では最後のテーマです。今のお話にもちょっと関わる所ですけれども、デザイン基準のレベルはどうあるべきかという話です。ひきつづき松田さんにお伺いしたいのですけれども、今お話し頂いたように、やはり基準は基準としてしっかり大きな枠組みをつくったんだという事だったと思うのですけれども、その中で、どこまで進化させていっても良いかというのはまだ検討の余地があるという先ほどのお話だったと思います。
もう少しその辺りをお伺いできますでしょうか。
松田:
進化の方向の一つとして、午前中のケーススタディの中でも多くの先生方に指摘していただいたように、細かく地域を見ていくというのは大事な事だと思っています。これはデザイン基準ありきで考えていくのではなくて、景観づくりのときに細かく見ていって、どういう地域であり、どういうふうに発展させていきたいと考えていくのは大事なことです。
で、その次の段階として、どういう方向性を持っていけばいいのか。それは住民の皆さんの合意を形成していけば良いのか、もう少し他から来られた方にも対抗手段をもって臨んでおいた方がよいのか。または単位としてのグループが、そのグループだけでいいのか、もう少し広い範囲でやっておかないと景観としての良さが生み出されないのではないかとか、このように色んなレベルがあると思いますので、まずは細かく見ていくことから出発していきたいと我々も思っています。
その中で、どういう単位でどの程度の対抗手段を持ってやっていくのか。そこに京都市として決めるデザイン基準があるように思っています。
ですから細かく見ていきたいと思ってはいますけれども、結果として大くくりになるということはあると思います。
また、美観形成地区についての話題もありましたが、美観形成地区は市の南西部に多く指定されています。街の形成の過程で言うと、戦前もあったかもしれないですが、戦後に住宅開発が進んだ場所です。かつて染色関係の工場とかその職人さんが住まわれていて、その跡にスプロールとまでは言わないですが、少し密度が高く住宅が建っていったというような場所です。
ここはまだ方向がよくわからないところです。しかし放っておいたら今までと変わらないという事で美観形成地区としていますが、基準はあまり書いてないはずです。こんなんでいいのかというくらいなんですね。低層には屋根をつけてくださいとか、その程度なんですけれども、それでも一つの基準として覆っておいたほうが良いんではないかなと思っています。
ですから大くくり過ぎて、そこは幹線だから別だとか、そういうこともしていないのです。これはもう一度現地に行って考えようと思います。幹線と中が違うというのは解っている事ですけれども、違うから違う基準として規制をかけておく方が良いのかというのは次の議論だと思います。
ですから規制ありきのデザイン基準について、我々行政としてもそれで良いのか、違いがあっても良いけれども規制まで持っていくのか、という所をしっかり専門家とも議論し、また規制対象地域の意見も聞きながら、進化させていくべきなんだろうと思います。
この辺りの事でもボトムアップが欠かせないんだというふうに思います。
ありがとうございます。ちょっと頭の整理が私達もできたように思います。
やはり地域を細かく見ていくということは絶対必要なんです。しかし、それに対してデザイン基準をどうかけていくかというのは、その次の話かなと思います。
川下さんどうでしょうか、この辺り。景観デザイン協議会の方でも具体的なデザイン基準をどうしようかという話も出ているのでしょうか?。
川下:
まだ地域のデザインを見て回ったりしている段階です。私はデザイン基準というのは滅茶苦茶にしないための最低レベルの基準で、この基準を守ったからといって良いモノができるかどうかというのは別の問題だと思います。
街の中を見ても本当にいろいろな建物が建ってごちゃごちゃしているのを一定レベルで揃えたいというのがデザイン基準だと思います。
ですから、その基準に基づいてデザインなり設計していれば、そう滅茶苦茶なデザインにはならないだろうという事ぐらいだと思うのですが、その中で良い物をつくろうという意欲のある人が、その基準に外れるデザインを考えるという場合は当然あると思います。その場合は特認申請をどんどんするという事だと思いますし、市の方もそういう特例を認めた場合は、こういう点で認めて許可したということを公開したらいいと思っています。
