広域計画と地域の持続可能性〜地域活性化の視点から〜
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

 

質疑応答

 

 

■税をどうするか

今川(同志社大学政策科学部)

 県境を越えた地域の連帯に関心があって参加しました。これがないと日本は立ちゆかないのではないかと思います。

 いわゆる福祉,保健、医療等は行政の壁があって、三遠南信地域なら長野、愛知、静岡に分かれていくわけですね。そのなかで三遠南信地域の経済活性化の仕組みは独自に動き、住民の生活はそれぞれ県の税金でもって行われるということで宜しいのでしょうか。

 もう一歩進んで、三遠南信の経済循環を促す、独自の税の仕組みを考えて行くべきではないでしょうか。そうしないと自立した地域にならない、交付金ということだと相変わらず中央政府の干渉が避けられないのではないかと思います。

 また企業が収益を上げたとしても、県や国に税収がいってしまうと、三遠南信地域への再投資に繋がらないのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

戸田

 有り難うございます。今川先生には三遠南信地域での市町村合併のときもご指導をいただきました。

 おっしゃるとおりで、県税を含めて税をどうするのかは大変難しいことであると思います。

 
 仮に市町村がお金を出し合っても、そういうことまでやっていくことができるんだろうかという問題もあります。

 
 また、税金から再投資すると使い方が制限されるので、むしろ減税という形で、そこに企業活動が活性化するような
ことが良いかも知れません。

 もう一つは、官民の準行政体というような考え方がとられるとすれば、そこに交付金なんかをもってくるという形ができないかな、ということです。福祉も含めて、特定目的の準行政組織、目的を限定した準行政組織に交付金を持ってくる、

特に国との交渉権を持つということができると面白いことができるかもしれないと思います。

 ただそういうことをやっていくには、単独の地域では動かせないので、日本全体として、こういう端のところを編み上げる、基礎自治体から編み上げるということが、どれだけ意味を持っていて、効果があるのかを示していかないと難しいと思います。

 話は勇ましいのですが、実際には動きづらい、小さなことの積み重ねかな、と思います。ただ最近、県境の自治体は数が多いですから、全国でそういう自治体の同意を得ながら前進していくというやり方、横を見ながら全体で一歩一歩上がっていくという形で、次の変化を知らず知らずに行っていたというほうがやりやすいのではないかと思います。


■市町村合併と県境を越えた連携の関係は

高橋(近畿大学)

 市町村合併が進んでいますが、三遠南信地域のなかで越県合併の話が出たのかどうかを教えてください。

戸田

 県境を越えた合併ですが、地図を見て頂くと愛知県と静岡県の間に浜名湖がありますが、浜名湖の西岸でありながら
静岡県になっているエリアがあります。

 下の方は湖西市という市ですが、これは元は吉田藩で、生活圏が豊橋側になります。ということは政策も一体が望ましいわけです。 大体徳川側の藩は、県ができたときに大概割られているのです。

 合併の議論のなかで一緒が望ましいという話もありました。

 ただし、湖西市はスズキがあったり、経済の非常に豊かなところですので、合併そのものに動きませんでした。逆に言うと、浜松市との合併にも動きませんでした。

 また合併で大きくなった市が、県境を越えた動きに出たかというと、そういうことでもありません。浜松市と飯田市について言えば、浜松市の中山間は合併をすることによって中心地が非常に遠くなるという住民の声がありました。むしろ飯田市のほうが近い。だから合併したことによって住民生活を守るために県境を越えていくことになったと言えます。

 合併して自治体が大きくなったから、より大きな県境地域づくりではなくて、これは住民生活が疎外されるから県境を越えようという動きと言えます。


■他地域の動きは

高橋

 また、ほかの地域でも県境地域でも連携が模索されているということでしたが、他の地域から先生や先生がお勤めのセンターに問い合わせや相談があったのでしょうか。

戸田

 ほかの地域でも動きは、結構あります。

 この付近ですと、鳥取と島根の県境、松江・米子のある中海地域です。定住自立圏を進めていますが、定住自立圏の個別事業計画以外に独自の地域構想をあわせて作っています。

 また九州は熱心です。九州は道州制を念頭においていますが、県境に接した市町村も約80あります。それを連動させることで道州という全体の枠組みに近づくような政策になるんじゃないかということで、取り組んでおられます。


■社会的企業と地域活性化について

久保田(立命館大学)

 さきほど地域ソーシャルイノベーション、雇用創出、社会的企業といったお話が出ていましたが、自分自身そういった企業で働きながら学生もしているのですが、まだ会社としてもビジネス環境としても難しいと感じています。

 どういうビジネスが立ち上がりつつあるのかというところと、今後、社会的企業を地域活性化の主要なアンカーとして捉えていくときに、どのような戦略をたててゆく必要があるのかを教えてください。

