街の遺伝子(レジュメ)
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基調講演

都市環境デザインを考えるヒント

映画監督 大森一樹

 

「創造力」と「想像力」の方程式

 最近、 自分が物を考えるにあたってのヒントとなる法則を見つけた。 絶対の真理とか、 定説とかなどという怪しげなものではない。 ささやかな公式、 方程式のようなものだ。

 その一は、 A+B=C。

 これは、 映画の世界ではモンタージュ理論と呼ばれているもので、 AというカットとBというカットとを編集で繋ぐことによってAでもBでもない全く新しいCが創り出されるというものである。 それはつまり、 Aというイメージ(情報でもいい)とBというイメージ(同)を合わせることで、 AでもBでもない全く新しいCというイメージ、 情報になるということである。 これが創造力の公式。

 その二は、 A=B B=C ∴A=C。

 中学の数学で習った公式だが、 これは人工知能のコンセプトでもあるそうだ。 A=Bという知識・情報と、 それとは別のB=Cという知識・情報の二つから、 三つ目の新しいA=Cという知識・情報が生まれるというのが知能なのだ。 膨大なA=B B=Cを与えれば、 膨大なA=Cが生まれ、 それがさらに次の新しい知識・情報となり、 限りなく知能が機械的に膨れ上がっていくというわけである。

 さて、 ここからは私論なのだが、 では、 人工知能と人間の知能とはどこが違うかといえば、 人間には、 さらにA=B B=C ∴A=Cもあるということである。 BとBは一見違うものである。 しかしながら、 よく見、 考えてみるとBとBとは実は本質的に同じものと認められるというのが、 人間と人工知能との違いではないか。 人間には機械と違ってB=Bと認知できる能力があり、 それ故、 A=B B=C ∴A=Cだけでなく、 A=B B=C ∴A=Cもあるということである。

 そして、 そのB=Bこそが想像力と呼ばれるものだ、 というのが私の考えで、 これが想像力の公式。


想像力がデザインをつなぐ?

 いささか、 前書きが長くなってしまった。

 ここに都市の環境デザインを考える作業が三つに整理されている、 「住まう」「伝える」「創る」。 もうおわかりだと思うが、 この三つをA、 B、 Cにして、 創造力と想像力の公式に当てはめてみようというのが、 私の意図である。

 A=「住まう」、 B=「伝える」、 C=「創る」とすると、 創造力の公式、 A+B=Cは、 「住まう」+「伝える」=「創る」となる。 どうだろう、 なかなか、 都市環境デザインの創造力をついているだろうというのは、 私のはしゃぎすぎとも思えないのだが。

 さて、 問題は二つ目の想像力の方である。 A=B B=Cは、 それぞれ、 「住まう」=「伝える」、 「伝える」=「創る」となり、 故に「住まう」=「創る」。 うむ、 これはいかにも苦しい。 いかにはしゃぎたがりの私でもこれは。

 ただ、 「住まう」=「創る」という結論は、 これまたなかなかのものだと思う。 ならば、 「住まう」=「伝える」、 「伝える」=「創る」にB=Bの公式、 つまり想像力を働かせることだ。

 「住まう」とは「住むことを知る」ことではないか、 「伝える」とは「知っていることを発信する」ことではないか。 では、 「住むことを知る」=「知っていることを発信する」には何が必要なのであろうか。 そして、 「知っていることを発信する」から「創る」へは。 どうやら、 そのあたりに都市環境デザインの想像力はあるようだ。


大森一樹(おおもり かずき)
1952年3月3日、大阪市生まれ。77年第3回城戸賞を『オレンジロード急行』で受賞。80年京都府立医科大学卒業。83年医師国家試験合格。86年『恋する女たち』(東宝)にて、文化庁優秀映画賞、第11回日本アカデミー賞、優秀脚本賞・優秀監督賞、受賞。88年文部省芸術選奨新人賞受賞。96年『わが心の銀河鉄道〜宮沢賢治物語』(東映)にて、第20回日本アカデミー賞、優秀監督賞、受賞。2000年4月より大阪電気通信大学総合情報学部メディア情報文化学科、教授。著書に『映画物語』(筑摩書房)『震災ファミリー』(平凡社)『あなたの人生案内』(平凡社)など。


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