ですから、今、話に出た市街地型美観形成地区については、松田さんは大まかな基準しかかかっていないと言われましたが、私は、そんなに細かいデザイン基準を設ける必要があるのかな、と思っています。今、本当に雑然とした建て込んだ地域で、今後、ある程度統一感を持たせていくときの大枠をどうするかという基準で良いと思います。
先ほどのボトムアップにも関連しますが。私は、自分の経験に照らして「市民の感覚は正しい」と思っているんです。
といいますのも、これも私事で申し訳ないのですが、今私の事務所が入居させてもらっているビルは、元々は今にも潰れそうな古い木造2階建ての建物だったのですが、建て替える事になり、私の事務所が設計させて貰うことになりました。オーナーにどんなものを建てたいのかと聞くと、「表は4階建。中庭を挟んで自分達の住宅を造りたい。」つまり、「今までの町屋と同じ住み方をしたい。表はあんたの所で使ってくれたらいい」というわけです。
「法律上は11階でも建てられますよ、一番上の日当たりの良い所に住んで、下はテナントでも入れれば儲かりますよ」と言ったら、「そんなものは要らない。北側にいっぱいある住宅に迷惑がかかる。道路も狭いし、そんな高い建物は要らない」と仰るわけです。これは立派な見識やと感心したんです。
まだ木造の町屋が並んでいる頃でしたのでデザインを和風に合わせるかどうか話し合いました。この点についても、オーナーは「すぐ近くに洋館建ての御影石張りの建築や煉瓦造の建築もある。私はこの御影石が好きで、これだったら近所に迷惑かけない。これでどうですか」と言われました。私も賛成して御影石の外壁で設計をさせてもらって入居しているんです。
そのときにその人が言った高さ・建て方は、まさしく今度の新景観政策の規制のとおりなわけです。先ほど高松伸がすごいマンションを設計して、ビラを張り回られたときも、もうちょっと考えたら良いのにと仰ってましたが、あの場合は、高松君が悪いというより、ゼネコン+ディベロッパーが強引だったという事だと思います。
大阪ガスの場合は、僕の同級生が役員をしていたので、ちょっと話をしたことがあるのですが、ちゃんと譲って考え直して建てられたわけです。やはり昔から居る住民と利益だけを目的にして建てる企業というのは、それだけ感覚が違うということを実感したわけです。
そういう点で、京都に住んでおられる人の感覚は、直感的であっても正しいと思います。高さと道路幅の関係、あるいは隣近所への配慮など、いろんな事情を考えておられる。たまたまそういう事の反映が、今回の京都市の新景観政策になったという点ではもう大賛成だったというわけです。
市民の意見や考え方というものは、反対運動という形だったり、あるいは要望だったりと、色んな形で現れてくると思います。市はそういう事に常にアンテナを張っておいて デザイン基準も改善していく、そうであれば良いなと思っています。
ありがとうございます。最後に何かないでしょうか。
田端:
いくつかありますね。
まちづくり委員会の河野さんからは、単体の規制で町並みが上手く創れるのかどうかという基本的な質問です。例えば通りでサッシを揃えるといった条件をつけるくらいで良いのではないかという話です。
それから京都造形芸術大学の井口さんから、川下さんの先ほどの話で美観地区については特に問題がないとの事でしたが、そうでは無いのでは、との事です。
井口:
デザイン基準をもう一回見直そう、進化させようと実際に動いている所は、市の行政の担当の方以外では、川下さんのいる景観デザイン協議会しか無いのではないかと私は思っています。ところが、先ほどの川下さんのお話を伺っていますと、美観地区は見直さなくていいんだとはっきり言われたのでたいそう危機感を持ちました。いやそうじゃないだろう、そこももう一回考えようよ、そここそえらいことになっているのではないかと今日の午前中に発表した私の資料では問題提起している所なのです。このままでは美観地区は今の曖昧なデザイン基準が一人歩きすることになってしまいます。大きな問題だと思います。
川下:
誤解を招いたかもしれませんが、あくまで我々の力量と時間の関係です。
やはり問題は色々出ています。ただ、限られた時間と労力のもとで、どこから手を付けようかというときに、大きな問題があるかないかという点では、今の美観地区は、昔からの風致行政の流れで勾配屋根にしても材料にしても、歴史的に積み上げられてきていて、方向性が見えていると思います。
