映画館、 劇場といった昔ながらの、 一種のヴァーチャル空間はもとより、 最近のテーマパーク、 ゲームセンター、 大型スタジアム等非日常の時空を楽しむ装置が処々に象眼され、 私たちに都市の愉悦を提供してくれる。
情報化時代の都市間競争のなかでは、 都市行政さえも、 水族館やドームを建設し、 パレードやマラソンを主催し、 オリンピックやサッカー大会の招致に努める。
なぜならば、 ハード容器やソフト・プログラムの充実こそが、 そこに住まう人々にとってのよりよいサービスであり、 帰属感(アイデンティティ)であり、 誇りともなるからである。 また、 行政側から見れば、 人々が情報供給の爆発によって分断され、 地域性が見失われるなかで、 いまいちど共同性のシンボルを再創造する営みとも言える。
かくして都市は、 「フェンスなきテーマ・パーク」としてプロデュースされる。 パビリオンは人々のエンターテインメント欲求を満たす仮想空間となる。 そこでは、 虚実とりまぜた、 それゆえに、 愉悦に満ちた物語が紡がれることになる。
モノ社会からコト社会へ───。 人々はもすます、 情報消費に人生のゆたかさを見出そうとするだろう。 なかでも、 エンターテインメントに対する欲求はとどまることを知らない。 どうやら人間は、 自分の実人生?のリニアな流れだけには満足できず、 仮想現実のなかでオールタナティブな物語りを体験することで、 自身を解毒しているようにも思われる。
それが芝居であれ、 テーマパークのショーであれ、 虚実がないまぜになった時間、 空間を所有し、 体験することが、 人にとっての「癒し」になるのではないか。 これはあくまで、 私の仮説ではあるが、 もし人が、 架空の物語りに「癒やされる」のであれば、 それこそを上級の愉しみとするのであれば、 人間という動物の存在の不可思議を思わざるを得ない。
ところで、 博物館や博覧会のパビリオン、 イベントやCMなどの制作に長年拘わってきた経験からすると、 「物語り」の創造には、 いくつかの原則があるように思われる。 まず大事なポイントは、 「見立て」もしくは「見なし」であろう。 歌舞伎などでもご存知の通り、 ここを「野崎まいり」の道すがら、 と見立てたりするそれである。 スライドでご紹介する「アムラックス大阪」はクルマのショールームであるがそれを「イタリアの古い街並み」と見立てた。 最初の発想はここからである。
次いで大事なのは、 ストーリーの流れである。 これは文字による物語りと空間のばあいでは大いに異なる。 空間では、 多義的でゆるやかな物語りでないといけない。 個々人の経験や情報によって様々に解釈がゆるされるような、 共通の太い綱のようなものをつくらなくてはいけない。 特に、 スタジアムのような大空間では、 スライドで見る「なみはや国体」のシナリオのように、 太くしかも暗喩的である。
さらに、 こうしたヴァーチャルな世界に人々がのってくれるのは、 ディテイルの正確さ、 しつこさであろう。 あるいは、 審美性を有していることと言ってもよい。
場面設定、 ストーリー・ライン、 ディーテイル・・。 こうしたものが備わると、 人々は架空の約束事でありながら、 その世界に没入し、 きまりごとの世界の中で、 笑ったり泣いたり楽しんだりしてくれる。
映画もCMも演劇もゲームもみんなそうではないか。 人間の偉大なる才能というべきかもしれない。
最後に、 物語り世界をつくる際にやってはならないこと、 それはやりすぎないことである。 つまり、 虚構の不安からディテイルをこれでもか、 と積み上げるのが最悪である。 この世界はこれまで、 という一種の「見切り」、 物語りをつくりながら同時に突き放した視線を持つことも、 作り手としての才覚が求められるところである。
−−略歴−−
問題提起1
物語の創造
(株)大広 岩佐倫太郎
人はなぜ都市に集まるのか。 快適と利便のため? 就労や就学? 成功のチャンスを求めて? こうした実利性は勿論であるが、 「都市がオモシロイから、 刺激と情報に満ちているから」、 というのが最大の理由ではないか。
−−スライドとVTR−−
■大輪会パビリオン(’90年花博)「水と炎のオーケストラ」と名はけられたこの出展は、 大阪の水、 花とヒトの命の源=水をテーマに発想された。 地球の創成、 海の誕生、 生命の響宴といったストーリーで、 ロス五輪の演出チームと日本側が共同制作。
■トヨタ・アムラックス大阪 トヨタ自動車の5つのチャネルの総合ショールーム。 舞台美術の妹尾河童氏を起用して、 イタリアの古い街並みを再現した。 古く見せるエイジングの技術を多用。
■キッズ・プラザ大阪北区扇町に出来た子供のための博物館。 ウィーンの建築家フンデルトヴァッサー氏に依頼し、 どこにもない街=NOWHERE LANDをテーマに、 シンボル空間をつくった。
■なみはや国体長居競技場では秋季大会の開会式が予定される。 海、 大地、 光をテーマに、 これまでにない物語性、 ストーリー性をもったショーとして構成した。
1948年大阪府に生まれる。 1972年京都大学文学部を卒業、 1972年(株)大広入社、 コピーライター。 1983年ジバンシー・ファッションショー、 ディレクター。 1990年花博「大輪会」チーフプランナー、 プロデューサー。 1993年トヨタ・アムラックス大阪チーフプランナー、 プロデューサー。 1997年キッズ・プラザ大阪チーフプランナー、 プロデューサー。 1997年なみはや国体開閉会催事、 プランナー、 プロデューサー