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back.gifトービト書 (Cod. Vaticanus + Cod. Alexandrinus)


原始キリスト教世界

スザンナ(古ギリシア語訳)





[解説]
ダニエル書への付加概説  ダニエル書のギリシア語訳には、今日、正典とみとめられているへブル語およびアラム語のダニエル書に含まれない付加部分が三つある。それらは通常「アザリヤの祈りと三人の若者の歌」「スザンナ」「ベルと龍」などの題名で知られている……。
 この三つの文書は、元来別々の起源をもつ伝承であり、特に第二、第三の文書は正典ダニエル書とは内容的に深いつながりをもっているとは考えられないが、いずれも「ダニエル」を主人公としているという理由で七十人訳の編者がダニエル書の前後に付加したのであろう。……
 ギリシア語訳には、正典部分と同じく、七十人訳とテオドチオン訳の二種が伝えられているが、前者は、断片をのぞけば一種類の写本とシリア語訳へクサブラにのみ残されている。後者は、多くの写本があり、古ラテン語をはじめ各種の古代語訳を通して伝えられている。これら両種の本文の異同の程度はそれぞれの文書によって異なっている。「アザリヤの祈りと三人の若者の歌」は、節の順序や若干の語句、正字法などのほかは大きな相異はあまりない。他の二書においては、部分的な語句の一致は見られるが、全体としてはかなり大きくちがっている。
 ヒエロニムスは、ウルガタの翻訳にあたって、ダニエル書と附加部分に関するかぎり、テオドチオンの本文を底本とした。その理由は、彼によれば、当時の教会では一般にテオドチオンの本文が用いられ、七十人訳は読まれなくなっていたため、また、みずから正典部分についてへブル語原文と比較した結果テオドチオン訳を採用すべきだと判断したためである、という。このように、七十人訳はかなり早い時期に忘れられ、ウルガタ以後の翻訳もみな、テオドチオンに依ってなされることになった。

スザンナ  舞台はバビロンのユダヤ人社会である。……ユダヤ人有力者ヨアキムの妻スザンナは美貌のきこえ高く、律法に忠実な婦人であった。民の中から選ばれて裁判員となったふたりの長老は、スザンナに心をうばわれ、邪悪な欲望を抱いて、公正な裁判をなおざりにする。好機をとらえてスザンナに情交を迫ったふたりは、スザンナの必死の抵抗にあうと、自らの野望をかくすために彼女を姦淫の罪で訴え、偽証によって死罪に定める。そのとき、神の霊に動かされた若者ダニエルがすすみ出て異議を唱え、長老たちを訊問して偽証をあばき、スザンナの潔白を証明する。
 物語の中心は、律法に従う者が無実の罪におとしいれられても、最終的に勝利する、という点と、反対訊問によって邪悪な長老の偽証をあばいた若者が公正な裁判を確保したという点である。ここには、信仰深く、貞淑な婦人と、神を畏れぬ不義な長老との対比、また、神の霊に動かされた若者と、老獪な長老との対比が描かれてい る。スザンナ(へブル語シュシャン=百合)、ダニエル(神はわが審判者、あるいは、神が裁いた)という名も 象徴的である。
          (『聖書外典偽典第二巻:旧訳外典Ⅱ』新見宏の概説による)

  [底本]
TLG 0527 0527 054
Susanna (translatio Graeca)
Apocryph., Narr. Fict., Relig.

A. Rahlfs, Septuaginta, vol. 2, 9th edn., Stuttgart: Wûrttemberg Bible Society, 1935 (repr. 1971): 864-870.


スゥサンナ

susanna.jpg
BOTH, Jan
Susanna and the Elders (before 1642)

(6) ……そうして裁判員たちが彼らのもとにやって来た。(7/8) この者たちが、器量よしの町娘が — イスラエールの息子たち出身の自分たちの妹で、ヘルキアの娘にしてイオーアキムの妻、名をスゥザンナというが、自分の夫の庭園を午後に逍遙しているのを — 見て、これに欲情し、(9) 自分たちの理性を歪め、眼を天に向けることはもとより、義しい裁判を憶えることも避けた。(10/11) 両人とも彼女に刺し貫かれたが、彼女について自分たちが悪を持っていないふりを一方が他方にしたのはもちろん、彼女はそのことを知りもしなかった。(12) そうして夜が明けると、こっそり出かけ、どちらが先に彼女に見られ、彼女に話しかけるかに熱中した。(13/14) そして見よ、彼女がいつもどおり逍遙し、長老のひとりが気づかれずに現れ、もうひとりが他方に問いただした、曰く、「おまえはどうしてこんなに朝早く出かけたのか、わたしを連れ立つこともせずに?」。そうして自分の悩みをこもごも告白しあった。(19) そして一方が他方に云った、「彼女のところに行こう。そして申し合わせて彼女に襲いかかり、彼女を力尽くでものにしよう」。(22) そこでユダヤ女は彼らに云った、「わたしは知っております、そんなことをすればわたしにとって死だが、もししなければ、あなたがたの手を逃れられないでしょう。(23) しかし主の前に罪を犯すよりは、そんなことをしないためにわたしはあなたがたの手に落ちる方がより美しい、と」。

