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原始キリスト教世界

ベールとドラコーン





[解説]
内容 この部分は一つの題名で知られているが、実は同じような主題をもつ二つの物語である。

A ベル(1-22節)
 バビロンにベル(ベール・マルドゥク、あるいはメロダク)という神の像があって、バビロン人の信仰をあつめていた。王(テオドチオンではペルシア王キュロス)もこれをうやまい、礼拝していたが、側近のダニエルがベルを拝まないのをとがめ、ベルが毎日莫大な食物を消費している事実をみとめないのかと詰問する。ダニエルは、ベルが偶像であって飲食するはずがないことを断言し、これらの食物をだれが食べているかを証明すると王に約束する。王とダニエルはベルに食物を供え、神殿に封印して帰る。翌朝早く神殿に行ったふたりは、供物がすべてなくなっているのを見出す。王は感嘆の声をあげるが、ダニエルは夜のうちに祭司とその家族が秘密の通 路から入って供物を食べてしまったことを証明する。ダニエルは前日、床の上にひそかに灰をまいて、祭司たちの足あとが残るようにしかけておいたのである。王は怒って祭司たちを処刑し、ダニエルにベルの神殿を破壊させる。

B 龍(23-42節)
 バビロニア人は生きた龍(大蛇?)を礼拝していた。……ダニエルは、王の許可を得て、この龍を殺すが、いきどおった民衆は王に迫ってダニエルをライオンの洞穴に投げこませる。ダニエルは七頭のライオンとともに七日間すごす。
 一方、ユダヤでは預言者ハバククが刈入れに働く人びとのために食事をととのえていたところに天使があらわれ、ハバククの髪をとらえてバビロンにはこび、ダニエルに食事を与える。七日目に、ダニエルの死をいたむためにやって来た王はダニエルが無事でいたことを発見し、ダニエルの神をほめたたえるとともに、彼をほろぼそうと仕組んだ人びとを洞穴に投げこんでライオンに食べさせる。

起源と目的
 これらの二つの物語は、正典ダニエル書の三章と六章の変型であるか、少なくともそれらをよく知っている人によって書かれたものと考えられる。最近の学者たちの大部分は、原語をへブル語(少数意見ではアラム語)と想定し、紀元前2世紀末から1世紀初めごろ、パレスチナのユダヤ人が背教者をいましめ、偶像礼拝の愚を嘲笑して神の独一性を主張するために作った物語と考えている。……
          (『聖書外典偽典2旧約外典Ⅱ』新見宏による概説)

[底本]
TLG 0527 0527 058
Bel et Draco (translatio Graeca)
Apocryph., Narr. Fict., Relig.

A. Rahlfs, Septuaginta, vol. 2, 9th edn., Stuttgart: Wûrttemberg Bible Society, 1935 (repr. 1971): 936-941.


ベールとドラコーン

レウィ族出身イエースゥスの息子である預言者アムバクゥムより

(2) 神官であるある人がいた、その名はアバルの息子ダニエール、バビュローンの王の側近であった。(3) しかしバビュローン人たちが崇拝していたのは、ベールという偶像であった。このために彼らが消費していたのは、毎日、極上の小麦粉12アルタバ、羊40頭、オリーブ油6メートレーテースであった。(4) 王もこれを崇拝し、毎日行って、これに跪拝していた。ダニエールはといえば、主を跪拝していた。(5) そこで王がダニエールに云った、「何ゆえベールを跪拝しないのか?」。そこでダニエールが王に云った、「何びとをもわたしは跪拝しません、天と地を創造したまい、あらゆる肉の統治権を有する主なる神であらざるかぎりは」。そこで王が彼に云った、「すると、これは神ではないのか? 毎日これのためにどれほど消費されているか見るのではないか?」。(7) すると相手にダニエールが云った、「滅相もありません。何びとをしても御身を胡麻化させしむるなかれ」。こいつは、外側は粘土で、内側は銅なんですから。神々の主なる神にかけて御身に誓いましょう、いまだかつて何もこいつは喰ったことがありません」。(8) そこで王は激怒して、供物の管理人たちを呼びつけ、彼らに云った、「ベールへの捧げ物を喰ったものを指摘せよ。さもなければ、おまえたちをして死刑に処せられしめよ、それはこれによって食されたのでないと謂ったダニエールでないならば」。すると彼らが云った、「それを食べ尽くしたのはベールご自身です」。(9) しかしダニエールは王に向かって云った、「なるようにならしめよ。これを食べ尽くしたのがベールでないと指摘できなければ、わたしは、わたしの係属全員も死刑になりましょう」。ベールには、女子どもを除いて70人の神官がいた。(10) そこで彼らは王を偶像のところに案内した。(11) そうして食べ物を王とダニエールの前に置き、葡萄酒も和えられて運びこまれ、ベールに供えられた。そこでダニエールが云った、「これらがたしかに在ることを御身ご自身がご覧です、王よ。そこで御身は、神殿が閉められるや、その鍵に封印なさいませ」。(13) この言葉は王の気に入った。(14) そこでダニエールは、その〔王の〕従者たち全員が神殿から出て行くよう命じた、彼〔王〕以外のだれひとり知らないようにして、神殿全体に灰を撒くためである。そうして初めて、王の指輪と、何人かの高貴な神官たちの指輪で神殿を封印するよう命じた。そしてそのとおりになった。(15-17) 翌日になって、〔人々は〕その場にやって来た。他方、ベールの神官たちは入って、ベールに供えられたものをみな喰い尽くし、葡萄酒を飲み干した。そこでダニエールが云った、「わたしたちの封印がそのままかどうか調べよ、聖なる人たちよ。また御身も、王よ、御身にとって何か不協和なことがないかお調べください」。そうして封印がそのままなのを彼らは見た、そこで封印を解いた。(18) そして開いて、供え物がことごとく消費され尽くし、机が空なのを見出した。すると王は喜び、ダニエールに向かって云った、「ベールは偉大なり、彼に奸計なし」。(19) しかしダニエールはひどく笑って王に云った、「さあ、神官たちの奸計をごらんください」。さらにダニエールは云った、「王よ、これらの足跡は誰のものですか?」。(20) そこで王が云った、「男どもと女どもと子どもらのものじゃな」。(21) そうして、神官たちが住んでいる家に押し入り、ベールの食べ物と葡萄酒を発見した。かくてダニエールは秘密の扉を王に証明した、これを通って神官たちは忍びこみ、ベールへの進物を浪費していたのであった。(22) そして王は彼らをベーリオンから連行し、これをダニエールに引き渡した。またそれへの出費をもダニエールに与え、ベールの方は打ち壊したのであった。

