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原始キリスト教世界

アダムとエバの生涯




[解説]

 創世記に描かれているアダムとエバの堕罪の物語はきわめて簡潔なものであり、古来敷衍の対象とされることが多かったようである。ヨベル書(三、四章)の他にも、さまざまな「アダム文書」が存在していた。われわれがここで取りあげようとしている文書も、このような「アダム文書群」に属するものであり、創世記に対するハッガダ的ミドラシュの一種である。

標題
 本書はギリシア語伝承とラテン語伝承によって伝えられており、前者は「モーセの黙示録」と、後者は「アダムとエバの生涯」と呼ばれている。前者の標題は写本の前書き(訳文参照)によるものであるが、内容に相応しておらず、何らかの誤解(たとえば「ヨベル書」との混同)によるものと思われるが、ティッシェソドルフ以来このように呼びならわされている。

伝承
 ギリシア語、ラテン語両伝承の背後には共通のセム語原型が予想される。これはヘブル語による著作であったと思われる。しかしギリシア語、ラテン語両伝承に共通な部分は、おのおのの約半分ぐらいにすぎない。マイヤーによれば、「黙示」はヘブル語原型のギリシア語訳であり、これから後四世紀以降間もないころにラテン語訳つまり「生涯」が作られたと考えられるが、「黙示」は中世を通じてさまざまな破損、潤色によって変容せられており、現在伝えられている姿においては、全体として「生涯」のほうがヘブル語原型に忠実である。

著作年代
 著作年代は、この文書をユダヤ教文書と見るか、キリスト教文書と見るかによって左右される。いずれにせよユダヤ教に起源する伝承が核になっていることは間違いない。キリスト教的加筆はかなり明瞭に他の部分から区別できるので、全体としてユダヤ教文書と考えてよいであろう。したがってここでは「黙示」と「生涯」の背後に想定される「アダム書」とでも称すべきヘブル語原型の著作年代を、両伝承を通して推定することになる。キリスト教との論争は認められないゆえに、キリスト教の成立以前(ないしは両者の対立抗争以前)と考えられる。「生涯」二九章bの「神の家は……以前よりも大いなるものとして高められるであろう」を、ウェルズはメシア時代の描写ととるが、その直後に「そして、再度、邪悪さが公平をしのぐであろう」と記されているゆえに、プセットやトーレイ(=二三頁)の考えるように、ヘロデ神殿への言及としたほうがよいであろう。とすれば著作年代は前一世紀の終わりごろから後一世紀前半ということになる。

(土岐健治の解説による。『聖書外典偽典 別巻』補遺I、1979.11.10.、教文館)




[底本]
TLG 1747
VITA ADAM ET EVAE
vel Apocalypsis Mosis
(1 B.C./A.D. 1)
1 1
1747 001
Vita Adam et Evae (sub titulo Apocalypsis Mosis), ed. C.
Tischendorf, Apocalypses apocryphae. Leipzig: Mendelssohn, 1866: 1-23.
(Cod: 4,613: Apocalyp., Apocryph., Hagiogr.)





アダムとエバの生涯(モーセの黙示録の標題のもとに)』

"t"
モーセの黙示録

"pro"

 最初に拵えられたものらのうち、アダムとエウアの物語(diegesis)と行状(politeia)が、神からその仕え人なるモーウセーに啓示されたのは、契約の律法の石版を、主の御手から受け取ったときであるが、これは天使長ミカエールに教えられたものである。

1
 これは、アダムとエウアの物語(diegesis)。彼らが天国から出て来たあと、アダムはその妻エウアを連れ、東方への旅にのぼった。そしてそこに18年と2ヶ月間とどまり、そしてエウアは胎に〔子を〕みごもって、2人の息子を産んだ、カインと呼ばれるディアポートスとアベルと呼ばれるアミラベスである。

2
 そしてその後、アダムとエウアは互いにいっしょになった。さて、彼らが眠っているとき、エウアが自分の主であるアダムに云った。「わが主人よ、今夜、わたしは夢で、わたしの息子の、アベルと添え名されるアミラベスの血が、その兄弟カインの口に流れこむのを見ました、それを〔カインは〕無慈悲に飲んだのです。このとき、〔アベルは〕自分から取るのを自分のために少し容赦してくれるよう相手〔カイン〕に頼みましたが、相手は彼のいうことを聞かず、それをすっかり飲んでしまいました。ところが、〔血は〕彼の腹にとどまることなく、その口から出て行ってしまいました」。そこでアダムはエウアに云った。「起って、行って見よう、彼らに何が起こったか、もしかして敵(echthros)が彼らに何か戦いを挑んだのではなかろうか」。

