都心のまちづくり その担い手
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ヒアリングの報告

LEM空間工房 長町志穂/ 北摂コミュニティ開発センター 難波健

 

はじめに

長町

 ワーキンググループのほうから、今回の新しい担い手を探っていく過程で行なった調査などについて報告させていただこうと思います。

 まず新しい担い手を探っていくにあたって、二つのことに取り組みました。一つはJUDIのメンバーの皆さんに声をかけ、皆さんが考える新しい担い手とは、いったいどういう人なのか、その動きについて投稿をお願いしました。その内容はお手元の小冊子に掲載しております。

 もう一つは中之島と御堂筋をケーススタディして、新しい担い手のみならず、新旧織り交ぜて様々な担い手の方たちの思いや趣旨、将来に対するビジョン等を聞いてまいりました。


事例投稿から浮かび上がった担い手

 寄稿いただいた様々な事例をもとに新しい担い手について見ていくと、およそ次のような図式になります。

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まちづくりの担い手
 
 オーソドックスなのは、中央にあるコミュニティ組織などの地元の方々です。例えば祇園祭の鉾を持っている鉾町が、人が少なくなったので、新しいマンションの人と一緒になって会を作ったという流れです。

 一番投稿が多かったのは、まちづくり協議会であるとかTMOあるいはNPOといったまちづくりの組織でした。それぞれ違う動きをしていることが見て取れる内容です。

 もう一つがサポーター。これはまちづくりをするための組織ではないのですが、例えばアートをやっているおばさまが、結果としてコミュニティを発達させることになるという形。あるいは地元の特徴的なものを守りたい、公園を愛したいといった思いでできあがっている地元のサポーター。そして水辺を活性化しようという思いを持ったテーマ型の組織。さらには三休橋筋を愛しているのでもっと盛り上げようという有志の人たちがつくっている勝手連的な組織です。

 それから一番注目すべき新しい組織がラウンドテーブル型です。個々の担い手が出合い議論するといった場としての組織や、そういった場をつくること自体をめざした新しい担い手が見えてまいりました。これらの詳しい内容については冊子をご覧ください。


御堂筋のまちづくりの担い手

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御堂筋周辺エリア(出典:「美しいたおやかな大阪まちづくり研究会報告書」より抜粋)
 
国交省近畿地方整備局
 新しいとは言えませんが、“公”の担い手である国交省の近畿地方整備局です。本来ならば国交省ということで、道路整備が中心になってくるのですが、現在ではそういったことだけではなく、ちょうど明日、御堂筋のオープンフェスタがございますが、まちを活性化する様々な試みにトライしています。コンセプトとして“「みち」から「まち」へ”を掲げ、「みち」を通じて「まち」の『活力』『快適な暮らし』『安全、安心』『環境の保全と創造』の実現を目指しています。

 活動内容としては、道路の管理者として御堂筋再生プランに示された新しい御堂筋実現のために、できることから着手するということで、自転車の駐輪問題や照明の改善などに日常的に取組んでいます。御堂筋のいくつかの担い手と関わりながら、御堂筋の側道を人のための道にしていこうということで、自転車が通る、あるいは寛ぎのスペースがある、あるいは新しい交通システムが通るといった道にできないかを考えているそうです。

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出典:「明日の御堂筋物語」リーフレットより
 
大阪市計画調整局都市デザイン課
 まさに大阪市全体の都市デザインを考えていく部署です。いろんな施策を次々に展開しているのですが、一番今関心が高い内容は、御堂筋のまちなみに対する規制の問題、規制緩和の問題でした。デザイン課が事務局を務める「“新しい時代の御堂筋”協議会は、行政と地元組織から構成され、御堂筋活性化アクションプランのさらなる推進を図ることを目標としている」そうです。

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建物の高さ及び壁面の位置(出典:大阪市「御堂筋まちなみ誘導に向けて」パンフレットより)
 
御堂筋まちづくりネットワーク
 沿道の土地・建物のオーナー企業の有志による組織です。こちらはランドオーナーであるということが明確な意識としてあり、ランドオーナーとしてできることを通じて、自分たちにもメリットがあり、かつまちが活性化することを目指しています。

 御堂筋スタイルというコンセプトを2002年に策定し、その実現という旗を掲げて活動されています。

     
     御堂筋スタイル
  • 出会い・ビジネスチャンスのあふれるまち
  • 活発な情報の受発信ができるまち
  • 様々な知的刺激のあるまち
  • 憩える・楽しめるまち
  • 付加価値の高いまち
  • 利便性の高いまち
  • 訪れたい・住みたいまち
  • チャレンジし変化していくまち
 
 組織自身は三つくらいに分かれているのですが、例えば「御堂筋ギャラリー」など様々なイベントを開催したり、調査をしたり、あるいはいろんな提言、ガイドラインのようなものに他の組織と連携しながら取組んでいます。例えば街角コンサートやデザイン展、あるいはガーデニング等、周辺の方々とともに取組んでいます。

