ゴー宣ネット道場を題材に保守思想の講義をやってみる
ゴー宣ネット道場でトッキー氏が読者からの投稿メールを紹介するかたちで
私を批判してきたわけですが、そこに保守思想について書かれていました。
紹介しているということは、それを評価しており、
小林よしのり氏周辺における保守の思想は
この程度だということを物語っているということです。
レベルとしては高くはありませんが、
これを教材に保守の思想について解説するにはちょうどいいかなと思いました。
これからちょっとした保守思想の講義をお楽しみください。
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1.保守思想とは「古き良きもの」を守る考えかたです。
さらに「より古きものはより良きもの」と考えます。
言うまでもなく天照大御神は神武天皇より古く、
女系論は天照大御神を最重要と考えますので、
男系論より古く、より良きものということができます。
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「より古きものはより良きもの」という考えは、何を根拠にしているのでしょうか。
この方の個人的な感想?
私がこれまで目にしてきた保守関連の書物で、
より古いもののほうが良い、などという考え方を見かけたことがありません。
この方の個人的な感想なら、保守思想とは何の関係もありません。
《保守思想とは「古き良きもの」を守る考えかたです》
というところで、すでにおかしいのです。
出発点のところで保守思想の理解を間違っている。
保守思想というのは、「古いもの」を守るのではなく、
「長く続いているものは良きもの」であるとして守るのです。
長く続いているということは結果的に古いのであって、
古いという理由だけで守るわけではありません。
なぜ「長く続いているものは良きもの」かという言うと、
良きものしか長く続かないからです。
保守思想というのは、一世代の人間の理性は不完全であると考えます。
人間が世の中を設計できるというのは理性万能主義による思い上がりであり、
人間の知性には限界がある以上、
人間社会というのはそもそもうまくいかないと考えたほうがいいのです。
人間社会というのはそもそもうまくいかないんだけど、
時間によって調整が加わることで、何とかうまくいくようになっていく。
一世代の人間は不完全であっても、幾世代もの叡智が積み重なることで、
その不完全を補うことができるのです。
すなわち先人の叡智は、古いから価値があるのではなく、
積み重なっていること、長く続いていることに価値があるのです。
ですので、そのような保守の考え方からすると、
「より古きものはより良きもの」というのは、
何を言っているのか意味がわからないということになります。
そして、皇室の男系継承は古いから価値があるのではなく、
それを守るために様々な知恵を積み重ねがら続けられてきたことに
価値があると考えます。
太古の時代には宮家のような傍系継承という考え方はなかったと思いますが、
男系継承を続けるための叡智として、宮家はつくられました。
宮家は太古の時代から存在するものではありませんが、
太古の時代から続く男系による継承を続けるために考えられた
先人の叡智なのです。
また、皇位継承危機にあたっては、
当時、皇族ではなかった継体天皇を探し出し、
お迎えにあがったのも男系の皇統を守る先人たちの叡智です。
皇室が男系継承を続けていなければ、
ここまで長く続くことはなかったのではないかと私は考えています。
長く続いてきた男系継承には、
皇室を永続させる叡智が詰まっていると考えるべきではないでしょうか。
ちなみに天照大神(女神)のお子が女系継承にならないということについては、
すでに説明してますので、それを参照してください。
天照大神の子は女系継承にあらず(初級編)
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2.保守思想の「古きもの」の守備範囲は神話や伝説が含まれます。
むしろ、そこに民族の精神が宿っていると考えます。
男系論は神武天皇という実在を根拠に展開され、
神話を断絶させる唯物論であるようにいます。
Y染色体や現代医学や確率論などの主張は
まさに唯物論(=科学信仰)的心境の表れです。
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保守思想というのは人間の不完全性を補うために
伝統を重んじるということをすでに述べましたが、
そこに神話や伝説が入るかというと微妙なところです。
神話に登場する神と人間は異なるからです。
そこで私はどのように考えるかというと、
神話をベースに積み上げられてきた伝統を重んじるということです。
例えば、皇祖神である天照大神は女神なので、
皇統は女系であっても構わないという見解が少なからず見られますが、
天照大神が女神であることが現代になって突然わかったわけではなく、
その前提で二千年以上歴史は積み上げられてきたわけですから、
当然、神話は男系による皇統を示していると考えるのです。
歴代天皇も天照大神が女神であることを知っていて、男系継承を続けてきたのです。
その歴代天皇によって積み上げられてきた歴史を継承することが、
神話も重んじることになると考えます。
神話と歴史は連続していると考えれば、そのような解釈になるでしょう。
歴代天皇による男系継承と切り離して、
神話を持ち出して女系容認を主張することこそ、
むしろ、神話と歴史を断絶させる考え方であると言るのではないでしょうか。
歴史を否定して神話を奉る新手の新興宗教と見なされても仕方がありません。
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3.「2000年続いた男系は時効だ」という反論があります。
「時効」とは物権法の「時効取得」の概念です。
「時効取得」とはある物を取得した経緯が「不明」「不正」であっても、
一定期間経過すれば所有権が発生するというものです。
長くなりますが、保守思想の始祖たるバークは
フランス革命に対して「時効」の概念で英国王室の正当性を主張しました。
英国王室はフランス人の侵略から始まり、
ピューリタン革命で王が斬首、名誉革命で本来の王は追放、
オランダ人を王に据えるという経緯があり、
その正統性には「不正」と「不明」が満ちております。
バークは「名誉革命後、英国の王制は100年間上手くいっているから時効だ」
というほか、無かったのでした。
ところが皇統は我が国の始まりにまで遡ることが可能で、
