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廃墟願望

ランドデザイン 中村伸之

 「今ここにない」「失われた」現実を追体験したいという欲望は、 観光という行為を生み、 仮想現実(体験)を生む。

遺跡の発掘現場には多くの「考古学ファン」が押し寄せるが、 「考古学」への情熱も断片的な遺構や遺物から、 過去の世界の全体を追体験したいという欲望の表れである。

 福井県にある一乗谷朝倉氏遺跡は、 戦国時代の都市遺跡で、 政治、 宗教、 軍事、 生産、 商業等の都市機能が揃っている。

 現在、 史跡公園としての復元整備が行われており、 その中の「復元町並」という施設は、 200mの街路を中心に当時の町並みを立体的に復元した、 映画のセットのような物で、 部材の加工にも当時と同じスタイルのヤリやカンナを使用したという徹底ぶりである。

 しかし、 ここまで具体的に整然と整理された物を突きつけられると、 「何か違うんじゃないか」と半畳を入れたくなってくる。

 むしろ、 茶碗や鍋や瓶や下駄や櫛や刀や仏具や茶道具や玩具なんかの、 おびただしい数の出土品を見ている方が、 都市に吸い寄せられた人々の欲望やらエネルギーやらが感じられてリアルだ。

 小さくてもこっちも方が「本物」で、 戦国時代の人たちの執念がこもっている。

 都市を成立させているのは理念や政策などではなく、 こんな卑小な欲望の膨大な集積ではないかという気すらしてくる。

画像na1 画像na2  また、 一乗谷は庭園遺跡があることで昔から有名であった。

4カ所の庭園の内、 最も古い「湯殿跡庭園」は、 山に続く緩やかな斜面に、 大ぶりの石が並ぶ、 幅20メートルほどの庭園遺跡である。

 先ほどの町並みを見下ろす山裾にこの庭はある。 街の喧噪に背を向ければ、 深山幽谷をイメージさせるこんな庭があるのだ。

 庭は元々、 その場に無い自然をイメージさせる「仮想現実」であり、 庭園遺跡は、 さらにその庭をイメージさせる「仮想現実」なのかもしれない。

 建物も庭木も朽ちて、 石だけが残ったが故に見えてくる「現実」もある。

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