ともあれここからは、 まず「仮想世界の演出」というサブテーマで、 議論をしていきたいと思います。
ここまでお話下さいました中では、 岩佐さんと柘植さんから具体的なプロジェクトのお話がありました。 特にこのお二人は現在も現場で活躍されており、 お互いの話を聞きながら刺激を受けるところが少なくなかったでしょう。 岩佐さんが柘植さんのお話を聞いて、 聞きたいことがあるとか、 関心があるとかいうことがあると思います。 もちろんその逆もあるでしょう。 そこから口火を切っていただければ、 と思います。 それではお願いいたします。
おっしゃるのは、 経済効率至上で都市開発を行っていって捨てていったものを、 逆に取り込んでいき、 計画の中に折り畳んでいくことによって、 大きな経済性を獲得できたというお話だったと思っています。 そこで柘植先生に、 幾つかお聞きしたいことがあります。
一つは私が初めてキャナルシティ博多にまいりましたとき、 驚いたことは川幅が思った以上に広かったことです。 実は思い上がっていたと思うんです、 「どんなものかちょっと見てやろう」という気持ちだったのです。 ところが予想に反して広い水面を見たとたんに、 「あ、 これは許せる」と警戒心を解いて、 その空間に乗せられていきました。 そこで、 あの環境の中で川幅はどのようにして決められたのか、 環境デザインの話になって恐縮なのですが、 是非お聞きしたいのです。
もう一つは、 博多駅からキャナルシティへ行きますと、 川と反対側に着くんですね。 そこはワシントンホテルになっているのですが、 そこが見事に道路のカーブに沿ってS字型を描いている。 それまでやってきた日本の設計会社の設計を見せていただくと、 車寄せなどを非常に直線的にデザインしているのに、 ジャーディの場合はS字の道のうねりを都市の壁として見事に取り入れている。 私はあの壁を見て非常に嬉しい気持ちになったんですが、 やはり道を見て発想を得たのかということを二つ目にお聞きしたい。
最後に色彩計画なんですが、 柘植先生が「あまり好きではない」とおっしゃっていたあの部分なのですが、 日本人にとっては相当エキゾチックというかラテン的な色使いですね。 あれだけ黒い色が反発し合って、 力強さを持っている。 でも私はインパクトがあっていいなと思っているのです。 そこでお聞きしたいのは、 あの色彩計画はどのようにして行われたのかということと、 デザインはすぐに消費されてしまうわけですが、 あのデザインがだいたい何年ぐらい持つとお考えになっているのか、 その点を簡単にお教え願えたらと思います。
もちろん幅も、 深さも、 それから水面から歩行者レベルまでのクリアランスといいますか高さ、 キャナルの底の色、 これは関係者の間で大変もめました。 それから私の思った以上に効果があったのは、 水面に動きを与えることです。 水中にポンプを入れまして、 水を動かすことによって命が宿り。 反射する光に揺らぎが生じる。 とにかく一番苦心したのは水のデザインでした。
実はあのキャナルの地下は駐車場なんです。 そこに1mの深さの運河を作るというのは非常に無駄というか、 これまでの評価基準からいえば非常に無理がある、 お金もかかる。 でもあのプロジェクトの中で一番の命というのはあのキャナルであると考え、 関係者に対し技術的にも法規的にも最大限の説得をしてして、 あのデザインが実現したのです。 本当はホテルの中にも水を引き込もうとか様々なアイデアがあったんですけれど、 どうしても越えられない厳しい条件がありました。 消防車が入ってこれなければいけないという制約もありました。 公開空地としての水の面積もカウント是非など。 行政もだいぶ協力してくれました。 質問の答えになるかどうか分かりませんが、 水に関しては最大限の努力を払ったし、 ウェットデザイン、 水の専門家の参加は大きな成果をもたらしてくれました。
ただ、 これまでの建物は敷地の真ん中に立てて、 まわりに公開空地を採るけれどどうもうまく使われていない気がするんです。 公開空地を最大限有効に使うためにはどうしたらいいか、 その町の一番のにぎわいのある場所が公開空地でもいいじゃないかと考え、 キャナルまわりを公開空地にしました。 その結果、 敷地ぎりぎりまで壁面が出ていってしまった。 もちろん、 元の敷地境界の外側の道路の形とは違いまして形状にも変更を加えましたてあるわけです。
ジャーディのデザインはよくカーブを使うのですが、 それは何故かといいますと、 先程いいました「見えかくれ効果」とか、 「インタレストの伝達訴求効果」を高めるためです。 人の興味の対象を先に置くことで「なにかあるぞ」と思わせ、 先へ先へと歩いていく。 これは人間の基本的行動規範に基づいたデザイン手法です。
今の日本の街は非常にグレイッシュ、 白っぽいグレーで、 あとはステンレスやガラスが町を覆っています。 もっと博多の色が欲しい。 そう思って表現した結果です。
もともと博多というところは、 大陸との交易の玄関口で、 色々な文化を吸収してきた町であり、 フレキシブルなマインドがある。 よそから来た文化を、 特に外国のものを根付かせていく伝統もあります。 色のことでいいますと、 あの色彩には博多を歩き回って得た、 博多の色です。 色の好みは主観的です。 私が違うんじゃないかといって、 チームで議論したことも多々ありました。
ただ、 設計の段階では、 これまでの商業施設とは違って出来るだけ長持ちする施設を意図しました。 それは素材の表現とか、 本物の石を使うかとではありません。 そこで人間がいい生活・いい活動をし続けられるかということにかかっていると思います。