3
 そこで2人が行ってみると、アベルがその兄弟カインの手で殺されているのを見つけた。すると神が天使長ミカエールに言う。「アダムにこう云え、『そなたの知っている奥義(mysterion)を、そなたの息子カインに告げてはならぬ、彼は怒りの息子なのだから。しかし、悲しむことはない。彼に代えて、別の息子をそなたに与えようほどに、この子は、そなたがこれ〔新しい息子〕に何を為すべきかすべてをそなたに明らかにしてくれよう。だから、そなたはこれに何も云わなくてよい』」。神はその天使にそう云ったので、アダムはその言葉(rhema)をおのれの心の中にしまいこみ、彼とともにウエアも〔そうした〕、自分たちの息子アベルのことに悲しみをいだきつつも。

4
 さて、その後、アダムはその妻を知り、そして胎にみごもってセートを産んだ、そしてアダムはエウアに言う。「見よ、アベルをカインが殺したが、その代わりにわれわれは息子をもうけた。神に栄光と供犠を捧げよう」。

5
 さらに、アダムは息子30人と娘30人をもうけた。やがて病にかかり、大声をあげて云った。「わたしのところに、わたしの息子たち全員に来させなさい、わたしが死ぬ前に、彼らを見られるように」。そこで全員がやってきた。というのは、大地は3つの部分に分けられて移住されていたからである。かくして、神に祈ることを思いつく家の扉の前に全員がやってきた。そこで彼の息子セートが云った。「父アダムよ、あなたの病気は何ですか?」。すると〔アダムが〕言う。「わが子らよ、多くの苦しみがわたしを捕らえているのだ」。そこで彼らが言う。「苦しみとは、病気とは何ですか?」。

6
 またセートが答えて彼に言う。「父よ、〔木の実を〕とって食べた楽園のことを思い出し、そ〔の木の実〕を欣求して悲しんでおられるのではありませんか。もしもそうなら、わたしに告げてください、そうしたら、わたしが行って、あなたのために楽園から木の実をとって来ましょう。すなわち、わたしの頭の上に糞を載せ、泣いて祈りましょう、そうすれば、主はわたしに耳を傾け、その天使をつかわしてくださるでしょう、そうしたらあなたのために持ってきましょう、苦しみがあなたから去るように」。彼にアダムが言う。「そうではない、わが息子セートよ、わたしは病と苦しみを持っているのだ」。彼にセートが言う。「いったい、あなたはどうなってしまわれたのですか?」。

7
 すると彼にアダムが云った。「神がわたしたち、つまり、わたしと、おまえたちの母親と — まさしくこの女のせいでわたしは死ぬ身となったのだが — をお作りになったとき、楽園にある植物をすべてわたしたちにお与えになったのだが、一つの植物については、これから取って食べてはならぬとお言いつけになった、まさしくこの〔植物の〕せいでわたしは死ぬ身となったのだ。つまり、おまえたちの母親を守護していた天使たちが、昇っていって、主に礼拝する刻限が近づいた。このとき、敵が彼女に〔木の実を〕与え、〔彼女は〕木から取って食べたのだ、〔敵は〕彼女のそばにわたしがいないこと、聖なる天使たちもいないことを知っていたのだ。その後で、わたしにも食べるよう〔彼女は〕与えた。

8
 こうして、二人がともに食べたとき、神はわたしたちにお怒りになった。そして、御主人〔=神〕は楽園にやってこられて、その王座を設置し、恐ろしい声でお呼になった、こう言って。『アダムよ、どこにいるか? いったい、なにゆえにわしの面前から隠れようとするのか? 家がこれを建てた者から隠れることなどできまいに』。さらに言われる。『わしとの契約を破棄したからには、そなたの身体に70の打撃を加えておいた。第1の打撃の苦しみは、両眼に対する暴行。第2の打撃は聴覚の苦しみ。そういうふうに次々と、すべての打撃がおまえにつきしたがうであろう』」。

9
 こういったことを、アダムはその息子たちに言うと、大きく溜息をつき、そして云った。「どうすればいいのか? わしは大きな悲しみにとらわれている」。するとエウアも泣き叫んで言った。「わが主アダム、起ってください、あなたの病の半分をわたしに与えてください、そうしたらそれを担いましょう、わたしのせいであなたはこんな目に遇われ、わたしのせいで痛みと苦しみに陥られたのですから」。するとアダムがエウアに云った。「起って、わたしたちの息子セートといっしょに楽園の近くに行け、そうしておまえたちの頭に土をかけ、泣き叫んで神に懇願せよ、わたしに同情してくださるよう、そして、その天使を楽園につかわして、樹木から油の流れる、その樹から〔採れる油を〕わたしに与えてくださるようにと、そしてわたしのところにもってきてくれ、そしたら油を塗り、休息できよう、そうしたら、かつてわたしたちが欺かれたその次第をおまえに明らかにしよう」。

10
 そこでセートとエウアは楽園の一隅に出かけていった。そして彼らが歩いているとき、エウアは自分の息子と、これと戦う獣とを眼にした。そこでエウアは泣き叫んで言った。「嘆かわしいかな、嘆かわしいかな、甦りの日に至れば、ありとあらゆる罪人たちがわたしを呪うことでしょう、エウアが神のお言いつけを守らなかったと言って」。そこでエウアは獣に向かって怒鳴って言った。「おお、汝、邪悪なる獣よ、神の似像に戦いを挑むことを恐れないのですか? おまえの口はどうやって開いたのですか? おまえの歯はどのように強くなったのですか? かつては神の似像に服従していた、おまえのその服従をどのようにして覚えていないのですか?」。

