京都の景観はよくなるか!?
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5。デザイン基準は何を変えるか
〜新景観政策・現場からの報告〜

株式会社ゼロ・コーポレーション工務部設計室長 大島剛

 

 当社は京都市内を中心に、戸建て住宅の開発・分譲および注文建築事業を展開しております。私自身、昨年9月の新景観政策施行以前から、当社の物件を京都市の市街地景観課に持ち込んでいろいろと協議を重ねてきました。その中のいろいろな事例から、3件を選んで紹介させて頂きます。ただし、その協議した当時からは運用基準が変わっていることもあろうかと思いますので、その辺はご了承ください。


●デザイン基準によってできるデザイン

〈事例1〉
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 これは上京区の旧市街地型美観地区の事例です。軒の出、ケラバの出の数値基準の話です。今回の新景観政策で一躍有名になりましたが、旧市街地型美観地区では軒の出60cm、ケラバの出30cmが規定されています。

 ただ、一軒の建て替えが100m以下の時は狭小地ということで、それなりの緩和規定があるのですが、100mを超えた所、2、3間の間口の所ではこの緩和を受けることが現状ではできません。

 ご承知のとおり京都市内は建て込んだ地域が多く、軒の裏が見えないところが多いと思うのですが、こういう所でこういう数値基準が本当にいいのか、という疑問があります。

〈事例2〉
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 デザイン基準には門扉の設置というルールがあります。旧市街地型美観地区では、2階3階の外壁面は1階より下げなさい、それが下げられない箇所では、前に空地を設けて門扉を設置しなさいと規定されています。

 私が協議した事例は、前道が3m、敷地が14坪という場所でした。敷地14坪という現場で、3階を下げてしまうともう3階の部屋なんてとれないという状況の中で、では門扉をつけなさいという指導を受けました。

 この時の門扉についても高さやデザインについて指導を受けまして、高さ2m30cmの門扉を付けました。前道3mの2項道路で50cmセットバックしてこの門扉を付けたのですが、正直言うと、門扉ばかりが目立って圧迫感のある通りになってしまったんじゃないかなと思います。

〈事例3〉
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 続いて屋根形状の制限についてです。建造物修景地区、美観地区では屋根形状は勾配屋根が特に規定されています。その中でも、特定勾配として3寸〜4寸5分が規定されています。陸屋根は基本的に禁止されています。

 この事例は、北側斜線が真横から来る敷地でして、間口も狭いところで、片流れ屋根にしないといけない事例でした。基準に片流れ屋根がダメとは書いてないのですが、現実問題として京都市さんにはなかなか認めてもらえません。

 ここの正式な名称は「山並み背景型建造物修景地区」という所で、それほど和を基調にしないといけない場所でもない。それでも片流れ屋根は絶対ダメということで、片流れ屋根なんだけど、それを少し曲げて一応は勾配屋根という、設計をするものとしては疑問の残る形状に指導されました。これで果たしてよかったのかと、今でも疑問の残る事例です。

〈事例4〉
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 もちろん、新景観政策の施行でデザインの質が良くなった事例もあります。我われも、新景観政策以降、建て売り住宅をデザインするとき、今までと比べデザインを考える時間が増えたと思っております。

 事例は、上京区の旧市街地型美観地区での建て売り物件です。

 これがデザイン的にいいかどうかは別として、こういう和風のデザインは今までの建て売り物件にはなかったデザインだと思っております。付け庇があることで、お隣の古いお家とも庇の流れがそれなりに整っていますし、格子も使ったことで今までの建て売りにはない味わいが出せたと思います。

 ただし、裏事情を説明しておくと、この物件はもともと2区画で考えていたところを1区画で買われたお客様のお家ですから、間口も広くて価格もそれなりに高い物件でした。また、お客様自身もこの和風のファサードが特に気に入っていたわけではなく、むしろもうちょっと洋風の瓦を望まれていた方なので、ここのデザインもそれなりに協議したお家でした。


●現在の市場動向

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 2006年7月から2007年7月までの京都府内の着工件数の移り変わりを調べてみました。この1年でかなり激減しました。もちろん時節柄、全国的にも着工件数は激減していて、デザイン基準が直接関係していることはないとは思うのですが、やはりこの1年で我われビルダー、設計業者、施工業者はみんな体力を奪われて、かなりのダメージにはなっています。

 また、お客様と打ち合わせをすると、なかなか自分の思い通りの家が建てられないという話になることもしばしばで、購買意欲が失われていっているようにも感じております。


●太秦「まちなみ住宅設計コンペ」での取り組み

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 今回の新景観政策とは直接関係はないのですが、我が社が2000年から2002年に事業主として行った開発事例として、太秦藤ヶ森の「まちなみ住宅設計コンペ」を紹介させていただきます。主催は、都市居住推進研究会、京都市・景観まちづくりセンターで、全56区画の中の12戸を対象として、全国からのコンペ形式で行われました。208組の応募があり、審査員にはこの物件の購入希望者、周辺の住人の方にも参加して頂きました。

 現況の基準とは異なっている町並みになっていますが、審査の段階で購入希望者が周辺の住人と知り合いになられたことで、新しい町でありながら安心して暮らして頂ける町になったと思っております。6年たった今でも、団地内、団地外との交流が活発に行われていて、我われとしても「安心・安全な町」が供給できたと喜んでおります。

 この試みで改めて思ったんですが、行政にはやはりデザインだけでなく、地域との共生をコーディネートしていただく役割を期待しますし、これからはそういうことがもっと必要とされてくるんじゃないかと思う次第です。


●デザイン基準の本当の役割とは

 デザイン基準の通りに設計すれば、審査の流れとしてはスムーズに通っていきます。ただ、それがマニュアルだけになっていくのはもったいないし、問題があると感じる次第です。もちろん、我われビルダーにも問題があるのですが。

 新たな町並みや住宅作りにチャレンジできるシステムになってくれたらと思っています。特例の認定とかがあるのは知っておりますが、現状の主流は20坪、30坪の小さな建物の木造住宅で、いちいち特例認定を受けていける時代でもないことは分かっていただけると思います。今後、デザイン基準が京都にふさわしいデザインを生み出していけるよう、施工者、設計者、行政も含めてこのような場で真剣に論議することが大事だと思っております。

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