井口先生が仰るような問題点については、当然、我々も認識しているのですが、順番としてこの新しく出来た美観形成地区ではないかということになったということです。実際、我々設計者の間で、ほかの地区と同じ「和」を思わせるような勾配屋根でよいのか、逆にもっと思い切って新しいデザインの近代的なビルが並ぶ町並みでも良いのではないのかという論議がありました。そこで、まずはこの新しく決められた美観形成地区から論議をはじめようということになっただけで、決して他の地区を放っておこうという事ではありません。
我々は、設計事務所の所長ばかりですから、実際に自分が設計するとしたら、どの地域が問題かという点から考えます。急ぐべきは美観形成地区ではないか、こういうことで、まずそちらから頑張っているということです。まだ全体的な論議をするような状態になっていないのです。
藤本:
逆に言えば、やるべきことはいっぱいあるという感じですね。力量と時間が足りないなかで、一番問題なのが美観形成地区なんですね。ここは「認定」を下ろさないといけない場所ですから、しっかり考えないといけないというのは確かに思います。
美観形成地区におけるデザイン基準で、具体的に「何々しなくてはならない」というような基準を決める事は、ケースと内容によっては景観法に抵触する場合があると思っています。
まず景観法8条1項では景観計画区域を指定することができる場合として5つのパターンが示されています。そのうちの3つは既にあるべき景観というのがかなりはっきりしている区域ですけれども、残りの2つについてはどちらかというと、放っておくと景観が悪くなる所で、そういった所についても景観計画区域が指定できるというわけですね。
これらの区域については、この段階で既に具体的に良好な景観イメージが形成されているわけではありませんから、例えば勧告の基準を「〜〜してはならない」という形とすることは現在の景観を悪くすることを抑制するために必要なことで当然出来ますが、「〜〜にせよ」というように、ある一定の方向の景観の形成を目指す基準を具体的に決める事は、その地域のコンセンサスが存在しない状況の下では困難で行き過ぎだと考えられます。
例えば、都市計画法の制度である地区計画においては、その計画内容について具体的なコンセンサスが出来ていない場合、方針だけを決めて地区整備計画を決めない状態を想定した仕組みとなっていますが、景観の場合も、地域において積極的に目指すべき具体的な景観基準についてのコンセンサスは決められないが、これ以上景観が悪化することは防ぎたいという場合、「何々してはならない」基準だけを決め、「〜〜こうせよ」という景観形成のための基準については、時間をかけてコンセンサスをまとめていくことが不可欠かと思われます。
現在の景観法にはそのような進行形のものを認めていないという欠点があるわけですが、法律上は景観形成基準に抵触する行為に対して勧告をしなければならない形となっている以上、そのようなゾーンにおける景観形成基準については、消極的基準であるべきであって、地域のコンセンサスが明確でないにもかかわらず積極的に「〜〜せよ」ということを勧告するのは、法律的に些か問題と言うことになるわけです。
景観計画区域の方はまだしも、これが景観地区になってきますと、これは強制力を強く持つものです。そういう意味では今回の京都の場合には美観形成地区は景観地区ですから、「〜〜せよ」という具体的な基準を強制することについては、その基礎に地域の側の「積極的に形成すべき景観イメージ」が存在しない場合は、いささか違法性を問われうる余地があるように思うのです。
私が知らないだけで、既にそのような地域の側のコンセンサスが形成されているのかも知れませんが、まず地区の中で具体的にどのような景観を作っていこうとするのかという事が決められてから景観地区の指定を進めるべきであって、それを抜きにして行政側が「〜〜こうやれ」という積極的な基準を決めるのは、既にあるべき景観が明確でないゾーンでは、問題があると思っています。
藤本:
ありがとうございます。京都市では景観アドバイザーを3名置いておられます。そのうちの法律のアドバイザーをされておられますのが生田先生です。何かコメントございますでしょうか。
松田:
将来像が弱いのではないかというご指摘だったかと思います。それにつきましては将来像をしっかりと固めていってということで、さらに深めていきたいと思います。