11
 このとき獣が怒鳴って言った。「おお、エウアよ、おまえの強欲は、そしておまえの慟哭も、わしたちには関係ない、おまえの問題だ、獣類に対する支配はおまえから生じたのだから。おまえの口はどうやって開いたのだ、これから取って喰うてはならぬと神がおまえに言いつけたその木から喰ったとき。そのせいでわしらの自然も変わってしまった。だから今は、わしがおまえを反駁し始めたら、おまえは堪えることはできまい」。

12
 するとセートが獣に向かって言う。「おまえの口を閉ざして黙れ、そうして、裁きの日まで、神の似像から離れてあれ」。このとき獣がセートに言う。「見よ、離れるぞ、セートよ、神の似像から」。このとき獣は逃げだし、傷ついた相手を置き去りにして、進んでおのれの幕屋に入った。

13
 そこでセートは自分の母親エウアといっしょに楽園の近くに進んでいった。そしてそこにおいて、神に懇願して泣き叫んだ、その天使をつかわして、憐れみの油を自分たちに与えてくださるようにと。そこで神は彼らのもとに天使長ミカエールをつかわして、彼らに次のような言葉を云った。「セートよ、神の人よ、そなたの父親アダムに油塗らんと、油の流れる木について、かく嘆願のためにいたずらに祈るなかれ。なぜにとならば、そなたの望みのかなえられるは、今ではなくして、最後の時なのだから。そのときは、アダムから、かの大いなる日までのすべての肉体 — すなわち聖なる民となるであろう人々が、みな甦るであろう。そのときは、楽園のありとあらゆる喜び(euphrosyne)が彼らに与えられ、神が彼らの中央にいたもうであろう。そして、彼の御前で過ちを犯す者はいないであろう、彼らから邪悪なる心が取り除かれ、善を解する、神にのみ奉仕するを解する心が彼らに与えられるであろうから。そなたはそなたの父親のもとに引き返せ、ちょうど3日にして、彼の定命は尽きるであろうから。しかして彼の魂が出て行くとき、その〔魂の〕昇天の恐るべきさまを眼にするであろう」。

14
 さて、こう言うと、天使は彼らから立ち去った。セートとエウアはアダムが横たわっている幕屋にもどった。するとアダムがエウアに言う。「おまえはわたしたちの間に何ということをしでかしたのか、わたしたちに大いなる怒りをもたらすとは、その怒りは、わたしたちの種族全体を支配する死にほかならないのだから」。さらに彼は彼女に向かって言う。「わたしたちの子どもたち、わたしたちの子どもたちの子どもたち、そのすべてを呼べ、そして、わたしたちの違背の次第を彼らに告げよ」。

15
 このときエウアは彼らに向かって言う。「お聞きなさい、わたしの子どもたちと、わたしの子どもたちの子どもたちのみんな、わたしたちの敵がわたしたちをいかにして欺いたか、わたしがあなたがたに告げましょう。わたしたちは楽園を守ることになっていて、めいめいが神から割り当てられた自分の領分を守っていました。つまり、わたしはわたしの領地である南と西を守っていました。すると悪魔(diabolos)がアダムの領地の中に踏み入ったのです、そこは雄の獣たちのいるところでした。神はわたしたちに獣を分け与え、雄の獣はすべておまえたちの父親に与え、雌の動物はすべてわたしにお与えになって、わたしたちはめいめい自分の分を遵守していたからです。

16
 さて、悪魔はヘビに語ってこう言いました。『起って、おれのところに来い、そうしたら、おまえに役に立つことば(rhema)をおまえに云ってやろう』。そのときヘビは相手のところに行きました、するとこれに悪魔が言う。『おまえがあらゆる獣にまさって賢いということをおれは聞いている、だからおれはおまえをよく見るためにやってきた。そして、おまえがあらゆる獣よりも偉大であるのを見たし、彼らもおまえと交わっている。それだのに、おまえはより劣った者を礼拝している。なにゆえおまえはアダムとその妻の毒麦からとって食い、楽園の木の実から取って食わないのか? 起って、こっちに来い、やつが自分の妻のせいで楽園から追放されるようにしてやろう、われわれがやつのせいで追放されたと同じに』。これにヘビが言う。『主がわたしにお怒りになるにちがいないと恐ろしい』。これに悪魔が言う。『恐れるな。おれの道具になりさえすればいい、そうしたら、おれがおまえの口を通して、やつを欺くことのできることば(rhema)を語ってやる』。

