京都の景観はよくなるか!?
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3。進化するデザイン基準

京都市都市計画局都市景観部市街地景観課長 松田彰

 

●デザイン基準の趣旨

 私は今回のテーマとなっております市街地での景観規制にかかる許認可等の関係の仕事に携わっております。まず始めに、今日出席予定だった寺田敏紀景観創生監が申し上げたかったことを私が代わって紹介させていただきたいと思います。

 まずは、今回京都市が作りましたデザイン基準の趣旨はどこにあるのかということから始めたいと思います。資料p19「京都らしい景観とデザイン基準」の中で、「本来、景観の基準とは作法として蓄積されているものであり、強制的なルールだけで形成されるべきものではない」という一文がございますが、まず我われはこういう認識を持っております。

 しかしながら「土地の私的利用の幅広い権利保障と市場経済の活性化の中で、その瞬間の価値観を追求し法律の範囲であれば何を建てても自由であるという社会の中では、京都らしさを失う前に最低限の建築ルールをデザイン基準として策定したものである」という認識でございます。

 ですからいろんな方々が地域の中でまちづくりの活動をされており、午前中の報告にもありましたように細かい調査に基づいて景観をさらに作っていきたいという活動は、我われ京都市としても大事なことだと思っていますし、折り合える所は歩み寄って協力していきたいという立場でございます。

 京都市には昭和5年の風致地区の指定以来、いくつかの出来事とそれに対処する景観の取り組みの歴史があります。そうした歴史の中で培われてきたノウハウを今回の政策にも取り入れ、デザイン基準を最低限のルールとしてはどうかと提案させて頂いたという次第です。

 (資料は資料前半よりダウンロードください)。


●これまでの経過

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 ではここで、これまでの経過を簡単におさらいしてみます。

 まず、景観への最初の取り組みとしては、昭和5年の風致地区の指定がありました。その後、特に市街地景観の中では、双ケ岡の開発問題、京都タワー問題があり、それを踏まえて全国に先駆けて昭和47年に「市街地景観条例」を制定しました。この時に、美観地区を指定しています。対象となった指定面積は約900haです。この時の美観地区は現在の「歴史遺産型美観地区」に引き継がれてます。

 その後、総合設計制度による京都ホテルの建て替え論争が起きたり、京都駅の建て替えを巡って論争が起きるなど、バブル経済の中で京都のありようがしばしば議論の対象となってきました。そこで平成8年に「市街地景観整備条例」を制定しました。これは、現在のデザイン基準の骨格とも言える条例でした。その条例に合わせて、美観地区を1800haと2倍の広さに拡大して指定しております。現在の「美観地区」と言われている所は、この1800haを約2割拡大して展開しているところです。

 その後、先ほどの谷口さんからも紹介がありましたように、職住共存地区での建築のありようを3点セットのルールとして導入し、職住共存地区での建て方規則の提案が平成15年にできます。それに合わせて、職住共存地区の内部、いわゆる「アンコ地区」に「美観地区」を指定したという経緯がございます。

 そして、平成16年に「景観法」が出来、平成19年9月に京都市の新景観政策が実施されたということになります。規制は高さ規制、景観規制、広告規制、眺望規制の4つ、他に歴史的な町並みへの助成制度がありまして、それを合わせた5つの柱が新景観政策の内容の骨子となります。

 このように、昨年突然デザイン基準が出てきたわけではなく、こういった歴史の中から、美観として残していくもの、特に歴史的な木造の建物が残っている重要な地区にデザインコードを広げていったわけです。さらに、それを客観的な表現として整理できるようにしたのが今回の試みです。これが、デザイン基準が出てきた一連の流れです。


●取り組み内容

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 今回、景観地区、建造物修景地区として取り組まれている内容は以下のとおりです。

 景観地区は、旧美観地区では2割拡大され2400haとなり、新たに「美観形成地区」を加えて、計3400haとなりました。

 この美観形成地区については美観地区と同じだと理解されていらっしゃる方もおられるようですが、デザインコードの表現について我われも考えていかなければいけないと思うところです。その地域に守るべき物があるのかないのかを検証したり、むしろこれから作っていく建物をどういう風に考えるのかという地区が、美観形成地区だと捉えてもらうとよろしいかと思います。

 この美観形成地区を合わせて、概ね旧市電の外周地域を美観地区あるいは美観形成地区として(国の言葉でいうところの景観地区)指定したというところでございます。

 建造物修景地区は、景観地区以外の周辺部の市街地です。それまでも建造物修景地区は大まかには定めておりましたが、地域を拡大し、デザイン基準の詳細化を図ったという次第です。

 風致地区も同様です。

 こういった内容で、新景観政策をスタートさせたところですが、特に工作物規制ではちょっとこれから強化していかねばならないと思っているのが携帯電話のアンテナです。これからますます増えていくでしょうが、屋上の携帯電話のアンテナやそれに付随するキュービクルについては、事業者の方々とお話ししながら、美しい屋上景観を作っていきたいと考えています。


●スタート以降の動き

 ここまでは、景観規制の対象地域をどのように広げていったかをお話しました。ここからは、新景観政策がスタートして1年、どういうことが起きたかを紹介させていただきます。

 具体的には、この1年間で市街化区域の中での景観に関する認定や届け出が、総じて5600件ほどありました。今はちょっと少なくなってきていると思います。京都市内の建築確認申請が6千件ぐらいですので、それに匹敵するような数字です。

 美観地区の関連で言うと、美観地区・美観形成地区の申請件数は、旧制度では年間380件程度だったのが、この一年間で1800件と約4.7倍と急増しました。これに合わせて、京都市でも審査部門の充実や窓口の合理化などで体勢を整えて行っているところです。

 その他、ハウスメーカーからの基準に関する問い合わせも増えました。今やっている仕事が基準に合っているのかどうかという問い合わせも多いのですが、中には積極的に基準に合った材料を取り入れていきたいという内容も多いです。特に街並みに合うようなエクステリア、門扉とか照明を開発したいというご相談をいただいたときには、ありがたいことだと感激致しました。

 こういう動きを見ていきますと、今回の新景観政策のシステムが社会システムとして動き始めたような感触を得ております。今後は、私たちも「進化するデザイン基準」として捉え、考えていこうと思っております。

 最初にも申し上げましたが、今回の我われの提案は、仕組みとしての基準はどうあるべきなのかということです。きちんと細部まで定義していくのがいいのかどうか、約束ごととしてみなさんのあいだで作っていく方がいいのか、方法についてはいろいろあろうかと思います。

 行政としては、学識経験者の方々、設計5団体が参加する「景観デザイン協議会」というものを設立して、フィールド調査を踏まえて議論していきたいと考えております。他にも、景観に関する活動として、地元から地区計画とか建築協定で上がってくることもあろうかと思いますので、それらを進化させる方向として我われも検討していきたいと思っているところです。

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