◆住民参加というけれど、都心に住民は少なく……
まちづくりへの住民参加が言われて久しい。特に住宅地においては、市民生活に根付いた感がする。神戸などの先進都市では早い時期からまちづくり協議会が萌芽し、そのことが阪神淡路大震災からの復興にも役立ったと言われる。
大阪では住宅地においてもまだまだ住民参加まちづくりの実感はないことを前置きした上で、あえて、「住民参加というけれど都心にはそもそも住民があまりいないではないか」ということを問いたいと思う。
住民がいない街でのまちづくりは誰が担うのだろうか。コミュニティを担う住民がいないのだから、行政が担うのだろうか。いやいや企業が企業市民として地域活動に積極的に参加することがこれからの姿なのだろうか。住民はいなくても市民は存在する。都心を利用する市民の成熟した活動に期待すればよいのだろうか。都心には投機目的のマネーも存在する。不動産の証券化などインターネットからの顔の見えない出資者なども出現している。投資的にも街の価値を高めるまちづくりが大切だと思うが、この出資者たちは都心のまちづくりに責任を持ってくれるのだろうか、などなど素朴な疑問が生じる。
◆誰のものでもある空間=誰も責任を負わない空間
都心はその都市の顔となる場所であるため、より多くの担い手のかかわる可能性がある場所だ。しかし、誰のものでもある空間であるがために、かえって誰も責任を負う当事者がいない空間となっているともいえる。
例えば、地域の公園は住民の意見を取り入れ整備され、地域で管理するなど、コミュニティの核として成熟していく方向が見え初めているが、中之島公園、大阪城公園などの都市レベルの大きな公園は、まるで都市の空白地帯のように、誰も当事者として考えていない公園となってしまっている気がする。その心地よさがブルーテントを誘発している面は否定できないのではないか。
◆さまざまな担い手の登場する元気地区
そんな中、都心においても「NPO」や「企業組織」などさまざまなまちづくりの担い手が登場し、既存のストックを活かしたり、「社会実験」として新しい手法を試みたり、とにかくできることから「やる!」の姿勢で取り組まれた好例も多く見られる。
それらの連携を図ろうと「プラットフォーム」を作る動きも盛んだ。また多くの担い手が乱立し、反目しあいながら競合する状況こそ地域がいきいきと元気な証拠だということもできる。
◆行政は何をするのか、担い手は連携できるのか
しかし活動がビジネスとして成立している担い手は少ない。多くの活動が同好会的な側面を持っている。ボランタリーな活動を否定しないが、「好きだからやる」活動は「嫌いなことはしない」活動でもある。「自分が面白いと思うことをしているだけで、まちづくりなんて大袈裟なことをしているつもりはない」という旨の発言をよく聞いたりなんかする。
熱心に活動しているグループほど内部で活動方針が対立して、分裂してしまうこともあるらしい。儲からないことを長く継続することも大変だ。そして地域には旧来から町内会が担っている実にさまざまな雑用もある。
企業市民という言葉も耳にする機会が増えてきている。企業が集まってエリア内のプロモーションや環境改善に取り組んでいる組織も誕生しているが、本来営利を目的としている企業にどこまで地域活動が期待できるのか、まだまだ未知数な部分も多い。
さまざまな担い手が登場する中で、行政の役割も「主導」と「支援」の両面が求められている。まちづくりを実践するNPOとまちづくりをコンサルティングする専門家との関係も曖昧さを生んでいる。
都心に現れた多彩な担い手の多彩な動きについて、そろそろ整理し、そろそろ考えなければならない。
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フォーラム委員会より
都心のまちづくりは誰が担うのか
滑ツ境開発研究所
フォーラム委員長
岸田文夫(きしだ ふみお)
1963年大阪市生まれ。1987年大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻修了。同年樺|中工務店に入社し、その後滑ツ境開発研究所へ出向。大阪市内を中心に都市開発事業の調査企画計画業務に携わるかたわら、タウンマネジメント組織やまちづくりの研究会、NPO、自主活動グループなどを通じて、大阪のまちづくり活動にも参画している。技術士(都市及び地方計画)、1級建築士。
岸田文夫