京都の景観はよくなるか!?
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第三の問題提起 「情報共有の新たな仕組み」

 

●ハウスメーカーが欲しい情報は

藤本

 それでは3つ目のお題に行きたいと思います。

 情報共有の新たな仕組みが必要じゃないかというところです。まず、ハウスメーカーさんにとってどのような情報があったらいいかというお話を伺いたいのですけれども、小松さんいかがでしょうか。

小松

 そうですね。やはり我々思うところから言いますと、まず何故こういう基準が出来たのかという根本的なところや、この地域はこうだからこういう基準になったとかは、行政でも話が出ませんし、冊子にも載っていません。説得するにあたって、我々も理解し、納得するための根本的な情報をもう少し欲しいですね。

 それからもう一つ、デザイン基準の情報は出てきたのですが、設計データべースあたりがもう少し細かい範囲で出てくれれば我々も助かります。ただ、それが出過ぎますとデータに合わせてしまいますから、反対に困ったことになるといった危険もあるとは思います。設計データベースをお互い共有するというか、情報の中で共有しながら変えていきながら、それをデータベース化していくということ、そのためにお互いの信頼関係が欲しいというところです。


●ビルダーが欲しい情報は

藤本

 ありがとうございます。大島さんいかがでしょうか。

大島

 そうですね。やはり我々も情報公開は是非して頂きたいと思います。お話にもありましたが、規制がものすごく大ざっぱにかかっている感じが僕はするんですね。例えば山麓型修景地区の山科といったところは、ある所は山麓型でわからなくもないんですが、一本入ったら普通の建物とか細い道が入ったりしていて、道ごとに違う顔があります。やはりそこはもう少し細かく分析した情報があってもいいのかなと僕は思いますし、それを元に京都市さんがどういうふうな方法を創っていかれたいのか、というところも是非知りたいと思います。

 それから矛盾しているかもしれませんが、もう一つは単体単体で評価して欲しくないということです。例えばこの会場を出たら瓦の部材が展示してあるのですが、今置いてある種類は美観上OKなのですが、二種類ありまして、もう一方はダメと言われる。このように素材だけを見てダメというのではなくて、やはり全体を見て評価できるようなシステムを持って頂きたいなと思います。

 先ほどもお話しましたが、片流れ屋根はダメというところだけで終わるんじゃなくて、屋根を二段に折る事よりも、もっと外壁のところで和風っぽいしつらえをする事で、もっともっと評価できるところがあるんじゃないかなと思います。是非全体評価ということをしていただけたらと思います。

藤本

 ありがとうございます。色んな情報が今一緒くたになっているのかなと思うのですけれども、一つにはまずデザイン基準、景観基準を決められた背景となった「何故」という部分ですね。それから細かい地域情報が欲しいという話があります。これはそれをどう活かせるかという仕組みの話にも関わるかと思います。


●市はどう考えているか

藤本

 この地域はこんなふうに考えているということについて、松田さん、まだ何か市が持たれている情報はあるのでしょうか?それとも景観デザイン協議会や私達が地域に入って調べないとないのでしょうか?。

松田

 基準については、先日も市長の方から申しましたけれども、市民にわかりやすい案内はしていかなくてはいけないと思っています。もう作業にかかっていますけれども、プロの方だけでなく、例えば市民の方が家をこれから建てようとするときに、その予定地にはどんな基準がかかっていて、それがどんな内容なのか、どういう理由で定められたのかといった事を、あまり沢山の言葉ではなくて、イメージ図などを使って示したいと思います。また申請の手続きについても案内していきたいと思っています。

 もう一方で、細かい地域情報については、我々のスタッフがやっていくには限りがあります。また、これは行政だけに任せる必要も無いんじゃないかなと思っています。ですから、こんな地域資源があるよといった色んな地域情報、それが良いのか悪いのかというジャッジはまた別の難しい問題があると思いますが、それは色んな所でデータベース化していってもいいんじゃないかなと思います。

 先述の景観デザイン協議会でも地域に入って資料を集めつつありますが、景観はどこからでも見えるものですので、どしどし蓄積していって頂きたいと思いますし、我々もそうしていきたいと思います。

藤本

 ありがとうございます。具体的には新聞報道にもありましたが、「第二ガイドブック」というものが準備されているという話です。これにはどういう思いでこの地区を考えているのかが書かれる事になるのだと思います。

 それから申請手続きがすごくややこしいですね。今市の窓口に行くと、これに当てはまったらこっちに行きなさいとかA4の紙1枚に書かれています。でも自分の建てる所がどこの地区でどうなってて、どの基準を採用したら良いのかというのが本当に難しくてわかりにくくてですね。もっとこう、市民がポンと手を打ったら全部条件が出てくるような、そんなデータベースが出来たらいいなと思っている所です。

