働きながら住み続ける人の多い街には、 見かけの美しさや賑やかさでない、 街全体が生きているという魅力がある。
郊外の住宅地と都心の大きな違いは、 働く場があるか、 働く人の姿が見えるかどうかだ。
特に、 古くからの都心には、 店を構えて働きながら代々住み続けている人―職住近接型自営業―が多い。
職住近接型の街では、 働く人の姿が見えるだけで街に活気がでるし、 顔馴染みがいるだけで心強い。
友達の家に遊びに行って店の手伝いをするのが楽しみだったという話のように、 子どもは働いている人の姿を見ながら成長する。
こんな街では、 緊密なコミュニティが形成されており、 非常時に力を発揮するのは阪神大震災で証明済みだ。
働くだけでなく、 住むだけでもない街だから、 街のあちこちに生活の臭いや歴史を感じる。
街の全体が生きているから、 職場をもたないサラリーマンの世帯が住んでもきっと楽しいはずだ。
再開発が進み、 都心とは郊外から通うサラリーマンがスマートに活動するオフィス街か、 夜になるとネオンが眩しい歓楽街のどちらかと錯覚されかねない状況の中で、 働きながら住み続ける人のいる街を残し、 つくれないものか。
ここまで書いて思った。
私の育った農村にも、 かつては働く人の姿があったが、 だんだん少なくなっているという意味では、 都心も農村も同じだ。
そして、 働く人の姿が見えない郊外住宅地という、 何とも不思議な街を私たちはつくってきたことか。