 この組織は実は専任をもたない組織です。できることは限られているけれども少しずつという思いを語られていました。

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側道をセミトランジットモール化する断面構成イメージ(出典:「明日の御堂筋物語」リーフレットより)
 
NutDOM(豆新)
 では実際に御堂筋でお商売をされている方はいったいどう考えておられるのかということで、豆新さんというお豆屋さんが開かれたNutDOMのオーナーの意見をお聞きました。ここはカフェと豆の販売店が併設されている路面店です。オーナーは先ほどの御堂筋まちづくりネットワークの一員として活動しています。御堂筋というものの価値、意味を強く意識されて、御堂筋がもっとよくなるようにという思いを持っておられました。

 お話を聞いていると、ネットワークの思いや活動が小さなランドオーナーにも伝わっていて、相互に影響があることを感じることができました。

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NUTDOM(豆新)店舗内部の様子
 
愛日連合町会
 では住んでいる方の思いはどうなのか、町内会であり、街路灯の整備など地元の活動を展開している愛日連合会の思いをお聞きしました。目標の一つとして「企業活動が活発になり、多くの人たちが訪れる街であり続けること」とされているように、御堂筋に対して色んな試みや施策提言がなされることに対して、店舗が増えることはよい事だと肯定的に考えておられるようです。しかし、基本的には「安全・安心」な街にとか、オーソドックスな生活をする場としての要望が強いことも特徴です。

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区域図
 
関西経済連合会
 この組織は完全な応援団です。会員企業が多いということで御堂筋に注目されています。そして先ほどのまちづくりネットワークも含めて、いろんな組織に関経連さんが支援され、まちづくり活動に協力する、あるいは資金的な援助をしている、そしてそれが実を結んで色んな提言・形となって残っております。

 ということで、御堂筋に関わる新と旧の担い手の一部をご報告いたしました。では、このあと中之島に引き継ぎたいと思います。


中之島のまちづくりの担い手

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中之島エリア(出典:「美しいたおやかな大阪まちづくり研究会報告書」より抜粋)
 
国土交通省近畿運輸局
難波健

 運輸局で言われていたのは、「舟運の活用など実現できそうなアイデアを実行する。水辺空間の整備や中之島公園の整備へのヒントを探る。行政担当者が当事者意識を強く高く持って、守備範囲を超えた活動に挑んでいる」ということです。これまでの公共とは若干違うイメージが随所に見られました。

 目標は「中之島は水の都大阪を体験できる大切な場所」「川にはいつも多くの船が行き交い、気軽に乗れる場所」「外国人に対しても訴求力のある観光の名所」にすること。活動内容としては、水辺空間の整備や島内交通システムの構築、仮設桟橋と舟屋の設置、社会実験イベント“中之島物語”の実施のほか、水上バスの企画や水上タクシーの就航にも関わっています。

 課題としては、川を活かすツールがないということと、実験イベントは熱意のある人の協力で成立しているが、継続していくことが難しいという点、自治体が中之島全体の将来の青写真を示す必要があるという点を挙げています。

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中之島ばら園に設けられた舟屋
 
一本松海運株式会社
 こちらは民間会社です。舟運をはじめとする観光事業による経済活性化と地元住民の生活環境や河川環境の保全も考慮し、“水辺の街”の誕生を謳っています。

 目標としては、「観光船事業の持続と拡大」「船着場の利用者が増え、水辺に対する関心が高まるにつれ、川を意識した店舗や住居が出現すること」「船と街の相互作用で街の魅力を高めたい」ことを挙げています。川を意識した店舗や住居の出現は道頓堀川などですでに起こりはじめています。

 活動内容は「落語家と行く なにわ探検クルーズ」、これはJRとタイアップして大阪市内の河川で運航しています。それから「とんぼりリバークルーズ」。とんぼりというのは道頓堀のことで、ここにも観光船を就航しています。

 課題としては水辺のターミナル機能の完備が必要であるということでした。

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落語家と行くなにわ体験クルーズ(出典:同パンフレットより)
 
もうひとつの旅クラブ
 このクラブは建築、都市、歴史に関わる方々、それからライターやアナウンサー、ボランティアなど、様々な分野の専門家が大阪に対する熱い思いをもって活動されているNPOです。近畿運輸局の社会実験“中之島物語”でも陰になり日向になりその企画運営に関わっておられます。

 目標は「大阪を日本の都市文化の象徴都市とする」「大阪の都市文化を水景により感じる中之島の空間づくり」「大阪を日本一の観光都市にする」といったことを挙げています。

 活動内容は、「旅のカードブック」という冊子を制作したり、大阪城天守閣物語やなにわ伝統野菜などの豊かな歴史・文化を発信するイベントやシンポジウム等を主催しています。

 課題としては、「大阪の都市の魅力が知られていないし、生かされていない」「大阪を盛り立てるのに色々なジャンルの人が集まることが必要」「大阪の行政と市民の都市づくりをシンクロさせる役割を担っていきたい」と強くおっしゃっていました。

