ミステリー
スフィンクスもどきの怪物、
散策者を襲う!!
ハイテク国家日本を襲った
春のミステリー(1)

(4.23. 1996 / 改訂4.17. 1997)

 それは全長約1メートル。



 こんな怪物が21世紀も間近に迫ろうかという現代の日本に出現したことを、あなたは容易には信じられないに違いない。しかし、わずか5日間のうちに65人の散策者がこの怪物に遭遇し、64人が被害を受けた。事実は事実として直視するのが知性ある大人の態度というものだ。

 最初に怪物に遭遇したのは、2人の銀閣寺大学3回生、丹羽隆一さんと柴田恭子さん(ともに仮名)。エイプリルフールの月曜日の朝のことだ。
 例年なら桜の花が艶やかな彩りを街のあちこちに添えている時分だが、今年の冬は粘り強く、開花はかなりずれ込んでいた。哲学の道の桜並木も、まだ蕾の状態だった。

 しかしそんなことで、この散策路の趣が損なわれるはずもない。2人は多くの観光客や近隣の散歩者にまぎれ、春を待つ散<策を楽しんでいた。

 法然寺下の小橋で2人は一息つくことにした。欄干にもたれ、ゆるやかな水の流れを並んで見下ろす。いつしか人通りは途絶え、ただ穏やかな風だけが静かに通り抜けていく。こうしてロマンチックな雰囲気がじわりじわりと盛り上がっているところへ、無粋にそれは現れた。まるで瞬間移動でもしてきたかのように、突然、2人の目の前の宙空に姿を現した。体側をこちらに向け、顔の正面もこちらを向いている。バタバタと羽を動かし宙に浮き、お尻は黄色に光っていた。その赤い2つの目は、鳩の目だから表情が読みづらいが、どうも2人をにらみつけているらしかった。ロマンチックはホラーとパニックに急旋回して、恐怖に駆られた丹羽さんは柴田さんの腕にすがりついた。

 怪物は忍者マスクの向こうから低くて渋い声を発した。
「ヒ・ト・ワ」
 丹羽さんと柴田さんの体はガクガクと震えていた。
「ヒ・ト・ワ」

 怪物はもう一度、声を発した。丹羽さんたちは相変わらず震えるばかりで、声も出なかった。怪物のお尻の光がショッキングピンクに変わり、2人は目の前の光景がゆっくりと歪んでいくのを感じた。「ニンポウソスイオトシ」、という声が遠くで聞こえた気がした。


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