 一方、細かい地域情報はやはり地域でも探して欲しいという事ですね。前半でもお話がありましたけれども、景観まちづくりの一つのきっかけとして、街歩きとか資源探しというのはよくされる事だと思います。このデータをどういうふうな形で誰がストックするのかというのが次の問題かなというふうに感じました。


●営業が欲しい情報は

藤本

 須浪さん、今度は営業でもお答え頂ける部分ですね(笑)。どんな情報が営業としてはあったら良いでしょうか?。

須浪

 私どもの場合、ショールームにお客さんが来られて商品を見られたりコンテンツを相談したりといった場面がありますけれども、家を建てたりリフォームされるというときに相談に来られるわけです。いくら建築に興味あったとしても、実際にショールームに足を運んで来られるのは、やはり自分がされるときになるわけです。

 よくこういう会では市民の方々の意識が上がらないということが話題に上りますが、実際のところ、例えばシステムキッチンの知識とかいう事は猛勉強されているのか、私達もよくそこまでご存じだなというくらい、商品を知ってらっしゃるわけです。

 ですから、欲しいときに要る情報ということで、今、建築家の先生と施主をマッチングさせるサイトとか、リフォームしたいときにのぞきに行くサイトとか、たくさんあります。

 同様に、京都市に家を建てたいときに見に行くサイトがあって、そのときに数値で評価できる部分は示してあげる。このあいだ、藤本先生に弊社の看板もブルーが少し濃くなったんですと言ったら、「いや須浪さん、それは彩度が微妙に高かったんじゃないの」と言われて、はいそうなんですかとなりましたが、そのような感じで数値でわかることは数値で明らかにしてあげる。私どもメーカーの方も数値で公表できることはカタログ通り公表していけば、その後はプロの建築家や設計士さん、工務店さんに相談すれば良いことになるのではないか。そのような仕組みがあれば、そのスタートのときのレベルが高くなるんじゃないかなと思います。

藤本

 ありがとうございます。具体的にサイトを創るという事もありかもしれないということですね?確かに今はインターネット時代ですから、京都で家を建てるときに、どこでどういうものだったら建てられるというのが分かるサイトがあれば、メーカーさんとしても良いのかなと思います。

 でも誰がするのというのがね。メーカーさんとしては営業ツールという事もありますか。

須浪

 それがあれば役に立つわけですから、いろんな部材を扱っている者の責任として、皆さんと一緒にそのような事ができればと思っております。

藤本

 ありがとうございます。


●地域での情報共有の仕方

藤本

 小西さん、私が驚いたのは、地域でも「情報共有」と言うことで、家を改修したい人が特にお隣にどういう建物を計画しているのか見せないといけないというルールをつくろうとされていることです。その辺りもう一度確認しておきますが、これは住民の皆さんが承諾されているのでしょうか?内緒にしておきたいと思われる人もいるんじゃないかしら。

小西

 実はこれは京都大学の門内先生の助言も少し入っているのですが、府の建築士会の専門的な助言で「パースルール」というものを作ろうと考えております。

 家を建てるときにどのようなものが建つのかさっぱりわからないというのがあります。マンションやビルだったら事前に相談に来るので計画がわかりますが、個人の家というのは建ってしまってから良い家だったなとか、がっかりしたとか、結果論になってしまうのです。そこで市街地景観に出されるパースがあるわけですから、それを当初は掲示する、それから自宅近隣の人に相談するというルール、ルールというと堅苦しいのでサービスと言うか、言葉はまた変わると思いますが、そのようなことを考えております。

 それから、そういった近隣との話し合いとも関連するのですが、そういった情報をまとめていくときに簡単に理解する方法としては「着せ替え」がいいんじゃないかということで、門内先生の所に360度撮せるデジカメがあるので、それを借りて、来月早々にでも学生さんと一緒に歩いて撮していくつもりです。

 それで、通り全体を撮したうえで、この部分を改築ないし増築・改装するときに、どういう形のモノが調和するか当てはめてみて、通りの皆さんと一緒に「これがいい」といえるような物を作っていく。そのときには、今まで申し上げたように投票によって文化財みたいに決めた建物を参考にして、基準を決めて、さらにその基準の組み合わせの中から、建てる方あるいは改築する方に考えて頂く。その最初の案の時点で着せ替えのように町並みにはめ込んでみる。それが通り全体の人達が納得できるものだったら承認する、そういうルールを作っていきたいと思っています。

