フォーラム記録
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

 

形態の流行

 

形態の原点

 
画像mi02 画像mi03
 
 左の写真は以前は多く見られたバスシェルターです。 デザインが良くないと言われ、 最近はモダンなものに変わってきています。 非常に安価にできていますが、 今見ると「なんとなくシンプルでいいな」という感じがします。

 右の写真は甲府の交通標識です。 一般的な構造ですが、 ポールの曲がり方などにちょっとしたデザイン性があり、 「シンプルでいい」という感じがします。

 私たちが「もやし」と呼んでいる高速道路の道路灯も、 今紹介したバスシェルターや交通標識と同じ類のものだと思います。

 これらは形態より効率やコストを考えた、 良く言えば究極のデザインと言えるでしょう。 これらが出てきた当時、 私たちは、 「もう少しデザインしましょう」と言っていました。 しかし、 最近様々にデザインされたものが出てくると、 懐かしさによるものかもしれませんが、 もう一度このようなシンプルさを見直したいという気がしています。 これらをどのように位置付けたら良いかは分かりませんが、 形の原点的なものとして最初に紹介しました。


形態の五つの傾向

     
     時代性・地域性の反映
     ・伝統的な形態
     ・モダンな形態
     ・ハイテクイメージの形態
     ・新しい形態の模索
     ・地域性の表現
 
 ストリートファニチュアやサインにはよく使われる形態が五つあります。 それらは、 いずれも時代性や地域性を何らかの格好で反映して出てきているのではないかと思います。

 一つ目は、 昔から私たちが知っている、 あるいは歴史の中で見慣れた「伝統的な形態」を踏襲しているものです。

 二つ目は、 近代デザインが流行した時期に出てきた「モダンな形態」で、 都市の色々な装置がシャープでシンプルにつくられました。

 三つ目は、 トラスや細い柱を何本か束ねて透過性、 浮遊性を出した「ハイテクイメージの形態」です。

 四つ目は、 我がまちらしさを出すために、 色々な自治体で模索されている「新しい形態」です。

 五つ目は、 単体ではなく、 街路灯・バスシェルター・ベンチ・ボラードなどをトータルでデザインして「地域性を表出」しようという形態です。

 ここから、 「これはファッションなのか、 これはモードなのか」と常に自分に問いかけながら集めた事例を紹介していきますが、 私自身まだ結論が出ていません。 とりあえず紹介し、 皆さんで一緒に考えていきたいと思います。


伝統的な形態

 
画像mi05 画像mi06
 
 左の写真は観光地でよく見られるサインです。 イラストレーションの手法を用いた絵図のようなサインで、 屋根も民家風につくられており、 伝統的な形態であるといえます。

 右の写真は箱根の旧街道のサインです。 フレームの組み方や絵の描き方などが、 教科書や昔の本に載っていそうで、 伝統的な感じがします。

 

画像mi07 画像mi08
 
 左は知っている方はすぐに分かると思いますが、 ロンドンのベンチです。 イギリスにはこのような形の大柄な木のベンチが多く、 ストリートファニチュアを見ただけでイギリスのロンドンと分かる表情をしています。

 右はパリのベンチです。 このような形態がパリらしさやパリの雰囲気を出そうとする時のモチーフとして用いられています。

 例えば、 横浜の馬車道などでは、 このスタイルを踏襲してパリの雰囲気を出そうとしています。 言葉遣いに非常に緊張しますが、 ここでもスタイルと様式のどちらを使えば良いのか難しいところです。

 

画像mi09 画像mi10 画像mi11
 
 左はミュンヘンのベンチです。 ミュンヘンオリンピックの時に、 オリンピック施設の一部として開発されたメッシュのベンチです。 その後、 このメッシュのベンチは、 円形を構成するもの、 石の上に座だけを置くもの、 壁に取り付けられるもの、 普通の椅子(単座)など、 色々なシステムで様々な形態に展開され、 ミュンヘンの街路に取り付けられています。 これも新しい地域性を表現したものであると思います。

 真ん中の照明は、 モダナイズされてはいますが、 昔から使われていた曲線を用いるなど、 伝統的な構成になっています。

 左はガウディがデザインしたといわれている、 バルセロナのサグラダファミリアに続く通りにある街路灯です。 この形態は計画性があり、 ファッションと言うよりは様式と言えるのかもしれません。 しかし、 これはこの場所だけに通じる様式です。 それをどのように表現したら良いのかは難しいところがありますが、 いずれにしても地域性を表現しようとしているのです。


モダンな形態

 1970年の大阪万博までは、 ストリートファニチュアは造園工事や土木工事の中の雑件として捉えられ、 造園・ランドスケープデザインの後にカタログから二次製品として選ばれていました。 しかし、 万博の時に、 「雑件ではだめなのではないか」「量も多くなってきているから、 市民権を与えて、 環境構成要素の大事なファクターとして扱わなければならないのではないか」と考えられ、 日本で初めてサインやストリートファニチュアが別項目に挙げられて計画されました。

