原子力発電入門編

1.はじめに
原子力発電と聞くと、まず恐いものということが頭に浮かび、その上、技術という言葉はこれは難しいという印象を先入概念として与え、一般にはそこから先へ行き難いものである。新聞などでときおり報道される原子力発電所のトラブルも、どのようなことが起き、どの程度の不安があるのか判断が難しいこともある。できるだけ正確に内容を伝えようとして難しくなっているもの、内容をやさしく表現しようとして、かえって理解しにくくなっているものもみうけられる。

さらに、原子力の利用には、賛成派、反対派の人たちがそれぞれの思惑で、いろんな文を書いたり、書物を出版したりしていますが、いずれにしてもその内容は、あるものは非常に難しく、またあるものは内容が非常に偏っていたりするようである。賛成するにも、反対するにも、ある程度の内容を理解し、自分で判断することが大切である。とにかく日本の電気は、年間発電量の約35%が原子力発電なのだから。そんなことから、まずは軽水型原子力発電所の、そして高速増殖炉の、できるだけやさしい解説を試みた。わかりよさに重点をおいたために、正確さにかけるところもありますが、まずどんなものかを知った上で、必要と興味によってはさらに勉強し、理解を深めていただきたい。一口に原子力発電といっても、学問的には物理学、化学を基礎に、機械、電気、金属、建築、土木、気象、生物学、医学等広い範囲の学問を含んでおり、立地条件を考えあわせると法律や経済学はもちろん、美学的な要素も加わることが多くある。

2.原子力発電所の概要

原子力発電所でも火力発電所でも、水を蒸気にかえ、その蒸気によりタービンを回し、タービンにつながれた発電機が回り電気を作る。原子力発電と火力発電との違いは、蒸気の作り方だけである。大きな違いは、火力発電では、配管や容器などの中に水があり、それを外から火で熱して蒸気を作り、燃焼ガスを出すが、火を止めるとすぐに加熱しなくなる。原子力発電では、容器の中に水があり、その中に熱を出す燃料を入れて水を熱し蒸気を作るが、燃料の周りを通過したものには放射能があることと、原子炉を止めてもすぐに発熱はゼロにならないことである。したがって、蒸気の作り方を説明すれば、原子力発電の概要は理解できる。

原子力発電では、核分裂によって出てきた熱を利用して、どのように水を蒸気にかえるか、その方法の違いにより、いろんな形の原子炉がある。開発中のものを含めると下図のようになる。

こでは、上記の中から、軽水炉について記す。軽水炉(LWR)は、軽水(非常に純度の高い普通の水)が、燃料の核分裂によってできた熱を直接うけとる、具体的には、燃料がつめられたケース(燃料棒)の周りに、じかに水を流して熱を受ける形の原子炉である。

軽水炉には、水を蒸気にかえるときの方法により、さらに二つの形がある。燃料がある炉心部分で、水をお湯にかえ蒸気まで作るのが沸騰水型原子炉(BWR)である。

燃料がある炉心部分では水をお湯にかえるだけで、そのお湯により、別の水をあたためて蒸気を作るのが加圧水型原子炉(PWR)である。水は、圧力を高くすると沸騰する温度が高くなるので、加圧水型原子炉では、燃料を直接冷却する水は沸騰させずに取り出し、その温度の高い水で少し圧力の低い別の水を沸騰させ、蒸気を作る。燃料周りの水に圧力を加え沸騰が抑えられているため、加圧水型という。

燃料から熱を受けるものが気体(ガス)で、その温度の高いガスにより水を蒸気にかえるものをガス炉という。また、開発中の新型炉には、原子炉容器を使わず、管の中に燃料を入れ、それを沢山集めた形の新型転換炉(ATR)や、燃料から熱を受けるものが、水や気体ではなく液体金属(例えばナトリウム)を使う高速増殖炉(FBR)もあるが、まだ商業炉としては実用化されていない。

3.沸騰水型原子力発電所

BWR(Boiling Water Reactor)と呼ばれる沸騰水型原子炉は、炉心で水の沸騰が起こるのでついた名前である。まず、水や蒸気を取扱う設備の構造を流れにそって説明し、その他主要な設備については、それぞれ個別の説明をする。大きさなどの説明は、電気出力110万kWの原子力発電プラントを例に説明している。