藤本

 ありがとうございます。大変な事になっていますね。これから皆さんの了解を得るというところかと思います。

 私が谷口さんのところにおじゃましたときに、姉小路を含んだ地域の模型がありました。これはマンション反対運動をされたときに使われたものらしいのですが、このように地域で話し合いができるような場があって、かつモノがあるというのが重要であると思います。


●市は地域ルールをどう考えているか

藤本

 ここで松田さん、市の方では、ここまで情報公開して専門家を入れながら基準を地域で決めていきたいと思われているような場合、どのあたりまでOKだと言えるのでしょうか。

松田

 どういう視点で語るかということもありますが、法律の枠組みで言えば、例えば都心部では美観地区(景観地区)がかかっているので、地域のルールを建築協定や地区計画として定める場合はどうなのか、ということだと思います。まず、建築協定は任意協定ですから、それは任意に守って下さいという話になります。

 それを地区計画で作ろうとする場合は、既にかかっている美観地区との関係がどうなるのか、規定の包含関係が問題になります。美観地区に書かれている内容に地区計画で上乗せでかけていく場合は地区計画で見られるということになると思います。

 そうではなくて横出しと言いましょうか、別の内容を決められるとすると、それぞれの所でチェックするということになると思います。

 ここで緩和的なルールはどうするかが問題です。ただ意匠形態の場合に緩和なのかどうかという議論もあるのです。そこは明確になっていませんので何とも言えません。

 例えば祇園新橋の伝建地区を指定するときにあった議論は、準防火地域をどうするのかということでした。あそこの場合は都市計画を変更したという経緯があります。同様に、どうしても違うデザイン方法を持ってきて、それがデザイン基準とバッティングする場合には、調整する方法として「抜く」とか、そういった手続きになると思います。

 ただ、よくよく考えてみて、それがバッティングしているというようなレベルのものなのかどうか、そこが一番大きなポイントではないかと思います。

 よく議論で、中高層の建物に屋根はいらないという話が出ます。私達としてはそんな事まで言っていないと反論したくなる所も実はあるのですが、屋根基準においてベースとして考えているのは、低層住宅にしっかり屋根をかけることを基本としておいて、職住共存地区などでは中層の建物は屋根のかかった低層の建物との調和を考えていきましょうということです。それから高層について特に京都で問題にしないといけないのは、もうご存じかと思いますが、屋上の景観が他の都市に比べて汚いということです。これは高さの制限で、なるべく建物の高さを低くしながらそこに設備を乗せたりしているためで、あまり自慢できることではなく、これについては世界の歴史都市の屋根の景色と見比べてみると一目瞭然なんです。

 ですからここは綺麗にしましょうよと、高層建築では言いたいところなんです。そのときに例えば設備を隠すために四方にルーバーをまわしてもらって、そのルーバーを低層の屋根のかかっている建物と調和のとれたものにしてもらえませんか、という言い方をしています。高層は工事に時間がかかりますので新景観政策後の建物をまだ見かけませんが、もうそろそろ建ってくると思います。ですから高層に必ず大屋根をかけろと言っているのではなくて、美しい屋上景観をつくろうと言っているわけです。

 ちょっと余談になってしまいましたが、そういうことで言いますと今やって頂いているような取り組みが本当にバッティングするようなことなら、変更したら良いと思いますけれども、調整できる話なら調整していったらいいと思います。

藤本

 ありがとうございます。本当に具体的なお話を頂いて有り難かったと思います。中高層に屋根はいらないという意見が上がるというのは、やはり市の方の思いがまだ伝わっていないのかなとも思いました。これから建ってくる中高層もあるという事ですので、その辺りできちんと確認していきたいと思います。

 今のお話で、ルールとしては横出しのときなどにしっかり検討して、都市計画を変更すべき必要があれば変更するし、変更した事例もあるという事でしたね。祇園新橋の所でも、ここはご商売されている方が中心で普通の住民のまちづくりではなかったかもしれませんが、ボトムアップでしっかり地域を考えられた事例で、そのときもやはり都市計画を一部変更しながら調整をとったという話でした。


●実際の指導は機械的なのでは

藤本

 この辺り田端さん、質問などきておりますでしょうか。

田端

 情報共有についてですかね。学芸出版社の前田さんより、もう一つ前の市街地景観整備条例のときには美観地区地区別基準というものがあって、その時点のガイドブックではお薦めといった形で出ていた事例に庇がついておらず、今となっては基準に合致しないという事になってしまっているのですが、これはどういう事なんでしょうかという質問です。ちょっと複雑な話ですね。

