京都の景観はよくなるか!?
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4。京都市景観デザイン協議会の意義と課題

株式会社京都建築事務所代表取締役社長 川下晃正

 

●景観デザイン協議会が生まれたわけ

 普段は、設計事務所の所長としての仕事をやっております。団体の仕事としては、京都建築設計監理協会会長を務めております。これは、設計監理業務を専業としている設計事務所の団体です。

 2005年に景観法が施行された直後に、我われ設計監理協会ではすぐに「京都景観デザイン研究会」を立ち上げました。当時は新景観政策はまだ出ていませんでしたが、当時の制度のもとでもっと美しい町を作れないかということから始まった研究会です。いろいろと論議を重ねる中から出てきたのが「まず自分たちのデザイン力を向上させることが必要」ということ、それと「施主(建てる人)がもっと京都の町にとって良い建物を建てようという気持ちになってもらわないとダメだ。もっと高い見識を持ってもらいたい」という二つの課題が浮かび上がってきました。その二つが我われの活動の主眼だと確認し、この三年間研究会を続けてきました。

 景観法施行の1年後に、京都市が新景観政策を発表しました。当時、我われの設計監理協会は設計関係4団体協議会の幹事をやっておりましたので、私どもの呼びかけで設計監理協会、建築士会、建築家協会京都会、建築事務所協会の連名でパブリックコメントを出しました。

 趣旨はJUDIと全く同じで、「新景観政策の基本理念には賛成する、しかしデザイン基準については京都各所についてどういう検証と検討を経てこの規準が出てきたのかが分からない。このまま施行するのは時期尚早である。高さ規制などの骨格を先ず施行して、デザイン規制については、われわれのような実務者の意見も十分に聞いた上で実施して欲しい」という内容です。

 検証と検討経過につて我われが質問した時、京都市は「そういった検討はいたしました」と答えましたが、資料が見たいと言ってもいまだにその資料は出てきません。多分、今日の午前中に報告があったように、自分たちで実際に町を歩いて検証するという作業はやっておられないのではないでしょうか。机上だけで作られた案という気がしますので、それでは基準にするには時期尚早という気がします。高さ規制についてはすぐに実施するべきだと思いますが、このデザイン基準についてはもう少し検討期間をおくべきではないでしょうか。もちろん、我われ4団体も、その検討作業に出来るだけの協力をすることを確認しています。。

 こういった内容のコメントを出しまして、その後各政党とも話し合ってだいたいのご理解をいただけたかと思います。しかしながら、その後の京都市会では新景観政策が全会一致で通って、我われの提案したデザイン基準検討については実行されないまま、そのまま通ったという次第です。

 ただ、その時の論議が元になりまして、当時の景観創生監が我われ民間の設計実務者の意見を採り入れて、「今後ともデザイン基準については検討していきましょう」と言ってくれました。

 すでに市の担当者と我われでいくつかの通りを決めて、実際に町の様子を検証してきました。例えば、新町通りを五条から丸太町まで歩いたりしたのですが、同じ新町通でも、五条〜四条、四条〜御池、御池〜丸太町では町家のあり方もそれぞれ違うんです。格子ひとつとっても、商家の格子と民家の格子はデザインが違うでしょう。だからデザイン基準はもうすこし細かく検討していかないとだめなんですという話をさせていただきました。結果的には、そういう過程を経て景観デザイン協議会の発足にこぎ着けたというわけです。


●景観デザイン協議会の課題〜美観形成地区をどうするか

 現実の検討課題としては、基準とすべき、あるいは守るべき、モデルとすべき建物がある地域については我われの側にも大きな異論はないんです。問題になっているのは、やはり美観形成地区です。守るべきものがもうほとんどない所、雑然とした建物が建ち並んでいる所、あるいは近代的な建物が並んでいるような所と、美観形成地区にもいろんなところがあります。

 そこへ今、京都市が言われる勾配屋根を基本にした「和風」のデザイン基準を適用するのが、本当にいいのかと思うところです。それでは、このような地域について、どういう考えでデザインを捉えていけばいいのか。これが、今我われ景観デザイン協議会が課題にしている問題です。今は、それぞれ検証する通りを決めて、みんなでデザインサーベイをして、それを各団体の代表が報告して、まとめにかかるという作業をやっているところです。

 この作業は京都市の寺田さん、松田さんのもとでやらさせていただいていますが、我われには本業があります。仕事の合間の日曜などを利用して時間をとっていますので、正直言うと大変な作業ではあるんです。出来るなら、市の予算で資料を作って、それを元に我われ実務者が検討するというやり方を考えていただかないと、とても時間がかかるし大変です。ともあれ、今は進め方の一つのモデルを作るという目的で頑張っているところです。

 デザイン基準作りの手順や方法については、午前中の井口さんがおっしゃったことと全く同じようなことを申し上げているわけです。ただ、美観形成地区については、用途地域が準工業地域や工業地域だったりして、住宅と工場が混在しているところも多く、そういう意味では複雑な問題もあります。

 例えば、準工業地域では自動車販売店のすぐ横に民家があるような場所がいっぱいありますが、そういう所の商業施設にまで勾配屋根の和風を適用してしまうのはおかしいのではないかという声もあります。

 あるいは、31mの高いビルにも和風の屋根をかぶせるのか。中京区のマンションの1階、2階に付けられる庇についても、「そんなことはダメだ」という見解の人が仲間にはいるんですよ。瓦屋根や庇は木造だからこそ似合うんだ、鉄筋コンクリートのビルにわざわざ形だけの和風を施すのは、デザインをする立場としてはおかしいと言わざるを得ない。そうおっしゃる方もいますので、デザインをめぐる論議は難しいことになっています。

 しかし、歩く人の立場からすると、通り景観としては和風の外観にして合わせた方がいいのではないか、私ははそういう見解から説得している次第ですが。

 私個人の意見を言いますと、市の基準の中には中途半端になっている部分もあり、もっと基準を明確にした方がいいのではないかという地域もあるように思います。

 例えば、中京区のマンションの庇は、基準では「金属屋根か瓦屋根」となっていますが、瓦屋根でデザインしてくれると見た目は町家と並んで綺麗なんです。しかし、予算の関係でカラー鉄板の瓦棒葺きにしているところもあり、それだったらやらない方がいいと思えるところもあるんです。瓦屋根にするんだったら、もっと徹底的にやるように規定した方がいいのではないかと思ったりもします。

 逆に北山通りや白川通りなどは、もうすでに和風が似合わない、若い人が好む洋風の建物が並ぶ街並みになっていますが、そういうところに和風をあてはめても無意味ではないか、そういう問題もあります。また、壬生や御前通りのように、本当に雑然とした建物が建ち並んでいる所なんか、正直どうすればいいのかと思ったりもします。そういうところに50年、100年かけて美しい町並みをつくるためにはどういう建物にすればいいのか。我われは専門家と言えども、勝手にそんなことを決めていいのか、そんなことを悩みながら作業を進めている次第です。

 ただしそれでも、我われは大きな役割を担っていると思っていますので、少々の犠牲は惜しまず市と協力してなんとか実のある仕事にしたいと思っています。

 以上です。

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