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17
 そしてすぐに楽園の壁にぶらさがりました、神の天使たちが礼拝のために昇ってゆく刻限にです。このとき、サタナス〔=サタン〕は天使の姿をとって、天使たちのように神を讃美しました。そこでわたしは壁の内側から覗き見して、彼が天使とそっくりなのを眼にしました。すると〔悪魔が〕わたしに言う。『あんたがウエアか?』。そこでわたしは彼に云いました。『わたしがそうです』。するとわたしに言う。『楽園で何をしているのか?』。そこで彼に云いました。『神がわたしたちを置いて、守り、これから取って食べるようになさったのです』。悪魔がヘビの口を通してわたしに答えました。『あんたらは幸せなことだ、けれども、すべての植物から食べているわけじゃない』。わたしも彼に言う。『そうです、わたしたちはどの植物から食べてもいいのですが、ただし、楽園の中央にあるあの1本だけは別です、これについては神がわたしたちに、これから取って食べてはいけないとお言いつけになりましたから、死ぬ身になるからと』。

18
 このときヘビがわたしに言う。『神かけて、あんたらのことを悲しくおもうよ、あんたらが家畜のようだってことを。あんたらがこのことに無知であってもらいたくはないもんだ、いや、起ってこちらへ、おれのいうことを聞いて、喰うがいい、そして、木の栄光を思い知るがいい』。そこでわたしは彼に云いました。『神が、わたしたちに云ったとおり、お怒りになるにちがいないと恐ろしい』。するとわたしに言う。『恐れるな。喰うと同時に、あんたの眼が開かれ、何が善で何が邪悪かを知る点で、神々のごとくになるだろうて。それがわかっているからこそ、あんたらが自分と等しくなるってことをあんたらに対して物惜しみして、云ったのだ、「これから取って喰ってはならない」と。しかし、あの植物を心してみろ、あれのまわりに大いなる栄光を眼にすることができよう』。そこでわたしはその植物を心してみて、なるほどそのまわりに大いなる栄光を見ました。そこで彼に云いました、よく見ると眼に美しい、けれども、木の実を取るのは恐ろしいと。するとわたしに言う。『こちらへ、あんたに与えてやる、おれについてこい』。

19
 そこで彼のためにわたしは〔門を〕開けました、すると〔彼は〕楽園の中に入りこんできて、わたしの前をどんどん進みました。そして少し歩いてから、振り返って、わたしに言う。『気が変わった、食い物をあんたに与えるのはやめた』。しかしそう云ったのは、結局は誘惑してわたしを破滅させるためだったのです。さらにわたしに言う。『おれに誓ってくれ、あんたの亭主にも与えると』。そこでわたしが彼に云いました、あなたに立てる誓いの立て方をわたしは知りません、ただ、わたしの知っていることをあなたに言いましょう。主人の王座と、ケルビムと、生命の木にかけて、わたしの夫にも喰うよう与えます、と。すると、わたしから誓いを手に入れるや、再び進み、その木の上に登りました。そして、喰うようわたしに与えたその木の実に、自分の悪の毒をふりかけました。それが彼の欲望の毒だったのです。なぜなら、欲望こそはあらゆる罪の頭なのですから。そこでわたしは枝を地面にしならせて、木の実を取って喰いました。

20
 するとその瞬間に、わたしの眼は開かれ、わたしが身にまとっていた正義(dikaiosyne)を脱いだ裸だということを悟りました。そこで泣き叫んで云いました。『これは、わたしに何てことをあなたはしたの、わたしが身にまとっていたわたしの栄光から遠ざけられるとは』。また誓いについてもわたしは声をあげて泣きました。けれど、あいつは植物から下りてきて、姿を消しました。そこでわたしは、わたしの領分にある木の葉を探して、わたしの恥部を隠そうとしましたが、楽園にの植物には見つかりませんでした、わたしが喰うと同時に、わたしの領分の植物はみな葉を落としたからです、無花果の樹1本を除いて。そこでそれから葉を取って、自分のために腰巻きをつくりましたが、それはわたしが喰べた当の植物から取ったものです。

21
 そして大きな声で叫んで言いました。『アダム、アダム、どこにいらっしゃるの? 起って、わたしのところにいらして、そうしたらあなたに大いなる奥義を与えましょう』。そしてあなたがたの父上がやってきたとき、彼に律法にそむく言葉を云いました、それは大いなる栄光からわたしたちを引きずり降ろすものだったのです。すなわち、彼がやってくると同時に、わたしはわたしの口を開け、悪魔が語りかけ、彼〔アダム〕にわたしは忠告し始めたのです、こう言って。『こちらへ、わたしの主アダム、わたしのいうことを聞き、この樹木の実をお喰べなさい、これを喰べてはならぬと神がわたしたちに云った実ですが、そうしたらあなたは神のごとくなるでしょう』。するとあなたがたの父上は答えて云いました。『神がわたしにお怒りになるにちがいないと恐ろしい』。そこでわたしが彼に云いました。『恐れてはなりません。喰べると同時に、美と邪悪を知る者となられるでしょう』。こうして、そのときすぐに彼を説き伏せて、彼は喰い、その眼が開かれ、彼もまた自分が裸なのを知りました。そしてわたしに言う。『おお、邪悪な女よ、わたしたちの間に何をしでかしたのか? 神の栄光からわたしを遠ざけた』。