3.1水や蒸気を取扱う設備

3.1.1 原子炉圧力容器内の流れ

水を、燃料の核分裂で出てくる熱で温めて蒸気を作るところを、原子炉圧力容器という。原子炉圧力容器は、厚さ約16cmの円筒形容器で、大きなものでは高さ約23m、直径約7mもある。原子炉圧力容器の中には燃料が入っており、燃料が入っている範囲全体を炉心という。原子炉で使われる燃料はウランであるが、ウランには原子炉で燃やせるウラン235と、燃やせないウラン238とが混じっている。天然ウランは、燃えないウラン238が99.3%、燃えるウラン235が0.7%含まれておりこの燃えるウラン235の濃度を高めることを濃縮、濃度のことを濃縮度という。軽水炉用燃料の濃縮度は約3%で、直径12.5mm長さ約4mの燃料ピンに二酸化ウランペレット(円筒形の錠剤のような形)の燃料を入れて密封したものを燃料棒といい、その燃料棒を64本(8×8)正方格子に束ねた燃料集合体が、チャンネルボックスというジルコニウム合金製の四角い筒の中に収められ、これを784体集めて炉心が作られている。

原子炉圧力容器の円筒形胴体の横(給水入口ノズル)から容器の中に入った水は、炉心の下に回り込み、炉心の下から上に向かって流れる。水はあたためられると軽くなり上に流れるが、それと同じ向きに流している。炉心の下の方では水だけであるが上部に流れていくにつれて水の一部が蒸発して、蒸気が混じった水(二層流)となる。さらに上部にいくとほとんどが蒸気になる。原子炉圧力容器内の炉心上部にできた蒸気には水分が混じっており、この水分を除いて蒸気だけにするため、炉心上部に取り付けられた気水分離器および蒸気乾燥器を通る。これらを通って、乾いた飽和蒸気となり、原子炉圧力容器(蒸気出口ノズル)から出ていく。(これが直接タービンを回す。)蒸気の温度は 約286度C、圧力は約71気圧となる。炉心の熱を効率よく取り出すために、原子炉圧力容器の下の部分には、再循環回路が2系統取り付けられている。原子炉圧力容器に入った冷却材のうち約3分の1は再循環回路に流れ、再循環ポンプで圧力を高められ、原子炉圧力容器内に取り付けられた20個のジェットポンプで炉心の下の方へ噴出される。残りの冷却材もこの噴出する流れに引き込まれて炉心の下側へ多量の水を流す。

原子炉圧力容器とタービンとの間を循環する冷却材の中には、配管の内表面にできたサビなどの腐食生成物や燃料棒からわずかに漏れ出してくる核分裂生成物が含まれている。冷却材に不純物が含まれていると、この不純物が燃料棒の表面や炉内構造物について、熱の伝わりかたが悪くなるうえ、炉心からの放射線を受けて放射能を持つようになる。このため、不純物は冷却材から取り除かなければならない。そこで、原子炉建屋の中には、常に原子炉内の冷却材をきれいにする原子炉水浄化系が置かれている。原子炉水浄化系には、フィルター脱塩装置があり、原子炉再循環回路から取り出された冷却材の一部がこのフィルター脱塩装置を通ってきれいにされ、給水管に戻り原子炉圧力容器へ送り込まれる。

原子炉で作る蒸気の量は、制御棒で調整される。制御棒は十字形をしており、燃料集合体4体でできる田の字の間に185本差し込まれている。この制御棒を引き抜くと原子炉の運転が始まる。制御棒は圧力容器の下から差し込まれ制御棒駆動機構によって一本一本動かすことができる。この操作は、タービン建屋の隣にある中央制御室で行う。この中央制御室には原子炉やタービンの状況が一目でわかる監視盤が置いてあり、運転員は常に運転状態が監視できる。圧力容器内の制御棒が引き抜かれると、核分裂の連鎖反応が起こって熱エネルギーが発生するが、制御棒は前もって決められた熱エネルギーが得られるまで少しづつ引き抜かれていく。このようにして、予定された熱エネルギー(出力)になると制御棒はその位置に固定されて、原子炉の運転が続けられる。制御棒は、原子炉の停止中は最も奥まで差し込まれているが、さし込む量を少なくすれば熱は大きくなり出力は増える。さし込む量を多くすると熱は少なくなり、出力は小さくなる。

3.1.2 原子炉圧力容器からタービン入口まで

原子炉圧力容器の4個の蒸気出口ノズルを出た蒸気は、主蒸気配管を通ってタービン施設まで運ばれるが、その途中で格納容器の壁を通りぬける。格納容器は、1次系の冷却水が何かの事故で漏れ出した場合、その影響を格納容器内に封じ込めるためのもので、格納容器の壁を通り抜ける配管があると、その配管を通って事故が外に出てくる恐れがある。それを防ぐために、壁の前後に弁が取り付けられている。この弁を通って蒸気は、格納容器の外に出て行く。この弁のことを隔離弁という。