景観法の弱いところ、美観形成地区の弱いところについては勉強させて頂きたいなと思っています。
もう一つ、勧告制度の話がありましたが、景観計画区域であっても景観地区ではないところ、たとえば建造物修景地区は届け出があって初めて勧告できるという制度ですので、そういう中での運用という事に制度的な限界があるということは思っております。ただそういう中でも基準としてあるべき姿を示していくというのも役割だと思っています。また建造物修景地区は大ぐくりな仕訳けになっていますけれども、この辺りもボトムアップの仕組みの中で深めていけたらと思います。
藤本:
ありがとうございます。ぜひアドバイザーとしてこれから具体的に指導して頂けたらと思います。
先ほどデザイン基準の特例についての話がございましたが、今までに特例になったものの数とか例について質問が来ておりますが、いかがでしょうか。
松田:
ちょっと数は押さえてないのですが、公共の建築物、例えば伏見区役所ですとか学校といった所で特例の認定を行っていたと思います。まだ本申請には至っていませんけれども、民間のもので協議を進めているものがあります。もちろん景観地区において特例認定のシステムが働いて、という話です。
田端:
基準に外れるものについては、どうなるのでしょうか?。
松田:
基準から外れていますと認定できませんので、不適合通知を送るというのが基本です。
認定基準が曖昧なんじゃないか、担当者によって言うことがずれているんじゃないかというご指摘があったりしますが、これについては、二点においてそういう事がないように配慮しています。
一つはグレーゾーンが出てきた場合には内部で違う判断をしないように、円卓会議と呼んでいますけれども関係する者が集まって決めるというのが一つ。
それから、我々が勝手判断しがちじゃないかという点については、相談員制度というのがあります。これは悩むような事があったときに、学識ある先生方に相談員になって頂いてアドバイスをもらうという事です。
特例の関係につきましても、やはりデザインの良し悪しが認定の一要素になりますので、そういったときに相談員の先生方の意見も聞きながら決めているわけです。
ですから、役所だけで勝手にグレーゾ−ンを決めようとしているというよりも、そういう仕組みを働かせています。でも基本的には基準に合ってないものは認定されないというふうにご理解頂きたいと思います。
分譲マンションの居住者の方からですが、分譲マンションの外壁の塗り替えについて、条例に関わる課題があれば教えて下さいとのことです。この方がどういう条件かは分かりませんが、何か普通に話が出来るようなものがございましたらお願いできますか?。
松田:
基本的には景観地区で増築をする場合には増築部分だけではなくて既存の所にも基準が適用されると法律で定められています。ただ、ちょっとした増築なのにその既存の所に「屋根をかけろ」というような事が起こってきたりしますから、それについては特例という事で、チェックするような仕組みになっています。
ですから増築などの行為を景観地区で行う場合には、早めにご相談頂きたいと思います。
また塗装をやり替えるといった場合、景観地区では申請いただいて外壁の塗装の部分だけチェックされる事になります。ただし、前と同じような色で、少し色がはげてきたとか防水性が劣ってきたから塗るんですという場合には、通常の維持管理行為として捉えられますので、申請もいらないということになります。
ただそこの判断は、前の色が何で、新しい色が何というのもわかりにくいと思いますので、一度ご相談頂けたらと思います。
田端:
最後に今来た意見ですが、洋風の建物でも本物かどうかは、建築家の集まりでもって判断すれば良いのではないかという話です。
藤本:
勉強して考えようという話しかと思います。
第四の問題提起 「デザイン基準のレベル」
●デザインの基準の進化を市はどう考えているのか
藤本:
●景観デザイン協議会はどう考えているか
藤本:
●信じるに足る市民の見識
川下:
●美観地区のデザイン基準も問題では
藤本:
●美観形成地区の法的な問題点
生田:
●デザイン基準の特例の具体例は
田端:
●分譲マンションの修繕について
田端:
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