22
 まさにこのとき、わたしたちは天使長ミカエールがその喇叭を吹くのを聞きました、〔ミカエールは〕天使たちを呼んでこう言う。『以下のことは主が言われることである。「おまえたちはわしとともに楽園に行き、わしがアダムを裁くことば(rhema)を聞け」』。そこで、天使長が喇叭を吹くのを聞くやいなや、わたしたちは云いかわしました。『見よ、神が楽園にやってこられる、わたしたちを裁くために』。そこでわたしたちは恐れ、身を隠しました。すると神が楽園に登ってこられました、ケルウビムの戦車に乗って、天使たちも彼を讃美しながら〔登ってきました〕。神が楽園に入ってこられたとき、アダムの領分の植物もわたしの領分の植物も、みな花咲き出で、すっくと立ちました、そして神の王座が、生命の木のあるところに設けられました。

23
 そうして神はアダムを呼んで言われた。『アダムよ、どこに隠れているのか、わしがそなたを見つけられぬとでもおもっているのか? 家がこれを建てた者から隠されることはあるまい?』。このときおまえたちの父上は答えて云いました。『主よ、わたしたちが隠れたのは、あなたに見つかることはあるまいと思ったからではありません、わたしが裸であることが恐ろしく、主人よ、あなたの力を畏れたのです』。神は彼に言われる。『そなたが裸だということを、誰がそなたに指摘したのか、言いつけを遵守するようそなたに申し渡したわしの言いつけを、そなたが放棄したのでないとしたら』。このときアダムは、わたしが彼に語ったことば(rhema)を思い出しました、わたしが彼を欺こうとしたときに、神からあなたを危険のないようにしてあげましょうと〔わたしが話しかけたことを〕。そこでわたしの方を向くとわたしに云いました。『これは何ということをおまえはしたのか?』。そこでわたしも蛇のことば(rhema)を思い出して、蛇がわたしを欺いたのですと云いました。

24
 神がアダムに言われる。『わしの言いつけに聞き従わず、そなたの妻のいうことを聞いたからには、そなたの所業によって大地は呪われたものとなった。すなわち、これ〔大地〕は耕してもその力(ischys)を与えず、おまえにイバラとアザミをはやし、そなたの額に汗してそなたのパンを喰うがよい。また、さまざまな辛労を背負いこむであろう。〔つまり〕辛労しても休息なく、辛酸に困憊し、甘味を味わうことなく、炎熱に困憊し、寒冷に呻吟することになろう。そしてさんざんに骨折っても富むことなく、太っても最後に至らない、そしてそなたが支配していた獣たちはおまえに逆らって騒乱を起こすことであろう、わしの言いつけを守らなかったために』。

25
 今度はわたしの方に向きなおって主がわたしに言われる。『そなたはヘビのいうことに耳を傾け、わしの言いつけに聞き従わなかったからには、堪えがたい徒労と苦労を背負いこむことになろう。〔つまり〕激しく身もだえしながら子を産み、〔陣痛は〕1刻のあいだ続き、そなたは命を失うであろう、そなたの大いなる責め苦(ananke)と諸々の苦悩によって。そのとき、そなたは告白して云うであろう。「主よ、主よ、わたしをお救いください、もう決して肉の罪に向かうことはいたしません」。だから、そなたのこの言葉を〔引き出す〕ためにこそ、わしはそなたを裁こう、敵がそなたの中に置いた敵意のゆえに。そして、そなたの夫に再び立ち返り、彼がそなたの主となるであろう』。

26
 また、わたしにこう云われた後、大いなる怒りをもってヘビに云って、これに言われました。『こんなことをして、心のゆるんだ者たちを惑わせるまでに、恩知らずな道具となったからには、ありとあらゆる家畜たちに抜きん出ておまえは呪われたものとなろう。〔すなわち〕おまえは口で食べるその口を奪われ、おまえの生ある日々のすべて、塵を喰うことになろう。胸と腹で進み、おまえの手も足も欠くことになろう。おまえに耳は許されず、まして翼も、おまえがおまえの悪だくみによって誘惑し、彼らが楽園から追放されるようにするのに使ったすべての〔器官の〕どれひとつの部分も〔許されることはない〕。そうして、おまえとの間に、彼の子孫との間に、敵意を置こう。〔すなわち〕裁きの日に至るまで、彼はおまえの頭を狙い、おまえは彼のかかとをねらうことになろう』。