そういう意味でいうと、 デザイン云々というよりもむしろオペレーションが大事なのだと思います。 オペレーションをやっている福岡地所という会社は、 若い組織で意欲的でいろんなイベントをやったりしていますが、 それは非常にいいことなのだと感じます。 むしろ施設が短命で終わるか否かはデザインの消費よりも運営体制とかその点に問題があるのではないかや人々の都市生活・活動をどれだけ許容し触発出来るかにかかっているといるんじゃ無いでしょうか。
いまちょっと素材の面からお話がありましたが、 擬石とかは使用してらっしゃるのでしょうか? それから水ですが、 水に擬石のようなものはありませんが、 あの水は実際の運河からひいてきているんでしょうか、 それとも循環しているんでしょうか? そこで実際の川と同じ水面の高さにするという意味で地下1階を基準階にしてキャナルに面した歩行者空間にしたり、 運河とのつなぎの部分お意匠を橋にして、 運河から水が入ってくるように見せたりする演出はしました。
ここで私どももいい経験をさせていただいたのですが、 これはロサンゼルスオリンピックの時に演出をしたチームと日本のチームが一緒になって演出したものです。
17,000リットルの水を、 噴水と光を使って演出しようという試みだったのですが、 どうしても噴水と光だけではうまく構成出来きませんで、 舞台中央にたてましたロボットの指揮者が我々の間からアイデアとして出たときに、 このショーもやっと締まったなという気がしたものでした。
物語としましては、 水の惑星・地球の誕生、 水の中の生物の発生を緩やかに暗示します。 ハイライトでは水と炎を合わせて使いました。 まず日本では例が少ないのですが、 ハリウッドのショーでは割合よく使われます。
ハリウッドの連中は非常によい装置を多く持っているのです。 特効電源も持っているしバリライトも使っている。 ただその使い方に節度があることが一番の驚きでした。 よい装置を持っているのにそれを惜しんで惜しんで、 ここが一番のハイライトだというときまでそれを使わないのです。 それ故に、 普段の状態とハイライトの時の落差が、 芸術といいますか面白さを創り出しているのだと思います。
だいたいショーというものは、 ハイライトがすむともう終わりだなという気がするものなのですが、 すぐに終わってはいけないのです。 余韻をかみしめるといいますか、 美しいショーの場合はもの悲しさを含んだ余韻があることで物語そのもののハイライトが豊かさを持って感じられると思いました。
ショーの最初に客席に座っている方々の前に炎が立ち上がります。 その熱が座っていても感じられるのです。 その瞬間に我を忘れてしまう。 このステージでは噴水を多く使用しているのですが、 この技術はアメリカのものです。 私たちは、 アメリカの光の演出家にデザインを頼んだのです。
お客さんを入れて、 なにがしかの物語性を体感してもらう際の演出的技法というのは、 ここに全て盛り込まれていると思います。 最初に炎がどっと出まして、 座っているお客さんに火にあぶられている感覚を与える。 これで一気に物語の中に人を引き込んでしまう。 つかみです。 暴力的ではありますが、 このハリウッドのチームは非常にうまいのです。
それから全体的に会場が暗いので、 もう少し明るくできないかといいましたら、 最高のピークを作るために暗くしているということだったのです。 押さえて押さえていくこと、 これが大変面白かった。
それから終わったのかなと思うと、 必ず余韻がありまして、 夢の醒め方、 醒めさせ方が緩やかにもの悲しく、 「いい夢を見たね」という感じで実にいい。
そのようにして、 我々は日常的には物語を作って、 リアリティといいますか、 その一端を担っているということをご報告いたしました。 ありがとうございました。
パネルディスカッション1
仮想世界の演出
丸茂
ここまで諸先生方のお話を伺っていますと、 仮想世界というものは人それぞれにお考えになっておられると感じます。
キャナルシティについて
岩佐
私は柘植先生のキャナルシティについてのお話を、 大変興味深く聞かせていただきました。
川幅について
柘植
まず川幅の問題ですが、 幅の問題に限らずあの計画でチームが一生懸命にデザインに集中した箇所がキャナル、 あるいは水です。
カーブについて
2番目の質問、 S字状或いはカーブに関してなんですけれど、 ワシントンホテルの前曲線をスイーピングカーブと呼んでいますが、 そんなに注意を払ったわけではありません。
色について
それから色の質問にに関してです。
デザインは消費されてしまうか
それからデザインがどれくらいで消費されてしまうかについてですが、 それは私も非常に興味深いところです。
素材について
丸茂
どうもありがとうございました。
先程榊原先生からお話がありましたように、 CGの世界では再現できない、 想像力の世界でしかなし得ないという話もありました。
柘植
実際は那珂川、 博多川の水を引き込みたかったのですが、 建設省から護岸を切ってはいけないという指導がありできませんでした。
炎と水のオーケストラ
丸茂
時間の関係もありますし、 具体例を皆さんに見ていただきたいので、 岩佐さんの方からご紹介していただきます。
岩佐
これからお見せするスライドは、 1990年、 花博で大輪会が中心となって出展した作品で、 水を使いました。
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