3.1.3 タービンおよび発電機

原子炉で作られた蒸気は、熱エネルギーを機械の回転に変えるタービンに入る。タービンは串形をしており、長さ約50m、最大幅約5mあり、鋼製の直径約0.8〜1mの1本の軸に高圧タービン1台、低圧タービン3台が取り付けられており、蒸気は高圧タービン、低圧タービンの順で通り抜ける。タービンの軸には、蒸気を受けるタービンの羽根が埋め込まれており、その長さは大きいもので片側約1mもある。また、タービンの軸と一体に機械の回転を電気に変える発電機がつながれている。タービンの出力は約150万kWで、回転数は電気の周波数によって異なり、50Hzでは毎分1,500回転、60Hzでは毎分1,800回転となっている。発電機は、周波数50Hzで、定格容量130万kVA。発生電圧は1万9,000Vである。発電機で発生した1万9,000Vの電気は、タービン建屋の横に置かれた主変圧器によって52万5,000Vに昇圧され、送電線で需要地へ送られる。

3.1.4 タービンから原子炉圧力容器まで

タービンの羽根を回して温度が下がり、圧力が低くなった蒸気は、さらに復水器で海水により冷やされて水に戻る。復水器は、平面が 約10m×約20m、高さ約20mの箱形をしており、各低圧タービンの下に置かれている。復水器の中には、約6万本の外径約30mm、長さ約14.5mの細長い冷却管が入っている。冷却用の海水は海岸に作られた復水器冷却水取水設備から取り入れられ、復水器入口から復水器内に入り、温度が約7度C上昇して、放水路から海へ戻される。

一方、復水器内で水に戻った冷却材(復水)は、復水脱塩塔を通ってきれいな水になり、給水加熱器で加熱され、給水ポンプで再び原子炉圧力容器へ送り込まれる。BWRでは一次冷却水が蒸気になり、そのままタービンを回しているため、純水が使われる。水中の酸素の一部が放射性の窒素16,17に変わり、放射能を持った蒸気がタービンまできてしまうため、タービンも遮蔽される。

タービンを回し終えて水に戻った冷却材の中にも、循環の途中でサビなどの腐食生成物や燃料棒からわずかに漏れ出た核分裂生成物が混入してくるため、この冷却材を再び原子炉へ入れるには、これらの不純物を取り除く必要がある。このため、タービン建屋の中には水に戻った冷却材をきれいにする復水脱塩装置が置かれている。この復水脱塩装置にはイオン交換樹脂がつまっていて、冷却材の中に含まれている腐食生成物や核分裂生成物は、このイオン交換樹脂を通過するときに取り除かれる。

3.2 その他の設備

3.2.1 原子炉建屋

原子炉建屋は、地震や台風などによる被害を受けないように、一般のビルや工場にくらべて、はるかに頑丈に作られている。地下の丈夫な岩盤と一体に作られた、厚さ約5mの鉄筋コンクリート製基礎の上に建てられる。原子炉建屋は、原子炉圧力容器や原子炉格納容器など主要な設備を入れる原子炉棟と、廃棄物処理設備等を入れる付属棟とでできている。原子炉棟は、地上6階、地下2階、付属棟は、一部が地上3階、地下2階の建物で、一体構造の基礎の上に建てられている。原子炉建屋の大きさは、平面が約67mの正方形で、高さは地上約55m、地下約12mもある。この高さは、地上17〜18階、地下3〜4階のビルの高さに相当する。また、原子炉棟は、原子炉格納容器とともに、万一の事故の際でも、放射性物質や放射線を外部に漏らさないようにするため、厚い鉄筋コンクリートの気密構造となっており、またその内部は、外よりも気圧が低く保たれている。(これは、もし漏れることがあっても外から中には漏れ込むが、中から外へは漏らさないためである)

3.2.2 原子炉格納容器および遮蔽壁

原子炉格納容器は、原子炉から放射性物質が大量に漏れ出るような万一の事故に備えて、鉄鋼製の気密容器で作られている。この格納容器は、原子炉圧力容器、再循環ポンプなどを取り囲む三角フラスコ形のドライウェルと、その下にある円筒形の圧力抑制プール、およびこの間をつなぐベント管で作られている。

格納容器の大きさは、高さ48m、直径最大約26m、最小約10mある。この格納容器の周囲には、放射線をさえぎるため、厚さ約2.4mの鉄筋コンクリートの、原子炉遮蔽壁がある。