 当時は「サイトファニチュア」と呼ばれ、 都市空間の中でできるだけニュートラルな表情で、 「地」をつくるものとして位置付けようという考え方でデザインされました。 しばらくの間、 それを踏襲した一種のモダンな形態が様々なところで出てきました。

 

画像mi12 画像mi13
 
 これまで都市公団がつくっていたサインは、 1枚の鉄板を丸めて技術屋さんがペイントで描いたようなもので、 非常に安価にできていました。 多分原価3000円くらいだと思います。 左の写真は、 都市公団が横浜につくった住宅団地で、 サイン・ストリートファニチュア・時計が一体にデザインされたものです。 ニュートラルな形態を踏襲した非常にモダンなデザインになっており、 その後の都市公団のひとつの標準になりました。

 右の写真は、 時代が随分新しくなりますが、 新宿新都心のサインです。 これも同様にモダンな形態を踏襲しています。

 

画像mi14 画像mi15
 
 左はシャープでシンプルな形態もニュートラルな表情をつくるということで、 色々な都市で採用されてきました。

 右は臨海副都心の照明です。 これもモダンな形態を踏襲したものだと思います。


ハイテクイメージの形態

 
画像mi16 画像mi17
 
 科学技術の進歩により、 まちづくりの中にも先進性や未来のまちのイメージが求められ始めました。 そのきっかけが1985年に筑波で開かれた科学技術博覧会の時のサインやストリートファニチュアでした。 協会から会場自体を科学博らしくして欲しいという依頼があり、 科学らしい形態のキーワードとして軽快感・浮遊感・透過性を挙げ、 その表現手段のひとつとしてトラスが用いられました
 その後まちの中にも、 先進性を表現するひとつの造形的手段として、 実際は必要のないテンション構造が用いられるなどしてきました。

 右の写真は浜松の道路標識です。 左は科学技術博覧会の会場内に付けられた照明とサインです。

 

画像mi19
 
 これは既往街路である晴海通りにデザインされた照明柱です。 これらは、 当時の社会背景の中で軽快感などが共感を得たために採用されてきたものだと思います。

 

画像mi20 画像mi21
 
 また、 昔はガラスを公共空間に立てることは危なくてとんでもないことでしたが、 最近では、 左の写真のようにガラスでつくられたサインも見られるようになりました。

 右はエレベーターです。 最近はユニバーサルデザインを実現するために、 JRの駅構内などにもエレベーターの設置が増えていますが、 中には透明なガラスでできたエレベーターもあります。 また、 ショッピングセンターではガラスのフレームでつくられたフェンスなどもよく見られます。

 これは、 モダンな形態とも言えますが、 ハイテクイメージ・近代感を反映した素材としてガラスを使うことが、 一種の流行になっているのだと思います。


新しい形態

 
画像mi22 画像mi23
 
 左はイギリス・ロンドンの再開発地区ウォータール駅周辺に設置されたサインです。 きれいな紡錘形のステンレススチールでできています。 これでもつのだろうかというような細い形態をしています。 今までと違う形態が出てきたという感じがしました。

 右はフランスの小さな町ナントで全体の街路計画によってつくられたトラムシェルター、 ごみ箱、 照明です。 おしゃれでユニークな形をしており、 今まで私たちが見てきたものとは違うテイストを持っています。 このようなテイストで全体の街路空間を性格付けようという計画になっています。 これもひとつの新しい試みであると思います。

 

画像mi24 画像mi25
 
 左はオランダのアムステルダムです。 サッカーのアヤックスがベースとしている競技場のそばの照明器具です。 上の方が回転するようになっており、 夜になるとL字型に折れて照明になります。 照明器具というよりは群としてのアート性を意識してつくられたのだと思います。 その後この照明器具は既製品となり、 色々な場所に取り付けられています。

 右はひとつの照明灯に色々な器具が付けられるようになっている装置です。 ボツボツとイボのように出ているものが全部ボルトの穴です。 それらに色々な照明器具を設置することによって、 使途に合わせて展開できるようになっています。 これはひとつの新しい形態を生み出しています。

 

画像mi26
 
 これはフランスのトラムのフェンスにベンチやサインが一体化されて計画されたものです。 これも今までにないひとつの考え方であると思います。

 このように、 社会性や時代背景をもとに、 大きな意味でモダンデザインやハイテクデザインなどと分類することはできます。 しかし、 今紹介したようなデザインが「その時代を反映させようとしたものなのか、 あるいはその土地のアイデンテティをつくろうとしたものなのか」を判断することは難しいところがあります。

 しかし、 いずれにしても新しい造形で何らかの地域性をアイデンティファイするために色々考えられたものだと思います。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