都心のまちづくり その担い手
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主題解説

環境開発研究所・フォーラム委員長 岸田文夫

 

千葉

 今回のフォーラムは、ペア委員長方式で開催しています。篠原祥委員長は大阪ガス、岸田文夫委員長は環境開発研究所に勤務されており、多忙な中、当フォーラムのために尽力いただきました。

 それでは岸田委員長より主題解説をしていただきます。

岸田

 私も篠原氏も仕事で都心部のまちづくりに関わる一方、仕事との区別が不明確な中で、多くの都心のまちづくり活動に関わっています。そのような背景もあり、「都心のまちづくり、その担い手」というフォーラムテーマを設定しました。


都心の捉え方

 まず、都心をどのように捉えるかが問題となります。今回は、大阪環状線の内側などのように物理的なイメージではなく、大きく四つの概念をもとに都心を位置付けています。

     
     都心とは
    1 業務機能や商業機能に特化している地区
    2 昼間人口と夜間人口の差が大きな地区
    3 都市の顔となり、イメージを牽引していく地区
    4 歴史・文化的な厚みのある地区
 
 一つ目は、業務機能や商業機能に特化している地域です。二つ目は昼間人口と夜間人口の差が大きな地域です。したがって、比較的多くの人が居住している大阪市西区や天王寺区などは、今回扱う都心には含まれません。三つ目は、御堂筋のような都市の顔となり、イメージを牽引していく場所です。四つ目は、歴史的・文化的な厚みのある場所です。

 以上のように都心を捉えると、今日ここに来ている人は、都心に土地や建物を持っていないけれども、何らかの形で都心と関わっているという人がほとんどだと思います。そして、中には、私や篠原氏のように、毎日過ごしている都心環境に対して、自ら提案し、将来像を描きたいという人もいると思います。

 そのような活動や様々な提案を続けていると、都心に土地や建物を持たないが日々都心で過ごしている人達の声は、誰に対し、どのように伝えれば良いか、またどのように反映されるべきか、という疑問が生まれてきます。少数の不動産所有者やわずかな住民の意見は行政に反映されますが、大多数である利用者や通勤者の意見は反映されないのが現実なのです。

 近年、都心ではこのような様々な活動が起こりつつあり、こうした意見も行政に反映しなければならないという動きも出てきています。


担い手の捉え方

 一方、担い手をどのように捉えるかという問題もあります。土地や建物を所有し、権利を有する直接利害関係者と、利用するだけの間接利害関係者に分けることができます。また、能動的に働きかける人と、環境を享受するだけの受動的な人にも分けることができます。このように、担い手には様々な分類方法がありますが、今回はフォーラム委員会で以下のような分類方法をとりました。

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まちづくりの担い手とは
 
 「公」と「組織」と「ひと」、それを「応援団」がバックアップするという形です。

 「公」は公園や道路などの公共空間の所有者や管理者です。「組織」は、企業やまちづくり団体、店舗やディベロッパーなどのように、個人の意思ではなく組織的な動きの中で、都心のまちづくりに関わる人達です。「ひと」は、居住者も含め、個人的な立場で日々都心を使う通勤者や来街者などです。「応援団」は、学識経験者や経済団体、その場所が好きだというファンなどの間接的に関わる人です。

 この四つの担い手を具体例で見てみます。

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御堂筋とその沿道のまちづくりの担い手
 
 御堂筋とその沿道については、「公」には道路管理者である近畿地方整備局やまちなみ誘導を行う大阪市計画調整局が該当します。「組織」としては、昔からの連合町会や沿道の企業、近年増加しているブランド店やカフェなどがあります。また、長堀21世紀計画の会や御堂筋まちづくりネットワークのような企業町内会や、淀屋橋ウエストも「組織」に該当します。

 「ひと」については、御堂筋で働く人やブランド店を訪れる人はたくさんいますが、担い手として顕在化しているものは思い付きませんでした。「応援団」には、御堂筋パレードを実施している大阪21世紀協会、現在照明実験を実施している光のまちづくり企画推進委員会など、関経連や関西経済同友会が主導する形で様々な委員会や協議会が存在しています。

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船場地区のまちづくりの担い手
 
 船場地区の「組織」には、商店会である船場センタービル商栄会や道路掃除をしている南船場木曜会、船場エリアの様々な会のプラットホームでもあるせんばGENKIの会などが該当します。

 また、「組織」と「ひと」の中間的な担い手として、落語の会をされている船場賑わいの会や太閤路地プロジェクトがあります。「ひと」としては、南船場の方でクリエーターが集まって活動をしているXgqプロジェクトの人などがいます。「応援団」には、以前から公団が進めていた船場デジタルタウンや、産学連携で船場研究を進める船場研究体などが該当します。

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中之島公園とその周辺のまちづくりの担い手
 
 中之島公園については、「公」には、公園を管理する大阪市ゆとりとみどり振興局と河川を管理する大阪府土木部が該当します。また、中之島新線事業者をはじめ様々な「組織」があります。「ひと」には、NPO水辺のまち再生プロジェクトなどが、「応援団」には、水都ルネサンスなどの水都再生に関連した多くの団体があります。

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靱(うつぼ)公園とその周辺のまちづくりの担い手
 
 もう少し小規模な公園である靱公園にも、京町堀輪舞曲(ロンド)という「組織」や毎年セミのぬけがら調査を行っている自然史博物館友の会などの「応援団」など、様々な担い手がいます。

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道頓堀とミナミのまちづくりの担い手
 
 道頓堀とミナミでは、以前から、ミナミまちづくりフォーラムを中心に活動されてきており、近年は宗右衛門町で治安改善の活動も行われています。また、道頓堀川の遊歩道「とんぼりウォーク」の整備に伴って、様々な団体が生まれてきています。

 

 以上のように、「公」「組織」「ひと」「応援団」という切り口で担い手を分類して整理すると、様々な担い手が存在していることが分かります。しかし、そのほとんどが「都心に住んでいるわけではないけれども、都心の環境をなんとかしたい」という考えをもつ人達なのです。


フォーラムへの流れ

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フォーラムへの流れ
 
 以上をベースに、フォーラム委員会では中之島と御堂筋の11団体に対し事前にヒアリングを行いました。また、中之島と御堂筋でヒアリング結果をまとめたパネルの展示会を行ない、また
WEBでも展示し、アンケート調査も実施しました。さらに、それとは別に、JUDI会員を中心として、全国の都心部における新しい担い手の事例を募集し事例集を作成し、分類整理しました。

 一方、これまで2度のプレフォーラムを開き、24人のフォーラム委員の間で議論を行ってきました。そこでの議論には大きく三つの論点がありました。

 一つ目は、多くの新しい担い手が、特定エリアに関わろうとしている現状の中で、これからの都心のまちづくりの進め方に新たな問題が生じているという論点です。バラバラに活動するよりも連携した方が良いか、連携していく場合は連携方法や意思決定方法はどうあるべきか、行政の関わり方と行政の役割は何かなどの問題です。

 二つ目は、新しい担い手や活動が出てきている社会的意味と理由に基づく論点です。生きがい志向、好きだからやるという同好会的な活動もあれば、ビジネスにつなげようという志向の活動もあります。各担い手の目標や自立性、継続性によっては、新しい担い手の活動が、これまでの町内会に代わる都心における新しいコミュニティの形かもしれませんし、サードプレイスとしての役割を担う場となるかもしれないという内容です。

 三つ目は、我々JUDIが専門家として、どのような役割を果たすべきかという論点です。

 以上のような問題が都心部に起こりつつあり、現在、その出発点に立っているのです。

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