また、格納容器には、建設中や定期検査の際に内部の機器を出し入れするため、直径約3.5mの円筒形をした機器搬入口がついている。この搬入口は、原子炉格納容器の遮蔽壁を貫通しており、外側は鋼鉄製の厚いドアで密閉されている。

3.2.3 燃料交換設備

原子炉の燃料は、毎年1回全体の3分の1から4分の1づつ交換する。交換には、原子炉格納容器や、原子炉圧力容器のフタ、蒸気乾燥器、気水分離器などが取り外され、使用済燃料は、原子炉建屋の上部にある燃料取扱いクレーンを使って、燃料貯蔵プールまで水の中を動かして運ばれる。使用済燃料はここで半年以上かけ、十分に冷却された後、中に含まれているプルトニウムやウランを取り出すため、使用済燃料移送キャスクに詰めて再処理工場へ運び出す。

一方、新燃料貯蔵庫に運び込まれていた新燃料を、燃料取扱クレーンにより、原子炉圧力容器内の決められた場所に入れ、燃料交換を終わる。なお、燃料貯蔵プールには燃料貯蔵プール水浄化系があり、プール内の水を常にきれいに保つようになっている。

3.2.4放射性廃棄物の処理

発電所建屋内には、発電所で出てくる放射性廃棄物の放射能を弱めたり、これらを安全に保管するための加工装置があり、気体、液体、固体それぞれの形状に応じた処理が行えるようになっている。一般に放射能の強さは、時間がたてばたつほど弱くなるので、こうした処理装置は、活性炭式希ガスホールドアップ装置と呼ばれる活性炭の詰まったタンクや放射性物質を一定時間貯めておけるタンク、各種フィルター、イオン交換樹脂などで作られている。また、発電所以外の主要個所に、空気中や水中の放射線量を計測する放射線測定器を置いて放射性廃棄物処理が的確に行われ、発電所内外の安全が十分に確保されているかどうかを絶えず監視するようになっている。

(1)放射性気体廃棄物の処理

放射性の気体は、ウラン燃料自体からと、冷却材中に含まれていた酸素やアルゴンなどが放射能をおびる(放射化する)ことによってできる。ウラン燃料からできる放射性気体は通常燃料被服管内に閉じ込められているが、被覆管に小さな穴があると、そこから冷却材の中に漏れ出てくる。こうして漏れ出た気体は放射化された酸素やアルゴンガスなどとともに、復水器の空気抽出器で抜き取られ、気体廃棄物処理装置の活性炭式希ガスホールドアップ装置に送られる。ここでは、クリプトンやキセノンといった放射性物質を、長い時間(物質によって異なるが40時間から27日)かけて通過させ、放射能を弱める。さらに、フィルターを通したうえ影響のないことを確かめてから排気筒より放出する。また、発電所建屋の換気についても、十分な処理を施したうえ、安全を確認して排気筒から大気中へ放出している。

(2)放射性液体廃棄物の処理

液体状の放射性廃棄物というのは、配管などのサビなどが冷却材とともに炉心に入って放射化し、弁やポンプの軸のすき間などから漏れ出たものや、浄化装置内のイオン交換樹脂の機能回復に使われた液体などがある。このうち前者については,液体・固体廃棄物処理装置のタンクに集められた後、ろ過脱塩装置にかけ、発電所内で再処理する。また、後者については、蒸発濃縮装置で水分だけを蒸発分離して発電所内用水として再使用するが、装置内に残った廃液は固体廃棄物とともに、ドラム缶にコンクリート詰めし、敷地内に作られた廃棄物貯蔵庫に保管する。また、濃縮された液体廃棄物を粉状にして造粒化(アーモンド状にする)したり、粉状のものをプラスチック固化したりして、容積を減らすことが考えられている。発電所内で着用した衣服の洗濯水などは、ほとんど放射能がないので、いったんタンクに貯えた後、安全を確認してから海水とともに海に放出する。

(3)放射性固体廃棄物の処理

固体状の放射性廃棄物には、発電所の点検・修理に使用したボロ布、紙屑などのほか原子炉水浄化系や復水脱塩装置に組み込まれていたイオン交換樹脂類の使用済みのものなどが含まれる。イオン交換樹脂などについては、発電所建物内のタンクに貯蔵したり、ドラム缶につめ廃棄物貯蔵庫に収める。

4.加圧水型原子力発電所

PWR(Pressureized Water Reactor)と略される加圧水型原子炉には、原子炉を直接冷却する一次系と、蒸気発生器を介して一次系から熱をもらって蒸気をつくり、その蒸気でタービンをまわす二次系とがある。BWRと同様、水や蒸気の流れに沿って構造の説明をし、その他主要な設備については、それぞれ個別の説明をする。大きさなどの説明は、電気出力87万kWの原子力発電所を例に記す。

