人は身の回りの環境を眺めると同時に、 そこでどの様な行動が可能なのかを瞬時に知覚し、 自身の仮想の体験を予測評価できる。
人は景観対象を見ると同時に、 無意識のうちに仮想的な行動を心の中で実行している。
これによって空間の体験を予測することができるし、 その予測の内容によって評価することもできる。
ただし、 このときの予測と評価は無意識かつ同時的である。
Gibson, J. J. (1979)のアフォーダンスの理論は、 まさにこうした現象を知覚理論として提示した画期的なものであるし、 中村良夫(1979)は空間意味論として仮想行動論を展開した。
仮想行動の内容は各個人の先行経験による部分が大きいと考えられるが、 歩く、 寝ころがる、 落ちるなど、 万人に共有されている基本的な経験に基づく仮想行動に関しては、 それに伴う予測評価の内容も一致してくると考えられる。
アフォーダンスの理論は、 快適な都心居住のための景観デザイン方針をも示唆してくれる。
例えば道路の分離帯や交通島は、 仮想行動の可能性を広げ生存のための逃げ場を提供している。
そのような場所はたとえそこに立ち入る必要がなくても、 立ち入りやすそうに見え、 居心地がよさそうに設計するのがよい。
柵・窓・バルコニー・庭などのデザインでは仮想的侵入を許すように見えるものが好ましいし、 護岸や法面は容易に攀じ登れそうな勾配とテクスチュアがついているとよい。
これにより、 豊かで味わい深い景観体験が生まれることになる。