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back.gifアダムとエバの生涯


原始キリスト教世界

ギリシア語のエノクの黙示録





[解説]
 エノク書は、旧約偽典のうち最大のもの(108章)で、もとはアラム語ないしヘブル語で書かれ、少なくとも前1世紀には、アラム語「エノク五書」が存在したといわれる。その内容は次のように分かれていたといわれる。
 (1)天文の書(72-84) ペルシア時代、おそくともヘレニズム時代初期成立。
 (2)寝ずの番人の書(1-36) 前3世紀成立。
 (3)巨人の書     前2世紀末成立。
 〔譬話の書(37-71)〕 前270年ごろ成立。
 (4)夢幻の書(83-90) 前164年成立。
 (5)エノク書簡(91-108) 前100年ごろ成立。

 この全体を知りうるのは、エティオピア語訳によってであるが(『聖書外典偽典』第4巻、旧約疑典IIに、村岡崇光訳で収録されている)、訳者村岡崇光のまとめでその内容を見ると、 —
 1.1-5.9 エノクは幻のなかで神を見、またみ使いたちが悪人にそなえられてあるところの未来の審判の日と選民・義人にそなえられてあるところの平安と至福について彼に教示したところを語る。
 6.1-36.4 天使に関する教説。このうち6-11はみ使いたちの堕落、巨人の誕生を述べ、またノアによってみ使いたちの懲罰が宣告される。12-16ではエノクが同じ宣告をくり返す。17-19、20-36は天上、地上、地下の世界を幻のうちに巡回したエノクの見聞記である。その途中、彼は悪しきみ使いたちが火あぶりになる場所、義人たちと悪人たちの霊魂がおのおの行きつくところ、エデンの園、知恵の木、生命の木のあるところなどをたずねる。
 37.1-71.17 メシアに関する教説。そのうち、37は序章で、38-44は義人たちの居所とみ使いたちの働きについて述べられ、またエノクによる自然観察の内容も報告される。つづいて45-57で、エノクは選ばれた者、すなわちメシア、その性格、審判者としてのその役割についての啓示を受ける。58-69は義人および選民たちにそなえられてある至福について、稲妻と雷鳴の秘密について、またメシアによって行われるさばきについて語る。70-71は昇天し、人の子として任ぜられたエノクについて述べる。
 72.1-82.20 天文学および暦法に関する教説。これは天使ウリエルによって啓示されたものである。
 83.1-90.42 歴史的考察。83-84で、ノアは堕落した地上に大洪水が起こるであろうことを、幻を通して知り、人類が全滅しないように祈る。つづいて85-90では、最初のアダムからメシア時代までのイスラエル全史が牛、羊、牧者、その他の悪しき動物になぞらえて物語られる。
 91.1-105.2 子孫に残す訓戒。91.1-91.11、91.18-91.19でエノクは義の道を歩むように子孫にいさめる。93.1-91.14、91.12-91.17では審判と救いの時代に至る世界全史が10週に分けて述べられる。92、94-95は罪人に対する罰と義人に対する報いを述べ、義人には忍耐をすすめる。
 106.1-108.15 エピローグ。106-107はノアの奇蹟的出生について語り、最後の108でエノクは悪人の霊魂にはゲヘナの火が、義人には祝福が待っていることを語って敬度な者にいましばらくの忍耐をうたがす。
 (p.161-162)。
 
 このエティオピア語訳とギリシア語訳とを比べると、ギリシア語訳は、第33章-第89章の前半まで、第90章-96章を欠いている。ギリシア語訳の第90章以下とエティオピア語訳との対応は、次のようになっている。 —
 ギリシア語訳:第90章-->エティオピア語訳:第97章
        第91章-->         第98章
        第92章-->         第99章
        第93章-->         第100章
        第94章-->         第101章
        第95章-->         第102章
        第96章-->         第103章
        第97章-->         第104章
        第106章-->        第106章
        第107章-->        第107章
        欠 -->          第108章

エノク書の評価について、『キリスト教大事典』によれば、 —
 初期の教会においてはよく読まれていた(ユダ14_15)と思われ、この書に現れる<人の子>の概念は、新約聖書に大きな影響を与えた。その他<義なる者>、<選ばれた者>などの語も、メシア称号として用いられるのは本書が最初である。教父たちは、この書をかなり評価して、引用しているという。
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