4.1 水や蒸気を取扱う設備

4.1.1 原子炉圧力容器内の流れ

 一次系の水の温度を上げるところを、原子炉圧力容器という。原子炉圧力容器は、厚さ約20cmの円筒形で、大きなものでは高さ約13m、直径約4.5mもある。原子炉圧力容器の中には、燃料が入った炉心がある。燃料は、濃縮度約2〜3%であり、直径約11mm、長さ約3.9mの燃料棒264本でできた燃料集合体157体で、炉心が作られている。原子炉圧力容器の胴体の横(入口ノズル)から容器の中に入った水は、炉心の下にまわり込み、炉心の下から上に向かって流れる。一次系の水の温度は約320℃、圧力157気圧になり原子炉圧力容器から出て行くが、沸騰が起こらないよう一次系全体に圧力をかけるので、加圧水型と呼ばれる。原子炉で作る蒸気の量は、制御棒の引き抜き、挿入と一次系の水の中のホウ酸濃度調整の2方式を併用して行う。制御棒は、燃料集合体4体に1体の割合であり、原子炉の上部に置かれた制御棒駆動機構で動かす。この操作は、タービン建屋の隣にある中央操作室で行う。この中央操作室には、原子炉やタービンの状況を運転員が監視し、必要な操作ができる制御盤が置かれている。原子炉を運転すると、燃料のウラン235が燃えてだんだん少なくなっていくが、それに見合う分だけ一次系の水の中のホウ酸の濃度を少なくする調整をする。また、通常運転中、急いで原子炉の出力を変えるときは、制御棒を使う。

4.1.2 原子炉圧力容器から蒸気発生器まで

原子炉圧力容器を出た高温の水は、配管を通って蒸気発生器に入る。配管の途中に分岐があり、その分岐管は加圧器につながっている。加圧器は、一次系の水の圧力を157気圧に保つための設備で、電熱器、スプレー設備および安全弁がついており、ループ数にかかわらず1台設置されている。加圧器は、電熱器で温度を上げれば加圧され、スプレーノズルから水をスプレーすれば温度が下がり減圧され、一次系の水の圧力を一定に保つ。また圧力がスプレー水によっても制御できないくらい高い圧力になった場合には、安全弁が開いて圧力を下げる。加圧器の中には水面があって、その近くの水を一般の一次系の水より少し高い温度に加熱すると、加熱器上部にはその温度に見合った飽和蒸気ができ、その圧力がパスカルの原理によって一次系全体に伝わる。

4.1.3 蒸気発生器内の流れ

蒸気発生器は、高温高圧の一次系の水により、二次系の給水を熱し蒸気にかえる熱交換器で、約3000本のU字形伝熱管と気水分離器およびドライアーでできている。蒸気発生器の下にある一次冷却材入口ノズルから蒸気発生器の中に入った一次系の水は、逆U字形の伝熱管内に入り、伝熱管の外側を流れる二次系の水を温めて蒸気発生器の外へ出る。二次系の水は加熱されて、約270℃、55気圧の蒸気になる。(この蒸気がタービンをまわし発電する。)

4.1.4 蒸気発生器から原子炉圧力容器まで

蒸気発生器で二次側の水を温めた一次系の水は約284℃となり、一次冷却材ポンプにより原子炉圧力容器の中に戻る。一次冷却材ポンプは、一次系の水を循環させるためのポンプで、各ループに1台づつ置かれている。原子炉圧力容器と蒸気発生器の一次側を循環する一次系の水の中には、わずかではあるが配管の内表面などに生じた鉄サビなどの腐食生成物や核分裂生成物が含まれている。そこで、原子炉補助建屋の中には、原子炉内の一次系の水をきれいにする設備が置かれている。原子力発電所には、高純度の水が多量に必要である。特に、一次系の水はホウ酸濃度の調整を行うためより厳しい水質管理が必要である。

4.1.5 二次系の水、蒸気の流れ

二次系の水は、蒸気発生器を通過するとき一次系の水から熱をもらい温度が高くなるが、二次側の水は一次側の水に比べ約100気圧も圧力が低いため、気化して約270℃、55気圧の蒸気に変わる。この蒸気発生器の二次側を出た蒸気は、配管を通ってタービンまで運ばれるが、その途中で格納容器の壁を通りぬけタービンに入る。

