広域計画と地域の持続可能性〜地域活性化の視点から〜
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広域計画と地域ツーリズムの関わりとは

 

■はじめに

 地域をどう活性化していくのかというお話が瀬田先生からありましたが、最近、注目されているのが観光とか地域ツーリズムです。定住人口が減少していくなかで、交流人口への期待が高まっているわけです。そのために、地域の資源、魅力を生かしながら、いかに持続可能な地域づくりをしていくかが、求められています。今日はその観光や地域ツーリズムと広域政策の関係について、お話をしていきたいと思います。

 
 そこで今日は、

 (1)地域ツーリズムと持続可能な広域計画とのかかわりとは?
 (2)地域ツーリズムの振興と広域的な地域づくりの経験に学ぶ
の2点についてお話したいと思います。

 また、事例としては
 (1)南房総観光圏、

 (2)南信州地域における広域観光、

について、お話を進めてゆきたいと思います。


■1。観光振興における広域概念の必要性

 ところで、なぜ観光において広域概念が必要なのでしょうか。

 観光客は行政区域を特に意識することはありません。自らの旅行の目的に応じて、あるいはその地域のイメージに応じて、観光の範囲を自由に発想します。

 また目的地への距離に応じて、周遊範囲を拡大します。たとえば遠くからくると、一つの場所だけではなくて、幾つかの場所を回ってみたくなる。海外からくればもっと大きな範囲を回ってみたいということがあります。

 一方、旅行業者は、お客さんがそのように行き来しますから、当然、行政区域は意識しないわけです。また旅行商品を効率よく販売できる、そういった地域単位を考えて旅行商品をつくっています。

 それにたいして市町村は自分のまちの観光振興を発想しがちですが、それでは観光客にも旅行業者にも相手にされません。

 観光計画を広域的に立案する必然性がここにあります。

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 また近年ではアジアが豊かになって、アジアからのお客さんを国内に、地域に呼び込むことが模索されています。そのとき、観光振興における空間的なカスケードは、日本全体とか、地方ブロックとか、そういった大きな範囲でも考えていかなくてはなりません。


■2。持続可能な地域づくりと地域ツーリズム

 持続可能な地域づくりはよく言われていますが、それと地域ツーリズムの関係についても、整理しておきたいと思います。

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 持続可能な地域づくりには、経済、環境、社会・文化のバランスの取れた開発が必要だと言われます。また経済と環境、経済と社会、社会と環境、こういったものの順循環、好循環が生まれるような地域づくりのスキームが必要です。

 地域ツーリズムは、地域資源を磨いて活用していくということになりますので、環境とか、社会・文化という面でも、活性化とか、環境の保全においても、意味のあるアプローチであると思います。

 また当然、観光の経済効果も期待できます。とはいえ、京都のような特A級の観光地のようにはいかないかもしれません。小さい地域なりの経済効果なら期待できます。

 また、公共投資により箱物をどんどんつくっていくということではありませんので、財政支出は少なくてすみます。夕張の例を引くまでもありませんが、地域間が箱物で競争してしまうと、負債と維持管理費が増大して、財政リスクも高まります。地域間競争に負けたときは問題が一層深刻化します。

 ですから財政支出がすくなくてすむ観光というアプローチは、行政にとっても魅力的と言えます。

 こうした順循環をつくりだすことによって、持続的な発展とか、生活の質の向上をしていく。住んで良し、訪れて良しの地域づくりの持続性が言われているゆえんです。


■3。地域ツーリズムと広域計画

 では地域ツーリズムと広域計画の関係はどんなものなのでしょうか。

 さきほど、観光や地域ツーリズムは一つの行政圏に囚われないという話をしましたが、それを広域計画という観点から整理をするとどうなるのでしょうか。

 地域ツーリズムは滞在・交流を通じて地域の風土・文化を楽しむことが基本となります。そういった意味では共通する自然・歴史・文化を背景に、観光客がイメージしやすい地域範囲を選ぶことになります。

 それに対応して広域的な拡がりをもつことで、地域側は、多彩な観光資源を取り込め、回遊ルートやプログラムの多様化を図ることが可能になります。

 こうした多様性・選択性は、滞在観光を惹きつけ、リピーターの獲得、観光の通年化にもつながることが期待されています。

 ここに広域計画が必要な大きな要点があります。

 ではどういう広域計画が必要なのを示すと、下記のものになります。

     
    〈計画の対象領域〉
     ・地域ブランドづくり(地域を売り込むという観点)
     ・交流・体験・学習を含む観光・ツーリズム機能の強化(着地型の地域の資源を生かすツーリズム)
     ・(その舞台となる)風景づくり・街並み整備、
     ・周遊のための観光交通の拡充(定住人口だけで生活交通を維持することが難しいので、観光も取り込もうという観点もある)
     ・情報発信の一元化
 
 このように幅広い領域が対象となりますから、当然ながら、関係する自治体、観光業、運輸業、農林水産業、まちづくり、環境グループなどの幅広い連携が必要になります。

 しかし、実際にはそれはそんなに簡単ではありません。関係自治体や業界の観光に対する考え方の違い、成熟度も違いがあるということです。ですから最初から完全統合型の運営を目ざそうとしてもうまくゆきません。絵に描いた餅です。

 そういった意味では、関係機関が地域ツーリズムのビジョンを共有して短期、中期、長期の計画を連携して推進していくこと、このように長い目をもって、併せて組織もつくっていくことが重要だと思います。

 そして機能と空間の双方から、統合すべき物と、重層化や緩やかな連携で対応できるものを分けつつ、広域計画を企画する必要があります。

 たとえば統合的な取り組みが必要なものは、(1)観光地域としてのブランド形成、(2)観光情報の一元的提供、(3)観光交通ネットワークなどです。

 一方、各地区の観光イベントや体験学習・交流プログラムなどは緩やかな連携で対応できるかもしれません。むしろ観光ビジョンやストーリーのなかで位置付けて、そして情報発信をしていくというアプローチがあると思います。

 ただ、お客さんは一つの観光地域として理解するわけですから、そこの質のコントロールは重要になってくると思います。そうしないと観光ブランドの形成ができません。いったん、なにか悪い問題がおきてしまったり、悪い印象を持ってしまわれると、その方はリピーターではなくなってしまいます。

 そういった意味では、観光イベントや体験学習・交流プログラムなどでも、ある一定の質を保つ工夫が求められます。

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(C) by 瀬田史彦・戸田敏行・福島茂 & 学芸出版社

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