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27
 まさにこう云うと、わたしたちを楽園から追放するよう、ご自分の天使たちに命じられた。かくしてわたしたちは追いたてられ、嘆き悲しんでいるとき、おまえたちの父上アダムは天使たちに頼んで言う。『神にお頼みできるよう、少しの間、わたしを許してください、同情してください、わたしを憐れんでください、罪を犯したのはわたしひとりなのですから』。すると彼らは彼を追いたてるのをやめました。そこでアダムは慟哭しながら声をあげて言いました。『主よ、わたしのしたことをどうかご容赦ください』。そのとき主はご自身の天使たちに言われる。『アダムを楽園から追いたてるのをどうしてやめるのか? 罪はわしにあるのではあるまい、それとも、わしの裁きが悪いとでも?』。そのとき天使たちは地面に身を投げ出し、主を礼拝して言う。『主よ、あなたは義しく、あなたの裁きは真っ直ぐです』。

28
 さらに、主はアダムの方に向きなおると云われた。『今後、そなたが楽園にいることは許さない』。そこでアダムが答えて云いました。『主よ、生命の植物から取ってわたしにお与えください、わたしが追放される前に喰べるために』。そのとき主はアダムに語られた。『もはやあれを取ることはならぬ。ケルウブたちと、回転する燃える大剣(rhomphaia)に、そなたからあれを守るよう定められたからだ、そなたがあれを味わうことのないよう、つまりは、永遠に不死となることのないように、むしろ、敵がそなたの中に置いた争いにおまえが巻き込まれるよう、いや、そなたが楽園から出ていった後、死を望む者のごとくに、あらゆる悪から身を守るなら、再び甦りが起こったとき、おまえを甦らせよう、そのときこそ、生命の木から取ってそなたに与えられるよう、そしておまえは永遠に不死となろう』。

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29
 さて、主はこう云うと、わたしたちが楽園から追放されるようお命じになった、するとあなたがたの父上は、天使たちの面前で、楽園を前にして泣き叫んだ、すると天使たちが彼に言う。『あなたのためにわたしたちが何をしてあげればいいのだ、アダム』。そこであなたがたの父上は答えて天使たちに云いました。『見よ、あなたがたはわたしを追放しようとしている。あなたがたにお願いだ、わたしが楽園から香料を取っくるのを許してくれ、わたしが出ていったあと、神がわたしのいうことを聞きいれてくださるよう、神に供犠をささげるために』。そこで天使たちはお側にいって神に云いました。『イアエールよ、永遠の王よ、香料を楽園から取ってアダムに与えられるようお命じください』。そこで神は、アダムが行って、彼の食用に楽園から香料を取ってくるようお命じになった。そこで天使たちが彼を放したので、彼は両方の種類、つまり、サフラン(krokos)とカンシュウコウ(nardos)とショウブ(kalamos)とキナモーモン(kinamomon)と、そのほか自分の食用になる種を集め、これを取って楽園から出てきました。こうしてわたしたちはこの地上にたどりついたのです。

30
 さあこれで、わたしの子どもたちよ、わたしたちが欺かれた次第をあなたがたに明らかにしました。だからあなたがたは、善を見捨てることのないよう、身を守りなさい」。

31
 さて、自分の息子たちの取り囲むなか、彼女は以上のことを云った、アダムはその病の床に伏していたが、身体から出て行く日が残り1日となり、アダムにエウアは言う。「どうしてあなたは死にゆくのですか、わたしはまだ生きているのに。いったい、あなたの死後、どれほどの時間をすごすことができるのしょうか? わたしに告げてください」。そのときアダムがエウアに言う。「物事を思い煩おうとするな。わたしに後れることなく、2人とも等しく死んでゆき、身はわたしの場所に安置されるであろうから。わたしが死んだら、わたしをそのままにしておきなさい、そうして、だれひとりわたしに触れてはならぬ。主の天使がわたしについて何事かを語るまでは。なぜなら、神がわたしのことをお忘れになることはなく、お造りになったご自分の道具を求められるであろうから。むしろ起って、神に祈りなさい、わたしの霊を、これをお与えになった方の手にわたしがお返しするまで。その所以はといえば、わたしたちは、わたしたちをお作りになった方に、どうのような対面の仕方ができるのか、わからないのだよ、わたしたちにお怒りになるのか、それとも、わたしたちを憐れむよう心変わりなさるのか」。

32
 このときエウアは起って、外に出て行き、大地に身を投げ出して言った。「罪を犯しました、神よ、罪を犯しました、万物の父よ、あなたに罪を犯しました、あなたの天使たちに対して罪を犯しました、ケルウブたちに対して罪を犯しました、あなたの揺るぎなき王座に対して罪を犯しました、主よ罪を犯しました、多くの罪を犯しました、あなたに逆らって罪を犯しました、すべての罪はわたしのせいで被造物の中に生じました」。そしてなおも、エウアがその膝をついて祈っていると、見よ、彼女のもとに人類の天使がやってきて、彼女を起たせて言った。「エウアよ、そなたの悔い改めをやめて起ちなさい。見よ、そなたの夫アダムがその身体から出て行った、起って、そして見なさい、彼の霊が、これを労してつくられた方の方へと、その方に対面するため運びあげられてゆくのを」。