(28) 無法な男たちは、脅迫の念をいだきつつ、彼女を死刑にせんと企みつつもどってきた。そして寄留していた都市の教会堂にやって来て、そこにいるイスラエールの息子たち全員が集まってきた。(29) そこで二人の長老は立ち上がって、訴訟人として云った、「ケルキアの娘、イオーアキムの妻、スゥサンナを呼び出せ」。そこで人々はすぐに彼女を呼んだ。(30) そしてその妻が自分の父母とともに現れ、子どもたちも、彼女の下女たち数にして50人も、またスゥサンナの童僕4人も現れた。(31) で、その妻はすこぶる豪奢であった。(32) 無法者らは、彼女に覆いを取るよういいつけた、彼女の美しさに対する欲望を堪能するためである。(33) そこで、彼女のゆかりの者たちはみな、彼女を尊敬するかぎりの者たちもみな号泣した。(34) 長老たちは立ち上がり、裁判員としてその手を彼女の頭に当てた。(35) だが彼女の心は、自分の主なる神に依り頼み、覆いを取ったまま泣いた、心中に曰く、(35a) 「永遠の主なる神よ、彼らの生まれる前に万事をご存知の方よ、御身はご存知です、この無法な者らがわたしに悪だくみしていることをわたしが行わなかったことを」。そして主は彼女の願いを聞き入れられた。(36) しかし二人の長老は云った、「われわれは彼女の夫の庭園を逍遙しておった、(37) そして競走場を廻っていて、この女が男と休んでいるのを目にした、そして立ち止まったまま、彼らが互いに交わっているのを目撃した、(38) しかしこやつらは、われわれが立っていることを恥じなかった。このとき、われらは互いに言い合った、曰く、『こいつらが何者か知ろう』と、(39) そこで近づいていってこの女を認知したが、若者の方は顔を隠して逃げてしまったが、(40) この女の方は捕まえて、これを尋問した、『男は誰か?』と、(41) しかし『何某だった』とはわしらに告げなかった。以上のことをわれわれは証言する」。そして全会衆は彼らを信じた、彼らが長老であり、民の裁判員だったからである。

(44/45) そして見よ、彼女が処刑のために連行されるとき、主の天使が〔現れ〕、いいつけどおり天使が、若者であるダニエールに悟りの霊を授けた。(48) そこでダニエールは群衆を戒め、彼らの真ん中に立って云った、「これほどまでに愚かなのか、イスラエールの息子たちよ、審理をしないのはもちろん、はっきりしたことを区別もせず、イスラエールの娘を断罪するのか? (49) 今も、わたしのために、あの連中を互いに遠く離してくれ、わたしが彼らを調べるために」。(52) そこで引き離されるや、ダニエールが会衆に云った、「この連中が長老であることに目を向けて、『よもや虚言することはあるまい』と〔思って〕はならない。むしろ、わたしに起こった事???に従ってわたしが連中を審理しよう」。そうして彼らのひとりを召喚し、その長老を若者のもとに連行した、そこでこれにダニエールが云った、「聞け、聞け、悪しき日々〔を重ねてきた〕老いぼれめ。今、これまで行ってきたおまえの諸々の罪が帰ってきた、(53) 聞き裁くことを信任されて死刑の判決を下してきたが、無実の者は有罪判決し、有罪の者たちは放免するという〔罪が〕、《無実の義しい者を死刑にしてはならない》と主が言っておられるのにだ。(54) そこで、今、庭園の川の場所の、彼らがいっしょにいるのを目撃したのは、何の樹の下だったのか?」。そこでこの不敬者が云った、「scinovV(ピスタキオ〔Dsc.I-89〕)の下に」。(55) そこで若者が云った、「まさしくおまえは自身の魂において嘘をついた。なぜなら、主の天使が、今日、おまえの魂を引き裂かれよう(scivzw)から」。(56) そこでこの者を退けたうえで、別の者を自分のところに連行するよう命じた。そこでこの者にも云った、「おまえの種子は何ゆえねじけたのか、シドーンの裔であってイウゥダの裔ではないからか? 美しさがおまえを欺き、不埒な欲望が〔〕。(57) まさにこういうふうにイスラエールの娘たちを扱い、彼女らは恐れておまえたちと交わってきた、ところがどっこい、イウゥダの娘がおまえたちの不法に堪えるという病を我慢しなかったのだ。(58) そこで、さあ、わたしに云ってくれ、《何の樹の下で、また、菜園のどの場所で、彼らが互いに交わりあっているのを捉まえたのか?》」。そこで相手が云った、「pri:noV〔コナラ(Dsc.I-144〕)の下で」。(59) するとダニエールが云った、「罪人め、今、主の天使が大剣を持って立っている、ついに民はおまえたちを根絶やしにするであろう、そしておまえを細切れに鋸挽きにしてくれよう(kataprivw)」。(60-62) そこで全会衆は若者に歓呼の声を上げた、彼らが自分の口で白状したからであり、両人を偽証者として立たせた。そうして、律法が宣言しているとおり、妹に対して邪悪であろうとしたとおりに彼らを処した。そうして口枷をはめ、連れ出して、峡谷に投げ落とした。このとき、主の天使が彼らの真ん中に火を投げこんだ。かくてこの日、咎なき血は救い出されたのである。

(63) それゆえ若者たちは、その率直さにおいてイアコーブを愛する。われわれも有能な若い息子たちを守ろう。なぜなら、若者たちは敬神し、知識と悟りの霊は、永遠の永遠に彼らの内にあるだろう。

2018.07.24. 訳了

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