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これは許せる、 許せない

竹中工務店 井口勝文

これは許せる:サン・アントニオのパセオ・デル・リオ

 パセオ・デル・リオは元祖デイズニーランダイゼーションの町であると私は思います。

 街中の水路はリオ河と呼ばれていますが、 河の両端は堰で塞がれているのですからこれは河というよりは、 細長い人工の池といったほうが正しいでしょう。 かって街中を流れていたリオ河の本流は1940年ころに行われた河川改修でバイパス水路となって、 現在見る通り、 街の外側を一気に流れ下っていきます。 そして街中の水路は、 遊歩道に沿ってゆるやかに流れ、 その水位も見事にコントロールされています。

 河川改修とパセオ。 デル・リオのマスタープランの作成は一体のものとして進められました。 マスタープランの作成に大きな役割を果たしたのは建築家のハグマンです。

 彼は最初からここをスペイン風の街にすることを考えていました。 マリヨルカ島の街にあこがれていたといわれています。 またアメリカのヴェネツィアとも表現しています。 そしてほぼ彼が提案した通りの街が出来ているのです。 水路沿いの遊歩道、 緑の木陰、 遊覧船そしてスペインの街を思わせるロマンチックなレストラン。 人びとはしばし日常の世界を忘れます。

画像in1 本当のサン・アントニオはだだっ広い自動車道路と強い陽射し、 乾いた空気と高層ビルの街です。 パセオ。 デル・リオはそのような街のほんの一部につくられた別世界です。 だだっ広いアスファルトの街と、 そこから5メートル程下に階段で降りたところにある水の都とはなんの脈絡もありません。 だから私はどうしてもこのパセオ・デル・リオの雰囲気に心から浸ることは出来ません。 多分ここにいる誰もがここの嘘を承知で束の間の滞在を楽しむことに心を決めているのでしょう。

 ハグマンはパセオ・デル・リオが商業主義に支配されることに早くから警告を発していますが、 現実にはパセオ・デル・リオはサン・アントニオの観光の目玉、 観光客で何時も一杯の商業主義の最優等生に成長しました。 ここで感じる居心地の悪さは、 お金儲けにやすやすと乗せられてたまるかという私の心の狭さと、 抜け切れない職業意識の所為でありましょう。

画像in2  しかしパセオ・デル・リオの嘘は100パーセントの嘘ではないところに大きな救いがあります。 水路の水は湧き水や本流から引き込んだものであって機械仕掛けではないし、 水路沿いの樹木は当初からの樹木を極力保存したものです。 スペイン風のデザインはメキシコとの国境の街であって見れば全くの借り物という訳ではありません。

 私にとってはデイズニーランデイションの街で許せる、 ぎりぎりの街がサン・アントニオです。

これは許せない:パセオ・デル・リオの鳥の鳴き声

画像in3 サン・アントニオのパセオ・デル・リオではいつも小鳥のさえづりが聞えます。 でもそれはスピーカーで流される鳥の声である。 これは許せない。 人を馬鹿にしている。 同じ理由で地下街やエレベーターホールで聞えてくる鳥の声も絶対に許せない。

 パセオ・デル・リオでは木立の間をリスが駆け回っている。 私はこのリスも怪しいと睨んでいる。 朝早く散歩している時にリスの死骸を集めている清掃人を見てしまった。 他所で飼ったリスを持って来てここに放しているのだとしたら、 鳥の声よりももっと許せない。

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