かたちと関係の風景デザイン
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風景と風土の関係性

 

風景として取り入れられる生産の場―牧歌的風景とテクノスケープ―

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棚田
 棚田です。 多くの方が「これは大変美しい風景だ」と思われるでしょうが、 もちろん棚田そのものは風景のためにつくられたものではありません。 「お米をたくさん作りたい。 無理なところにも田んぼをつくってお米を生産したい」という気持ちから棚田が生まれたわけで、 当初は風景というより、 きびしい労働の場と認識されていました。

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プチ・トリアノン
 生産や労働の場を風景に読み替えた様々な例は、 昔からあります。 ベルサイユ宮殿のプチ・トリアノンもそうです。 ここは、 イギリスで流行っていたピクチャレスクガーデンを初めてフランスに持ち込んだといわれていますが、 少し違う点があります。

 ピクチャレスクガーデンの場合、 通常牧草地の風景を取り入れています。 牧草地の風景は、 動物が勝手にうろうろして生産活動を行ってくれる、 いわゆるレイバーフリーのユートピア思想に結びついています。 ですから、 風景となりえたわけで、 労働を想起させる畑作地は決して表現されませんでした。

 それまでは風景として麦畑のような畑作地が取り入れられることはなかったのですが、 プチ・トリアノンでは牧歌的な風景として取り入れられています。 それは畑作という労働と最も遠いシチュエーションだからこそ可能だったと思われます。

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修学院離宮
 修学院離宮も同様です。 これも上皇の離宮ですから、 敷地の中に田んぼを入れる必要性は全くありません。 ただ「離宮の風景として取り入れたい」ということで敷地の中に田んぼがあります。 上皇という農作業から最も遠い人にとって、 はじめて田んぼが牧歌的風景となるわけです。

 余談ですが、 ここは今でも農民の方が耕されているのですが、 その方達は国家公務員扱いになっているということです。

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アマンダリ
 アマンダリというバリの高級リゾートです。 80年代に高級リゾートのセオリーが「海際のビーチサイドに大型の近代的なビルディングがある」だった頃に、 「田舎の風景がある場所にローカルな建築様式を模した小さいヴィラが立っている」という新しいリゾートのスタイルを打ち出しました。 これも、 都会で忙しく働くエグゼクティブという農作業に最も遠い人達によって認識された「風景」です。

 この後、 農村的なリゾートがたくさんできました。

 これは、 アマンダリの一番いい部屋から見た風景です。 手前の部分の棚田は、 アマンダリがお金を出して雇った近所の人が管理しています。

 ここでは二つのことがいえます。 一つは労働の場としてしか取り扱われなかった農作地が、 ながめる対象という機能のすり替えによってはじめて風景として取り入れられているということ。 もう一つは、 美しい風景が存続するためには、 その時々によって状況を解決したり捉えなおし、 方法論を見つけていく必要があることです。

 先程の棚田の風景は非常に美しいのですが、 社会状況が変わって「お米をたくさん生産しなければいけない」という必要がなくなると、 あの風景は必然性を失ってきます。 「美しいから補助金を出して何とかキープしよう。 手をつけないでそのままおいておこう」というのは長い間には無理があります。

 美しいからといって東京の都心部に棚田をつくるわけにはいかないのと同様、 地方の棚田も、 存続させるためには、 エコツーリズムとして利用したりといった機能の読み換えが必要になってくるのです。 。


テクノスケープの可能性

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オランダの防風堤【出典??】
 もうひとつ、 生産の場が風景に読み換えられた、 現代的な例としてテクノスケープをご紹介します。

 これは、 オランダの防風堤です。

 これはただ単に風をよけるためにつくられた構造物ですが、 ミニマルアート的な美しさがあって、 様々な雑誌などで風景として取り上げられています。

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エムシャーパークの広場
 ピーター・ラッツのデザインしたエムシャーパークの広場です。 これは、 もともと風景としては捉えられていなかった工場を、 発想の転換によって「美しい」と捉えたものです。

 土木的構造物である工場の跡地を公園にするとき、 全て取っ払うのではなく、 敢えて残して様々なプログラムが発生する場をつくっています。

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ウエストエイトの広場
 ロッテルダムのウエストエイトの広場です。 これももともと大きな港にあったクレーンを、 広場のライティングのエレメントとして取り入れています。 またオランダは人工地盤によって国土が形成されていますが、 そのプラットホームを象徴するようなカーテンフロアーによる人工床面がつくられています。

 テクノスケープは、 どちらかというと醜悪なものと捉えられてきた工業地の風景などが最近になって見直され、 ランドスケープデザインに取り入れられるようになってきたものです。 テクノスケープはブラウンフィールド(産業廃棄地)の問題と結びついていることが多いのですが、 ブラウンフィールドとは、 第二次産業に供されていた工場跡地が汚染されたまま遊休地として残っている、 それをどうしようかという問題です。

 こういった問題は、 汚染などマイナス面しか語られないことが多いのですが、 もともとそのような工場があったところは、 ある時代に産業を引っ張っていたスター的な地位にあったわけです。 地元の人の中には、 プライドを持って工場の生産活動に従事していたんだけれども、 後になって「なんだあれは、 つまらないものをつくって」といわれ、 差別を受けている方もおられます。

 マイナスの側面だけではなく、 それが一時期地域を振興していたプラスの要因だったということを、 テクノスケープによって拾い出しポジティブな未来像を描いていける可能性があるのではないかと思います。 単なる保全や開発ではなく、 こういった現実的な解決と現状のとらえ直しといった試みから、 風土のいきている循環が保たれ、 生きている風景がうまれてくる可能性があるのではないかと思います。

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