33
 そこでエウアは起ちあがって、自分の手を自分の額に当てた、すると彼女に天使が言う。「あなたの身を地上のものらから引き離しなさい」。そこでエウアは天に眼をこらし、そして見た、光の戦車が4羽の輝くワシたちによって引かれゆくのを — 胎より生まれた者は何びともその〔ワシたちの〕栄光を云うことはできず、その顔を見ることもできない — 、そしてまた天使たちがその戦車を先導しているのを〔見た〕。「おまえたちの父上アダムが横たわっている場所に〔天使たちが〕やってくると、戦車は止まり、父上と戦車の間にセラピムたちが〔立ちました〕。このときわたしは黄金の香炉と3つの盃を見ました、すると見よ、天使たちがみな乳香と香炉と盃の後から祭壇の方にやってきて、それに息を吹きかけました、すると香炉の朦気が天をおおいかくしました。そうして天使たちは身を投げだして神を礼拝しました、声をあげてこう言いながら。『聖なるイアエールよ、ご容赦ください、彼はあなたの似像、あなたの聖なる両手の作品なのですから』。

34
 すると今度は、大きくて恐ろしい神秘的なものが2つ、神の御前に立っているのをわたしエウアは見ました。そこで、恐怖のあまりにわたしは泣き叫び、声をあげてわたしの息子セートに向かって言いました。『セートよ、あなたの父上アダムの遺体から起って、わたしのところまで来てちょうだい、そうしたら、いまだかつて何びとの眼も見たことがないものをあなたは見られるでしょう、あなたの父上アダムのために彼らはお願いしているのです』」。

35
 このときセートは起って、自分の母親のところにやってきました、そして彼女に言う。「あなたに何が起こったのですか? いったい何ゆえに呼んだのですか?」。彼に彼女が言う。「あなたの眼で仰ぎ見なさい、そうして7つの天が開いたのを見なさい、また、あなたの父上の身体が御前に横たえられているさまをあなたの眼で見なさい、また、聖なる天使たちがみな彼といっしょになって彼のために祈ってこう言っています。『この者をご容赦ください、あらゆるものの父よ、この者はあなたの似像なのですから』。一体全体、わたしの子セートよ、これはどういうことでしょうか? はたして、わたしたちの見えざる父にして神なる方の手に〔父上は〕渡されたのでしょうか? お側に立って、あなたの父上のために祈っている2人のアイティオピア人は、いったい誰々なんですか?」。

36
 するとセートが自分の母親に言う。「あのかたたちは太陽と月です、あのかたたちまでが身を投げだして礼拝しているのです、わたしの父上アダムのために」。エウアが彼に言う。「いったい、あの方たちの光はどこにあるのですか、いったい、どうしてあの方たちは黒っぽいのですか?」。するとセートが彼女に言う。「あらゆるものの光の御前では、光を放つことはできません、だからこそあの方たちの光が隠されたのです」。

37
 さて、セートが自分の母親に向かって言っているとき、御前にあった天使たちが喇叭を吹き鳴らし、恐ろしい声を張りあげて言いました。「主のつくりたもうたものらゆえのその栄光は讃えられるべきかな。彼の両手の造作たるアダムをお憐れになった」。天使たちがこう触れわたしたとき、六翼のセラピムの中からひとりがやってきて、アダムをアケルシアス湖へとさらいゆき、神の御前でこれを洗い清めた。そうして3刻の間、横たわったままにしておいた、そしてそういうふうにして、あらゆるものの主人は、その聖なる王座に腰をかけたまま、その両手を広げて、アダムを引き上げ、これを天使長ミカエールに渡して、これに言われた。「これを楽園に、第三天まで引き上げよ、そうして、大いなる恐ろしい — この世にわしが執行しようと思っている — あの日までは、そこに置いておけ」。そこで天使長ミカエールは彼を受け取ってアダムを連れ去り、彼を置き去りにした、アダムを容赦なさったさいに、神が自分に云われたとおりにである。

38
 さて、以上すべてのことの後、天使長は遺骸を葬ることを願い出た。すると神は、天使たち全員が、おのおのその地位に従って、自分の御前に集まるよう指図なさった。そこで天使たち全員が集まった、ある者らは香炉を、ある者らは喇叭を持って。そこで〔万〕軍の主は〔戦車に〕搭乗し、諸々の風が彼を〔載せた戦車〕を引き、ケルウブたちもその風にまたがり、天の天使たちがこれを先導した。そして〔一行は〕アダムの身体があるところにやってくると、これを取った。そして楽園の中に至った、すると楽園の植物すべてが動き、アダムから生まれた者たちは芳香のせいで全員がまどろんだほどである、ただしセートは別である、彼は神の誓約によって生まれたゆえに。