タービン設備は、蒸気発生器の二次側でできた蒸気の熱エネルギーを、機械の回転に変えるタービン、機械の回転を電気に変える発電機、タービンで仕事をした蒸気を水に戻して再び蒸気発生器の二次側へ送り込む復水・給水設備でできている。

タービンは、串型をしており長さ約40m、最大幅約5mあり、鋼製の直径約0.5〜0.6mの1本の軸に高圧タービン1台、低圧タービン3台が取り付けられ、発電機の回転軸と直接つながっている。また、蒸気を受ける羽根が回転軸に埋め込まれており、その長さは、大きいものでは片側約1mもある。タービンの出力は87万kWで、回転数は電気の周波数によって異なり、50Hzでは毎分1500回転、周波数60Hzでは毎分1800回転となる。発電機は、周波数60Hzで定格容量は97万kVA、電圧2万3000Vである。発電機で発生した2万3000Vの電気は、タービン建屋の屋外に置かれた主変圧器によって50万Vに昇圧され、送電線で需要地へ送られる。

タービンの羽根をまわして温度が下がり、圧力が低くなった蒸気は、さらに復水器で海水により冷やされて水になる。復水器は、平面が約10m×20m、高さ約13mの箱型をしており、各低圧タービンの下に置かれている。復水器の中には約7万本の、外径約25mm、長さ約17m冷却管が入っている。冷却用の海水は、海岸に作られた復水器冷却水取水設備から取り入れられ、復水器入口から復水器内に入り、温度が約7℃上昇して放水管から海へ戻される。この温度の上がった海水を温排水といい、温排水が冷やされながら広がっていく範囲が発電所周辺海域の漁業保証に関係してくる。復水器内で冷やされた水は、給水として再び蒸気発生器に送られる。大型のプランとでは、二次系は4ループある。

4.2 その他の設備

4.2.1 原子炉格納容器および外部遮蔽壁

原子炉格納容器は、原子炉から放射性物質が大量に漏れるような万一の事故に備えて鋼鉄性の機密容器で作られている。この格納容器の中には、原子炉圧力容器、蒸気発生器、加圧器、一次冷却材ポンプおよび一次冷却材配管が置かれる。格納容器の大きさは、高さ約77m、直径約40mある。格納容器と外部遮蔽壁との間には、圧力を外より低くした空間があり、外気がこの空間に漏れ込むことはあっても、放射性物質がこの空間から外へ漏れ出ないようになっている。また、格納容器には、通常運転中も格納用機内の機器を点検するため、運転員が出入りするエアロックと呼ばれる二重扉の出入り口と建設中や年に一度定期的に行なはれる点検の際に、内部の機器を出し入れするための直径約6mの円筒形をした、機器搬入口がついている。この機器搬入口は、外部しゃへい壁を貫通しており、内部は 鋼鉄製の厚いドアで密閉され、外部はコンクリートで密閉されている。

外部遮蔽壁は、格納容器と同様に事故のとき放射線を遮蔽するためのもので、地震や台風などによって被害を受けないように、一般のビルや工場に比べて遥かに丈夫にできている。外部遮蔽壁は、円筒型で厚さ 0.9〜1.3mの鉄筋コンクリートでできており、検査によって割れや傷の無い地下の丈夫な岩盤と一体に作られた厚さ約 3mの基礎コンクリートの上に建てられる。

4.2.2 原子炉補助建屋

原子炉格納容器の隣には、原子炉補助建屋がある。原子炉補助建屋には、一次系の水の必要量を確保し純度を保つための設備や、原子炉は停止してもその後すぐに発熱が止まるわけではなく、少量の熱を出し続ける(これを余熱という)が、その熱を取り除き、一次系の水の温度を下げるための設備、放射性廃棄物を処理する装置などが置かれている。このほか、原子炉補助建屋には、幅約9m、長さ14m、深さ約12mの使用済燃料ピット(プール)や新燃料貯蔵庫がある。

4.2.3 燃料交換設備

原子炉の燃料は、年1回1/3づつ交換する。交換には、まず原子炉圧力容器のフタの上部にある制御棒駆動装置を取外し、つづいて原子炉圧力容器の上部のフタを取外して、キャビティーと呼ばれる原子炉圧力容器の上部周囲に水を入れ、水による放射線の遮蔽効果を利用して、水中で使用済燃料を燃料取扱クレーン、燃料移送装置で、使用済燃料ピットへ運ぶ。使用済の燃料は、ピットの水中にあるラック(枠)に入れ、燃料の崩壊熱が十分少なくなり、半減期の比較的短い放射性物質が少なくなるまで半年以上冷却保管する。そして、十分冷却を終えた使用済燃料は、使用済燃料輸送キャスクに詰めて、再処理工場に運び出す。一方、新しい燃料は、新燃料貯蔵庫から燃料取扱クレーンを使って、原子炉圧力容器の決められた場所に入れ、燃料交換を終わる。

