現状を前向きに押し出すことが
いい風景をつくる〜プロジェクトの紹介
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ビックハート出雲という出雲市の地域交流センターのプロジェクトです。 95年の実施コンペからシーラカンスと共同してSEDOでやったものです。 出雲市駅がロータリー正面にあり、 その隣が多目的広場、 中央の部分が地域交流センターの建物です。
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出雲はヤマタノオロチの伝説があったところで、 川がたくさんあり、 すぐに氾濫します。 そのため、 集落は中州状に盛り上がっている地形の上に形成されています。 風もきついので、 ツイジマツの植栽を利用した防風林があります。 中州の上の集落とツイジマツは地域の特徴的なランドスケープです。
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そこで、 広場から建築にむけて中州状にむくっている地盤面をつくり、 その中に建築的プログラムを挿入したらどうかと考えました。 また、 空間の分節として、 ツイジマツのユニットを広場や建物に挿入しました。 都市計画への提案として、 このユニットを他の交番や郵便局などの公共施設にも挿入し、 ツイジマツと公共施設のユニットによる分節化によって街の風景をつくれないかと提案しました。 写真はむくっている面の部分模型です。 むくっていると面がねじれてしまうので、 施工の問題やハンディキャップ動線の問題で、 面を三角形に分割しました。 そのうちの一部を立ち上げることで、 みんなが遊ぶような屋外プログラムが発生するきかっけにならないかと考えました。
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ロータリー側から見た全体模型です。 手前にツイジマツのユニットがあり、 そこにサインや公衆電話ボックスなど公共的な機能があります。
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駅方向から見たところです。 盛り上がった三角形の部分は芝地になっていて、 後ろにベンチがついています。 そのてっぺんにLEDが仕込まれています。 当初、 湯気が立ち上がったり音が聞こえたりするしかけも考えましたが、 最終的にはベンチとLEDだけになりました。
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建築内部と外部の床は共に盛り上がって共通のむくりを形成しています。 建築内部は、 盛り上がった床に対してホールがあるところや、 ギャラリーがあるところが穴状に抜けている構成になっています。 写真は完成した状態です。 季節によって表情が違いますが、 冬に撮った写真です。 芝地のところに雪がつもっていて、 そこだけ溶けずに残っています。
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私がS2という事務所を設立してから関わった、 マークス代沢という分譲マンションの仕事です。 東京の渋谷に近い場所で、 元首相の家があったり昔の日本家屋やお茶室が残っているいい地域です。 しかし相続税などの問題があり、 大きな家はどんどん取り壊されて集合住宅になっていっているのが現状です。
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桜の大木や銅板を使ったお茶室があった現場が取り壊される前に撮った写真です。 集合住宅になることは、 一家族が占有していた場所にたくさんの人が住めるようになるという民主的な側面もありますが、 一方で土地の雰囲気と無関係に開発されるという側面もあります。 そこで、 どうやったらこの雰囲気を新しい計画に継承できるかと考えました。 ベストの方法かどうか分かりませんが、 新しい試みとしてアーティストの方に協力してもらいました。 取り壊し前の現場に20人くらいのアーティストに来てもらい、 そこで感じたインスピレーションや、 そこの材料などを使って次の計画に挿入できるものを考えてもらいました。
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商品として成立しなければならないという分譲マンションの命題があるので、 耐久性等を考慮し、 最終的に4人の方に協力していただきました。 もともとあった土地の記憶や軌跡をアートワークとして凝縮して点景をつくり、 その点景を動線上に配置することで計画地内のシークエンスをつくることを考えました。
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藤枝守さん(現代作曲家)と銅金裕司さん(工学博士)は、 もともとあった桜の木から取った電磁波を、 音の波に変換して環境音をつくりました。 いくつかバリエーションがあり、 状況で音が変わります。 (ここで会場には桜の記憶がバックに流される。 )
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須田悦弘さん(彫刻家)の作品です。 木を使ってリアルな植物の彫刻をつくられる方です。 もともとあった桜の木を材料にしてつくっていただきました。