我が国で最も正統性があります。
皇統に「時効」の概念を当てはめる事は
「皇統の始まりは不正、不明である」と言っていることに等しく、
不適当であるばかりか、汚らわしく感じます。
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これについては、すでにここまで読んでいただいている人は
おわかりだと思いますので、説明は不要かと思いますが、
念のために解説しておきます。
時効というのは、時間には効力があるという考え方です。
先にも述べましたがおかしなことは長く続かないので、
長く続いていることには価値があるということです。
なぜ価値があるかというと、幾世代もの取捨選択に耐え抜いてきたものこそ、
残るべくして残ってきたのだから、
そこには現代人にはわからない叡智が含まれていると考えるからです。
そもそも保守思想の時効というのはそういう考え方のことであって、
物権法の概念がベースになっているわけではありません。
ちなみに物権法の時効概念とは、
取引の安全性確保のため長い事実関係を尊重するという考え方です。
最初が不正であったかどうかというのはどうでもよく、
事実関係が長く続いていることを重要視するのです。
誰も文句を言ってこない状態が一定期間続いたのであれば、その事実を認めると。
でなければ、実態と名義が違うという状態が続けば、
その土地を買いたいと思う第三者が安心して購入することができず、
取引の安全性が損なわれるということです。
動産の即時取得も同じ考え方です。
時間に効力を認めるという点では、保守思想の時効概念に似ていますが、
それはあくまで時間部分であって、不正や不明などは何にも関係がありません。
バークもそのようなことは言ってません。
勝手な妄想レベルの話です。
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4.「古き良きもの」の反対は「悪しき陋習」です。
側室なき男系継承は皇室に入る女性に多大なる負担を課し、
ついには皇統の危機を招くに至り、「悪しき陋習」と言わざるを得ません。
「悪しき陋習」は積極的に改革し、伝統の精神を守る必要があります。
伝統の精神とは君臣の別、承詔必勤などであり、
「旧宮家復活案」は伝統の精神を死に至らしめる愚策です。
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保守の思想についてはすでに話は終わっているのですが、
念のため解説しておきましょう。
「古き良きもの」になるのか「悪しき陋習」になるのか、誰が決めるのでしょうか。
ここが保守思想の胆なんです。
伝統という客体(客観)を認識するのは主観(理性)です。
伝統という存在は確かにあるんだけれど、
それを認識するのはどこまでいっても理性なんです。
先ほど理性について人間の不完全性の話をしましたが、
伝統について考える理性も当然不完全となるのです。
でなければ「おれの考える伝統が正しい」と言い出す人が出てくる。
だから、まずは長く続いているという事実を尊重するのです。
長く続いているものは絶対ではないが、まずは尊重するという姿勢です。
男系継承は二千年続いているのだからまずは尊重する。
尊重しながらこれからどうするのか、ということを考えていくのが保守思想です。
それを「悪しき陋習」と決めつけてしまうのは、
まさに理性を万能視する左翼・革新思想の発想と同じなのです。
二千年続いたことを、「悪しき陋習」かどうか
現代人が裁くことができるという考え方です。
おかしなことは長く続かないという考え方に立てば、
そもそも「悪しき陋習」が二千年も続くでしょうか。
例えば、男系継承が悪しき陋習なのではなく、
男系を維持するための方法の一つに悪しき陋習があるというのならわかります。
二千年以上続くものが悪しき陋習なら、いったい何が伝統になるのか、
というレベルの話になってしまいます。
男系継承は悪しき陋習でなく二千年続いた価値のあるものだが、
このままでは続けることができない、という主張なら理解できますが、
「続けることができない=悪しき陋習」と決めつける思考法はいかがものでしょうか。
私が女系容認派に疑問を持つのは、その主張以前に、
現在の結論を導き出すために歴史的事実の意義を否定することです。
男系継承で続けてきた歴史的事実は重たいが、
これからも続けることは難しいのではないか、という主張ならまだ理解できます。
私は状況論は重要だと思いますが、
状況論から歴史的事実をねじ曲げる思考法が許せないのです。
女系論者は気づいていないのかもしれないが、
現在の結論(理性)を導き出すために歴史を否定するのは、
理性万能主義の根拠に進歩主義を持ち出し、
歴史を否定したマルクス主義史観と構造はまったく同じなのです。
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5.保守思想は「死者や祖先にも投票権を与える」という考え方です。
それでは歴代天皇はどのような投票行動をされるでしょうか?
例えば明治帝は現状の皇統の危機、雅子妃殿下の病状、平成の国民の様子、
世界の状況を鑑みてどのように考えられるしょうか?
光格帝は?後水尾帝は?
後醍醐帝は?推古帝は?神武帝は?
私にはどの天皇も男系維持に投票するとは思えません。
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死者と祖先は同じなので、死者と子孫でしょうか。
保守思想でよく言われる「墓の下の民主主義」、
すなわち祖先も一票を持っているという考え方は、
現代人の理屈だけで勝手に伝統を無くしてはいけないということです。
この方が言っているのは、歴代天皇も現代の理屈で投票してくれたら、、、
と言っているのであって、これは「墓の下の民主主義」でも何でもありません。
例えば、子孫がどのように投票するか、なんてことを考えても仕方がないので、
子孫も万世一系の天皇を戴く権利があるのだから、
現代人の理屈で勝手に変えてしまうことはやめようと考えるのが
保守の思想なのです。
先人たちから受け継いだものを子孫に引き継ぐ。
これが保守思想の基本的な考え方になります。
以上、保守の思想について解説しました。
小林よしのり氏周辺の保守についての認識はこのレベルですが、
高校生や大学生に保守の思想について基本的なことを解説しているようで、
やりやすかったです。
このような素材提供はいつでも大歓迎です。
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