プレイスレスネス(没場所性)やアンプレイスを作ることは、 こういった意味を減らすものであり、 私達の人間としての価値が減らされることにもなります。
要するに、 場をデザインする際にはバランスが必要だということです。
その場所に関して大変強力な感覚、 お互いに共有する価値観、 そしてまたある程度の標準化が必要であり、 それらをバランスよく扱うことが必要です。
いわば、 前近代的な時代が一つの理想となってくるわけです。
こういったアプローチにおいては都市の抜本的な変化(例えば都市の全面的な再開発とか上から押しつけるような形での道路のパターン)を避けなくてはなりません。
新しい開発、 新しいデザインというのは既存の都市の様相からできる限り作って行くのが理想です。
このようなアプローチというのは決して新しい物ではなく、 パトリック・ゲデス〈Patrick Geddes〉というイギリスの人が1917年にインドで行なっていました。
写真35.1の道路のパターンは、 今ある道路のパターンに対して上から投影してゆくような形で作られたものであり、 そして右上のものはタウンスケープに関しての大変詳細なスケッチが描かれています。
そしてまた、 右下のものは変化というのは少しずつ追加的に行っていくものだということを表しています。
このようなアプローチを、 彼は保存的外科手術と呼んでいます。
このようなアプローチは都市の形態の特徴と連続性を維持するものであり、 例えば場所とか道路の名前をそのまま維持し、 そしてまた道路のパターンや区画のパターンを元来のものを活かして拡張し、 そしてまた現在ある建物の形とか大きさに似たような新たな建物を作るということです。
写真36のメインストリートは商店街になっており、 トロントの近隣住区の一番中心となる所を走っているものです。
このプログラムの目的は、 今ある道路の活力をそのまま維持し、 そしてまた今ある二階建ての建物を三階建てのものに置き換え、 商店のファサードやサイズはそのまま維持することです。
また写真37の例では、 密度は高くなっていますがタウンスケープの特徴そのものは維持されています。
そしてまた、 別の大型の新規開発の例では以前からある道路のパターンをできるだけそのままにして拡張しながら密度を上げて行き、 建物なども昔の部分と同じような感じで作っています。
新たに開発された所に16,000人の人達が住むといった形のもので、 手前にあるのが新しく建築された家で、 それが後ろにある古くから存在するものとうまくリンクされています(写真38)。
こういったプログラムは、 できるだけそこに住む人達と最初から協議の場をもって設計を進めて行くことが必要です。
単純にアンケート用紙を配って調べれば良いというものではありません。
最初から市民に積極的に関わってもらい、 話し合いの中でデザインを決めて行くわけです。
このトロントのメインストリートの再開発のプログラム、 またその他の都市再開発のプログラムにおいて明らかなことはバランスのとれた再開発のアプローチが必要であるということです。
できるだけ以前のものを活かしながら、 しかし、 現代が必要としているニーズを充足して設計し、 実施してゆくことが重要です。
場所をデザインする際、 慎重にバランスをとることが極めて重要であり、 いくら強調しても強調しすぎるということはないと思います。
地元の利害、 関心といったものをグローバルなプロセスとバランスをとるということ、 そしてまた、 環境の持続、 可能性とバランスをとるということ、 そしてまた、 過去との連続性というものを変化に対してのプレッーシャーに対してバランスをとらせるということ、 場所のランドスケープのデザインというものを社会的な関心事、 また象徴的な要素とバランスをとらせなければならないということです。
20世紀の都市開発の歴史は、 ラジカルに異なったいろいろなファッションの間を大きく振れてきました。
すなわち歴史主義的なものからモダニズムへと振れて、 それからまた伝統の維持という方向に振れて、 そしてまた、 未来主義的なデザインといったものもでてきたわけです。
ですから、 ここでもっと振れ幅を小さくするといったことも重要だと思います。
そうすることにより、 場所の内因的な資質、 そして他方においては人々が共有するもの、 この二者の間にバランスを築くということが重要であり、 これこそが都市の設計において今後十年、 二十年にわたって大変重要な挑戦課題になってくると思います。