 旅のカードブックは、シートが何枚か集まったもので、天神まつりなどの折に販売されています。なにわ伝統野菜は、大阪にも河内れんこんなど、京野菜に劣らない伝統野菜があり、それを皆で食べるというイベントです。舟屋のプロジェクトは、中之島の文化の発見やイメージイベントなど18の催しで、50年後100年後の中之島の新時代の物語を皆で紡いでいこうというプロジェクトです。

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中之島物語・舟屋の模型と展示空間
 
中之島まつり実行委員会
 1970年代初頭から続いており、「自由参加型で絶え間なく新陳代謝する組織」です。また「ボトムアップ型で、“予定調和”ではなく“開放系の未来”といえる企画づくりのプロセス。そして複雑になるほど面白いという『中之島方式』」が特徴で、これからのまちづくりのあり方を示唆していると思います。

 目標としては、「水と緑と赤レンガの中之島にこだわって、ありとあらゆる人が参加する面白いまつりを創りだす」というものです。活動内容は、中之島の環境を守る運動、それから都市の中に文化をつくる市民運動を展開しています。まつりが終わるとすぐに来年の準備にかかるなど時間をかけて、プロセスを大事にしています。

 課題としては、「人集め」がポイントということです。若年層社会人の労働強化、ニートやフリーターなどの意欲の低下による準備参加者の減少と、遊びや楽しみが多様化したことにより、若い人のまつりへの興味がやや薄らいでいることを挙げていましたが、まだまだ続いていくようです。

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中之島まつり(出典:中之島まつりHPより)
 
関西経済同友会
 最後に関西経済同友会、水都・大阪推進委員会からお話を聞きました。関西経済同友会の提言は我々もよく耳にするところですが、提言だけに終わらず、自治体やNPOと連携した実現のための具体的活動を行い始めたということです。そして、企業と行政の橋渡し、意識付けの役割を果たしていこうということでした。

 目標としては、「働くだけの街から人が集い賑わう街へ変っていくためには、都市の美しさや歴史を生かすことが大切であり、水の都がキーワードになる」「親水護岸の整備や舟運の活性化など賑わいのある水文化の復活を願う」とされています。

 活動内容は、「水都・大阪の創生」や「中之島リバーミュージアム」の提言といったものがありますが、それだけでなく熊野古道に関連した行列やウォークの実施、舟運の活性化などにも取り組んでいます。課題としては、「継続していく仕組みづくり」、それから「企業や他団体とのコラボレーション」を挙げています。

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八軒家浜の再生を提案
 

それぞれの担い手に求められるものは?

 以上、御堂筋6団体、中之島5団体を岸田さんと篠原さんの二人の委員長を中心に、延べ34人でヒアリングを行いました。“公”としての行政、企業や店舗などの“組織”、夜間の住民と昼間のワーカーといった“人”、それから関西経済同友会や関西経済連合会といった“応援団”に行ったヒアリングで出てきた“それぞれの担い手に求められるもの”をまとめますと、下の図のようになります(読みにくいので
PDFをダウンロードください)。

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それぞれの担い手に求められるものは
 
 “公”には「行政のイニシアチブ」「まちづくりの方向付け」「市→コンサルタント→市民というシステム構築」「社会実験に基づく規制緩和」「利害関係の調整」「自発的に活動しているものへのサポート」といった役割が求められています。全体を通じて感じるのは、枠組みづくりで、行政は主体から、サポートあるいは調整役になるのではないかということです。言い換えれば、行政とは別に主体があるということを十分に意識していくようになるのではないかと感じました。

 “組織”には、「企業市民としての地域への貢献」「ルールづくりへの参加」とか「行動力、エネルギー、熱意、スピード」「まちづくりと商売の一体化」「長期的な視点」「景観の維持や賑わいの創出」といった役割が求められています。やはり企業には力強くて縛られない組織の力が期待されているようです。

 “人”には、「主体的、積極的に発言していく」「ワーカーも市民」「働いている場所の魅力を知ること、知らせること」「NPOなどの組織をつくる」「地元・市民の立場で行政に働きかける」「行政に組み込まれると効果があがらない」ということで、独自性を持っていくことだと感じました。

 “応援団”には「民の代表としての役割」「企業と行政の橋渡し役」「企業や行政への意識付け」「一企業ではできない提言」「市民とも一緒に協力して盛り上げてほしい」ことが求められており、重要な位置にあると言えます。従来は調整してあたりさわりのない提案しかできなかったのですが、自らの活動枠を作り明確な役割を果たそうとする意欲を感じました。

 今後の方向性として、「行政、企業とワーカー、住民が連携してまちづくりを進めるべき」「いろんなジャンルの人が集まらないと進まない。専門家だけでは動かない」が大切なフレーズだと思います。我々都市環境デザイン会議としては専門家と市民の関係を、重たく受け止めています。

 以上、中之島と御堂筋のヒアリングを通じて作成したパネルからご報告させていただきました。

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