4.2.4 放射性廃棄物の処理

発電所で出る放射性物質は、気体、液体、固体それぞれの形状に応じて処理し保管する。一般に、放射性の強さは時間がたてばたつほど弱くなるので、放射性物質を一定時間貯めておけるタンク、各種フィルター、イオン交換樹脂などが処理のために使われる。また、空気中や水中の放射線量を計測する監視装置を発電所以外の主要個所に置いて、放射性廃棄物の処理が正しく行なはれ、発電所以外の安全が確保されているかどうかを、常に監視している。

(1)放射性気体廃棄物の処理

放射性気体廃棄物の主なものは、キセノンやクリプトンなどの希ガスで、これは燃料の核分裂によってできる。これらの希ガスは、通常、燃料棒の中に閉じ込められているが、燃料棒に小さな穴があると、そこから一次系の水の中に漏れ出てくる。そのほか、タンク類の廃ガスとして出てくるものもある。これらの放射性の気体廃棄物は、長期間タンクに一時貯め置き放射能が十分に減衰し、低いことを確認して、排気ダクトを通り排気筒から大気中へ放出する。

(2)放射性液体廃棄物の処理

放射性液体廃棄物は、配管内のサビなどが一次系の水に混じって炉心に入り中性子を受けて放射化し、弁やポンプの軸のすき間などから漏れ出たものなどがある。これらの水は、タンクに集められた後、ろ過脱塩装置と蒸発濃縮装置にかけ、発電所内で再使用するが、一部放射性レベルが十分に低いものは、安全を確認して、冷却水(海水)に混ぜて海に放出する。蒸発濃縮装置内に残った廃液は、固体廃棄物とともにセメントやアスファルトで固めてドラム缶に詰め、敷地内の廃棄物貯蔵庫に保管する。発電所内で使用した衣服の洗濯水は、ほとんど放射能はないが、いったんタンクに貯めた後、フィルターを通し、安全を確認して冷却水(海水)に混ぜ海に放出する。

(3)放射性固体廃棄物の処理

放射性固体廃棄物は、一次系の水をきれいにするために使ったイオン交換樹脂、発電所の点検・修理のときに使ったボロ布、紙くずなどである。イオン交換樹脂等は、タンクに貯め、ボロ布、紙などは燃やしたり圧縮処理してカサを減らし、それぞれドラム缶に詰め廃棄物貯蔵庫に置く。

5.高速増殖炉

FBR(Fast Breeder Reactor)と略される高速増殖原子炉は、原子炉を動かす中性子が軽水炉に比べて速いのと、原子炉内に燃えないウランを置いておくと、燃えないウランを燃えるプルトニウムに変える(燃料を増殖する)ため、高速(中性子)(燃料)増殖炉と呼ばれている。高速増殖炉では、軽水炉と異なり冷却材として水のかわりに液体ナトリウムを使う。液体ナトリウムは中性子を減速する効果が小さいからである。

本説明では、主として液体ナトリウムの冷却系とナトリウムによって蒸気を作る蒸気発生器について説明している。給水・蒸気の取扱いについては火力発電所と同じであり、説明は簡単にしている。説明は、電気出力28万Kwのループ型発電所を例に記している。

5.1 液体ナトリウムを取扱う設備

5.1.1 原子炉容器内の流れ

原子炉容器内を流れる一次冷却材は、液体ナトリウムである。液体ナトリウムは、一次冷却系循環ポンプにより直径約61cmの一次主冷却系配管を通って、原子炉容器の下部にある入口ノズルから原子炉容器内へ入る。

原子炉容器は、厚さ約5cmの円筒形で、高さ約17.8cm、直径約7.1mある。原子炉容器の中には燃料の入った炉心がある。燃料は、富化度約15〜21%のプルトニウムとウランの混合酸化物が使用される。直径約0.5mm、長さ約2.8mの燃料棒169本を束ねてできた燃料集合体198体で、炉心が作られている。炉心のまわりには、燃えないウラン238がつめられたブランケット燃料集合体が172体置かれており、このブランケット燃料集合体が、原子炉を運転すると中性子を吸収し、プルトニウムに変わる。原子炉容器の胴体下部の横方向(入口ノズル)から容器の中の炉心下部に入った液体ナトリウムは、炉心の下から上に向かって流れる。一次系のナトリウム温度は、燃料の核分裂で出てくる熱で暖められ約529℃になり、原子炉容器から出て行く。炉心部には、原子炉で作る蒸気の量を調節するための制御棒が19体ある。制御棒は、原子炉容器上部の遮蔽プラグと呼ばれる蓋の上に置かれた制御棒駆動装置で動かす。この操作は、 原子炉補助建屋にある中央制御室で行う。高速増殖炉は、冷却材にナトリウムを使用するため、ナトリウムの液面上部の空間は、全てアルゴンガスが充たされており、ナトリウムが酸素と触れて酸化するのを防いでいる。そのため、原子炉容器は密閉された構造であり、軽水炉のように蓋を開けて容器内のもの(例えば燃料集合体等)をとりだすことができなく、燃料交換に必要な装置の一部があらかじめ遮蔽プラグの上に取り付けられている。