39
 かくしてアダムの身体は楽園の大地の上に横たえられた、セートはそのことを甚だ悲しんだ。すると、主なる神が言う。「アダムよ、これは何ということをしたのか? わしの言いつけを守っていたら、そなたをこの場所に引きずり降ろした連中が喜ぶこともなかったろうに。しかし、そなたに言っておこうぞ、連中の喜びを悲しみに逆転し、そなたの悲しみを喜びに逆転してやろう、そうやって逆転して、そなたを支配につけ、そなたを欺いたやつの王座におまえを据えてやろう。そしてそやつはこの場所に投げこまれ、そなたがそやつの上位に座ることになろう。そのとき、そやつは、そやつのいうことを聞いた者どももろとも断罪され、多くの悲しみを受け、泣くことであろう、そやつの誉れある王座にそなたが座するのを見て」。

40
 このときさらに、天使長ミカエールに語られた。「下がって楽園に、第三天にいって、わたしに亜麻布3枚、亜麻布製の衣とシリア紫布を持ってきてくれ」。それから神はミカエール、ガブリエール、ウウリエール、ラパエールに云われた。「亜麻布でアダムの身体を覆うがよい、そうして芳香のするオリーブの油を持ってきて、彼にそそぎかけよ」。そこでそういうふうにしたうえで、彼の身体を葬った。すると主が語られた。「アベルの身体をも運んで来よ」。そこで〔天使たちは〕別の亜麻布を持ってきて、彼をも葬った、彼の兄弟カインが殺害した日から、葬られていなかったからである。というのは、邪悪なるカインは、〔アベルの屍体を〕隠そうとあれこれ思いわずらったが、できなかった。大地がこう言ってそれを受け容れなかったからである。「わたしの上の引き離され形造られた土塊がわたしのところにやってくるまでは、仲間の身体を受け容れることはできない」。だから、そのとき、天使たちは、それを引き取って、彼の父親が死ぬときまで、岩の上に安置しておいたのである、こうして二人とも、神のお指図によって、楽園の片隅に、神が〔アダムを造るために〕塵を見つけた場所に埋葬されたのである。そして神は7人の天使を楽園につかわし、〔天使たちは〕数多の芳香を携えゆき、これを地上に置いた。そしてそういうふうにして、2つの身体を受け取り、これを、彼らが穴掘り建造した場所に埋葬した。

41
 そこで神はアダムを呼んで云われた。「アダムよ、アダムよ、いるか?」。すると〔アダムの〕身体が地中から答えて云った。「見よ、わたしはここに、主よ」。そこで主は彼に言う。「そなたに云っておいた、〔そなたは〕土であり、土に還るであろうと。今度はそなたに甦りを約束しよう。最後の日に、つまり甦りの日に、そなたの胤からうまれた全人類とともに、そなたを甦らせよう」。

42
 そしてこのことば(rhemata)の後、神は三角形の封印をつくって、墓を封印し、6日の間、彼〔アダム〕の肋骨が彼のもとにもどってくるときまで、何びともこれに何かをしないようにした。さて、6日後、人間を愛する神と、聖なる天使たちが彼の場所に現れたとき、エウアも亡くなった。つまり、彼女は生前、自分の身体のことをおもって泣いた。自分の身体がどこに安置されることになるのかわからなかったからである。というのは、主が楽園に現れ、アダムを葬られたとき、当の彼女も彼女の子どもたちも、セートを除いて、眠っていたということは、わたし〔=この物語の語り手〕が謂っておいたとおりである〔38節〕。それで、エウアは自分の最期が来た刻に、自分の夫アダムがいるところに埋葬されるようお願いして、次のように言った。「わたしの主人、ありとあらゆる徳の主なる神よ、あなたの女奴隷であるわたしを、アダムの身体から引き離さないでください。なぜなら、彼の肢体からわたしをお作りになったのですから。いや、いかに無価値・罪深いわたしであろうとも、このわたしを彼の身体の上にともに埋葬される価値のある者としてください。楽園においても彼とともにいましたし、そむいての後も、離れることはありませんでした、そのように、何びとといえどもわたしたちを分かつことがありませんように」。かく祈った後、天を仰いで起ちあがり、自分の胸を打って、言った。「ありとあらゆるものの神よ、わたしの霊をお受けください」。
 そのまますぐに自分の霊を神に渡したのである。

43
 こうして彼女が亡くなると、天使長ミカエールが現れ、3人の天使たちもやってきて、彼女の身体を受け取り、これをアダムの身体のあるところに埋葬した。そうして天使長ミカエールはセートに向かって云った。「人間が死んだら、甦りの日まで、みなかくのごとくに葬れ」。この律法を与えた後、さらに彼に向かって云った。「6日を超えて嘆いてはならぬ。7日目には〔嘆くのを〕やめ、その日には喜べ、この日に、神とわれわれ天使たちは。義しき魂が大地より移されたことを喜ぶからである」。天使長ミカエールはこう云って、楽園へと登り行った、〔神の〕栄光を讃え、ハッレールウイアを言いながら。「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、主は。父なる神に栄光あれ。初めなく・命をつくりたもうその霊をもちたもう彼〔=神〕には、栄光(doxa)と名誉(time)とそして礼拝(proskynesis)とが、今より後いつも、永遠の永遠に至るまでもふさわしいのだから。アメーン」。

back.gifギリシアの語のエノクの黙示録
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