(23)  また、同じところにドラコーンがいて、これをバビュローニア人たちは崇拝していた。(24) そこで王はダニエールに云った、「これも銅だというのではあるまいな。見よ、生きていて、食し、飲む。これを跪拝せよ」。(25) するとダニエールが云った、「王よ、わたしに権限をお与えください、そうすれば、鉄器も棒も使わずにこのドラコーンを亡きものにしてみせましょう」。(26) そこで王は彼に許可し、彼に云った、「そなたに許す」。(27) そこでダニエールは、瀝青30ムナと脂肪と毛髪を取っていっしょに煮つめ、堅菓子をつくって、ドラコーンの口に投げこんだ、そして喰うと、破裂した。そこでこれを王に示した、曰く、「これこそ御身の崇拝したものではありませんか、王よ」。(28) するとその地方出身の者たちがみなダニエールのところに押しかけて云った、「王はイウゥダイオス人になってしまった。ベールを打ち毀し、ドラコーンを殺した」。(30) そこで王は、その地の群衆が自分のところに押しかけるのを見て、自分の側近に命じ、「ダニエールを亡き者にする」と云った。(31-32) 王に対する策謀者たちが引き渡される7頭のライオンが飼われている穴蔵があったのだが、これには死刑にされた者たちの身体2つが毎日供されていた。そこで群衆はダニエールをその穴蔵に投げこんだ、貪り食われ、墓さえ得られないためである。しかしダニエールは穴蔵に6日間いた。(33) そして第6日目になった、またアムバクゥム〔ハバクク〕がいて、煮鉢の中に入れられたちぎられたパンと、稀釈された葡萄酒の壺を持って、畑の収穫人たちのところに出かけた。(34) すると主の天使がアムバクゥムに話しかけた、曰く、「主なる神がそなたに以下のことを言っておられる、《おまえが持っているパンを、バビュローンのライオンたちの穴蔵にいるダニエールに持って行ってやれ》」。(35) そこでアムバクゥムが云った、「主なる神よ、わたしはバビュローンを見たことがありませんし、穴蔵がどこにあるの知りません」。(36) すると主の天使が当のアムバクゥムを、その頭の毛のところを掴んで、これをバビュローンにある穴蔵の上に置いた。(37) そこでアムバクゥムがダニエールに向かって云った、「立ってこのパンを喰え、主なる神がそなたに遣わされたのだ」。(38) そこでダニエールが云った、「主なる神がわたしを憶えてくださっていた、彼を愛する者たちをお見捨てにはならない方が」。(39) そしてダニエールは喰った。一方主の天使は、同じ日のうちに、アムバクゥムを取ったところに彼を降ろした。主なる神は、ダニエールを憶えられた。(40) ところで王は出かけてきた、その後ダニエールを歎き、穴蔵を覗きこんで、彼が坐っているのを目にした。(41) そこで大声をあげて王は云った、「主なる神は偉大なるかな、彼をおいてほかに〔神は〕いらっしゃいません」。(42) そうして王はダニエールを穴蔵から連れ出した。そして彼の破滅の原因をなした者たちを、ダニエールの面前で穴倉の中に投げこむと、たちまち貪り食い尽くされてしまった。

2018.07.25. 訳了

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