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庄野泰子さんというサウンドスケープをされている方と共同で、 ライトコートの吹き抜け部分に雨が降ると音が鳴る仕掛けをつくりました。 雨が降ると、 植木鉢のような部分に水が溜まってじわじわと陶器の隙間から水がしみ出し、 時間をおいて下の発音体(金属)に当たって水琴窟のような綺麗で高い音が出ます。 雨という自然を、 音に変換することで認識してもらう装置です。
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中瀬浩司さん(彫刻家)は、 もともとあった茶室の銅板の屋根を使って、 ライティングケージを彫刻としてつくってくださいました。 茶室の屋根に木漏れ日があたっていたイメージの再現です。
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全体のシークエンスとしては、 エントランスを入っていくと須田さんの彫刻が左側にあって、 環境音が小さな音で流れている、 奥に水盤があってそこに木が立っている、 という感じです。 夜になると、 ツリーサークル部分の大理石の模様が透かし出されます。 空や周辺の木が映り込んだり、 雨の時には波紋が描かれたり、 風が吹くとさざ波が立ったりと、 水盤は自然を映す鏡になります。
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真ん中の部分がライトコートで、 エレベーターで上に移動するときに水琴窟の音が聞こえます。
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バックヤードです。 中瀬さんのライティングケージがおかれています。 駐車場がこの下にあり、 大きな換気口が横にあるのですが、 それを意識させないように生垣などで奥行きのある構成にしています。 アーティストワークを導入するにあたっては、 当初お施主さんとも施工業者とももめましたが、 最終的には入居者の方にもお施主さんにも満足していただけました。 また、 West8のエイドリアングースがこのプロジェクトを誉めてくれたのにも勇気づけられました。 このような試みがどこに行くか、 はっきりとは言えませんが、 何かのきっかけになればと思っています。
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岐阜県関市の物流センターのプロジェクトです。 「地理的に日本の真ん中にあることを活かして、 物流拠点をつくりたい」という構想を県で検討してきました。 安藤さんがマスタープランを担当された近くのテクノパークとリンクさせる計画でした。
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当初予定されていた造成計画図です。 土木系のコンサルが作成したもので、 ソフトのコンサルタント会社からは「物流拠点にアウトレットモールのようなテーマパーク的複合施設をつくりたい」という提案もありましたが、 県では「こんなにばさっと造成してしまうのか。 複合施設なんかやりたかったわけではなく、 物流拠点をつくりたかったんだ」ということで、 計画の見直しを図りたいという意向がありました。 「本当にあれだけ造成して需要があるのか」という問題をシビアにもう一度見直すということで、 日本経済研究所がその検討を担当されました。 これまでは「面をつくりさえすれば全部売れる」という収支決算をしていたのですが、 それはおかしいということで、 マーケットの方から需要量を算出して、 当初予定されていた面積を半分にしても齟齬がないことがわかりました。 私たちは、 それをどのように敷地に落としていけばいいのかを提案しました。
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まず、 どの部分を優先的に残して、 どの部分に手をつけるのかを判断するために、 敷地の状況をいろいろな視点から分析しました。 その上で、 物流拠点として必要な面積、 大きさをどのようにとれるかを検討しました。 そして、 公園、 調整池など必要な施設を付帯させるため、 四角い面として機能的になる敷地に、 既存の地形や自然が対比的にぶつかる場所を公共施設として挿入し、 新しい風土、 生活感が立ち上がる場をつくることを考えました。 具体的には、 最初の段階で尾根、 谷、 集落、 既存施設の位置を確認し、 「生態系の変換点となるような主要な尾根線や谷線を残す」「景観を構成する重要なハイトップは残す」「分水嶺を変えない」「500mおきに水の流れや小動物のコリドーをつくる」などを検討しました。 集落の正面に当たる部分はなるべく造成せず、 原風景を守り、 災害の可能性を少なくすることを考えました。 また、 開発負担を少なくするために、 既存施設は現存させることにしました。
