フォーラム記録
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問題提起

都市環境デザインのファッションとモード

フォーラム委員長、 武庫川女子大学 角野幸博

 

はじめに

 おはようござします。 フォーラム委員長の角野です。 今年も5月くらいからフォーラムの準備を進めてきました。 そこでメンバーで議論したテーマが、 今回の「都市環境デザインのファッションとモード」でした。 その後、 御堂筋を眺めることができるこの会場をスタッフの方が見つけてこられました。

 御堂筋は、 ご承知のように、 今から60年ほど前に作られた大阪を代表するオフィス街ですが、 当時ビルを建てられた企業の方々やその設計に携わった方々は、 まさかここにオープンカフェが出来るとは思っていなかったでしょう。 また御堂筋をもっと歩いて楽しめるようにしようとか、 歩行者空間にしようといった提案は、 私が覚えている限りでも25年くらい前からありましたが、 一向に実現せず、 以前は銀行の建物がずらっと並んで建っていたのです。 ところが、 ここ数年で、 あれよあれよという間に1階部分に様々な店が出てきました。

 このように、 最初に御堂筋のイメージを考えた人たちは、 ここを今のようなファッショナブルな空間ではなくて、 一流のオフィス街にしたいというイメージ・意思を持ってやってこられたのですが、 それが時代の風潮、 空気とともに変わってきているわけです。


変化が積層する都市

 これは御堂筋に限りません。 例えば御堂筋よりも早く起こった動きとしては、 東京の丸の内界隈のビルの1階部分に高級ブランドショップや飲食店が出てきています。 そういった変化を一体我々はどのように理解すべきか、 あるいは今後の変化をどのように予測することが出来るのでしょうか。

 時代の空気や雰囲気を意識しているかいないかに限らず、 事業者やデザイナー達はその空気を敏感に感じ取って、 そして何らかの提案をしていきます。

 とはいうものの、 実際にものづくり、 まちづくりをしているプロ達は、 自分の提案、 建物や町並みが、 せめて50年、 できれば100年、 土木だったら1000年くらいは持って欲しいと思うわけですね。 けれども、 実際はなかなかそうはいきません。

 つまり意識としては長く持たせたいけれど、 無意識としては、 それぞれ時代の変化に流されていって、 その狭間でものが出来ているわけです。

 もちろん衣服に比べますと、 建築やアーバンデザインを構成する様々な要素の寿命は桁違いに長いものです。 衣服のファッションであれば、 今年の秋はこれ、 来年の春はこれというふうに、 仕掛けたり予測したりしながら、 取り替えていくということが可能です。 つまり衣服のファッションには同時代性が強くあらわれ、 そうでないファッションは「時代おくれ」「流行おくれ」とみなされます。

 しかし街の場合はなかなかそうはいきません。 その時々の空気を感じ取った建物、 施設が積み重なっていきます。 多くの場所にはこの30〜50年くらいの記憶がごちゃまぜに入っていて、 それが都市の景観を創っているのかなと思うのです。

 その時々の時代の空気に影響された建築や広場や公園が積み重なって街並みがつくられます。 しかも常に部分的に変化をしつづけて安定することがありません。 こういうことを、 次の時代を考えて行くときに、 プランナー・デザイナーはどう理解しておくべきか、 ということを考えてみようというのが今回のフォーラムの目的です。


ファッションとは

 さて「ファッション」と「モード」という言葉について、 私は専門ではありませんので誤解している部分もあるかもしれませんが定義してみたいと思います。

 「ファッション」については、 おそらく時代の最先端にありながら、 移ろいゆくもの、 絶えず変化しているもの、 つまり「流行」ということに、 今回はあえて単純化しておきたいと思います。

 あるファッションの専門家は「大衆が消費を楽めるような環境を整えたときに、 ファッションは自己表現の手段、 あるいは自分を他人から差別化して優越感を示す手段である」というふうに言っておられます。

 つまりファッションはそれ自体「階層化」への意識があるわけです。 そういう意識があるから、 また別のグループから、 あるグループに対する【模倣】が起こるわけです。 一方は差別化しようとするけれども、 他方はこれに追いついて行こう、 仲間に入っていこうとしている。 そこで追いつかれた側は、 また飽きたから別の事を考えようかな、 というふうに追いかけっこをしている。 だから一つ一つの【要素】は短命なわけです。 しかし、 追いかけっこをするからこそ、 これを目指していく、 次はさあどうしようかなと考える事もできるわけです。


モードとは

 もう一つ、 今回のテーマに「モード」があります。 おそらく、 一般的には「モード」は「ファッション」とほとんど同義に使われております。

 今回あえて別々に扱ったのは、 実は「モード」にはもう一つ「様式」という意味があるからです。 原稿にも書きましたが、 フランス語で男性名詞の場合は「様式」、 女性名詞では「流行」という意味です。

 つまり、 これらは相反するものというよりも、 一つながりのものであり、 「ファッション」が「モード」になるということもありうるというわけです。 議論を進める際には、 そういう意識をもって二つの言葉を捉えておきたいと思います。

 「様式」と言いますと、 当然建築やデザインの世界では様々な様式が既に確立しているわけです。 デザインや建築史の教科書には、 必ず「○×様式」「□○様式」などと出ています。

