立ち上がって喰った。また、老師は自分の病弱のせいで少量の葡萄酒をもっていた。そこで彼らは飲んだ。さて、夕方になるや、詩編12編を唱え、眠りに就いた。が、夜間も同様であった。
 さて、アイギュプトス人は明け方に起きて、彼に言う。「わたしのために祈ってください」。そうして、益されることなく出て行った。すると、少し遠ざかったところで、老師は彼を益そうと思って、ひとを遣って彼を呼び戻した。そして彼がやって来ると、改めて喜びをもって彼を迎え入れて尋ねた、いわく。「お国はどこですか?」。そこで彼が言う。「アイギュプトス人です」。「で、何という町から来たのですか」。相手が謂った。「わたしは全然都会人ではありません」。すると言う。「あなたの村でのあなたの仕事は何でしたか?」。388.20すると言う。「番人でした」。すると言う。「どこで眠るのですか?」。相手が云った。「野で」。「寝具はあるのですか」と彼が謂う、「あなたの下に?」。すると言う。「いいえ、野中でわたしの下に寝具を敷くことができるでしょうか」。「では、どのようにして?」。そこで云った。「地面に」。これにさらに言う。「いったい、野ではどんな食べ物を摂るのですか? あるいはどんな葡萄酒を飲むのですか?」。再び答えた。「野に一片の食べ物や飲み物があるでしょうか」。「それでは、どうやって生きていたのですか」と彼が謂う。彼が言う。「乾パンを食べ、あれば少しの塩漬け肉と、水を」。そこで老師が答えて云った。「それは大変な苦労です。で、村には浴場もありますか、あなたがたが入浴するために」。相手は云った。「ありません。しかし、好きなときに、川で」。
 そこで、老師はこれらすべてにおいて彼を把握し、彼の以前の生活の苦患を知って、彼に益を得させるために、以前世間にいたころの自分の生活の様子を彼に話した、いわく。「卑しい身分の(tapeinovV)わたしはあなたが目にされるとおりですが、わたしは大都市ローマの出身で、皇帝の宮廷で高官でした」。すると、アイギュプトス人はこの話を初めて聞いたので、胸を打たれ、彼から言われていることを詳しく聞こうとした。そこで続けて彼に言う。「さて、都を後にし、この砂漠に来ました。まさに今あなたが目にしているわたしは、壮大な邸宅と多くの財産を持っていました。しかし、これらを蔑み、この小さな修屋に来ました。まさに今あなたが目にしている見ているわたしは、非常に高価な布団を敷いた黄金ずくめの寝台を持っていました。それらの代わりに、はこの臥所と皮衣をわたしに与えてくださったのです。さらに、わたしの上着は非常に価値あるものでした。しかしそれらの代わりに、こんな粗末な外衣を着ています。さらに、わたしの食卓には、多くの黄金が使われていました。しかし、その代わりには、このわずかな野菜と、この小さな杯一杯の葡萄酒とを与えられました。また、わたしに仕える多くの僕童がいました。しかし、見よ、それらの代わりには、この老人がわたしに仕えるようにしてくださっています。そして、わたしの足には、浴場の代わりにわずかな水を注ぎ、わたしの脆弱さのためにサンダルを履いています。さらに、音楽と竪琴の代わりに、わたしは12の詩編を言います。同様に夜も、わたしが犯していた諸々の罪の代わりに、ささやかなお勤めを平安のうちに行っています。ですからお願いです、師父よ、どうかわたしの弱さに気を悪くなさらないでください」。
 これを聞いてアイギュプトス人は、我に返って云った。「わたしに禍あれ、世間の多くの苦患から、休息にたどり着くとは、また、かつて持っていなかったものを、今や持つとは。ところがあなたは、非常な安楽さを離れ、苦患に至り、多くの栄光と富を離れ、卑下と物乞いへとやって来たのです」。で、彼は大いに益されて、立ち去ったが、彼〔老師〕の友となり、益を受けるために、ずっと彼のもとを訪ねた。というのは、分別に富み、聖霊の芳しい薫りに満ちた人だったからである。

389.14
2 同じ人が云った、— 美しい弟子を持った老師がいた。ところが、短気から、修道者の毛皮を持たせて、彼を追い出してしまった。しかし兄弟は外にじっと座っていた。そうして、老師が戸を開けると、彼が座っているのを見つけ、彼の前に跪いた、いわく。「おお、師父よ、あなたの寛容な謙遜が、わたしの短気に打ち勝った。さあ、中へお入りなさい。これからはあなたが老師で、わたしは新参者であり、弟子です」。〔主題別16-26〕


389."23t"
師父ルゥポスについて

389.24
1 兄弟が師父ルゥポスに尋ねた。「静寂とは何ですか、また、それの益とは何ですか?」。すると老師がこれに言う。「静寂とは、への畏れと覚知とをもって修屋に坐ることじゃ、遺恨と傲りを遠ざけてな。このような静寂はあらゆる徳の女親であり、修道者を敵の燃えさかる矢弾から守り、自分がそれら〔の矢〕によって傷付けられるままにはせぬ。しかり、兄弟よ、これを所有することじゃ、そなたの死という出口を記憶してな。いかなる刻に盗人が来るかをそなたは知らないのじゃから〔ルカ12:39〕。さらには、自分の魂について素面たれ」。〔主題別2-35前半〕

389."23t"
2 師父ルゥポスが云った、— 霊的師父への従順のうちに坐する者は、砂漠に一人で隠修する者よりも、大いなる報いを受ける」。この人がまた、師父たちの一人が話した、と言った、いわく — わたしは天に四つの段階を見た。第一の段階は、病気でありながらに感謝を捧げる人。第二の段階は、客人に尽くし、これを持ち堪えて奉仕する人。第三の段階は、砂漠を追い求め、人間を見ぬ人。第四段階は、師父への従順に坐し、主のためにこれに従う人である。ところで、従順によってこれに達した者は、金の首飾りと冠とを着け、他の人々よりも多くの栄光を受けた。
 そこでわたしは、—と彼が謂う、— わたしを案内する者に云った、「どうしてこの人は、より小さき者であるのに、他の人たちよりも大きな栄光を受けるのですか」。すると相手がわたしに云った。「客遇を追求する者は、自分の意志によって行動する。砂漠に生活する者も、自分の意志によって隠修した。だが、従順の心を持つこの者は、自らのすべての意志を捨てて、と自分の師父とに依り頼む。そそのため、彼は他の人たちよりも大きな栄光を受けたのである。それゆえ、おお、わが子たちよ、主のために行われた従順は美しい。聞くがよい、わが子たちよ。あなたたちは少なくとも、この徳の幾分かを持ったことになる。おお、従順はすべて信ずる者たちの救い! おお、従順はあらゆる徳の生みの女親! おお、従順は王国の発見! おお、従順は諸天を開き、人間どもを大地から引き上げる! おお、従順はすべての聖徒の乳母、彼女から受乳し、そなたを通して完全な者にした! おお、従順、天使たちの共住者!」。〔主題別14-29〕


392."13t"
師父ローマノスについて

392.14
 師父ローマノスが命終せんとしたとき、彼の弟子たちが彼の周りに集まった、彼にこう言いながら。「われわれはどのように暮らせばよいのでしょうか?」。すると老師が云った。「成るようにとわしが云ったことを為さなくとも怒るまいと、先に想念を決めないうちに、そなたたちの誰かに何かを為すよういまだかつて云ったおぼえがない。そういうふうにしてこそ、われらの全生涯を、平安とともに暮らせたのじゃ」。

2015.12.23.

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