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南京町は好きだ。 でもヨーロッパ村は許せない

学芸出版社 前田裕資

 
 
 このレポートとのことを思い巡らしていた時、 僕は東京の「ルノワール」という喫茶店にいた。 25年ほど前に東京に住んでいたころからある、 フランス風の喫茶店だ。

 これは仮想世界だろうか? 日本のど真ん中にあるフランス風の空間という意味では、 きっと仮想的と言っていいだろう。 だけど僕にとっては懐かしい雰囲気だ。 だからこれは違うとも言える。

 僕の理解では「非・仮想世界」は、 そこにそうあることに僕が何の疑いも持たない存在だ。 「仮想世界」は、 そこにそうあることに僕が驚き、 不審がり、 あるいは嘘と知って楽しむ存在だ。 だからその境は固定的ではなくうつろいやすい。 ましてあなたにとってどうなのか、 僕は知り得ない。

 フォーラム委員会の議論のなかで、 つくり手の側から「作っている商業施設は嘘っぽい」という話が再三出てきたが、 じゃあ、 アメリカ村はどうだろう。 あれは自然発生的だったから本物だろうか? ヨーロッパ村は嘘そのもののようだし、 南京町は本物ぽいが、 違うだろうか。

画像ma1 画像ma2  あるいはこうも言える。 新しい街や施設はもちろん、 古い街でも「私はこんな場所だよ」と主張しようとする。 なにも言わなきゃ単なる場所なのに、 アイデンティティを大声で主張する。 ぎこちなく主張されるとウルサイし、 巧みにやられると楽しめる。 嘘っぽいかどうかは余り感じたことがない。 いくら本当でも「こんなことをわざわざ言うなよな」と感じることもある。

 てなわけで、 今回のフォーラムでは、 まず、 いかに大声で主張するかという技術を大いに見せていただきたい。 CMなんかは売り込みというリアリティを感じさせないことが身上だから、 都市環境とは随分違いそうだ。

 次にそういった手法を真似てまちを売り出している例のなかから、 技術的に巧いもの、 下手な物、 もっと根本的に間違っている物など示していただければと思う。

 その先に何が見えるのか、 もうひとつ分からないが、 「非・仮想世界」を仮装する、 すなわち、 仮想世界であることすらも感じさせないような高等技が見えてきて欲しいものだ。

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