5。デザイン基準は何を変えるか
〜新景観政策・現場からの報告〜株式会社ゼロ・コーポレーション工務部設計室長 大島剛
ただ、一軒の建て替えが100m2以下の時は狭小地ということで、それなりの緩和規定があるのですが、100m2を超えた所、2、3間の間口の所ではこの緩和を受けることが現状ではできません。
ご承知のとおり京都市内は建て込んだ地域が多く、軒の裏が見えないところが多いと思うのですが、こういう所でこういう数値基準が本当にいいのか、という疑問があります。
私が協議した事例は、前道が3m、敷地が14坪という場所でした。敷地14坪という現場で、3階を下げてしまうともう3階の部屋なんてとれないという状況の中で、では門扉をつけなさいという指導を受けました。
この時の門扉についても高さやデザインについて指導を受けまして、高さ2m30cmの門扉を付けました。前道3mの2項道路で50cmセットバックしてこの門扉を付けたのですが、正直言うと、門扉ばかりが目立って圧迫感のある通りになってしまったんじゃないかなと思います。
この事例は、北側斜線が真横から来る敷地でして、間口も狭いところで、片流れ屋根にしないといけない事例でした。基準に片流れ屋根がダメとは書いてないのですが、現実問題として京都市さんにはなかなか認めてもらえません。
ここの正式な名称は「山並み背景型建造物修景地区」という所で、それほど和を基調にしないといけない場所でもない。それでも片流れ屋根は絶対ダメということで、片流れ屋根なんだけど、それを少し曲げて一応は勾配屋根という、設計をするものとしては疑問の残る形状に指導されました。これで果たしてよかったのかと、今でも疑問の残る事例です。
事例は、上京区の旧市街地型美観地区での建て売り物件です。
これがデザイン的にいいかどうかは別として、こういう和風のデザインは今までの建て売り物件にはなかったデザインだと思っております。付け庇があることで、お隣の古いお家とも庇の流れがそれなりに整っていますし、格子も使ったことで今までの建て売りにはない味わいが出せたと思います。
ただし、裏事情を説明しておくと、この物件はもともと2区画で考えていたところを1区画で買われたお客様のお家ですから、間口も広くて価格もそれなりに高い物件でした。また、お客様自身もこの和風のファサードが特に気に入っていたわけではなく、むしろもうちょっと洋風の瓦を望まれていた方なので、ここのデザインもそれなりに協議したお家でした。
現況の基準とは異なっている町並みになっていますが、審査の段階で購入希望者が周辺の住人と知り合いになられたことで、新しい町でありながら安心して暮らして頂ける町になったと思っております。6年たった今でも、団地内、団地外との交流が活発に行われていて、我われとしても「安心・安全な町」が供給できたと喜んでおります。
この試みで改めて思ったんですが、行政にはやはりデザインだけでなく、地域との共生をコーディネートしていただく役割を期待しますし、これからはそういうことがもっと必要とされてくるんじゃないかと思う次第です。
新たな町並みや住宅作りにチャレンジできるシステムになってくれたらと思っています。特例の認定とかがあるのは知っておりますが、現状の主流は20坪、30坪の小さな建物の木造住宅で、いちいち特例認定を受けていける時代でもないことは分かっていただけると思います。今後、デザイン基準が京都にふさわしいデザインを生み出していけるよう、施工者、設計者、行政も含めてこのような場で真剣に論議することが大事だと思っております。
●デザイン基準の本当の役割とは
デザイン基準の通りに設計すれば、審査の流れとしてはスムーズに通っていきます。ただ、それがマニュアルだけになっていくのはもったいないし、問題があると感じる次第です。もちろん、我われビルダーにも問題があるのですが。
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