5.1.2 原子炉容器出口から中間熱交換器・循環ポンプを経て原子炉容器入口まで

原子炉容器を出た温度約529℃、圧力0.5気圧のナトリウムは、直径約81cmの配管を通って中間熱交換器に入る。中間熱交換器は、原子炉容器内を流れる一次冷却材(ナトリウム)から放射性物質が含まれていない二次冷却材(ナトリウム)に熱を伝えるための熱交換器である。二次冷却材が上部から入り中央の下降管を下がって下部(下部プレナム)に導かれ、そこで流れの向きが反転し、下部管板で約3300本の直管形伝熱管を上昇し、その間に加熱されて上部プレナムで再び一緒になり、上部の出口より出ていく。熱交換器内はナトリウムで満たされている。伝熱量は一基で約238MWあり、大きさは外径約3m、高さ約13mで、ステンレス鋼でできている。中間熱交換器で、二次系のナトリウムと熱交換し、温度約397℃になったナトリウムは、直径約81cmの配管を通って循環ポンプに入る。

一次主冷却系循環ポンプは、中間熱交換器出口と原子炉容器入口の間の冷却材温度が低い部分に置かれ、一次冷却材を循環させる働きをする。一次主冷却系循環ポンプは、たて形の遠心式ポンプで、熱や放射線を遮蔽する熱遮蔽板、ガンマ線遮蔽プラグが上部に取りつけられており、かなり縦長になっている。また、メンテナンス時(保守・管理の時)にナトリウムの入るケーシングを配管と切り離さずにポンプの中身だけを引出せるよう内ケーシングが設けられている。また、原子炉容器と同様、ポンプ内は液面が有り、その上部はナトリウムと空気を接触させないように、アルゴンガスで満たされている。高さは約10m、外径は約1.3mある。循環ポンプを出たナトリウムは、直径約61cmの配管を通り原子炉容器入口のノズルより原子炉容器内に入る。

5.1.3 二次冷却系の流れ

二次冷却材にもナトリウムが用いられており、中間熱交換器から蒸気発生器を通り、循環ポンプで中間熱交換器に戻す閉回路を循環している。二次冷却系循環ポンプの形式は、一次循環ポンプと同じである。特徴としては、二次系であるため放射線遮蔽が不要なこと、回転軸が一次系のポンプに比べて短いことなどである。大きさは、高さが約 5m、外径が約1.7mある。

蒸気発生器は、蒸発器と過熱器の組み合わせになっている。中間熱交換器の伝熱管側出口からは約505℃、約1.8気圧の高温側ナトリウムが出てきて、蒸気発生器を通り抜ける間に、ヘリカルコイル(伝熱管)内の水と熱交換し、熱を奪われて約325 ℃のナトリウムとなって出て行く。

5.1.4 蒸気発生器内の流れ

蒸気発生器と過熱器を合わせて”蒸気発生器と呼ぶ”。構造はほぼ同じだが、蒸発器は水から蒸気を作り、過熱器は蒸発器から出た蒸気に、さらに熱を加えて加熱蒸気を作る。どちらも伝熱管はコイル状に巻かれたものを多数使用しており、その外側を二次冷却材(ナトリウム)が流れるようになっている。蒸発器の場合、水は上部の給水入口ノズルから導入された後、伝熱管に分かれて下降し、最下部で上向きに方向を変え、コイル状(ヘリカルコイル)に巻かれた伝熱管内を上昇しながら外側のナトリウムによって加熱され、蒸気となって上部の蒸気出口ノズルから出て行く。伝熱量は、蒸発器、過熱器合わせて約238MW、大きさは蒸発器が外径約3m、高さ約13m、過熱器が外径約3m、高さ約10mある。主要材質は、蒸発器が低合金鋼(クロムモリブデン鋼)、過熱器がステンレス鋼である。

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