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問題提起1

物語の創造

(株)大広 岩佐倫太郎

 人はなぜ都市に集まるのか。 快適と利便のため? 就労や就学? 成功のチャンスを求めて? こうした実利性は勿論であるが、 「都市がオモシロイから、 刺激と情報に満ちているから」、 というのが最大の理由ではないか。

 映画館、 劇場といった昔ながらの、 一種のヴァーチャル空間はもとより、 最近のテーマパーク、 ゲームセンター、 大型スタジアム等非日常の時空を楽しむ装置が処々に象眼され、 私たちに都市の愉悦を提供してくれる。

 情報化時代の都市間競争のなかでは、 都市行政さえも、 水族館やドームを建設し、 パレードやマラソンを主催し、 オリンピックやサッカー大会の招致に努める。

 なぜならば、 ハード容器やソフト・プログラムの充実こそが、 そこに住まう人々にとってのよりよいサービスであり、 帰属感(アイデンティティ)であり、 誇りともなるからである。 また、 行政側から見れば、 人々が情報供給の爆発によって分断され、 地域性が見失われるなかで、 いまいちど共同性のシンボルを再創造する営みとも言える。

 かくして都市は、 「フェンスなきテーマ・パーク」としてプロデュースされる。 パビリオンは人々のエンターテインメント欲求を満たす仮想空間となる。 そこでは、 虚実とりまぜた、 それゆえに、 愉悦に満ちた物語が紡がれることになる。

 モノ社会からコト社会へ───。 人々はもすます、 情報消費に人生のゆたかさを見出そうとするだろう。 なかでも、 エンターテインメントに対する欲求はとどまることを知らない。 どうやら人間は、 自分の実人生?のリニアな流れだけには満足できず、 仮想現実のなかでオールタナティブな物語りを体験することで、 自身を解毒しているようにも思われる。

 それが芝居であれ、 テーマパークのショーであれ、 虚実がないまぜになった時間、 空間を所有し、 体験することが、 人にとっての「癒し」になるのではないか。 これはあくまで、 私の仮説ではあるが、 もし人が、 架空の物語りに「癒やされる」のであれば、 それこそを上級の愉しみとするのであれば、 人間という動物の存在の不可思議を思わざるを得ない。

 ところで、 博物館や博覧会のパビリオン、 イベントやCMなどの制作に長年拘わってきた経験からすると、 「物語り」の創造には、 いくつかの原則があるように思われる。 まず大事なポイントは、 「見立て」もしくは「見なし」であろう。 歌舞伎などでもご存知の通り、 ここを「野崎まいり」の道すがら、 と見立てたりするそれである。 スライドでご紹介する「アムラックス大阪」はクルマのショールームであるがそれを「イタリアの古い街並み」と見立てた。 最初の発想はここからである。

 次いで大事なのは、 ストーリーの流れである。 これは文字による物語りと空間のばあいでは大いに異なる。 空間では、 多義的でゆるやかな物語りでないといけない。 個々人の経験や情報によって様々に解釈がゆるされるような、 共通の太い綱のようなものをつくらなくてはいけない。 特に、 スタジアムのような大空間では、 スライドで見る「なみはや国体」のシナリオのように、 太くしかも暗喩的である。

 さらに、 こうしたヴァーチャルな世界に人々がのってくれるのは、 ディテイルの正確さ、 しつこさであろう。 あるいは、 審美性を有していることと言ってもよい。

 場面設定、 ストーリー・ライン、 ディーテイル・・。 こうしたものが備わると、 人々は架空の約束事でありながら、 その世界に没入し、 きまりごとの世界の中で、 笑ったり泣いたり楽しんだりしてくれる。

 映画もCMも演劇もゲームもみんなそうではないか。 人間の偉大なる才能というべきかもしれない。

 最後に、 物語り世界をつくる際にやってはならないこと、 それはやりすぎないことである。 つまり、 虚構の不安からディテイルをこれでもか、 と積み上げるのが最悪である。 この世界はこれまで、 という一種の「見切り」、 物語りをつくりながら同時に突き放した視線を持つことも、 作り手としての才覚が求められるところである。

 
−−スライドとVTR−−

 

−−略歴−−
1948年大阪府に生まれる。 1972年京都大学文学部を卒業、 1972年(株)大広入社、 コピーライター。 1983年ジバンシー・ファッションショー、 ディレクター。 1990年花博「大輪会」チーフプランナー、 プロデューサー。 1993年トヨタ・アムラックス大阪チーフプランナー、 プロデューサー。 1997年キッズ・プラザ大阪チーフプランナー、 プロデューサー。 1997年なみはや国体開閉会催事、 プランナー、 プロデューサー

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