前田

 資料で紹介していますが、藤本先生を含む四人で街を歩いた時に、全員が良いなと選んだ建物には庇はありませんでした。これは新景観政策の実施直前に竣工した建物ですが、旧美観地区ですから2階建の建物の1階に庇はつけなくてはいけなかったんです。庇はついていなかったけれども壁面が左右の建物と揃っているように見えるように工夫してあり、町並みを構成していました。

 田端先生が紹介くださったように10年ほど前に良い建物を市が選んでも庇が無いものがいっぱいありました。2階建は以前はノーチェックだったかもしれませんが、チェックがかかっていた中高層でも、必ずしも細部にこだわらずに判断されていた結果だと思います。

 しかし、今回は法律ということで、「規準には合致しないけれども、全体がよいから良いじゃないか」といった幅のある判断が出来にくくなっているのではないかと危惧しています。

 そういうのはデザイン基準の特例でどんどん通していくつもりがあるのか、それとも気持ちは伝わったからいいよねということで以前のように幅のある判断をしてゆくのか。それをお聞きしたいのです。

 前者の場合はよほど気軽に特例に挑戦できないとユーザーにも業者さんにも敷居が高いでしょう。後者の場合、先ほどの情報公開の中で、こういう場合は庇がなくても通したけど、これは庇が無かったら通さないという事をきちっと公開して議論していかないと、いつまでたっても積み上がらない、分からないままではないでしょうか。

 なお午前中の市の説明の中で、たくさんの件数があるのでシステマティックにガンガンやっていくしかないんだと言われましたが、そこが一番心配です。そんな乱暴なやり方しかできないのだったら、10分の1ぐらいに絞ってきっちりやる所はやる、後はまあまあというふうに基準自体を変えないと、ひどいことになると思います。

藤本

 この辺りの問題は次の課題になるかと思います。いつも攻めの前田さんですが、松田さん、市の方でちょっと受けていただけますでしょうか。そういう情報を公開する事は可能かという話だと思うのですが。実際に許可した、しないという話ですね。

松田

 例えば旧市街地型美観地区の一階二階の庇の件ですと、役所として理由もなくそれはいらないという事はないですね。やはり「特認」という形で手続きを踏んでやっていくと思います。

 この庇の規定というのは、周りとの連続性ということで、例えばこんなケースがあります。連続性の中で前に駐車場などの空間が空いている。そのときに塀や門を設けるという方もおられます。そのときに庇状の屋根を構成するということで、後ろにある庇を前の方として見るということはしています。

藤本

 前の塀にある庇を建物の庇とみるということですね。

松田

 はい。

 それから植栽で前を造っていくので、それを前の庇と考えるような事はあったりします。けれども、基本的にはつくって頂く事になっています。そこを変に曲げると基準ではなくなってしまいますので、そこはやって頂くという前提で、ただ必要があれば特認として手続きしますし、その場合には公開の場で議論されますので、情報として市民の皆さんにも出て行く恰好になります。

 それから景観地区には概要書の閲覧制度があります。外観の着色立面と配置くらいしかわからないですが、認定がされている物につきましてはそれを見て頂けますので、そこのところで行政の中でいい加減にやっているということは、私はないと確信しているところであります。

藤本

 ありがとうございます。概要書閲覧制度。これは具体的にどこにどう行けば見せて頂けるのでしょうか?。

松田

 認定されたものについては市街地景観課で、この場所の概要書をと言って頂いたら、確かお名前は書く必要がありますが見て頂けます。これは国の制度です。

藤本

 それから先ほど「特認」と言っておられました特例認定という制度、午前中にも説明があったと思うのですけれども、これについてももう少しお伺いできますか?。

松田

 実は年間5600件ほど景観関係の申請がありますと申し上げました。それをこなしていくのに基準が明確でなければなりません。これは建築確認のように一つのシステムとして動かすようなレベルに達しています。こういう説明です。

 一方、例えばデザイン基準とは違うんですよとなったときに、そのレールとは違うレールに乗せてやっていく、こういう事なんです。ですから、多くのものをチェックしていって、特に協議が必要なものについては違う所でしっかりと協議していくなり吟味していく、こういうシステムになっています。

 だから、ないがしろになっているというわけではありません。

 一方、ルールづくりについては地元に行ってどういうルールを作りますかといった相談が必要です。これはまたルールづくりのレベルであります。決まったルールをどう実行していくのかというような部分での動き方を、先ほどは説明したわけであります。

藤本

 ありがとうございます。特例認定という制度で、基準に合わないものも、それに通れば建てられるということですけれども、それについては情報公開されるということですので、そういう検討を重ねていけば、こういう事は許されるかなというのが皆さんの共通概念になっていくのだろうと思います。

 少し長くなりましたが、情報共有というのは非常に重要なテーマだったと思います。

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