地域が連携するしくみの開発も必要であろう。
◆何のための地域の担い手なのか
 都心にはストックがある。多様な人が関わる。それだけに多様な関心にもとづく、いろいろな活動やグループが生まれる。それらは、競合したり、連携したりしながら、場所の力を創造する活動もあれば、勝手な利益を求めるものもある。しかし、それが、人と事業が入れ替わることで活性する都市の現実であり、そうした都市であり続けるために、場所の価値の持続をどうすれば可能となるかを考えることが、「担い手とは何か」に応えることになるのではないだろうか。そこで三つの可能性を考えてみた。
1 まちのデベロッパー、まちのプロデューサー
 これは、地域の価値をつくり続けるための企画や事業を、長期的取り組みとして実施する主体である。地域の権利者や事業者が主体的に事業を立ち上げる地域主体型組織と、1事業者がデベロッパーやプロデューサーとして取り組む事業者型があるだろう。
 前者のタイプとしては、米国のBID(Business Impr-
ovement District)指定により、そのエリア内の環境改善とエリアプロモーションの担い手として、@エリア内の事業を負担する事業者などがつくる会社やNPO、あるいは、Aそうした事業をプロデューサーやNPOへ委託する地域の意志決定組織(@と同じエリア内事業者等)が、具体的な事例としてあげられる。日本では、機能しているかどうかは別にして、商店街振興組合は近い仕組みであろう。黒壁などうまく機能しているといわれるTMOもその一つといえる。
 後者は、なかなか難しい。丸の内のデベロッパーは権利者でもあり、二つの立場を併せ持つ事業者型であろう。淀屋橋ウエストは、まちの価値を継承しつつ新たに創造する力を点(店)づくりから面(まち)へ広げていくタイプの事業者型まちのプロデューサーによって育ってきているところであろう。事業者型ではあっても、場所の力をつくるという意志があれば、担い手になりうる。
2 まちの情報発信装置
 地域の「場所の力」を発信する主体が求められる。船場の歴史や都市空間の基本、近代建築のストックなど、場所に蓄積されている価値を評価し、その評価を社会化していくことの担い手である。どこでも同じ経済合理性の物差しによる物件単位の利益の追求以外の価値をつくりだすことが、場所の力になる。
 もちろん、まちのデベロッパーやプロデューサーは、この担い手であるが、これには多くの応援団づくりが可
能である。船場の歴史や近代建築を活かしたい活動、水都再生への取り組み等もその一つであり、これをどう具体的な力にしていくかは課題である。例えば、地域主体が貸し手と借り手をつなぐ、保証するなどにより、近代建築を暫定的に活用できるようなしくみを、地域でつくることができるような地域主体ができることが望まれる。当面は、こうした動きを、持続可能な環境価値づくり型の都市開発として公共がサポートするような文化レベルになって欲しい。
 また、生活者の行動規範や文化レベルも大きな力である。変な店には行かない、場所の文化になる店を大事にする。流行にのるのではなく、日常の都市生活に組み込むつきあいをする。これが評価をつくることになる。古くからの居住者と新しい居住者とまちでの生活者では、お互いの志向に違いはあっても、場所を大事にする行動は共有できるはずである。それが情報発信である。
3 まちの変化の調整システム
 緊急の課題は、変化を調整するしくみである。都市はいつの時代も変化しつつ持続してきた。近世の町定は変化の調整システムを内包している。出入りは自由だが、地域で事業をするなら、地域に資産をもつなら、地域の一員になる。町定の規定はそのための儀式でもあった。
 例えば御堂筋であれば、現状のルールやしくみについて賛否はあり議論は必要ではあるが、とりあえず町並みのルールがあり、少なくとも地域で変化が把握できる。しかし、多くのところでは、権利者の都合と勝手で何ができるかわからない。変化や競合は都市であるかぎり当然ではあるが、何か、そのなかで共存する、少なくとも場所の力を減退させないような、共通の価値を共有できるようなしくみがあってもよいのではないだろうか。
 多くの関係者がいるのであるからこそ、パワーバランスができるという発想もあるのではないだろうか。
◆場所の価値はつくれるか
 担い手とは何かという問題は、場所の価値をつくるにはどうしたらよいかということではないだろうか。多くの権利者や事業者には、自らの行為が場所の価値や文化のレベルを左右するという発想はなく、たとえ、場所の文化を伝える努力をしたとしても、その手を離れると何がおこるかわからない。そのようなとき、たくさんの応援団の力や連携への期待は大きいが、同時に、意志決定レベルでの影響力を作り出していくしくみ、調整するしくみを具体的に考えていく必要がある。

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