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以上を検討した上で、 どこにどのように動線を通せるのか、 どこに面がとれるのかについて検討しました。 面の大きさは物流に必要なスケールから割り出しました。 機能に必要な面と動線を設定した後、 調整池や公園をもともとあった地形を活かす形で設定しています。 通常調整池は、 コンクリートで固めたものをどこかに一括して設けるのが土木的な解決法ですが、 この場合はもともとあった谷部分を活かしてそれを堰き止める形にしました。 写真は全体の鳥瞰パースとセンター部のパースです。
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このように、 新しい機能ともともとあったものが融合、 対比する場をつくることで、 単純に新しい機能を置くだけではない風土の生きる「場」を発生させたいと考えました。
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もともとある造成計画を活かして何ができるかを考えたスキームです。 通常の土木的な造成では、 既存の自然地形を平らにならすので、 切土と盛土がバランスするところでスパッと切って雛壇状に長方形を造成していくことになりますが、 そのようにしてしまうと現状の地形や自然がまったく残らなくなります。 切土と盛土の境の切り返し線の部分は、 理論上は既存の状態で残る一定レベルの線つまり等高線です。 そこを造成が行われた後にも緑道として残すことによって、 もともとあった地形や植生を残せないか、 その緑道を新しい計画の歩行者ネットワークや生態系のコリドーにできないかと考えました。
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断面図です。 もともと斜面であった部分を残すので、 両側が整地されてもそこは斜めで残ります。 両端に簡単な擁壁が出来ますが、 その他の部分は自然の等高線や植生がそのまま残っていることになります。 この緑道が新しい計画の広場や公園とネットワークされていきます。 もちろん、 両側がなくなるので生態系がそのまま保存されることはありませんが、 何らかの形で残ります。 この緑道がコリドーとなって新しい生態系が形成される、 あるいは工事の時にバッファとなって一期工事と二期工事の間でもある程度環境が保たれるなど、 他にもいくつかのメリットがあるのではないかと思います。
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造成案の切り盛り線をそのまま緑道として残したら、 このようなルートになります。 ここを散策路として最初に整備してしまいます。 造成が進むと最終的に緑道の周りは宅盤になりますが、 緑道とつながる緑地部分が残ります。 このようなパターンは、 棚田や農耕地で、 水路の部分にだけ既存植生が残っている場合に似ています。
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ヨーロッパの風景です。 牧草地の中の水路沿い、 一番低い等高線上に既存植栽が残っています。 このように見てみると、 これは人間が自然に対して手を加えた原初的なパターンだと考えられます。 そのようなパターンが新しい宅盤の計画にも継続されていることで、 何か見えてくるものがあるのではないかと思います。
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そこで、 暗幕で囲まれた四角い部屋の床に、 キャロットタワーという展示会場となった再開発ビルを中心にした航空写真を大きく投影しました。 床には黒い幕が張ってあるので、 最初は投影されている映像は全く見えません。 そこに白くて丸い盤を持って入ってもらい、 それに映像を照射したまま動いていただくと、 丸い部分だけに街の姿が映ります。 自分のお気に入りの場所を探してもらって、 気に入った場所に盤を置いてもらうようにしました。 おかげで最終日には、 床がほとんど盤で埋まり、 皆のお気に入りの地図ができました。 国道246号の高架道路がたくさん選択されていたことや、 集合住宅の部分が全然選択されていなかったこと、 四つ角や公園が選択されたことなど、 普通の都市計画の規範とは全く違う選択結果が出て、 なかなか面白かったです。
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先に置かれた人のものを動かさなければその上に乗っけてもいいというルールにしたので、 たくさんの人に選択されたところは盛り上がっています。 実際の地形とは違う「意識の地層」が出来上がりました。
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何でこんなことをやるのか、 何の意味があるのか、 様々なご意見があると思います。 けれども、 何かやっていくことで見えていくことがあって、 そのきっかけを作っていくことがランドスケープアーキテクトの役割だと思っています。
また、 そのきっかけによって風土の循環を押しすすめていけるのではないかと思っています。
結果としてどのような風景が立ち現れていくのかは、 その後の自然ななりゆきによって自ずとみえてくるものだろうと思っています。
ありがとうございました。