都心のまちづくり その担い手
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担い手の持続性

 

角野(武庫川女子大)

 今回のテーマは街、地域の持続可能性を追求するためにどのような担い手がありうるかという話だと思うのですが、ここで担い手の持続可能性についてお伺いしたいと思います。

 今日冒頭の図式で「公」「組織」「人」「応援団」というのがありましたが、そのうち「公」はなんだかんだ言っても持続するだろうと思います。それから今回一番問題になっているのは「組織」「応援団」「人」といったあたりで、色んな取り組みをご紹介頂いたわけですが、率直に言うと、今やっておられる人は面白がって好きでやっているわけです。そこは色んな成果・効果をあげているわけですけれども、その成果と効果を次のステップに繋げていくためには、やはり組織であろうが人であろうが何らかのモチーべーションが次の代の人に続いていかなければならないと思います。

 それに対する答えの一つはビジネス化することで、まさに澤田さんがおやりになっているような事だと思うんですが、その他の場合、例えばNPO団体や地域の人達でも、それが次の代に変わっていくときにそのモチベーションと権限、魅力というものを繋いでいくための仕組みがないと、一代限りで終わってしまう危険性があります。

 街の持続性とか、長期に渡って歴史や文化を踏まえたまちづくりをしていくと言っているにもかかわらず、その人達はどこかへ消えてしまうかもしれない。消え去った後が怖いという気がしているんです。組織が繋がっていくためには、どのような権限、どのようなモチベーションをもてばいいのでしょうか、そしてそれを持たせるためにはどんな課題があるのか、といった辺りを考えて頂きたいと思います。

森山

 簡単な考え方をすれば、私は少なくとも、私のように遊ぶ人を10人くらいつくっていけばいいのかなと思っています。

 羨ましいと思うようなものをつくることで子供が生まれていくという表現を先ほどしました。例えば今日ここに来て頂いて、これまでこういうことをしていなかった人達の中に、私がやっていることが面白そうだと思ったり、「ああ、あんなんあってもいいんや」というふうに思ってくれて、実際に子供ができていくという形しかないと思っているんです。

小浦

 一つの持続のあり方として、次の子孫を創ると。それは個人的努力で創るというわけですか。

森山

 もちろん制度で応援してもらってもいいんだと思うのですが、最終的には全体の価値観に波及できるかどうかによって、その制度が生きるかどうかということもあるので、今はやはり個々のプロジェクトが考えた事が増殖していくというイメージしか私の場合はないですね。

澤田

 そうですね、難しい課題だと思います。我々はまだまだそこまでできている段階ではなく、第一次の初期段階であると思っていますが、ただ我々が淀屋橋WESTをやっていくことによって、例えば今中之島にダイビルという大正時代に出来た建物がありますが、そこでクリエーターと共に現代のトキワ荘みたいなものを創ろうということで、コミュニティを創ったりして、1年間で15社くらいのクリエイターの事務所が入ったりしています。そういったビジネスモデル的なものが、芽生え始めてきているという気は少ししています。

 逆に言うと、ディベロッパーや開発サイド、あるいは行政など色んな所が、それを評価できる仕組みまで持っていける影響力というかパワーのようなものを戦略的に持っていくことが必要であると思います。

 そこにはメディアの果たす役割が大きいと思います。私達が仕事していくうえで、メディアの方にそれを載せて頂きたい、情報発信していただきたいと思うときがあります。そのときローカルなメディアはいいんですね。関西ローカルのテレビや雑誌なら良いのですが、例えば電波で全国へ流そうとすると、東京のデスクがこのような文化的なまちづくりみたいなことは大阪的じゃない、もっとコテコテお笑いなのはないのか、みたいな話になるんです。そこがまだまだ良くないなと思います。

 大阪はコテコテやしお笑いやし庶民的かもしれないけれども、それだけじゃない、そんな事だけで街って出来なくて、街はもっともっと複雑で多様性があると思うんです。やはりその辺りの情報を全国的にも発信していけるようにしていきながら、次世代に向けて組織化、ビジネスモデル化していく努力が必要なのではないかと思います。

奈良平

 正直言いまして私にはほとんど回答不可能ですので、感想になってしまいますが、やはりどの地域のまちづくりにしても誰がやっているかが大きいですね。ですから、それをどうやって次の人に繋ぐかというのは、これはまちづくりだけじゃないかも知れませんけれども、一般的に言っても難しいと思います。

 権限とかお金とかモチベーションとかでそういう組織をやっても人が変わったらころっとダメになるということはよくありますし、そういう意味から言うと、その一代で頑張っている方ができるだけ成功して頂けるように徹底的にご支援申し上げる、そうすると何か世の中の流れが変わるというか、潮目が変わるというか、雰囲気が変わると思うんですね。

 ゴルファーでも一人宮里藍が出たら沖縄からどんどん出てきましたし、野茂がメジャーに行って成功したらどんどんメジャーに進出しました。やはりそういう徹底的に成功した人がいれば、私にも何かできるのではないかという環境ができ、雰囲気ができ、後継者も育ってくる、そういうことなんじゃないかと思います。

蓑原

 角野さんの仰る担い手にはいくつかのレベルがあると思うのですが、例えば澤田さんや森山さんのようなまちづくりを紡いでいく人の継続性の問題と、もう一つグローバリゼーションの中での企業の問題があります。

 我々が心配しているのは、今まで家業型で沢山の人達が街を支えていたものが、家業ではない、むしろ個業に近い形で街の面白さを継続しているという今の流れは、本当にどこまで繋がるのだろうかということなのです。

 私が今銀座でやっている事は、ともかく銀座の人は頑張って不動産屋さんにならないで家業型みたいなのを頑張って下さいよ、少しでも楽しくて安くて美味しいものを出して下さいとか、面白いものを売って下さいということをお願いしているのですが、そこでも本当に21世紀に向かって彼らが紡いで行けるような文化的な資源と呼べるものがずっと継続的に存在するかどうかが問われているわけで、これについては正直はっきり言えないところがあります。

 それから、もう一つは住宅の問題です。これもかつてのイメージは良い土地を一つ持ったらそれで終わりみたいなところがあったわけですが、もうそういった構造ではありません。住み替えがどんどん発生するような事になったときに、地域のアイデンティティとか地域の場所性を一体どんな形で紡ぎ継続していけばよいのかが、実はまだ解けていない問題なのです。

 これはヨーロッパでもレッチワースなどある種のブランドを持ってしまった所では仕組みをこしらえたりしているんですが、日本の場合にはそういう形になっていません。関西の方がまだましですが、それでもできてないところがあって、住宅地ですら危ない。

 そういう意味ではやはり、今のご質問は今後家業型・個業型形態で小さな街を支えてきた人達がどういうふうに動くかということに関わっています。そういった人達が頑張ってくれさえすれば、澤田さんや森山さんみたいな人は活躍する場があるから必然的に後継者も現れるだろうとは思っているのですが、問題はそれを支えるような業態がそのまま継続するかどうかという事なのではないでしょうか。

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