瀬田

 私はコミュニティ・ビジネスは専門ではないのですが、今日の広域計画の話で言うと、広域だとちょっと語るのが難しいのではないかと思います。地方の都市圏の自律的発展を考えるとき、ローカルレベル、市町村レベルだと、コミュニティ・ビジネスや社会的企業の活動が、市民、行政、あるいは農協とか、そういったところが協力してさまざまな活動をしている。やはり地域スケール、たとえば一市町村単位くらいのスケールで行うのが理想だし、そういう事例は多いかなと思います。

 事例としては、私と一緒に研究しているに社会人大学院生の田代さんが、秋田県のJA秋田やまもとを調べていますが、農産物を給食に提供したり、農協のコンビニをつくったり、あるいはそこでじゅんさいがとれるので他の地域に売ったりしています。それも、あるものは本当に外に対して売るのですが、あるものは地域の小中学生に比較的安い価格で提供するなど、社会的企業的な面と商売をうまく組み合わされてやられているわけです。

 それはある程度、顔が見えるような関係でないとできないし、それがあってはじめて地域として成り立つという物だと思います。それを地域ソーシャル・イノベーションと言っているわけです。

 そういう活動はほかにもいくつかありますが、広域的な話に戻ると、なかには都市部で食に興味をもっている団体と、農村部で実際に農産物をつくっている団体が、生協という形で結びついて協力している例もあります。

 そういう意味では、広域的な取り組みも進みつつあるのだろうと思います。

 それは今、研究しているところです。

戸田

 私もそんなに知らないのですが、急遽、やりはじめたところです。

 さきほどの地域社会雇用創造事業は去年の補正予算で、生まれた事業です。

 全国で12団体がやっています。ほとんどがNPOです。国としては一つのNPOにたいして数億の交付金を組むのは珍しいですね。

 代表的なのは「いろどり」さんですが、そこで研修して次の社会企業に繋げようという例が順当です。我われのところには、そういう飛び抜けた例がなくて、基本的には地域でいろんなトライをしようと考えています。

 研修できる社会的企業自体がまだ、多くないでしょう。

 そこで今あるNPOや企業を社会的企業化していく、NPOなら経営がまわるようにしていくのが重要ではないかということで、そういうパターンを取っています。

 ただ、探ってみると地域内にも結構ありました。浜松で女性の方がやっているのですが、抗ガン剤で毛が抜けた方のためのカツラ(ウィッグ)を開発した方がおられます。中国まで単独でいって、安価にウィッグを買ってきて、美容のケアーも行っています。また農業や林業など地域の地場産業も結構あります。

 しかし私がいま言いたいのは、企業が社会企業化することです。企業の方に変わってくださいと言っています。社会企業とは、社会需要がマーケットだということです。マーケットがそこにあるのだから、今ある企業がそのマーケットに向かっていく。

 福祉介護の報酬が変わるなら、公共事業だった領域が民間事業化していく可能性があるので、そういうことに社会事業として取り組んでいく。その中間母体にNPOなどが関与するということが考えられます。

 JCなんかもそういうことを考えています。これから人口が減ってやがて人が雇えなくなるとすると、皆さんどうやってビジネスやるんですか、人に働いてもらうんですか、という時に、トータルな生活像を描いて人を雇う。リタイアしたあとNPO等で働くといったことも含めたライフデザインを、企業の人事として考え貰う。地域で働ける、生涯生活できるというトータルデザインを提示しないと難しいでしょう。

 それから雇用そのものも、人材と企業がマッチングしてみないと分からないですよね。3年生、4年生で就職に時間をかけて卒論もできないというのが多いですね。ところが就職してしばらくすると何割もやめてしまう。というふうに考えると、企業側から見れば働ける人材をいかにとるかがもっとも重要なことです。

 営利企業が社会事業化する。企業の経済的持続性と社会的持続性がクロスしていく。そういう方向は結構納得してもらえるように思います。

 もうひとつだけ言わしてもらうと、ビジネス起こしは地域でずっとやっているのですが、ビジネスコンテストをやり、ここ10年くらいで500ぐらい採用されました。そのなかで150ぐらいが残っています。たとえば車いすの改造をするようなビジネスです。

 残っているところの最大の特徴は、大きなビジネスにしていないことです。小さくて満足している。個人としても専業ではなく多業している、農業しながら務めているとか。だから小さなビジネスで良いとなります。それは我われのエリアが、そういうことができる集積があるからできるのかもしれませんが、結構こうしたビジネスが残っています。

 社会的企業というとえらく大変そうですが、非社会的企業というと、そんなものはほとんどないです。だから社会的企業の枠をずっと広げていくことが重要なんじゃないかと思います。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見は前田

(C) by 瀬田史彦・戸田敏行・福島茂 & 学芸出版社

著者イベントページトップへ
学芸出版社ホームページへ