 しかし、 それらの様式が出てきた一番初めは、 結構奇抜なものと受け止められたのではないでしょうか。 まず新しいもの、 新規なものが出てきて、 誰かが「あ、 これ良いかも知れない」「ちょっと変わってていいかな」と思い、 何十年、 何百年経るにしたがって、 あの時代、 あの場所ではこういうスタイル、 様式が確立されたんだなと後から様式として認められていく。

 で、 これもまたよくよく考えて見ますと、 例えばルネッサンス時代にルネッサンス様式の建物がパリに一杯あったか、 それが全部だったかというと、 きっとそうじゃあないだろうと思うのです。 そういった中でも何か目立つもの、 光っているものが、 あれ良いじゃないか、 すごいやんかということで評価を受けたのであって、 圧倒的多数の建物は、 無名のごく普通のものだったのではないかと思うのです。

 実は「モード」にはもう一つ、 統計学における定義として「最頻値」という意味もあります。 つまり「よく目立つもの」が時代を先導していくという意味もあれば、 「とりあえず一番沢山ある」というのも実はモードという概念の中に入るのですが、 これをどう捉えるかという議論も起こり、 疑問が一杯出てきたわけです。 それを少し考えてみました。


都市環境デザインにおけるファッションとモード

 まちづくりをやっている我々からすると、 ファッションというとどうしてもチャラチャラしたイメージがあって、 どちらかというと様式としてちゃんと長く続いてるもののほうが大事ではないかと思いがちです。

 けれども、 今回の「都市環境デザインのファッションとモード」というテーマには、 本当は裏に副題がありまして、 それは「チャラチャラして何が悪いんや」なのです。

 つまり、 ファッションから始まってそれが社会に受け入れられ、 あるいは社会をリードしていくようなデザインとなるといった街への係わり方が都市環境デザインにもあっても良いのではないか、 あるいは短命に終わるデザインには何の価値もないのだろうかという事を議論したいと思ったのです。

 モードを都市環境デザインという視点でとらえたときに何が出てくるのか。 建築の様式や衣服の様式に比べると、 都市環境デザインという概念は出てきてからまだほんの数十年です。 事前の勉強会でも、 大阪万博の頃に色んな事が起こったらしいという所までは気がついたのですが、 万博からはまだ30年ちょっとです。

 大阪万博に向けて、 50年代、 60年代から様々な事がありました。 詳しい事は今回来られている先輩方に教えて頂きたいのですが、 そんな歴史が浅いものの中で、 今後受け継がれていくものは一体何なのだろう、 また消えていくものはあるのだろうか、 といったことを議論するのが今回の目的です。

 都市環境デザインのジャンルの中から、 いくつかのアイテムを取り出し、 そのデザイン史を探ってみて、 我々のやってきたこと、 これからやろうとしていることは一体何なのかを考えてみたいのです。


ファッションとモードの見取り図

 
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流行(ファッション)と様式(モード)の見取り図
 
 そこで簡単なフローチャートを作りました。 「流行(ファッション)と様式(モード)の見取り図」と書いていますが、 【何か新しいものが出ていて、 それがすぐに消えてしまうこともあれば、 一部の人たちに受け入れられて、 若干増えて広がっていくこともある。 しかし、 ある時期にパッと増えてもすぐ消えてしまうものも多い、 むしろその方が多いと思います。 しかし中には残っていくものもある。 そしてそれが、 ちゃんとした様式として名前を持っていく。 それが一つの定番商品(かた、 スタイル)となる。

 もちろん、 一応は残るのだけれども、 名前すら付けられないまま一般に普及していく場合もあると思います。 ひょっとしたら、 そういうのがバナキュラーな、 1000年も2000年も前からあった普通の人々の営みだったのかもしれません。

 それはともかく、 定番のものとして人々の意識にあがってきたときに、 モードあるいは様式と呼ばれるわけですが、 それらは一旦常識として確立すれば、 次の新しいファッションを生むときに色々と参照されるようになるわけです。

 例えば、 アボリジニが2000年も前からずっと使ってきたデザインを現在に置き換えるとこんなファッションが出来たとか、 あるいは建築の世界でも、 ネオ・クラシック、 ネオ・ルネッサンスなど、 だいたいネオがつくものはこの類です。 このように考えていくと、 ある種の連関構造として捉えられるかもしれません。

 このテーマについて事前に議論していたときに、 ある方からデザイナーに喧嘩を売っているのかと言われました。 喧嘩を売るつもりは毛頭ありませんが、 環境デザインに関わる者が、 自分の作ったものを一旦突き放して捉えて、 あれは一体何だったんだろうと考えてみるという、 そういう機会があってもいいのではないかと思いました。


フォーラムの組立て

 今から、 大阪大学大学院の鷲田先生にお話いただきます。 鷲田先生は私自身はもう十年来おつきあいいただいておりまして、 当時大変面白いファッション論を教えて頂きました。 興味深い話を大変平易な言葉でお話していただけます。 今日のテーマを考えたときに、 真っ先に、 これは鷲田先生にお願いしなければならないと思いました。

 それで午後からは都市環境デザインのいくつかの重要な要素として「緑」、 ストリートファニチャーのようなものも含めた「素材」、 「環境照明」、 それから個別のものではなくて空間全体、 空気としての「盛り場」の4つを各セクションで取り上げ4人の方にお話いただきまます。 そのうえでパネルディスカッションを持ちたいと思います。 それではよろしくお願いいたします。

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